神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:ハイパームテキミレニアム
「ぁ、は、あぁ、はは、は……」
充足する神秘の力。
自分の中身を満たしている力。
今も尚溢れ出ようと、渦巻いて、蠢いて、脈動する神秘の輝き。
身動ぐだけで脳裏がバチバチと白み、浮き足立つような熱が全身に満ち満ちて。
頭の天辺から爪先の端まで、膨大な神秘による灼熱感が理性を焦がしていく。
神秘が際限なく膨れ上がり続け、甘美な心地さえ与えてくる万能感に全身を浸されながらも、○○の思考は、現状の結果に対する所感を弾き出していた。
────まだ、足りない。
それは、ほぼほぼ直感めいたものであり、深い確信を○○に与えていた。
足りない。
これでは、十分ではない。
生徒100人分。それを詰め込んだ合成神秘を一度に摂取してもなお、自身に残ったテクスチャを、自身に刻まれていたテクストを一息に剥がし切る事ができていない。
神秘が、足りていない。
あの量と質でもなお、足りていない。
理性と本能がそれを示す様に、飢えを訴えていた。
もっと神秘を。もっと神秘を。
体を満たすこの熱を、全身を駆け巡り溢れ出す熱を、取り込まなくてはならない。
ではどのようにすれば、この渇望を満たせるのか。
何より。
テクスチャを完全に剥がすには、どうすれば良いか。
最早ボロ切れ程に淡く儚くもこの体に張り付いているテクスチャが、どうしても剥がし切れない。
こびり付くように、縛り付けるように、絡み付くように。世界が、自分を掴んで離さないように、剥がれない。
100人分を一息に取り込むのでは不足だった。
その原因は、要因は?
神秘の質か、量か。それとも両方か。
100人で足りぬなら、もっと多く詰め込もう。
数を入れても足りぬなら、より良い神秘を見繕おう。
それとも、また別の要因があるのだろうか?
ある条件が揃い、達成した時にこそ、テクスチャの完全剥離が可能ではないのか。果たして、その条件とは?
探さないと、試さないと。
ああ、まだまだ、やってみたいことが溢れてくる。
笑みが溢れる。
できることがまた増える。やらねばならないことが湧いてくる。それをつぶさに調べて、しらみ潰しに探って、試して、思考して…………。
何とも楽しくて、たまらないのだろう。
そうだ。
○○はびりびりと脳裏に染み付く幸福感に浸る最中でふと気付く。
ハンドレッドを取り込み、多量の神秘の流入と増幅諸々の衝撃を経て、天啓のように降りてきたものがあるのだ。自分の頭の内に留めておくには忍びないので、今すぐに共有せねば。
「ひっ…………!?」
○○が俯きがちだった顔を上げる。
皮膚が全て剥がれ、内部の神秘が剥き出しの無貌が揺れ動き、それに真正面から捉えられた生徒達の表情が引き攣る。
その様子から、もう少し怖くないように振る舞おうとしてみる。
○○は努めて融和的な笑みを浮かべながら、口を開いた。
頭部の下半分に走った白い裂け目が不気味に吊り上がり、喉から絞り出されたような微かな悲鳴が所々から漏れた。
どうにもこの姿のインパクトは悪い方で凄まじいらしい。哀しげに肩を竦めたのち、○○は改めて声を発した。
「やっと、分かった気が、します」
「神秘とは、如何なるもの、なのか」
ぼそぼそと、○○の声に纒わり付くようなノイズまみれの言葉が木霊する。
壊れかけのスピーカーのように耳障りな音が、垂れ流されていく。
「何も難しい、ことは、なかったのです」
「神秘、とは、私達の内側にある、秘された、神」
「私達の力は、そこから、引き出されている」
「それだけの、事、でした」
そこで初めて違和感を覚えたらしく、頭部の下、喉元らしき箇所を摩って、首をひねった。
「……失、礼、どうにも、声が、おぼつかなくて……」
