ちょっと呪いの魔導書を集めてるだけで、化物扱いなんて酷いや   作:オリビオ

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1 オタクは集めたい

 オタクというのは、好きになったものは集めなければ気がすまない悲しい生き物だ。

 推しのグッズは何が何でもかき集めるし、推しが限定最高レアになったら天井も辞さない。

 そういう経験は、オタクなら誰しもが持っているありふれた所有欲何だと思う。

 ただ、それが一般の人間よりも強く、そして深いだけで。

 

 もし仮にそれが、異世界のマジックアイテムだったらどうだろう。

 

 異世界転生、チート、無双、ワクワクする言葉だ。

 そんな異世界を彩る、特別なアイテム。

 そんなアイテムが無数に存在する世界へ転生したら、どうだろう。

 

 人による、とは思う。

 だけど、もし仮に自分のチートがそのマジックアイテムを使いこなすことだとしたら。

 それによって、異世界で成功を収めることができたとしたら。

 当然、愛着というものがうまれるはずだ。

 その愛着は、オタクに新たな推しを生むには十分なもので。

 集めたい、と思うのは無理からぬこと。

 

 少なくとも、俺はそうだった。

 

 異世界に転生し、チート一つでなんとかやってきて。

 その中で出会った自分のチートを最大までいかせるマジックアイテム。

 そんなの、集める以外の選択肢はないだろう。

 

 もし、そこに問題があるとしたら。

 そのアイテム――魔導書と呼ばれるそれらが、呪われていることだ。

 

 

 □

 

 

 俺はモンスターと戦っていた。

 異世界特有の冒険者ギルドから発注された討伐依頼。

 『魔導書付き魔獣を討伐せよ』、俺が見たら秒で飛びつく、そんな依頼を受けてのことである。

 

 相手をしているのは、ミノタウロスと呼ばれる魔獣。

 場所はダンジョン、これまた異世界特有の宝箱とモンスター――魔獣が無限に湧いてくる冒険者にお誂え向きの舞台。

 

「そらあ!」

 

 掛け声とともに、自分の倍はあるサイズのミノタウロスへ剣を振るう。

 魔導書を集めてるくせに武器は剣かよ、と思うかもしれないが。

 この世界の魔導書は魔術を使うためのものではない、手にしていると特別な効果を得られるマジックアイテムだ。

 なので、俺の得物は片手剣、もう片方の空いた手で状況に応じた魔導書をアイテムボックスから取り出して使うのが基本スタイル。

 

 今は、身体強化の魔導書を”消費”してミノタウロスと渡り合っているところ。

 その見た目にそぐわずパワー、タフネスにおいてはちょっと魔力で強化しただけの人類じゃ叶わないステータスを誇るミノタウロス。

 それに対抗するには、魔導書のバフが必要不可欠。

 

『オオオオオオオオオオッ!』

 

 振り下ろされるミノタウロスの斧。

 それを俺は剣で横に受け流し、反撃にそのままミノタウロスの目を狙う。

 当然回避されるが、俺は構わず突っ込んでミノタウロスを蹴飛ばした。

 

『オオオッ!?』

 

 俺みたいな小柄な人間――ミノタウロス比である、俺の身長はこの世界の平均以上だ――に吹き飛ばされるとは思わなかったのだろう。

 ミノタウロスはたたらを踏む。

 俺はそこへ追撃。

 

「あんまり手間取らせるなよ……な!」

 

 振り下ろした剣は、しかしギリギリで斧に受け止められる。

 今の俺とミノタウロスの身体能力はほぼ互角といったところ。

 さっきからこっちが押しているのに、ギリギリのところで踏みとどまられるな。

 消費型の魔導書を二つも使うのは論外だ。

 ここは、別の魔導書で一気に決めるか。

 あんまり一度の戦闘で複数の魔導書は使いたくないんだがな。

 

「魔導書起動……破砕でいいか。魔導書”破砕”行使!」

 

 俺の手に、アイテムボックスからキーワードによって取り出された魔導書が握られる。

 そのサイズは比較的小さく、文庫本程度のものだ。

 魔導書は種類によってサイズはまちまち、戦闘中は手に大きい魔導書を持つと面倒なのでできるだけ小さい魔導書を使うのが好みだ。

 その魔導書が、ひとりでに開いてページがめくられる。

 直後――

 

 

 そこから、爆発的な黒い影が周囲を覆った。

 

 

「……固有スキル! ”服従”!」

 

 それを、俺は自身のスキルで制御する。

 固有スキル、この世界におけるチートスキル。

 ごく一部の人間だけが持つ、特別なチカラ。

 例に漏れず転生者の俺は、生まれた時からこの力を有していた。

 何やらめちゃくちゃ成人向けな匂いがするスキルだが、実態は使いにくいなんてものではなく。

 正直、魔導書に出会うまでは持て余していたというのが実際のところ。

 しかし今は違う。

 魔導書という、服従させるのに最も適したものが俺の手の中にあるのだから。

 

