大魔王妃と呼ばれた女 作:初恋を忘れられない強キャラは良いぞ中学
身構えている時に死神って来ないらしいね。私は現在進行形でそれを実感しております、ハドマです。
「当主様!どうかお守りを!!」
「馬鹿者、ここで打って出んでどうする!後衛の臆病者が今更でばしゃばるなッ」
「調子に乗るなァ暴れるしか能の無い前衛の愚か者が!!」
目の前で内輪もめを始めた重鎮達を黙らせるように一つ、轟音が城を震わせました。間者が大量の敵軍を呪文
敵が単一種族ならばその弱点を突いて押し返せたのかもだけど、伝令によればどうやら最低でも10の種族で構成された軍勢が暴れ回っているため手の打ちようが無いとの事。まぁ要するに。
「……因果が巡って来たようですね、父上」
「ッッ………!!!」
返答は殴打でした。控えていた王座の傍から床に叩きつけられ、視界に暫し光が舞う。流石に不敬だったかな。
しかし……私を殴ったところで現実は変わりませんよ。
「奪ってきた物を奪われる。私達の順番が来ただけではありませんか」
「黙れッ!!盾付いている暇があったら階下を制圧してこんか、
「下でそれらを使えば、上にいる貴方達も無事では済みませんが?尤もそれ以前に、今なお転移によって増え続けている敵軍を私一人で対処などし切れません」
口論の間にも震動は大きくなり、近付き、やがて広間の目前まで迫り来た。殺意を帯びた喧騒が扉を叩き、父上および重鎮たちは血相を変える。余命を突き付けられるも同然の苦境に狼狽え叫ぶ。
「く、糞!チクショウ!!」
「剣の心得ある者は前へ!殿を務めよ!」
「誰がお主の為の生贄なんぞになるか!!!」
「当主様、指示を!!当主様ぁ!」
「ッ!」
ああ。もう、終わりだ。
父上。ここまでです。貴方だけが悪いとは言いません、その蛮行の背を押したのは私の誕生だったのですから。
なので一足先に、冥府で待っていて下さい。私もすぐ其方に参ります。
────
「……ハドマ?どこだ、ハドマッ!!!」
ハドマが現れたのは、上階からの喧噪が最高潮に達した頃合いだった。
「オイ。上で何が起こってる」
「時間が無いの。説明は作業しながらにさせて」
焦りで口を真一文字に引き絞ったその形相に、只事ではないと察する。言われるがままに腕を差し出せば、「バギマ」と放たれた真空刃が檻の格子ごと手錠を裂いた。
「敵勢力が転移してきた。総数2千。父上達は今頃血祭」
「成程。お前も所詮は呪文使い、至近の間合いに入られては逃げるしか叶わなかったって所か」
「概ねそんな感じだね。あ待って、今から隷属状態を解くから……」
「不要だろ。俺に命令すればいい、城に入り込んだ魔族を殲滅しろとな」
やはり貴様もあの男の娘だ、俺の戦術的価値をよく理解している。閉所かつ自身のホームであるこの城で暴れるなら、呪文で多数を巻き込むお前よりも身体一つで暴れる俺の方が適任だから。
しかし現当主が死んだのなら僥倖だ。次期党首の座には間違いなくハドマが就くだろうが、コイツは現当主より隙が多いし何より俺に甘い。今より行動には自由が利くようになるだろうし、唆して操るも物理的に挿げ変わるも……いや、前者はともかく後者はそう上手くはいかんか。ハドマは強い、俺と並ぶほどに。
とすると、俺が取るべき択は───
「ううん。貴方は自由よ、バーン」
目まぐるしく回転させていた思考は、解呪と共に放たれたその一言によって前提から崩壊した。
「……は?」
「透過移動呪文で、領外に繋がる地下水路へ飛ばすわ」
「いや、待て」
「2時間くらい流れに身を任せれば包囲網の外に出る。身一つで放り出す形にはなっちゃうけど、貴方なら生きていけるでしょ?」
「待て」
「不安なら、健康状態維持と状態異常無効の呪文も掛けるね。自作した奴だから一週間ぐらいしか
「ハドマ!」
俺の手を引いて連れ出そうとしたその肩を掴み、呼び止める。俯きから顔を上げていた彼女の顔は、ある種の覚悟に満ちていた。
「お前はどうするつもりだ。戦わないのならば逃げるのか。逃げないのなら戦うつもりか」
「……逃げたい、かな。もうダメでしょ、ここ」
「ならば何故
「私が此処にいないと、何も
いや違う。