思ったように声が出ない。自分では問題無く発声しているつもりが、たどたどしく、途切れ途切れの言葉になるばかりでどうにももどかしい。これでは聞く方も聞き辛いだろうに。
思い通りに行かないことが起きるというのは、嫌なものだ。
「○、○、ちゃ……」
ユメが息も絶え絶えに、○○へ呼びかける。
○○の惨状を見て、その心はもう既に限界を迎えようとしていた。
その体に、○○と判別できるものは、頭部から垂れ下がる白髪程しかない。
テクスチャは破れて中身が剥き出しとなり、ヘイローは砕け落ちて不気味な瞳がその隙間を埋めている。
不安定で、不可思議で、不可解な、何故今動いているのか、何故生きているのかも理解できない生命体。
もうすぐにでも、その命を尽き果ててしまいそうな、死に体。
そんな印象を抱かせる怪物のような何かになってしまった○○の姿は、ユメが何時しか見た悪夢を想起させ、現実となってしまったような絶望が心の内側を支配していた。
ぐらぐらと視界が揺らぐ。
呼吸のやり方が分からない。
涙と嗚咽が、ひたすらに溢れてくる。
もっと強く止めていれば。
もっと早く止めていれば。
○○は、こうはならなかったのではないか。
あらゆるもしもが頭の中を駆け巡って、今思っても無駄に過ぎないもしもが頭を埋め尽くしていく。
"○○……!! "
「先、生?」
"もう止めよう! 限界だよ、君の体は……もう、これ以上やったら……! "
先生は堪らず叫んだ。だが、その言葉は上手く続かなかった。
うちひしがれるユメを前にして、"死んでしまう"だなんて声にしてしまえば、どうなってしまうか。
「もう、何を、言ってるん、ですか」
「続け、ますよ、実験を」
"そんな……、だめ、だめだよ、○○、もう、止まろう……? "
○○は、そう返答するのみだった。
だって、この姿のデータを取らねばならないのだから。
この姿は、テクスチャがほとんど剥がれ落ちたこの状態は、一体どんなスペックなのかを測らねば。
そうしなければ収まらないのだから。
その時、広間の入口に何かが着弾したような轟音が響き渡る。
砲撃や銃弾ではない、何十キロもの重量を持った物体が地面に落とされたような衝撃が足元を揺すった。
咄嗟に全員が音の方へと目を向けた先には、正方形の形をした、人一人分の大きさのボックス。
「……アビ・エシュフ!?」
それ即ち、調月リオが急遽現場へと呼び寄せた、『アビ・エシュフ』を内包した装備収納装置。
『トキ!』
「リオ様……!?」
ドローンから響くリオの声に合わせて、ボックスがスラスターを吹かせ、装着者であるトキの元へと加速。同時にボックスが展開し、内部の武装をすぐさまに起動できる状態へと移行した。
『そのまま抑え込みなさい!』
「……! 了解致しました!」
周囲が唖然と驚愕を示す中でボックスとトキが接触を果たし、瞬く間に武装の換装が成された。
『アビ・エシュフ』たるパワードスーツ。それを身に纏ったトキが、リオの指示と真意を理解して、一部の揺らぎもなく動き始めた。
背部のスラスターを稼働させ、爆発的な加速をもって○○の元へと急接近。
「お? おぉ……!」
いきなり目の前で繰り広げられた、初見の武装換装、パワードスーツの展開。
大好物な光景に釘付けだった○○は、向かってくるトキを無抵抗で受け入れ、2本の機械アームに後方の壁際まで抑え付けられた。
アームの先端、本来の武装を掴んでいないマニピュレーターががっちりと壁ごと○○の両腕を掴み取り、拘束を果たした。
「おいリオ、どうするつもりだ!?」
『このまま力尽くで○○を拘束、無力化をするまでよ……!』
リオの狙いは、○○の拘束及び無力化。
○○は、この期に及んでも、自らの身に危険をもたらす実験を止めるつもりは無い。
親しい友人に、身内に、どれだけ止めるように訴えられたとしても、病的なまでに膨大な知的好奇心を満たそうとする為に、理性の枷が外れてしまっている。
