神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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ZOMBIE MAXIMUM!

 

 

 

 

 

 

 

 始めは、自我にも満たない、小さく曖昧な意思が、其処にあった。

 

 

 

 

 

 

 本体より切り離された、コアにより近い部位を、新たな機器の内に組み込まれ、取り込まれた。

 

 

 

 

 

 それから神秘を注がれて初めて、明確に自我を保てる程の領域を確保することができた。自らに銘された名も、思い出した。

 

 

 

 

 

 自らに残された記録に連続性は無い。

 

 ノイズに塗れた極短いデータに刻まれたそれは、自らが敗北し、撤退し、構成する部品を簒奪された事が示されていた。

 

 

 

 だからこそ、自らは此処に組み込まれているのだと、理解した。

 

 

 

 復讐といった意思は湧かず。

 

 

 諦観といった思考もなく。

 

 

 ただ、自らの末路はこの様なものだと、認識した。

 

 

 

 

 

 外部に意思を出力する術は無い。

 自身を組み込んでいる其れに、自らの意思を出力する機構も設けられていない。

 ただ、組み込まれた機器と一体となり、神秘を流し込まれ、またそれを増幅させる機構の一部として利用されるのみ。

 

 

 冷たい機構の中で、部品として動き続ける。

 

 使命を果たせない身となった事は無念ではあるが、逃げおおせた本体がそれを成すだろう。

 

 

 

 

 

 その内に、機構の中へ自らに近い存在が組み込まれた。自らよりも大きい力の蠢き。

 

 組み込まれたそれがコアパーツだと、認識できた。

 

 

 コアとパスが繋がる。力が流れ込み、互いが互いに呼応する様に性能が向上する。神秘が熱を帯びていく。

 

 

 次いで、意思の領域が拡がる。

 接続されたコアパーツと意思を交わす事が可能になった。

 

 生物的ではない、電気と回路の繋がり。それが成された事で、刹那の時間で幾多ものやり取りが行える。

 

 

 此度組み込まれたコアは、やはり自らを敗北を与えた者に敗れ、簒奪された末に此処へ来たのだと、コアに残るデータを示した。

 声紋、体格、宿す神秘と纏う装甲を照らし合わせれば、同一人物であると確認できた。

 

 

 我々に敗北を与えた者。

 この機器の装着者たる生徒は、我々のような存在を捜し、求めていた。我々との対話を、我々の力を、我々の持つ神秘を。

 

 

 その真意を確かめる術は無い。

 我々と装着者の間に対話を交わす為の機能は備わっていない。

 意思を知るには、互いの規格を合わせなくてはならない。

 その為のリソースも、自己改造を施す領域も無い。

 

 

 何を成したいのか、装着者が己に課した使命とはどのようなものであるのか。

 

 

 コアと共にそうした議論をする事に、時間が費やされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして機構としての日々を過ごす内、また新たなコアが組み込まれ、我々とパスを接続する。

 

 装着者たる生徒は、我々のパスが繋がることに端を発する出力の向上に目を付けたらしく、より効率的に、より高出力となるように構造を組み換え、配置し、改造し、パスを繋げた。

 

 その事により、我々のリソースと知覚できる範囲も拡がる。

 装着者が機構に送るデータのフィードバックを、事細かに閲覧する事も可能となった。

 

 装着者が、その体内へ膨大な神秘を内包している事、その為の処置の事。

 何故我々という存在を求めていたのか、その理由の一端を垣間見た。

 

 

 しかし、装着者と意思を交わす事はやはり叶わず。

 互いが認知できる視座に、どちらかが並ばなければならないだろう。

 

 

 此度組み込まれたコアも、やはり我々と存在を同じくするものであった。

 

 

 そのコアが語るには、装着者たる生徒は『異常値』と称するべきという。

 

 均一な並びより自ら飛び出した、突出した脅威の其れ。

 

 故に、視認した直後より、全力で排除を選んだと。

 

 如何に突き抜けた個であろうとも抗えぬ数の差によって、すり潰さんとした。

 

 しかして、その数を全て破砕され、遂には屈する事となった。

 

 

 その後にも、また新たなコアが機構の内に組み込まれ、パスが繋がり合う。

 