この瞳は──負け犬の目だ。生きる事を諦めた敗者の目だ。
覚悟ではなく、終わりを受け入れた諦めの色。
「彼らの目的は鬼眼族に奪われた領土の奪還、そして虐げられた事への報復。その旗頭だった私を磔刑にしないと、この戦は終わりようが無いもの」
「死ぬ気か?」
「生きたいけどね。征服策を推し進めてきた父上や腹心達はともかく、それに振り回されてきた民達まで巻き込むぐらいなら、その前に収集つけなきゃってね。いや生きて一緒に太陽見たかったんだけどね」
生への渇望を口にしながら、それを冗談めかして笑うハドマ。道化のように努めて務めるその姿に、俺の中で何かが
「ッ!!」
「ぁう…!」
突飛ばす。力任せに押し出された掌は、目の前の少女を牢の壁に叩きつけた。差し出されたその手諸共。
「バーン、君…!?」
「見損なったぞ」
お前は強者だった。そう思っていた。
この魔界において、輝ける強さを持っているのだと。そう思っていたのに。
「座して死を待つなど……家畜と何が違うッ!!」
興覚めだ。失望した。抱えるのが強さ?背負い込んだ末に動けなくなって終わるのならば、そんな物は捨てれば良い。
出来ないというのなら……俺が、壊す。
「来たぞ!バーンだ!!」
「あの餓鬼がかァ!」
「殺せ!首級を獲れば召し上げられるぞ!!!」
気付けば飛び出していた。ハドマを尻目に階段を駆け上り、1階を占拠する敵をこの目に認めた。
「死に晒せッ!!」
そうだ。全ての敵を殺す、全ての敵を壊す。それが俺の強さで魔界における唯一の“正解”だ。最初から迷う余地など無かった。
だから、見ていろハドマ。俺がこれから繰り広げる虐殺を、お前が大事に思ってきた物が蹂躙されていく光景を。それが嫌なら何処へなりとも逃げ失せろ。
生きて、
バーン君を止める事なんてできなかった。そもそも、止める事が正しいかどうかさえ。
そして私は今、内で巻き起こる激闘により揺るがされる城を、外から見上げている。
「………どうしよう」
揺れで地下牢獄が崩落しそうになったので思わず飛び出してしまったが、バーン君があの中で戦い続けている。今現在城に入り込んだ敵兵相手なら十分生き残れるだろうけど……それでも、このままで良いのだろうか。かといって助けに入っても足手纏いになるだけではないのか。
そもそも、“見損なった”とまで言って私を捨て置いたバーン君だ。今更助けに入られても煩わしいんじゃ?
(あーあー。考えが纏まんないや)
最早私一人が首を差し出すだけじゃ事が収まらなくなってしまった。かと言って父上に代わって私が領土を支配していく気にもなれない、戦乱の渦に巻き込まれてやっていく自信なんて無いから。
さてどうしよう……と思った、その時の事だった。
「殺せ殺せ。そいつらに構っている時間など無い」
「言うなよ大将、ちょっとぐらい
「まぁオスは殺すけどなぁ」
「───ぇ」
その光景が目に入った時、一瞬だけ脳が止まった。
城内への先鋒転移に合わせ、混乱状態の城都へ悠々と侵入してきたのだろう敵の一団。彼らが非武装の集団を制圧し、縛り上げている。
鬼眼族の民だけなら納得できた。彼らにとって私達の一族は敵でしかないし、腐ってもその姫として私も民を救えるよう動き出せた。
でも、
「何、してる、の」
「ひひ、姫様ぁ!お助けをぉ!!」
「あん?……なっ、貴様ハドマかッ!?」
「散開しろ、奴の正面に陣取らないよう注意!!」
「何故ここにいる?!」
後先考えずに声を掛ければ、当然武器を向けられ囲まれる。更に騒ぎを聞きつけた他の敵軍も集まり、優に500を超える大包囲網に囚われてしまった。
でも今、そんな事はどうでも良い。
「そこの人達を、どうする気なの」
「先程の会話も聞いていたのだろう?全員殺すのだ」
「なん、で」
「鬼眼族は我々の敵だ!友軍の仇たる貴様と同様にな!」
「
彼らが組み伏せ、ひん剥き、踏み躙っていたのは同族だ。私達が攻め込んで攫ってきた捕虜、そしてこの都でこき使ってきた奴隷たち。そんな彼らが、仇である鬼眼族の市民と並べられて犯されようとしていた。
貴方達が攻め込んできたのは、彼らを助ける為でもあったんじゃ……!?
