神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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《OVER EXPLOSION!!!!!!》

 

 

 極限まで引き絞られた神秘の極光が、轟音と共に放たれる。

 

 

 デカグラマトンの預言者。それ等のパーツ、コア、各種装甲を繋ぎ合わせ、接合し、銃器の形に落とし込んだ武装。

 

 ケテル。ケセド。ゲブラ。ビナー。

 

 その4体の預言者の武装を、更に繋ぎ合わせ、合体させた巨大銃器。

 

 4体のパスが繋がり、互いが互いの存在を強め、高め上げるように組み合わせられたそれは、強力無比な武装に仕上がっていた。

 

 

 撃ち放たれるは、青輝石に篭められた純粋な神秘を攻撃的なエネルギーとして凝縮させた光の柱。

 

 

 射線上にあるもの全てを焼き焦がさんと迫り、圧倒的熱量が膨れ上がっていく。

 

 

 

 

 "ダメ……! "

 

 

 一瞬の時の中、走馬灯の如く先生の思考が引き伸ばされていく。

 

 

『神秘破損爆弾』の余波から誰一人、立ち直れている生徒は居ない。

 迫りくる極光を前に、全員が意識を乱されたまま無防備に棒立ちを晒してしまっている。

 

 ……仮に生徒達が万全だとしても、あの威力の攻撃を受け切れるとは思えない。

 あの極光に巻き込まれたのなら、誰も無事では済まないだろう。そう確信させる程の圧と熱量が篭められている。

 

 

 

 懐にある、『大人のカード』。

 

 奇跡を呼び起こす、先生という大人が持てる究極の一手。

 

 それを使う事によりのしかかる代償などに拘うことも躊躇うこともなく、それを使おうと懐から抜き取り、迫る極光に向けて掲げようとして───

 

 

 "……!? "

 

 

 光を遮るように、翠色の影が立ち塞がった。

 

 両手に盾を掲げ、力強く地へと打ち立て、構える。

 盾が淡く輝き、薄く青白い巨大な光の膜を形成し……

 

 極光と衝突する。

 

 

 

「う、ああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 轟音と絶叫が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間にして、十数秒。

 神秘のエネルギー同士が拮抗し続ける力のぶつかり合いに、ようやく翳りが見え始める。

 

 

 ○○から放たれた、青輝石からなる光の柱。

 武装に充填されたエネルギーがついに底を尽き、次第に光の柱の勢いが細く弱まっていく。

 

 同じように、光の柱を堰き止めていた光の膜が徐々に霞み、端から霧散していく。

 

 やがて膜に突き刺さっていた光の柱が微かな余韻を残して飛散した。

 遅れて、光の膜が掻き消え、ユメが膝を付く。

 

 

「───はっ、は、はぁ、はぁっ……」

 

 

 光が収まり、自分を正面から押し潰さんばかりに迫っていた圧力が掻き消える。

 ユメの体からようやく強張りが抜け、どっと溢れ出した汗が全身を伝い、膝が面白いように笑っている。

 肉体的な疲労は、『セフィラ・プロテクト』の神秘循環機能によりすぐさま回復される。が、精神的な疲労からはすぐには立ち直れない。

 

 

 

「───すごい」

 

 

 ぽろりと短く漏れ出た感嘆の声。

 ○○は嬉々とした表情で、興奮冷めやらぬと言った具合に目の前で繰り広げられた"結果"を見やる。

 

 

 今し方放った、デカグラマトンの合体武装による砲撃は、○○が今持ち得る中での最大火力の一つ。

 

 それを、同じデカグラマトンの素材を用いて造った盾が防ぎ切った。守る対象を全て無傷で守っただけでなく、装着者たるユメまでもが外傷も無く、被害も無く防いだ。

 

 

 自身の最強の矛を真正面から受け止めて、完璧に凌いでみせたのだ。

 

 

「あははっ、すごい、すごいですよユメさん! 流石としか言いようがありません!」

 

 

 打ちひしがれるでもなく、飛び上がりそうな程にはしゃいで、とびきりの笑顔を見せた。

 興味深い、素晴らしい成果が見れたのだから! 