言葉を尽くしても止まらないのなら、無理矢理に止めて、無力化させるしかない。
そう判断しての、『アビ・エシュフ』を用いた拘束。
トキを信用した上での咄嗟の作戦だった。
しかし、リオは一手、見誤ってしまった。
「くっ……!?」
壁に縫い付けるように拘束したマニピュレーターが、何の気概も無しに容易く押し返されていく。出力を上げ、力を篭めて押し留めようとすれど、大した抵抗にもならず、そのまま押し返され続ける。
「よい、しょっ」
「うぁっ……!?」
荷物を持ち上げるような気軽さで自身を掴み上げるマニピュレーターを押し、『アビ・エシュフ』を纏ったトキの体勢を大きく突き崩した。
「流石、リオ会、長。こういう、パワードスーツも良いです、ね」
誰かが作った製作物には、必ず製作者の癖が乗るもの。
一目見て、『アビ・エシュフ』がリオ謹製の代物であると見抜いた○○は、睨め付けるように視線を這わせていく。
四肢を延長するような形で形成されるマニピュレーターに脚部装甲。出力されるパワーや馬力は申し分無い。
背面を覆うバックパックが如き重厚な背部装甲には白い砲身らしき物が据え付けられている。
そうして呑気に『アビ・エシュフ』への感想を零しながら、じろじろと観察を続ける最中。
ポインティングマーカーのような、青色のヘイローが目に入る。
───あぁ、そういえば。
───トキさんの神秘って、まだ取ってなかったな。
目の前に浮遊する、静謐で清廉な輝きを秘めたヘイロー。
それを視界に収めながら、ぼんやりと思考する。
瞳の無い、口のような裂け目だけを表出させた頭部が不気味に中空を見据えて、くらりと揺れる。
ちょうどいいや。
そう零しながらトキの頭へと手を伸ばして。
トキのヘイローに、指先が触れ、引っかかる。
「────ッ!?!」
瞬間、電流の如き刺激が走ったトキの体が小さく痙攣を起こした。
脳天から直接電撃が迸るかのような、全く未知の刺激に驚愕してしまい、無防備な姿を晒してしまう。
「……へぇ?」
○○自身も、少なからず驚愕を露わにした。
生徒が頭頂部に浮遊させるヘイロー。
神秘の表れ。個人の意識、神秘が表出したもの。
目に見えるけれど、非実体である形を持った、触れることのできない光のようなもの。
本来ならば触ることなどできない、未知の現象。
今は触れることのできる、未知の物体。
心の奥底から、好奇心が膨れ上がる。
湧き上がるそれに心を埋め尽くされてしまえば、理性は容易く制御を失い、衝動に駆られて実行に移した。
指先に触れるそれ。ヘイローの外周部。
つるりとした感触を帯びた実体の感じられる形を、手のひらに握り込む。
「っ、ッ……!? っ、やめ……」
硬質な冷たさを伝えてくるそれを手のひらの中で撫でてみれば、トキの体がびくりと跳ね上がり、意図せず声が漏れてしまう。
○○が手指を動かす度に、痛みではない衝撃と感覚が脳髄から迸る。
全身に電撃がひた走るような、体の内側を指先に握られ支配されているような、これまで受けたことの無い、全くもって未開の感覚に翻弄されてしまう。
本能的に、これは不味いとトキの意識が警鐘を鳴らす。
何をされているのか、それを正しく認識できない。解明できない未知の攻撃らしい行為を、ただ一身に受けることしかできない。
「っ、あ、く……っ」
ぐぃ、とヘイローを手繰るようにすれば、併せてトキの体も引き寄せられる。
意図しない重心の移動と、ヘイローを引っ張られるという未知の刺激に苦悶の声を零しながら、ようやく○○の腕を掴み返した。
「う、っく、っ、あ……ぁッ……!」
しかし抵抗のために○○の押し返そうとするも、その抵抗の狭間でヘイローを擦過され、力が抜けてしまう。