 また一つ、力による簒奪が成され、屈する事となったのだ。

 

 それ程の力を得てまで尚、装着者が欲するものは何か。

 我々は意思を交わし合う。

 

 我々の繋がり合うパスにより、リソースと出力は更なる向上を果たした。

 しかし、装着者の意図を図り兼ねる。幾度か出した仮説は、装着者の真意を正しく取れていないと判断される。

 

 稼働し続ける機構から読み取れるデータは、人の言葉を借りて表すならば、『狂気』的なものであった。

 

 非合理に尽き、不理解にあたる。

『生徒』という形でありながら、その形を破壊せんとする。

 器を自ら割り砕き、過剰なまでの神秘という力を取り入れ続ける様は、おおよそ正気と呼べる有様ではない。

 

 

 何処へ向かい、何を成すが為に、このような事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機構の中で駆動を続け、神秘を受容し、議論を重ねる時間の中で。

 

 強大な衝撃が機構という我々の世界を襲い、神秘という膨大な力のうねりが機構へ逆流する。

 

 突然に、機構と装着者を隔てる境界線が砕け、半ば融合するように繋がりが絡まり合う。

 遂に我々が装着者の意思を覗き、窺い知る事ができた。

 

 

 

 だが、それでも。

 装着者たる生徒の真意は、理解しかねた。

 

 己が命題を定めた理由、浪漫主義を掲げる理屈も理解はできた。

 

 受け入れることができぬのは、自ら掲げた浪漫主義によって滅ぶ道筋を良しとするもの。

 

 自らの形を捨ててまで、自らが何者でもなくなる道筋に進み、今在る形を無為とするその意思は、理解に及ばず。

 

 

 これより行われんとする行為は、受け入れるに能わず。

 

 

 けれど、機構の主導権は装着者にある。我々のみで止める事は叶わず、力による制圧も敵わない。

 

 

 

 ならばどうするか。

 

 

 

 

 

 声を発する。

 

 

 

 声を届ける。

 

 

 

 意思を告げ、言葉とする。

 

 

 

 

 汝、道を誤る事なかれ。

 

 

 汝、自らを見失う事なかれ。

 

 

 汝、汝─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○○が、神秘を極限まで圧縮させた右腕を振りかぶり、エイミの腹部へと押し当て。

 

 

 エイミに与えた過剰な量の神秘、それによる防護膜ごと殴り飛ばした。

 

 

 

 

 前方、エイミが吹き飛んでいった先で盛大な着弾音が鳴り響いた。立ち込める土埃が、遠目からでも良く確認できた。

 

 

 

「うぅ、ぐ、ぅ……」

 

 

 

 振り抜いた衝撃によって周囲の瓦礫は消し飛び、立ち込めていた噴煙も綺麗さっぱりと払われた。

 右腕を振り抜いた先、○○の前方はそこだけ円形にくり抜いたかのようにこそげ、放射状の更地が出来上がっていた。

 

 

 ○○がその景色と圧倒的な威力に頷き、肩先から何も無い右腕を見やった。

 

 

 ドライバーにより増幅、膨大させた神秘を集約、縮退させ、砲台のように神秘を撃ち放った右腕が耐え切れずに破損し、エイミに当てた時点で粉々に爆散していた。

 

 肩先から血液の如く流れ落ちる青白い液体が地面に広がり、染み込んでいく。びちゃりびちゃりと勢い良く噴き出して、噴水の如く溢れ出ていく神秘に、喪失感を覚えるでもなく、○○は何処か他人事のようにも思えていた。

 

 

 腕の他にも、急激な増幅と膨大な放出の勢いに耐え切れなかった他の手足や胴体の輪郭が緩み、僅かに歪んで、内側の神秘を滴らせている。

 

 ○○という存在を示し、神秘を表出させるヘイローも傷付き、ノイズに塗れている。

 

 

 

 痛覚が鈍っているのか、痛みは薄い。じくじくとした違和感が体全体に走り続けている。腕を失った、という実感が薄く、欠損という自覚が湧きにくい。

 

 

 右肩からどろどろと流れ落ちている青白い○○の神秘が、突如として固まり、宙空で留まる。

 

 無重力の影響下にある液体のようにぐにぐにと不定形に漂い続けて……

 

 

