怠けたがりVtuberは天下取るのに大忙し 作:レイメイミナ
「おっつかれさまでーす!」
「こんにちは」
「遅い!!」
ㅤ先輩達と会合してから数十分。ようやく同期の2人が来た。ただでさえこちらは学業と並行してるってのに身内が遅れるとタイムロスが出るからできるだけ早めに来て欲しかったんだが……。
「ナマリンが早すぎるんだよぉ」
「そうですよ。まだ打ち合わせの10分前です」
「早いに越したことはないってのが私の心情だから」
「まだ高校生なのにすごいですねぇ」
「2人も学生じゃないの?」
「ワタシは既に卒業済みです」
「あたしもー」
ㅤマジか。じゃあどうやって生活費調達してるんだ?ㅤ実家暮らしかバイトか……舞華がバイトしてる姿は想像できないな。いやしようとしたらすぐに夜のお店出てくるからアレってだけだけど。
「お。ユニ、後輩ちゃん達勢揃い」
「あっほんとだ。へりおー」
「へ、へりお?」
「あっ違う。こんにちはー」
ㅤへりお、なんとなく「ハロー」に似ている気がしないでもないので多分噛んだんだろう。多分。
「あの方が例の……」
「ん、『オーラス姉妹』のね。手振ってる方がユニ先輩」
「なるほど。では隣にいる方がメイラ先輩ですか」
「舞華・スターライツでーす!ㅤよっろしくお願いしまーす!」
ㅤ元気だなこいつ。
ㅤメンバーが揃ったということで、少し早めに打ち合わせが始まった。と言っても全体的な流れのおさらいと体調確認ぐらいの軽めの内容で、すぐに全員でスタジオ入りすることに。
ㅤスタジオは全員で入る訳ではなく、何人か小分けにして画面を共有して配信することになる。部屋は完全防音で声は部屋内で完結してしまうが、ちゃんと画面共有で繋がっているのでその辺りの心配はなさそうだ。ちなみに部屋分けは私達『てんから』、先輩の朱夏先輩と来未先輩と『オーラス姉妹』の2人、そしてMCのとら子先輩だけたった1人裏方スタッフと連携していくことになる。
「流石に防音ばっちりだね」
「ここでならいくら歌っても平気そう!」
「特番で歌おうとかしないでよ」
「この広さ……数人程度なら呼び込んで小さい映画館にできそうですね」
「スタジオを改造しようとするな」
ㅤ先が思いやられる……。
ㅤとはいえ、2人のはしゃぐ想いもわかる。
ㅤこうして先輩方と対面して、今まで浮ついていた自分がやっと地に足ついて自覚出来た気がする。自分が、『ぶいすた』のVtuberなんだということが。
ㅤ今までの緊張は、場の空気感でなんとか誤魔化してきた。実際始めたら段々と身体が慣れていつも通りでいられたし。でも、そんなものは空元気に過ぎなくて、終わったらいつも魂抜けかけの状態でベッドの上で溶けていた。
ㅤそれはもう通じない。いつまでも新人気分ではいられない。きっとこれからたくさんミスしていくし、例えば今日でも、先輩方に迷惑をかけることになるのはほとんど確定だ。でもそれが「新人だから」で許されるのも長くは続かない。
ㅤこの『ぶいすた』は基本的に、半年スパンで新人が入ってくる。そうして2度のタイミングでデビューしたライバーをそれぞれ『○期生』で区切っている。つまり半年後には私は先輩になる。さっきユニ先輩とメイ先輩が語っていたことがそのまま私達に降りかかるのだ。
ㅤそうなれば、私達は『頼る側』から『頼られる側』になる。そのときになれば、ミスはもう許されない。笑い事にできる程度のものに留めなければ、私は信用を失う。
ㅤ私は、私だ。『子洗井ナマリ』だ。私が私でいるためにも、ここでしくじりたくはない。
「ナマリン?」
「……なに?」
「肩強ばってるよ。リラックス」
「ん、あぁ。うん」
「ナマリって、責任感のようなものに囚われがちですよね」
「なに、藪から棒に」
「年上のワタシよりずっと立派だということですよ。ですが物事を悲観的に考えるのだけはよしてください。悲劇が許されるのは映画の中だけですからね」
「はぁ……」
ㅤまぁ、そうか。
ㅤまずいまずい、頭がネガティブ思考に切り替わってた。これから特番なのにこんなんじゃライバー失格だ。……って、これもネガティブか。
「うーん、いい御御足」
「蹴るぞ」
「いやん、ナマリンったらバイオレンス♡」
「お前は緊張しなさすぎだろ……どうやったらそんなポジティブになれるんだよ」
「うーん……堕ちるとこまで堕ちたから?」
「急に重いな」
ㅤやめろ。お前が言うと洒落にならないから。
「まぁまぁ。肩マッサージしてあげるから許してよん」
「やだ。お前どさくさに紛れて胸触ってきそうだから」
「流石にそんなことしないよ。しようとは思ってたけど」
「やっぱすんじゃねぇか。マルマルお願い」
「お易い御用です」
「あー!ㅤじゃあマルマルの肩はあたしが揉みます!」
ㅤ私の肩をマルマルが揉んで、そのマルマルの肩を舞華が揉む。列車ごっこみたいでシュールだ。
「ナマリン、あたしの肩揉んで?」
「どうやって?」
「こう、びよーんと」
「悪いけど私はゴム人間じゃないので」
「ナマリ凝ってますねぇ〜」
「まぁね」
「ナマリン誇れることじゃないよー」
ㅤ毎日毎日ゲーム漬けでたまに勉強してるこの私の肩凝りをあまり舐めるなよ。ア○ムもビックリの硬さだぞ。
「そういえばあたし達は全然話せなかったんだけどさ、センパイ達ってどんな感じだった?」
「どんな?ㅤどんなって言われてもなぁ……みんなオフっぽい緩さだけど概ね配信での顔通りかな。やっぱ素の人格もキャラに引っ張られたりするのかな」
「そもそも『ぶいすた』自体が、その本人の気質に合わせてキャラクターを構築しているところがありますけどね」
「どゆこと?」
「例えばワタシであれば『映画好き』なので『映画の天下』を目指す専門学生になりました。ナマリも毎日遊んで暮らしたいと言ったので『怠け者の天下』を目指すという設定になったでしょう?」
「たしかに……」
ㅤそうなのかな。にしては『ASTRUMS』の2人は結構Vtuberらしい素と世界観の乖離してるけど。
「あっ、そろそろ始まるよ!」
「もうそんな時間か」
「話してるとあっという間ですねぇ」
ㅤふぅ……。
ㅤよし、他の人と映るのは今日が初めてだが、なんとかやり切ってみせる。ベテランに囲まれてるし、『てんから』の3人もいるし、大丈夫。
ㅤ待機画面がアニメーションによって変化し、8人の少女が映し出される。
ㅤ新人歓迎特番、スタートだ!