神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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Pulverize!

 

 

 

 

「ぁははっ!」

 

 

 満面の笑みで───感情が昂り切った末の哄笑を吐き出しながら、○○が駆ける。

 

 

 浴びせられる十字砲火の中、腕で、触肢で受け止めて、弾いて、捌いて、更に一歩踏み込み、跳躍。

 

 

 最前線の戦列で○○に弾丸の嵐を撃ち放つ機関銃を、空崎ヒナの愛銃『終幕:デストロイヤー』の銃身を着地と同時に踏み抜き、地面へと縫い付ける。

 

 

「くっ……!」

 

 

 射撃姿勢のバランスを崩され、僅かに狼狽えるヒナを前に、そのまま握り込んだ拳銃───先生から○○へと送られた大切な武器───を突き付け、引き金を……

 

 

「っと、ぉ?」

 

 

 引く前に、ヒナが保持していた銃を手放した事で今度は○○の体がバランスを崩し、前傾にたたらを踏む。

 

 

「ケ、ヒヒィッ!!」

 

 

 明確に生じた隙。○○の顔面を掬い上げるようにショットガンの銃床が、持ち主たる剣先ツルギが臓腑の底から引き出す奇声と共に振るわれ、体を仰け反らせる。

 

 そのまま二梃のショットガンと長い手脚による苛烈な連撃と銃撃を浴びせられ、後退を余儀無くされ、踏み締めた機関銃から足が離れた。

 

 

「ぉ、らぁっ!」

 

 

 飛び跳ねるように迫ったネルの両脚が突き出され、○○の胸を強かに打ち、また一歩後退。○○が事前に詰めた距離を確実に引き離して。

 

 

「んぐ……っ!」

 

 

 機関銃を保持し直したヒナが、その銃口を無防備となった○○の腹部へと突き立て、銃撃。

 

 一点集中させた密度の高い弾幕、ビーム砲と見紛う程の神秘が濃縮された弾丸の乱撃に、初めてと言える苦悶の声が○○の口から漏れ出して、怯む。

 

 

 一歩、二歩、じりじりと後退する。

 畳み掛けるように、○○に再び攻撃が集中する。

 

 

 銃弾が、爆弾が、砲撃が、○○の体に飛来して、打ち叩く。

 ○○の足を押し留める為の十字砲火が、降り注ぐ。

 

 

 

 容赦のない銃撃の嵐の只中に晒されながら、○○の笑みはより一層深まって、口角を吊り上げて、笑った。

 

 

 

「っ、ぁは、は! さぁ、もっと、もっと! やりましょう!」

 

 

 

 腕を振るい、触肢を振り回し、高揚と共に神秘を膨れ上がらせ、弾丸の雨を振り切って、声高々に張り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○○と相対した先生が懐から取り出したのは、1枚のカードだった。

 

 見た目こそ何の変哲もない、クレジットカード。

 

 先生がそれを掲げるように、空へ向けて天高く翳したその瞬間。

 

 

 

 

 ○○は、奇跡を目の当たりにした。

 

 

 

 

 先生の掲げたカード───『大人のカード』が柔い光を発し、場に薄く広がっていく。

 

 弱い光であるはずなのに、目が眩むような感覚に陥る最中で、○○は間違いなくそれを認識した。

 

 

「……へぇ……」

 

 

 淡い光が晴れた先。

 人影が増えている。

 1人、2人、3人……それどころでは無い人数が、一瞬にして。

 この場に居なかった、この戦闘に参加していなかった筈の生徒が、突然現れた。

 ○○の知る生徒も少なくない。

 

 最前線で雄々しく佇んでいるのはゲヘナの風紀委員長。

 他にはトリニティの正義実現委員会、救護騎士団、シスターフッド。百鬼夜行連合学園、山海経に……

 

 中には水と油と呼ぶべき面々が揃っていたりするのに、今はその事など露ほどにも気に留めていないとばかりに、この場に現れている。

 

 

 後方に控えていた生徒をこの場に転送した? 

 幻覚、それともホログラム? 