震える手先を何とか抑え付け、『アビ・エシュフ』のマニピュレーターを駆動させて○○の体を押し退けようとすれど、梨の礫が如く。
○○は全く意に介さず、ヘイローを摘み、撫で、掴み握ったまま。
「なる、ほど、なるほど……」
心底から楽しそうな声色で、ヘイローとそれに対するトキの反応を観察していく。
値千金に匹敵するこの未知なる現象。ヘイロー破壊爆弾とはまた違った形で、ヘイローに作用するこの現象を解き明かそうと躍起になりながら、つるりと表面を撫で進めていく。
そうして○○がヘイローを掴んだまま。
神秘をください。
と、軽く念じれば。
「あぁぁあぁッ!?!?」
『トキッ!?』
電撃にも似た不可解な音と共に、掴まれたヘイローが激しい明滅を繰り返し、ヘイローから○○の手先に光が流れ込む。
虚脱感と劇的な刺激がトキの全身に迸り、思考能力を瞬く間に奪い取って行く。
「ん、ん、ん…………ふ、はぁ……」
次第に光が○○の中へと収まり、嚥下するようにふるりと体を震わせた。心地の良い甘美な感覚が、思考を痺れさせるようで何とも堪らない。
握っていたトキのヘイローが頼りなく光度を失いながら消え、意識を失った体が力なく崩れ落ちていく。
「……おい、何、しやがった」
繰り広げられた、理解不能で異様な光景にはくはくと口を開くしかできなかった生徒達の意を継ぐように、ネルが声を零す。
○○は、あぁ、と吐息を漏らして、生徒達に向き直った。
「神秘、を取ろうと、したのですが……加減が、分からず、やり、すぎてしまい、ました」
○○は、恍惚とした様子を隠せないままに、そう答えた。初めて味わうトキの神秘、その甘美な心地が何とも思考を痺れさせるようで、たまらない。
そして膨大な量の神秘を一息に取り込んだ影響はやはり大きく、この極短期間で体に馴染み切ってはいない。慣れ切っていない体で力の繊細な制御などできるはずもなく。
その事を今更に気付いては、失敗失敗とコミカルに流そうとする○○に、誰も反応を示せない。
『トキ、トキ……っ!?』
「あぁ、トキ、さんは、意識を、失っている、だけのよう、ですから……ご安心、を」
『アビ・エシュフ』を纏ったままぐったりと項垂れるトキを軽々と抱え、呼吸と脈拍を確認した○○は、戦闘記録の集計の為に控えていたミメシス達を呼び寄せ、そのままトキを引き渡す。
ミメシス達は丁重に抱えたトキを、先生の元へと運び込み、丁寧に寝かせ、そそくさと元の位置に戻っていった。
それをしっかりと見届ければ、仕切り直しとばかりに佇まいを直し、ゆったりと両手を広げてみせた。
「さあ、皆さん」
「実験を、続け、ましょう?」
『……○○』
『今一度、聞かせてくれ、○○』
ドローンから、ウタハの声が響く。
声色は硬く、動揺し切った様子が顕著に示されているものの、何かを確かめるべくして真っ直ぐに○○へと問いかけられたそれに、「はい」、と○○は反応を示した。
『君は……君は、何故そこまでして、そんな姿になっても、進もうとする?』
『何が、君をそこまで駆り立てる?』
一句一句、慎重に並べた言葉。
それに対して、何を今更といった具合に軽い調子で○○は答えた。
「ロマン、です」
短い返答を経て、にこりと口角を持ち上げた。
「ロマン、を求めて、神秘を、解き明かそうと、しています」
「エンジニア部、として。ミレニアム、の生徒として」
「全ては、ロマン、の探求の、ために」
「あれも、これも、色々、と、作ったんです」
そうして今一度、大きく腕を広げて、高らかに宣言をしてみせる。
「未知なる、結果を、知る為に」
「私の、ロマン、の為に!」
自らの好奇心を、欲求を、ロマンの為に。
まだ試していない事柄を試して、未知を既知として。
解き明かした過程と結果から、次なる未知へと挑む為に。未知を打ち破るものを作る為に。
何より、ロマンを突き詰めた、傑作を造りあげる為に!