 この世界の魔導書は呪われている。

 使用する時、もしくは手にれた時。

 その呪いが今のように影となって周囲を覆うのだ。

 これを浴びれば、常人であれば下手したら即死。

 魔力が高ければ耐えられるけれど、影に付随した呪い――つまり影の本来の効果は防げない。

 結果、その呪いに耐えなければ魔導書は扱えず。

 この世界の人間は、魔導書を忌み嫌っていた。

 服従によって、その呪いを使わせない俺を除いては。

 

『オオオオオオオッ! ――――ッ!?』

 

 そして、発動した魔導書はミノタウロスの武器を破壊した。

 破砕の能力だ、相手の武器を破砕して使い物にならなくする。

 一気に状況がこちらへ傾く。

 俺は強化した身体能力にまかせてミノタウロスに剣をふるい――その体を真っ二つに叩き割った。

 

 ――戦闘終了だ。

 

「ふう、面倒な相手だった。……けど」

 

 魔獣の心臓である核を叩き壊され、塵となっていくミノタウロス。

 その姿を見ながら、俺は少し感じた不思議を口にする。

 

「魔導書、使わなかったな」

 

 この世界で魔導書をリスクなく使える人間は数少ない。

 俺以外には、果たしているかどうか。

 極限まで踏み倒すことはできても、完全にノーリスクはそういないはずだ。

 だが、魔獣は違う。

 魔導書を体内に取り込んだ魔獣は、その魔導書の効果を使うことができる。

 ミノタウロスは先程、魔導書を利用していなかった。

 はて、その理由は一体何か

 

「まぁ、魔導書を確認すればわかるか」

 

 俺の眼の前に、黒い影をもやもやさせる本が浮いていた。

 サイズがでかい、この世界の高価な革の装丁の本と同じくらいのサイズ。

 ファンタジー世界の本と言われて、イメージされる感じのアレだ。

 

「固有スキル、”服従”」

 

 俺は自身の固有スキルを使用しながら、魔導書に手をかざす。

 すると魔導書が、黒い影を霧散させて俺の手に収まった。

 

「……来い! レア物来い!」

 

 この瞬間だ。

 この瞬間が一番楽しい。

 だって、未知の魔導書を手に入れることは、ガチャに等しい。

 ガチャを回すボタンをタップして、ガチャ演出を見ているあの瞬間みたいな高揚感がある。

 ああ、お願いだからレア魔導書がほしい。

 固有スキルレベルのチート魔導書がほしいいいいいいいいいい!

 

 そんな物欲センサーを最大にしながら魔導書を手にして、その効果を確かめる。

 魔導書は、手にした時にその効果が脳裏をよぎるのだ。

 突如として脳内に溢れ出す、存在しない魔導書の効果――

 

「……って、あー……”速読”かぁ。そりゃミノタウロスが使えないわけだわ」

 

 手にしたのは、”速読”の魔導書。

 本を一瞬にして読破し、その内容を理解できるというものだ。

 はっきり言って、チートである。

 固有スキルレベルのレア魔導書には違いない。

 ただし――

 

「でも、もう持ってるしなぁ」

 

 しかも、複数。

 一冊は他人にあげちゃったけど、それでもまだ二冊残ってる。

 うーん、恒常最高レアのすり抜けだあ。

 

 なんて思いつつ、ダンジョンを後にするのだった。

 

 

 □

 

 

 魔導書使い(ビブリオフリーク)と呼ばれる冒険者がいる。

 本名はオリオ。

 元は辺境の村で暮らしていた、何の特徴もない庶民。

 固有スキルを有していることから、将来有望な冒険者になること自体はおかしなことではない。

 固有スキル持ちは総じて魔力が多く、たとえ固有スキルが使い物にならなくても大成できるからだ。

 

 だが、彼は道を外れた。

 

 魔導書と呼ばれる呪いに魅入られてしまったのだ。

 この世界において、魔導書とは忌み嫌われ目をそらされる代物。

 誰もがあんなふざけた代物、好き好んで使いたくはない。

 一部の人間が、呪いというリスクを冒してでも使うだけで。

 好き好んで集める人間なんていない。

 一応、呪いさえ取り除けば有用であることは間違いない。

 だが呪いを取り除くこと自体が非常に困難で危険を伴う。

 呪いを取り除かれた魔導書というのは非常に高価だ。

 少なくとも、冒険者になりたてのオリオが手にできるものではなかった。

 

 オリオはいう、自分の固有スキルなら魔導書をリスクなく扱える、と。

 しかし、もし仮にそうだったとしても魔導書の呪いを少なからず影響を受けるはずだ。

 なぜなら魔導書の呪いは、魔導書に対する恐怖が強ければ強いほど効果を増す。

 ()()()()()()()()()()()()()、その恐怖は根源的に染み付いているはずなのだから。

 だが、彼は違った。

 魔導書を使いこなし、むしろ積極的に集めている。

 そして彼は、そのすれ違いに気づいていなかった。

 

 故に人はかれを”魔導書使い(ビブリオフリーク)”と畏怖の念を込めて呼ぶのだ。

 

 これは、そんなオリオが周囲を振り回したり。

 魔導書を集めたり、世界を救ったりする物語だ。




まぁそりゃ化物扱いされるよね。
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