 

 

 

「おっと」

 

 

 ○○が手に持った合体武装が警告音らしき甲高い音を鳴らす。

 ガシャン、と硬質な音が立て続けに響き、武装同士の合着が一斉に外れ、武装各部が床に転がり落ちていく。

 

 

「……こっちはオーバーヒートしてしまいましたか。まだまだ改善の余地がありますね」

 

 

 一定以上の負荷が掛かった際に破損を避ける安全機構が働いた武装達を拾い上げながら、ユメが保持したままの盾に視線を向ける。

 

 

「うぅ……」

 

 

 流石に正面から攻撃を受け止めた為に相応の負荷はあったものの、ユメ自身に怪我もなく。

 防御機構を十全に働かせた盾も、破損も無く、機能を停止すること無く盾として在り続けている。

 バイザー越しにステータスを覗いても、稼働に全く問題が無い状態であることが読み取れる。

 

 

 なんて素晴らしい。

 

 

 瞳を細めて、恍惚なまでに蕩けさせた表情は、実に嬉しそうに笑っていた。

 

 

「○○、ちゃん」

 

「ふふ、あぁ、はい、どうしましたユメさん? もしやお身体に不具合でも? それとも盾に?」

 

 

 ○○は、少なくともユメにとって素敵なまでに綺麗な笑顔を浮かべている。

 

 今なら何でもお願いを聞いてくれそうな、上機嫌極まる笑顔。

 

 ……ユメは一抹の望みをかけて、必死に声を出した。

 

 

「○○ちゃん……ここで、一旦やめにしよう……? データなら、十分取れたんじゃない……?」

 

 

 ユメの心情を知って知らずか、○○は笑顔をそのままに、ゆったりと首を横に振った。

 

 

「いいえ、まだまだですとも。試していない物もまだありますし、戦闘データだって取り足りないんですから」

 

「で、でも、でも○○ちゃん……これ以上は、危ないよ……ね?」

 

 

 ユメは必死に訴えかける。

 ○○の状態は、明らかに不安定で、今にも崩れそうで、壊れそうで。

 自分の見た悪夢が実現してしまいそうな、歪な状態で。

 

 それは戦闘が、○○が言う実験が進むにつれて、不安定さは加速して行った。

 ヘイローのひび割れは、続々と広がっていく。

 悪夢の実現が、進んで行くようで。

 

 

 

「や、やだ、やだよ……ね、やめよ? ○○ちゃん……」

 

「○○ちゃんが消えちゃいそう、だよ……」

 

「そんなの、やだよ、いやだよ……」

 

 

 

 ぽろぽろと溢れ出す声。まとまりのない、けれど混じり気の無い本音が、端を切って零れていく。

 

 そんなユメの泣き声を聞いて……○○はふむ、と顎に指を当てながら首を捻り。

 ユメの言葉をささやかに訂正した。

 

 

 

「仮に私が消えたとしても、問題はありませんよ」

 

「…………え?」

 

 

 呆然と息を吐く。

 言われた事が、全く理解できなくて、ユメは呼吸を止めてしまう。

 同じように、ユメの背後に守られていた、意識を取り戻した生徒の面々が理解できないとばかりに目を丸くする。

 

 その様子に、どうやらまだ誤解があるようだと認識した○○は、つらつらと語り始める。

 

 

「私自身、破滅願望持ちではありません。自ら進んで消えようとは思ってませんとも」

 

「まぁ、この実験を続けて私の無事が絶対的に保証されるかはこの通り怪しい所ですが……それでも、私は構いませんでしたし」

 

 