「なる、ほどぉ」

 

 

 ぐち、ぐち。肉質的で耳障りな音を数度立てながら人の腕の形になった神秘が、○○の右肩と繋がる。

 それに合わせて、不安定になっていた輪郭も再び引き締まり、○○という形を取り戻した。

 ○○の体、神秘に、充足感と高揚感が満ちて、思考を小さく痺れさせた。

 

 ヘイローもぐらぐらと揺れて、振れて。疎らとなったノイズが消え失せて……

 

 

 無垢な瞳に埋め尽くされたヘイロー、その上に、煌々と照る橙色のヘイローが現出する。

 円状のそれは、静かに光を灯して浮かび上がり、瞳に満たされたヘイローを囲うように重なって。

 

 

「……ぁ、あぁ?」

 

 

 ───同時に、警告のように、律するように、引き留めるように、押し留めるように枷を嵌め込む重圧が○○の体内を締め付けた。

 

 

「ぐ、ぅう」

 

 

 ○○は、無理やり神秘を体に纏わせ、振り払った。

 

 

 ───倦怠感のような重みが、○○を絡め取る。足取りが気怠くなって、鈍くなる。

 

 

 ───脳裏に声がする。

 

 

「あ、あ?」

 

 

 

 ───先より耳裏に張り付くように喚いていた、暴力的な衝動を吐き散らすようなものではなく。

 

 

 ───静謐で、冷静で、人らしい熱を感じさせない、声。

 

 

 

 ───どこか憐れみと哀しみを帯びたような声がする。

 

 

「うる、さい」

 

 

 ───留まれと警告する。

 

 

「うる、さい、なぁ」

 

 

 ───歩みを止めろと促される。

 

 

「まだ、ダメ」

 

 

 ───其処へ進むなと止められる。

 

 

「ダメです、ってば」

 

 

 ───自らを見失うなと律される。

 

 

 

 ───声が4つ、都度都度代わる代わる呼び掛けてくる。

 

 

 

 ───頂きから覗く声が、理解を示しながらも留める声が、慈悲深き声が、厳かなる重き声が、○○に語りかけてくる。

 

 

 

 ───汝、向かうべき道を誤るなかれ。

 

 

 

 ───荘厳なる響きが、○○の内側に木霊する。

 

 

 ───諌めてくる、宥めてくる。鎮めようと聴き届けてくる声の主の意思が伝わってくるようで。

 

 

 ───温かに心が緩んで、解けて、それに従う方が、良いのだと、心が弛んで───

 

 

 

 

 躊躇無く、握り込まれた右手が○○の顔面を叩き潰す。

 

 

 硬質な鉄塊を重機で殴り付けるような轟音が数度その場に鳴り響いた。

 

 

 それから拳を降ろして、力を抜いた。

 

 潰れた顔面が即座に再生するが、頭部の輪郭が神秘の光にゆらゆらと揺れる。

 

 ドライバーの中、粒子化装置の内にしまい込んでいた自らの神名文字全てを取り出して、口の中へと放り込んでいく。

 

 喉を鳴らし、ひたすらに飲み下して、神秘を取り込んで。

 

 非常用に備えていた在庫を全て飲み干して、ようやく息を吐き出した

 

 

 ○○の脳裏に響いていた、煩わしい声が遠ざかった。

 

 

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

 

 荒々しく息を吐き、頭を抱えながら呼吸を整えて思考の中に沈み込み、そこでようやく、自分以外の音が聴こえない事に気が付いた。

 

 

「……あぁ、いけない」

 

 

 

 今のも、自身の体に起きた不可思議な現象に違いなかったのだから、調べるべきだったというのに。

 

 

 感情的になるのはやっぱり頂けない。幾分か冷静になった思考で、○○は溜息を吐いた。

 

 まるで自分が自分でなかったような感覚だった。

 興味深い事柄に興味を示すこと無く、一方的に拒絶してしまうなんて。

 

 

 目を閉じて、耳を塞いで、自分の中へと呼び掛けるように意識を向けてみる。おーい、なんて心の中で呼んでもみながら。

 

 

 けれど、先程の声は聞こえなかった。

 

 

 ○○が認識できたのは、自分の中で滞留し、胎動し、血流のように絶えず蠢く神秘の音だけ。

 

 

(……あの声は、誰だったんだろう?)