「どうしてそんな事を!」
「分からんか鬼眼族の姫。魔界に生まれた以上それなりの地獄を見てきた筈だが、どうやらその目は節穴らしい」
我が身の罪を棚に上げて糾弾する私を、敵指揮官は嘲った。
「此奴らはな、もう
「そんな……」
「当たり前であろうが!ただでさえ食糧も土地も足りていないというのに、ここまで傷付き使い物とならなくなった者まで引き取っていられるか!!」
「だったらここで殺してやるか、元気に生きてる俺達の
それを肯定するように湧き上がる勝鬨。正しいのはあちらで、間違っているのは私だけだと声高に責め立てるようで──いや実際、彼らが正しかった。私が誤っていた。
踏みつけられた同族と奴隷達が、諦めたように目を伏せた。
どうして目を逸らしてしまったんだろう。誰も彼も余裕などあり得ないこの困窮した世界で、どうして自己犠牲如きで事を収められると勘違いしてしまったんだろう。
大人しく命を差し出そうが、彼らは構わず全てを奪い尽くすだろう。私達がそうしてきたように、蹂躙し、奪い、喰らい、それでもなお満たされない飢餓に追われ苦しみ続ける。その連鎖は、例えバーン君が勝ったってなにも変わらない。
変わらない。
変わらない。
魔界創世の時代からずっと変わらず、永遠に続く。
ずっと。
……嫌、だ。
「ギラ隊、準備完了しました!」
「よし、おしゃべりの時間は終わりだ!ハドマ姫よ、その首貰い受けるッ」
「撃て!殺せぇぇぇぇ!!」
そんな事、許されない。
誰かが変えなきゃいけない。
でも、誰が?私が?
出来る訳が無い。
でも。
「たすけて……!」
それでも救いを求める声を───無視なんて出来る筈が無い!!
「“
「ぅお!?──」
「なッ…────」
ヒャド系の呪文は得意だった。私が今放てる最速最大の呪文、その威力はこの都全域を容易く覆い尽くす……でも、それだけじゃダメなんだ。ただ傷付けるだけの呪文じゃ、同じ事の繰り返しでしかないから。
殺すのではなく無力化を。
拘束だけではなく“保護”を。
冷やし、固め、守る。熱い溶岩が命を焼くこの魔界で、この冷気が為せる事を探せ。現象の解釈を広げて、魔法力の核心を極めろ。
その為の───
「なんだ、これは……」
「……つばさ?」
───鬼眼!!
風通しの良くなった城の最上階で、それを目にした。
眼下で燃え堕ちていく家々、その一角に突如発現した
……が。ある刹那を境に様相を変えた。
拡大に指向性が宿る。まるで翼を開くように、雛を包み込むように、街を囲い覆い尽くしていく。だが先程までとは違い、触れた物を凍て付かせるというより……その周囲を凍らせ動けなくしているように見えた。
やがて全域を掌握したとみるやいなや、冷気は今度こそその姿を確かな物とする。
(───鳥?)
まるで魔法に命が宿ったようだった。
その脈動のままに、氷の鳥は羽搏いた。
胸の内に多くの命を閉じ込め、閉ざされた空の彼方に。
閉ざされてさえいなければ、天にも至っていただろうと、そう思わせるほど悠々と。
……左手を伸ばしていた事を自覚したのは、その姿が暗雲の向こうに消えてからの事だった。
「…ハッ」
笑いが零れ、やり場無く握りしめられた左拳が震える。そうか、そうかハドマ。貴様は
唾棄する価値も無い弱者を救いたい、その一心であれ程の術を練り上げたというのなら……嗚呼、クソッ!
「ハハハハハッ!撤回してやる、お前は──強い!!」
快哉と鬱憤が混ぜこぜとなり、力みとなって踏みつけていた頭蓋を砕いてしまった。しまったな、元当主の首で蹴鞠でもしてやろうかと思っていたのに……だがまぁ、良い。
認めがたい強さだ。俺の在り方の逆を行く、存在する限り互いを否定し合うような。弱さを否定する俺と、肯定するお前は、水と油その物でしかないのだろう。
だからこそ、屈服させる。
否定し、踏み躙り、我が物として見せる!