 前置きとして、自身のヘイローを指先で指し示しながら、あっけらかんと口にしつつ。

 ○○自身、神秘を過剰に体に取り込む等の一連の実験を行う事で負うリスクは、全て納得して、承知した上での決行である。

 

 ……ただ、自分が良いからと言って、周りがそれをどう受け取るか、受け入れるか、という視点は欠落していた。

 ○○自身、自分が良いと言ってるのだし。と、ある種の楽観視があった。

 

 周りから向けられる視線の感情には気が付かないまま、○○は言葉を続ける。

 

 

「記憶を失っていたユメさんは、不安定そのものでした。何せ知っているのは自分の事だけ。学生証も無い、頼れるアテも無い。無い無い尽くしでした。けれど……」

 

 

 ホシノの方へと視線を向ける。茫然自失からは立ち直ったらしいが、○○の言葉に怪訝そうな表情を浮かべている。

 

 

「けれど、今はホシノさんが居ます。詳細はどうあれ、強い結び付きのある関係であるホシノさんが。事実、ホシノさんと接触した事で、貴女は記憶を取り戻し、確固たる自分も取り戻したのです」

 

 

 それから両手を広げ、ユメの後ろを見据える。

 今この場に居る生徒と先生。ドローン越しにこの会話を聞いている他全員へと視線を向けながら、励ますような弾んだ声で言葉を続ける。

 

 

「それに、ホシノさん以外にも、今この場で貴女の事を知ってくれた皆が居ます。私以外で、貴女を知っている人が居ます。それに、記憶を取り戻したのでしたら……わざわざ私に固執する事も無いでしょう」

 

「私以外にも頼れる人が、貴女を覚えている人が、知っている人が居るのなら……仮にこの実験の末、私が居なくなったとしても、貴女は独りにはなりません」

 

 

「ですから──」

 

「そういうことじゃないよぉ!」

 

 

 悲痛な声が広い部屋の中に木霊し、○○の言葉を遮る。

 溜まりに溜まった感情を噴出させるように、喉を幾度となく震わせながらユメは声を吐き出した。

 

 

「ユメさん?」

 

 

 ○○は不思議そうに首を傾げ、ユメの方を改めて見やった。ユメが傍まで駆け寄って、○○の肩を、正確には○○の肩部装甲に手をかけて、あらん限りに泣きじゃくる。

 

 

「居なくなるなんて、言わないでよぉ……」

 

 

 しゃくりあげながら、顔から涙をぼろぼろと零し続けていく。掴み所が無い滑らかな装甲から両手が滑り落ち、縋り付くように○○の手を両手で掴んで、離さない。

 

 

「研究がおちついたら、一緒にお出かけしようって言ったでしょ」

 

「一緒に居てくれる、って、言ってくれたでしょ」

 

「なのに、なのに」

 

「約束、してくれたのにぃ……」

 

 

 押し寄せてくる、言いたい言葉が喉から溢れて、整理ができないままに吐き出し続けて、しゃくりあげながらユメは○○に強く縋り付いていく。

 

 いよいよ困ったように眉を下げて、うぅむと唸った。ここに来て、初めて○○は困惑を露わにした。

 

 

 まさかここまでユメの心に自分の存在が根ざしていたとは想定外の事だった。

 

 ユメが記憶を取り戻した今でも、自分が大切なのだと言い聞かせられて……それも涙ながらの、演技では無さそうなその言葉の内容に、一瞬ピンと来なかった。

 

 自分のことなど取り戻した記憶に押し流されて、優先順位は相応に低くなるだろうに。

 

 

 ぱちぱちと瞬きをしながら、取り留めもなく思考をしてみる。

 

 

 ホシノの様子、言動から察するに……ユメとの関係は、単なる先輩後輩に収まらない程の距離感にあると見ている。

 

 先輩、先輩とユメを呼び。ユメに何か怪しい所業を施したのかと疑った際には烈火の如く迫り来るくらいには、ユメの事を想っているらしい。

 