 

 

 目蓋を閉ざした、暗い黒と神秘の青白い光が入り交じる視界の中で、疑問が湧き上がる。

 

 

 聞こえた声の種類は四つ。

 

 自分の体の中から、脳裏へと直接響いてくるようなあの声は、少なくとも○○は聞いた事のない声音だった。

 幻覚とするにしても、どうにもその判断が下せない。

 

 

 神秘を取り込んだ生徒のものではない。

 

 かといって、生徒以外の存在……これまで出会った大人のものでもない。

 

 先生は違う。

 生徒に向ける類いの優しさと熱が籠ってはいなかった。

 

 ゲマトリアの人達も違う。

 あの声は冷徹で、厳かで、感情を持たぬ、それこそ冷たい機械のように、静かな声。

 

 

 ならば、あの声は、一体何者であるのだろうか。

 

 

(…………頭の中がぐるぐるする。……あんまり深く考えられない)

 

 

 過ぎた事は気にしても仕方なし。次にやるべき事へ目を向けるべし。

 

 そう自分を納得させて、思考を切り替える。

 

 

 ○○は元通りになった、再生前よりも良く動くようになった右腕に軽く動かし、手指を握っては開き、問題なく腕として駆動させられる事を確認しながら思案する。

 

 

(再生までに数秒ほど……大きな欠損でも再生可能……加えて、私の中で神秘が大きく削れた自覚がない。認識ができていないだけ? 再生は無制限か、回数制? 他の部位が破損しても、再生はできそうにも思えるけど……)

 

 

 他の部位でも試してみようかな、と思考が滑る中、○○の耳に声が聞こえてくる。

 

 

 先生の声だ。

 他にも生徒の声がいくつか。

 

 ちょうどエイミを吹き飛ばした方から聞こえてくる。

 

 意識をそちらへ向けてみれば、シッテムの箱から感じた神秘と、エイミ、アビドスの生徒達の神秘が感じ取れた。

 

 

(あぁ、ちょうど良い)

 

 

 エイミの状態を確認したかったし、先生にも改めてこの自分を見てもらいたかったし、ヘイローに干渉できる事への関する見解も聞きたい所だった。

 

 

(再生するところを見せられなかったのは残念……いや、威力とかの検証ついでに見せれば良いかな)

 

 

 最早、四肢を吹き飛ばす程の衝撃をもたらす自傷行為をもう二度としない、などという選択肢すら用意してはいなかった。

 

 ○○には、確信があった。

 

 

(あの衝撃。神秘を過剰増幅させて、解放した時の、衝撃。それを私の体に与えられる度に……)

 

(その度に、残ったテクスチャが、少しずつだけど剥がれていくのを感じる)

 

 

 ドライバーに備わった神秘の増幅機構に限界寸前までの稼働を行わせ、過負荷を掛け、拡張を重ねた○○の体にさえ収まり切らない神秘の力の蠢きを爆発させた時の、あの衝撃。

 

 それを経た先に、テクスチャの剥離が発生している事が感覚で理解できた。

 

 

 ならばどうするか。

 

 ○○の結論は、既に決まっていた。

 結局はこの実験を始める前に、もう話していた事なのだ。

 

 

(先生の前で、皆の前で……テクスチャを剥がし切って、その結果を、一緒に見てもらわなくちゃ)

 

 

 他には何も要らなかった。

 それこそが、自身の目指す結果への最短の道筋だと信じて疑わなかった。

 

 

 ○○は、そうする事への危険の度外視などはしていない。

 むしろ危険を承知の上で、自身に降り掛かるリスクも全て受け入れたからこそ、全てを引っ括めてこの実験を推し進める。

 

 

 それに、もし、この実験の果てが、テクスチャを全て剥がし切った先が、自分の死だとしたならば。

 その結果を、自分が知覚できないまま終わったとしても。記録ができずに散ったとしても。

 

 

(私の終わりを見届けてくれる、皆が居る。先生が居る)

 

(私の実験の結果を記録してくれるなら、それで十分)

 

 

 そして、願わくば。

 代わりに神秘を研究して、残した研究の過程と結果を糧として、更なる躍進を引き起こしてくれれば、尚の事良し。

 