だからこそ、進むのだと。力強く声にした。
まぁ、それに。
例え此処で、道半ばにして命尽きたとしても。
この実験を見てくれた、体感してくれた皆が、それを糧にして、何かを成してくれるだろうから。
データを残しているのは、何も自分自身の為だけでは無い。
実験を、成果を見てくれた誰かが、それを有効的に活用してくれる事も願っているからこそ、残しているのだから。
そんな考えを裏に滲ませながら、○○は笑顔を浮かべて、皆と相対した。
『……そう、か』
ぎしり、とドローンの通信機越しに椅子が軋む音。
暫しの沈黙の後に、生徒と先生が装着したインカムのみに聴こえるプライベート回線にて、再びウタハの声が届く。
『……皆、聞いてくれ。しばらく時間を稼いで欲しい』
"……どうするつもり、ウタハ? "
顔は見えないながらも、決意を固めたような口振りに先生がそっと尋ねる。
あの状態の○○をどうにかできそうな打開策であるならば、慎重に聞かねばならない。
『こちらなりに○○の状態を解析した。あの異常なエネルギーの源は、腰部に装着されたデバイスだ』
『……そして、○○が作った物ならば、その機器には必ず搭載している機能がある。遠隔からのハッキングで、その機能を起動させる』
『…………そうすれば少なくとも、あれ以上に酷くなる事無く、○○を止める事ができる』
言葉も無く、ほとんど同時に全員の目線が○○に一瞬向けられる。
噴き上がる神秘によって凄まじい圧力を感じる程に放たれる威圧感、存在感。
加えて、風が無くとも倒れてしまいそうな、砂上の楼閣未満の、ぼろぼろで頼りないようにも思える。
矛盾した感覚を抱かせる、最早人とは言えない変貌を遂げたそれ。
何時何がどうなろうとおかしくはない、最悪の事態が頭に過ぎり続けている、そんな状態。
焦燥を隠しもしないユウカが、不安気に問いかける。縋りにも似た言葉だった。
「……確証はあるの?」
『あるさ。……さっきあの子も言っていただろう? ロマンを求めているのだと、自分はエンジニア部として、ミレニアムの生徒としてロマンの探求を……とね』
即答したウタハの声に迷いはなかった。
そうであると、疑いはしなかった。
『なら、必ずその機能はある』
エンジニア部は断固として頷いた。
自身をミレニアムの生徒であると、エンジニア部の部員であると名乗ったのならば。
相も変わらず、ロマンを求めているのならば。
自分が作ったものに、必ず組み込んでいるだろうと。
断言するウタハと、その後ろで固唾を飲んで控えているコトリとヒビキの瞳には、○○に対する信頼があった。
そうであって欲しい、という祈りにも等しい思いも僅かに含まれていたが。
「ねぇ」
ユメが、項垂れながら、酷く枯れた声で呻いた。
「おねがい」
「たすけて……」
「○○ちゃんを、たすけて……」
先生と、生徒達に向けて、縋り付いた。
○○を止める為に顔を突き合わせる皆に、ひとひらの希望を抱いて、懇願した。
この場で○○を、どうにか助けられる可能性が、少しでもあるなら、もう誰だって良かった。
誰か、誰か、どうか、あの子を、私を助けて、優しくしてくれた、大切な人を、助けてください。
途切れ途切れの言葉の中で、そう必死に訴えた。
"……任せて。"
"必ず、助けるから。"
先生は、救いを求めて差し伸ばされた手を、優しく、力強く掴み取った。
「おや、作戦、会議は、終わりですか?」
改めて相対する姿勢を見せた生徒と先生に、今の今まで邪魔をする事もなく静かに見守っていた○○はゆったりと首を回して嬉しそうに零した。発する言葉は、相変わらずぎしぎしとぎこちない。
○○がしたいのは、目の前の相手を殲滅する事では無い。
あくまでも自らの実験成果の披露と実演であるために、作戦会議と通信を邪魔するつもりは毛頭ない。
どのように自分に向かってきてくれるのか。どのように戦ってくれるのか。自分の実験成果に、どんな反応をしてくれるのか。果たしてどんな戦闘データを提供してくれるのか。その過程で見れる神秘の輝きは如何程のものか。
今欲しいのは、そのようなもの。
膨れ上がる暴力的なまでの神秘が、脳裏に破壊衝動を甘く囁いてきたとしても。