 特筆すべきは、ユメとホシノの神秘による、輝かしく眩く、そして強い共鳴反応。

 

 神秘同士の強い反応は、その持ち主同士が何かしらの特別な結び付きを示す。

 

 ユメとホシノの神秘は、特段強く反応していた。

 その結果からも、2人が特別な関係性を持っていることは明白なのだ。

 

 

 対してこちらは、高々数週間の付き合いである。

 年単位の付き合いと比較すれば、極々僅かな期間。

 ユメにした事といえば……精々蘇生させた後に生活と寝食を共にした程度で、大したイベントもしていない。何処へ出かけた訳でもなし。

 確かに、ユメ自身にかかる負担を考慮して色々と手を貸したりしたが、結局はユメという貴重な存在からデータを取るためである。

 特別親密になれるような大きな出来事を共にした訳でも無かったと認識している。

 

 

 ならば何故、ユメはこんなにも自身に縋っているのだろう? 

 大勢の前で涙を流し、演技でもなく感情を露わにして。

 

 

「…………ふむ?」

 

 

 ○○は背に宇宙を背負いながら、実に不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

 

 "……そんなに難しく考えることじゃないよ。"

 

 

 数秒間ほど固まっていた○○に、優しく声がかけられる。

 教え諭すような、柔らかな声。

 先生が、真っ直ぐに○○を見つめている。

 

 ○○は、自身が抱くこの疑問に対する解答が今すぐに欲しくて、大人しく先の言葉を待つ事にした。

 

 

 "その子はただ、○○が傷付いて、居なくなってほしくないだけだよ。"

 

 

 "……その気持ちは、その子だけが抱えてるものじゃないよ。"

 

 

 戦闘の切れ目、空気が緩んだその時間を寄り広げられる。

 先生の言葉が、○○の意識に語りかける。優しく、寄り添うように。

 

 

『……そうさ、○○。この場に居る誰も、君が消えて欲しくなんてないのさ』

 

『友達が、後輩が、知り合いが……自分が消えても問題ない、なんて宣言して、はいそうですかと二つ返事で受け入れる者は居ないさ』

 

 

 ドローン越し、ウタハはゆったりと先生の言葉を引き継いだ。

 その言葉はその通り、○○以外の総意を示しているとばかりに確信を持った言い回しで。

 

 

 それから一つ息を吐いて呼吸を落ち着けて、ウタハは○○に言葉を投げかける。

 

 

『というより、君ね。話を聞く限りでも、記憶喪失の彼女に献身的に接し、常に一緒に過ごし続けたんだろう?』

 

「え、あぁ、はい。ユメさんが不安がっていましたので、少しでも取り除けるようにと」

 

『……過ごす中で、親切に接してくれた相手、それも命の恩人が、サッと居なくなっても何の感情も動かないような……そんな薄情な子に見えたの?』

 

 

 ヒビキが純粋に問いかければ、○○は沈黙した。

 ユメの人となりを詳しく知らない生徒達でも、○○に縋り泣いて、居なくならないでと懇願する様から、彼女が如何に○○を想っているのかは容易く伺えるというのに。

 

 

『……全く。戻ったら色々と話し合いだ、○○。人生の先輩として言い聞かせる事がたっぷりあるぞ』

 

 

 

 もう一度、ユメの顔を見る。

 

 酷く泣き腫らした表情。今も目からは涙を潤ませ、玉のような粒を落としている。唇は硬く閉ざされている。そうするように努めていないと、いつまでも情けなく嗚咽が零れてしまいそうで。

 

 両手は硬く○○の片手を握り締め、絶対に離すまいと確固たる意思が伺える。

 離れないで、居なくならないで、一緒に居て。

 そう示すように、ぎゅっと握りこまれて。

 

 