「その翼をいつか───!!」
掲げた拳を振り下ろし、手刀一閃。ハドマが連れて行ったのは民と奴隷のみ、攻め込んできた軍勢は町に取り残され凍て付いたままだ。それを斬撃で解き放ってやった。
幾らかが氷と共に砕け散り、だが大半が自由を取り戻して立ち上がる。憎悪を燃やし俺を見上げる。
その渦中へ俺は、興奮のままに躍り出たのだった。
ムシャクシャしてやった。反省も後悔もしている。
なんで後悔って、端的に言って辛いから。
「はぁっ、はぁ、はぁあッ………!!」
生まれて初めて鬼眼をフル稼働した結果、首から上が痛いなんてモノじゃない。両目は血涙だだ漏らすわ鼻からは噴血するわ耳血も出るわで顔面が地獄絵図。脳も悲鳴を上げて、作り上げた氷の鳥も辛うじての軟着陸と同時に砕け散った。
着地、でも立ってられず四つん這い。血が地面に落ちる前に、緩く暴走したままの冷気により凍り付いて粉末状に消えてゆく。でもそれを気に留めている余裕さえ無く、落ち着くのに数分を要する事となった。
……荒げていた息が落ち着き、血が止まり、心拍が和らぐ。もう大丈夫。
「おい」
「…?」
呼びかけられたのはその時の事。瘦せこけた……つまり鬼眼族の配給を受けていない、私が思わず保護してしまった奴隷の人だった。
けれどその表情に、助かった喜びは無い。ううん、無いとは言わずともその色が薄い。代わりに浮かんでいるのは……“憂い”だ。
「何で俺達を助けた」
「それ、は…」
「いや違う、責めたいんじゃねぇ。感謝だってしてる、けど……だけどよぉ」
そう言って頭を抱える彼の後ろには、彼と同じように痩せた奴隷の人々と、そして困惑したまま蹲る
……自由。聞こえはいいけれど。
「これからどうすりゃ良いってんだ…!?」
同時に、その庇護を失ったことを示していた。
住む土地も、満たす食料も、纏う衣服すら満足に得られないこの魔界で。そんな地獄に身一つで放り出されたのだ、彼らは。
「アンタは俺達に、どうしろって言うんだよぉ──!!」
「……!」
誰の仕業で?私の所為で。
死なせたくない。死んで欲しくない。そんな一方的なエゴに巻き込んだのは私だ。それによって目の前の彼は苦悩で泣き叫び、皆一様に絶望に貶められた。その責任は私にしか無い。
責任は、取られなければならないから。
「………聞いてください」
その一声で注目を集める。素直に聞いてくれたのは、先ほど放った呪文が功を奏したから?
だとしたら皮肉な話だ。私は今、あれほど厭うた鬼眼の恩恵を受けている。その滑稽さへの自嘲が口の引き攣りとして顕れて、どうか余裕の笑みとして見られますようにと願った。
「ここは、地獄です。私も、貴方がたも、このままでは明日さえ、生き延びれません」
声の震えを隠せ。これ以上不安がらせるな。
それが私の使命、私の責任、私の義務。私が選んだ、私自身の為に!
「でも、私は諦めたくありません」
「……何をです?」
「
生まれてしまった、その定めは変えられない。嘆いてる暇さえ無い!
だったらせめて幸福を得たい、それを目指す事ぐらいは……許されたっていい筈だから!!
「この魔界の一角でも良い!片隅で、本当に一欠片の、吹けば飛んでしまうような狭さでも……幸せになれる
「そんな場所がどこに在るというんだッ」
「ありません!」
否定。同時に、「だから」と言の葉を紡ぐ。続く言葉に、偽り用の無い本音を込めて。
「
私たち自身で。私達のこの手で。
そう告げて掲げた指先に、皆さんの視線が集った。嗚呼、酷い話だ。何の具体的
でも……流されるまま破壊と蹂躙に赴いていたこれまでより、よっぽどマシだと信じている。
現実逃避の盲信だとしても、それに殉じて見せる覚悟で!
「だからどうか、信じて!私について来てくれませんかっ!!」
バーン君が私のどんな点を見損なったのか、実のところ分かっちゃいない。そもそも何を見初めてくれてたのかさえ。
だけどもう迷わない。貴方が苦境の中でなお闘争に身を投じたように、私だって。
他に
これで幼少編はお終いかなぁ。
次回、多分バルゴート(若)登場