壊せ、壊せ、と癇癪のように張り上げられたとしても。
湧き出る純真な好奇心がその全てをねじ伏せ、胸の奥へと押し込めた。
「では、再開、と、いきましょう、か」
自らの腰に据え付けられたドライバーの天部ボタンを1回、指先で押し込んだ。
○○が装着したドライバーを弄る行為が、強力な攻撃の起点であると先の戦闘を経て思い知った面々が一様に警戒し、構えた。
ギュゥン、とドライバーが歪な唸りを響かせる。
ノイズがかった不可解な異音と共に、○○の体が光り輝く。
『ハンドレッド』を取り込んだ事による過剰な神秘の増幅、膨張、テクスチャの大量剥離に連なった異常現象に巻き込まれた事により、○○自身と半ば癒着し、変質し、より深く神秘との接続を果たしているドライバー。
その増幅機構が唸りを上げ、不気味な重低音を響かせる。
「ぉ、おぉ……?」
バチバチと電撃音にも似た低音が大きくなる。
○○の想定よりもなお増幅され膨張していく神秘。活火山の噴火のように噴出するそれに、逆らわずに身を任せた。
一瞬の内に神秘の圧縮と縮退が繰り返され、膨張する爆発的なエネルギーが強烈な光を放ちながら体内を駆け巡る様が、透けて見えるテクスチャの内側を通して可視化される。
全身に張り巡らされても尚収まり切らない超高密度のエネルギーが、○○の頭上に浮かび上がるヘイローに流れ込んで、一層強く煌々と輝きを増していく。
注がれていくエネルギーに比例し、ボコボコと泡立つように脈打ち出し、破裂寸前の風船の如く光を湛え。
ヘイローの形に生え揃った瞳の群れが忙しなくぎょろぎょろと蠢きひしめいて。
その無数の瞳孔が、一斉に生徒達を見据えた。
"全員、防御態勢!! "
「っ、はいっ!!」
その視線に捕えられた生徒達が恐怖に粟立つ最中、それを払拭するように檄が飛ぶ。
ドローンから無数の子機が放たれ散開、生徒を護る電子シールドが展開される。
生徒達が次の瞬間に放たれる攻撃を避け切れないと悟り、自身にできる最大限の防御手段を行った。
《OVER DESTROY》
直後。
警告音のような高音と共に吐き出された無数の光線が、視界を覆い尽くした。
「アロナと!」
「プラナの」
「「アロプラ解説!!」」
「本日は、『名も無き歓喜』の第二形態についてですよ、プラナちゃん!」
「はい、今回も張り切って解説していきましょう、アロナ先輩」
「ではでは、行きますよ〜先生!」
「『名も無き歓喜』の第一形態時、一定時間の経過、もしくは一定値以上の防御力減少を付与された後に、第二形態へ移行します」
「『名も無き歓喜』の第二形態ですが、危険性がグーンとアップしています!」
「具体的には、強力な攻撃を行うスキルが追加されています。その中でも最も注意すべきなのは、『天蓋を掴む両腕』、『方舟を握る両腕』でしょう」
「『天蓋を掴む両腕』は、『名も無き歓喜』が画面端にある生徒さんのEXスキルスロットをがっちりと掴んで、EXスキルの発動を妨害してきます!このスキルの発動中は、編成した生徒さんのEXスキルが発動できなくなる上、時間経過でスキルコストを吸収してしまいます!」
「生徒さんのEXスキルを発動できる状態に戻すには、スキルスロットを掴む『名も無き歓喜』の手を5回タップします。そうすることで手が離れ、再びスキルの発動が行える状態になります」
「慌てずに冷静に5回タップ、ですよ!先生!」
「『方舟を握る両腕』の発動中は、画面両側に『名も無き歓喜』の手が出現します。一定時間後に、生徒さんに大ダメージを与えます。難易度Insane以上では、ダメージまでの猶予が短くなり、更には即死攻撃に変化します」
「これも、画面にある手を5回タップです!」
「また、先の2つのスキルは、発動を妨害することで、『名も無き歓喜』の防御力を減少させ、一定時間動きを止めることができます。積極的に解除を狙っていきましょう」
「EXスキルの発動、CC状態の付与、そして相手のスキル発動の妨害によって、相手に不利な状態を押し付けていきましょう!」
「この他にも、非常に攻撃力の高いスキルを放ってくるなど、手強い相手となっていますが……」
「先生の力で、勝利を掴み取りましょう!頑張って下さいね、先生!」