 そうか。

 この人は、私に居なくなってほしくないのか。

 例え私が、たった数週間過ごしただけの、ミレニアムの生徒だとしても。

 私を大切なのだと、言ってくれるのか。

 

 

 なるほど、そういうものか。

 

 

 得心がいったように、一つ頷いて。

 

 そういうものだと割り切り、理解をした。

 

 

 

 ○○はユメに握られたままの片手をゆったりと持ち上げ、視線を合わせた。

 

 

「……ごめんなさい、ユメさん」

 

 

 まずは真摯に、謝罪を伝える。

 不必要に傷付けてしまったことに変わりはないのだから。

 

 

「貴女がそれほどまでに私を思ってくれていたのは、正直思いもしてませんでした」

 

「……○○、ちゃん……」

 

「貴女の心の機微を軽視していました。……これはいけませんね」

 

 

 穏やかに、そして丁寧に謝辞を重ねる。

 自分の思いが伝わってくれたと認識して、ユメは感極まった様子でくしゃりと笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 けれど○○は。

 

 

「でも、まぁ、ごめんなさい」

 

 

 ぽつり、と呟いてから。

 

 

「それでもやってみたいんですよね」

 

 

 空いた片手に、光の粒子が寄り集まった。

 現れたのは、一つの神名文字。

 

 神秘同士を複合、合体させて生み出した合成神秘と○○が名付けた物。

 それ等を更に集約し、多くの神秘同士を組み合わせて作り出した、強大な合成神秘。

 

 

 超高濃縮合成神秘『ハンドレッド』。

 

 

 その名が示す通り、百人分の生徒の神秘を1つに集約させて作り上げた、最も強度の高く、純度の高い神秘の塊。超高密度の、神秘の結晶体。

 

 それはこれまで○○が用いていた神名文字よりも一回り程大きく、幾何学的な外殻に囲われて。

 中枢は夥しく蠢き光る。様々な色が無造作に混ぜ合わられたように、禍々しく発色する神秘が詰め込まれていた。

 

 

「へ?」

 

 

 言葉の意味を飲み込みきれなかったユメが唖然と○○を見上げる中、口の中へと放り込み。

 突然の凶行を止める間もなく。○○は何の苦もなく、細い喉を鳴らして飲み込み、体の内へと取り込んだ。

 

 

「ぅえっ」

 

 

 瞬間、膨大な神秘の奔流が○○の体に流れ込み、強制的に体内の神秘に溶け込み、充填、適応、膨張。

 

 

『○○っ!!?』

 

「○○ちゃ、うぁっ……!?」

 

 

 変化は如実だった。

 

 ○○の輪郭が脈打つ心臓のように力強く跳ね上がる。

 絶えず拍動をしながら、生徒という器の内側に収まりきらない神秘が、渦を巻いて吹き荒れていく。強く吹き付ける神秘が質量を持って溢れ出し、ユメの体を弾き飛ばした。

 

 

「う、ぅ、き゛、か゛っ」

 

 

 支えを失った○○の体が強烈な引き付けを起こしながら跳ね上がり、床に転げ落ちる。

 

 爆発的に膨れ上がる自らの神秘が、自身の体の隙間なく蹂躙し、容赦無く突き破り溢れていく暴虐に、掠れた苦悶を喉の奥底から絞り出しながらのたうち回る。

 

 

「が、ぁあ゛、ぁ゛、っ」

 

 

 ドクン、ドクン、と脈動がより力強くなり、その度に体の輪郭がぼやけ、ヘイローがズグズグと乱れて、露出していたテクスチャの内部からどろどろとした不定形の何かが溢れていく。

 

 泥のような流動形となって溢れ出す神秘が、少なからず貼られたままであったテクスチャを更に押し破り、零れ落ちて、○○の周囲に広がって。

 

 体の内に満ち満ちた神秘が○○という器に収まり切らず、なおも膨張と増幅を繰り広げ、氾濫していく。

 