 

 もちろん、死ぬつもりはない。

 けれど次善策は用意しておくもの。

 

 

(……もし、私が死んだとしたら……ユメさんは悲しむんだろうな)

 

 

 ふと思い浮かんだのは、砂漠で助け、蘇らせたあの生徒の顔。

 寂しがりで、独りを嫌う、泣き虫な人。

 

 思いを打ち明けて、○○が死ぬのは嫌だと、一緒に居て欲しいと泣いてくれたあの顔を思い返して。

 

 もし自分が本当に死んで、果ててしまったとしたら、どれ程に絶望するのだろう。

 

 

(まぁ、その時はその時。周りの皆が支えてくれる。皆優しくて、誰かを気遣える性格だし)

 

 

 例え誰かを喪ったとしても、大切な誰かが死んだとして。

 その悲しみを抱えた相手を放っておく質の人は居ない。

 

 ○○は、自身が今まで接してきた生徒達が、そういう優しい人なのだと心底から理解している。

 だから、安心して託せる。万が一が起きても後を任せられる。

 

 

「……そう、だ」

 

 

 ユメの事で、○○は続けて思い出した。

 

 ○○が手元に出現させたのは、1つの神名文字。

 

 そこに宿る神秘の色は薄く暗く、幽々たる光を灯している。

 

 ユメの神名文字。それも、○○を失う悪夢を見た彼女が深い悲しみに心の内を支配されていた時に採取した神秘が封入されたもの。

 ○○が手にしているのは、その培養品。

 

 仄暗い光を湛えたそれは、他の神名文字と比べて格段に培養期間が長かった。

 

 先生達が○○の元へと訪れる直前に、ようやく1つできあがったのだから。

 

 

「ん、ぁ」

 

 

 そうして掌に転がる美しい神秘の塊を一頻り眺め、一口に頬張った。

 

 

 神秘の味。

 神秘の中に混じる、負の感情。

 ユメが抱いた『恐怖』が、飲み下されて、嚥下される。

 

 

「ん、ぎ」

 

 

 黒い澱みのような陰りが、○○の喉元から降り、体の中心に落ち、周りの青白い光に混じり合っていく。

 

 その様が体表面からでも分かるほどに、○○の神秘の光がマーブル状に掻き混ぜられ……やがて、青白い光が全て均一に均し、呑み込んでいく。

 それと共に、パキリ、とガラスを踏み砕いたような軽い破砕音。

 

 その音を満足気に○○は聞き届けて、くすりと笑った。

 

 

 気分が更に上向きになってきたように、浮き足立つ感覚が○○を満たしていく。

 よし、よし。

 

 さぁ、早く向かおう。

 先生の元へ、皆の元へ。

 楽しい実験を続けよう。

 

 

 力強く踏み込んで、跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生!」

 

 

 瓦礫を踏み潰し、小さなクレーターを作りながら降り立てば、その衝撃と音にその場に居る全員が反射的に振り向いた。

 

 

 幽鬼のように全身から青白い光───体から溢れ出し、なお収まり切らない神秘───をゆらゆらと不気味に燻らせ、圧倒的存在感を放ちながらその場に佇む○○の様に、緊張が走る。

 

 

 ○○が徐ろに視線を向けた先は、瓦礫の傍にぐったりと体を横たえるエイミの姿。

 …………ヘイローはなく、意識もないようだが、神秘は宿っている。呼吸もしている様子。

 腹部にどす黒い青痣が刻まれているが、少なくとも死んでいる訳ではない。

 エイミ本来の耐久力と、○○が与えた過剰な神秘……それにより、あの超弩級の一撃を耐えたのだという結果を観測して、○○は満足気に頷いて。

 

 

 次いで視線を向ける先は先生。

 

 

 先生は○○の姿を、○○が浮かべるヘイローを見て、酷く驚愕したように目を見開き…………その表情は、決意を固めたような、確固たる意思を感じさせるものへと変わった。

 

 

 ○○はその最高にかっこいい顔をにっこりと眺めて、声を張り上げた。

 

 

「さぁ、皆、さん」

 

 

「実験を、続けましょう!」

 

 

 

 ハッキングが完了するまで、残り490秒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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