 ○○の神秘が爆発的に密度と体積を膨れ上がらせ、体内の神秘を増幅し制御する腰部のドライバーに逆流を引き起こし、浸透する神秘の超高負荷に耐え切れなかったパワードスーツが金属質な高音を響かせながらひび割れ、跡形もなく破砕。

 その破片が一つ残らず、神秘の中に沈み、溶け込んでいく。

 

 

『高エネルギー反応が尚も増大……こんな、こんなものを人1人の体の中に収められる訳が……!』

 

『○、○……、○○!! 一体何を飲み込んだ!? 今すぐ吐き出すんだ!!』

 

 

 繰り広げられる不可解極まる惨状に半ばパニックになって張り上げられる声も、○○には届かない。

 ○○に駆け寄ろうとする者も、○○から吹き荒れる神秘の暴風と圧力に隔たれ、近付く事さえできない。

 その最中にも神秘の膨張は続いて……その動きに変化が起きる。

 

 体から零れ、ただ○○の周囲に流れ出るだけだった流動の神秘が、ぐぢりと蠢き。

 

 ○○の体へと寄り集まって、徐々にその体の上に覆い被さり始める。

 苦悶に揺れる四肢を、胴体を、頭を、糸のように絡め取り、繭のように包み込んでいく。

 

 濁流の如く荒れ狂う自らの神秘に全身を呑み込まれ、最早姿は見えなくなる。

 唯一、球状に固まった神秘の繭の上に浮かぶヘイローのみが、○○が其処に居るのだと知らしめていた。

 

 

「ひっ……!?」

 

 

 ずぎん。

 鼓膜に染み付く程に不可解な破砕音が鳴り響く。

 

 ずぎん。

 球状の塊と化した神秘が激しく揺すれ、ヘイローが荒ぶり、両者にひび割れが少しずつ生じていく。

 

 ずぎん。

 何かが生まれ出ようと、殻を破ろうとし始めているのだと、その場の全員が直感した。

 

 

 "……っ!!"

 

 

 これ以上は、いけない。

 危機感を知らせる頭の中の警鐘が激しく掻き鳴らされる。

 

 反射的に、本能的に、先生は大人のカードへと手を伸ばした。止めなければならない、と衝動のままに手を動かして。

 

 

 

 横合いから伸びた大人の手が、先生の手を掴んで、阻んだ。

 

 

「───いいえ、いけません、先生」

 

 "なっ……!?"

 

 

 先生の傍の空間に生まれた裂け目。どろりと開いたその中から伸びている手の主が、うっすらと笑みながら先生に囁く。

 

 

「良く御覧になって下さい、先生。彼女が生まれ変わらんとする様を。自らの殻を破らんと、自らの好奇に灼かれる様を」

 

 

 黒い顔に白くひび割れた光を走らせる、一人の大人。黒服が、掛け替えのない相手に向けて語り掛ける。

 愉しいものを、面白いものを誰かに共有するように。

 

 

「……探求のままに突き進む生徒の様を。その目で、どうぞ御覧になられるが宜しい」

 

 

 無邪気と好奇、愉悦が混じり混じった微笑みを浮かべて、先生の行為を諌める。

 

 あぁ、そんな勿体無い事をしてはならない。

 二度とは見られぬかもしれぬ未知なる現象を、みすみす見逃してはならないのだと。

 

 

 "離せ……っ!"

 

「ククッ、そう言わずに。それに……もう間に合いませんよ」

 

 

 黒服がそう告げると共に、強く留めていた先生の手を呆気なく離し。視線を○○の方へと向けた。

 

 

 その視線の先。

 不気味に脈動を起こし、ひび割れを次々に広げる神秘の塊が、一際強く脈打ち。

 

 異音と共に殻が破れ、その姿が露わになる。

 

 

 

「……○、○…………?」

 

 

 

 誰ともなく、唖然として言葉が口から零れ落ちる。誰かが口元を抑え、必死に嗚咽を飲み下そうとした。目の前の光景を見て、訳も分からず足を竦ませた。

 

 べしゃり、と床に降り立ったそれは、辛うじて人の形をしたものだった。

 

 

「────ぅ、う」

 

 

 それが呻き声を上げる。

 ざらざらと、何人もの声が重なったような、ノイズ掛かった音だった。

 

 頭部は完全にテクスチャが剥がれ落ち、元の肌色は何処にも伺えない。顔らしき箇所には瞳や口は無く、○○を思わせる、長い白髪だけが頭部から垂れ落ちている。

 

 胴体とその下の箇所も、身に纏っていたパワードスーツは無く、テクスチャの内側で蠢いていた神秘が剥き出しとなり、多数の神秘を取り込んだ影響のためか、青白い神秘の光は濁り、黒ずんだ色合いとなって渦巻いている。

 

 両方の肩先から、翼とも取れない、異形で細長の何かが一対飛び出している。

 鳥の羽、蝙蝠の被膜、人の腕のような肌色の触肢、金属質なケーブル。

 有機質と無機質な物質が交じり混ざり、捻れて連なって、ぎしぎしと耳障りな音を立てている。

 

 ヘイローは見るも無残に粉砕され、元の形の名残をなぞるように、頼りなく宙空を漂っている。

 生じたヘイローの隙間の中を埋め立てるように、瞳の色の異なる、大小様々な"眼"が、虚ろな視線をあらゆる場所へと彷徨わせている。

 

 

 それは見る者の心の奥底から怖気を呼び起こし、恐怖の淵に叩き落とす、怪物であった。

 

 目の前で発生した変貌の一部始終を見ていなければ、誰もそれが○○だと言い切れる者は居ない。

 それ程までに元の形から外れた、異形の姿だった。

 

 

 

 

「……クク。なるほど、なるほど。未だ完全なる孵化には及ばず」

 

 

 しかし黒服は、その姿を見ても尚、未だ完全にテクスチャとテクストを剥がし、生徒では無い者と成ったのではないのだと嘯いた。

 傍にいる先生に言い聞かせるような、態とらしい口調で、ふぅむと顎を撫ぜた。

 

 

「ですが、この結果もまた興味深い」

 

 

 愉しげに口角を吊り上げ、くすくすと無邪気に笑い。黒服はそのまま孔の裂け目へと身を沈めた。

 

 

 

「───あぁ、は、はは、は」

 

 

 がぱり、○○が無貌となった頭部に口らしき裂け目を広げて、笑う。

 ぐらりと体を揺すり、蒼白い粒子を振り撒きながら、全身を駆け巡る全能感のままに、両手を大きく広げ、浸るように笑った。

 

 

 ひび割れたドライバーが、悲鳴のように駆動音を高鳴らせた。

 

 

 

《OVER ENERGY!!!!》

 

《DESTROY!!!!》

 

 

 

 

 





■超高濃縮合成神秘『ハンドレッド』
○○謹製の合成神秘。実に生徒100人分の神秘が一挙に詰め込まれている。
高圧縮されている神秘を封入する為に、外装にデカグラマトンの預言者から奪取した装甲等の素材が使用されている。預言者同士のパスを一定以上接続する事で、想定以上の頑強さを得られたのだという。
発展系として、200人分の神秘を詰め込んだ『ツイン・ハンドレッド』、1000人分の神秘を詰め込んだ『サウザンド』の構想があったが、その為にはより多くの預言者の素材が必要になると思われるため、一旦保留。

掌大のサイズであり、呑み込むのは物理的に不可能とされるが、口に含んで呑み込もう、という意思で喉を動かすことで体内に取り込める。他の合成神秘も同じ動作で呑み込める。

現状、○○以外の生徒が取り込むと、超高負荷の神秘に耐え切れず弾ける。実質ヘイロー破壊爆弾。
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