 

 いや、それとはまた訳が違う。

 もっと根本からルールが異なるような、不可思議で絶対的な力の働きを感じる。

 

 

(これが先生だけが持っている『大人のカード』、その効力の1つ……)

 

 

 推測でも、考察でもない。ひいては揃えた証拠を踏まえた推理でもない。

 合理性のない理屈。それこそが正しいのだと突き付けられる、そうであるのだと理解させられる。

 

 

 あれこそ、大人たる『先生』の切り札。

 一発逆転の為の、反則的な手段。

 

 

 なるほど。と、○○は一つ納得して。

 

 とてもとても、楽しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、と」

 

 

 ゴゥ、と空間を削り取るかのような風切り音と共に飛来した紫色の閃光が○○の右手を弾く。

 

 ヒナの機関銃から放たれた神秘を篭もった弾丸が、ドライバーへ運ぼうとした手の動きを阻害した。

 

 寸断なく、動きの起こりを見せようとする両手を狙い撃つ。

 

 それを受け止めて、なおも強引に手を動かそうとすれば、また別の生徒からも弾丸が届き、援護射撃の的となる。

 

 自らを縫い止めるように放たれ続ける弾丸の嵐の中で、○○はふぅむと唸る。

 

 

(……明らかに、強くなってる)

 

 

 先程までの戦闘行動を省みても、攻撃の威力が上がっている。

 

 あのゲヘナの風紀委員長であり、強大な神秘の持ち主である空崎ヒナの攻撃ならばまだしも。先生の大人のカードによって喚び出された生徒達ならばまだしも。

 

 それ以外の生徒からの攻撃も、今の○○にわずかながら痛感を与える威力となっている。

 

 先生に指揮をされるからこそのステータスの全般的な上昇が、更にブーストされている。

 

 その要因は、一体何だ。

 

 

(単純に私の防御力、耐久性が弱くなっている可能性……その線は薄いかな。今だって、さっきよりも神秘が強く漲っている感覚だし……)

 

 

 今や腕を振るうだけで風圧が生み出され、瓦礫を蹴り出せば砕け、散弾じみたそれが飛んでいく。数多の銃弾を受け止めようと、ヘイローを消灯させる致命打には届き得ない。

 

 自身の動きを阻害しようと飛来する弾丸の雨から回避行動を取りつつ、首を傾げて。

 

 

 ふと、○○はゴルコンダとデカルコマニーの2人と交わした会話を思い出した。

 

 研究の進捗や成果、製作物を見せ合う雑談の最中で行われた、こぼれ話。

 

 

 

 

 

 

 

『ふむ。相変わらず、貴方が作り出すものは鮮烈で、強烈ですね。……加えて、貴方自身の神秘。その力強さは、今や筆舌に尽くし難いもの。対抗し得る者は、今のキヴォトスにおいてほとんど存在しないでしょう』

 

『そういうこった!』

 

『いやぁははは、そこまで言って下さるなんて光栄です』

 

 

 額縁に収まる、顔を背けた男。それを抱える男。その2人に突然向けられる賛美に、○○は面映ゆそうに頬をかいた。

 

 ところで、とゴルコンダはその空気を切り替えるように言葉を続けた。

 

 

『……この世界に張られたテクスチャの効力についてはご存知でしょうか?』

 

 

 その事について、○○は既に黒服から情報を得ていた。

 その記憶を掘り起こす僅かな思考を経て、答えた。

 

 

『あぁ……確か【学園】と【青春】のテクスチャが、キヴォトスに張られているとか』

 

『えぇ。そしてこのキヴォトスにおいて、【先生】は非常に強力なファクターです。それこそ、物語における主人公。【先生】の選択、意思、決定……それらは、世界の往く道を大きく変化させるものです』

 

 

 ゴルコンダを抱えるデカルコマニーがそういうこった! と快活に声を上げる中、静かに○○へと告げた。

 

 

『そして、先生の力が最大限に発揮されるのは、生徒を導き、共に脅威へと立ち向かう時です』

 

 

 続けられる穏やかな声は何処か慮るような色を帯びていた。

 

 

『力を発揮した先生と共に生徒が大きな障害に、壁に、脅威に、理不尽に立ち向かうその時こそ、立ち塞がるものはことごとく斃される』

 

『これはそういった仕組みであり、ルール。【学園】と【青春】の物語である限り、絶対的な理として作用するのです』

 

 

 興味深いその話に聴き入るようにしていた○○に、ゴルコンダは淡々と声を注ぐ。

 ゆめゆめ、忘れる事のないように。

 

 

『言葉を借りるならば……コレは、そういうジャンルなのです』

 

『そういうこったぁ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「なる、ほど……」

 

 

 呼び起こされた記憶に、今の状況を照らし合わせて、推察して、閃きが見える。

 

 腑に落ちるような確信が、○○の胸中を埋めた。

 飛来する弾丸の鋭さはちっとも煩わしくない。それ等は自分の説を補強してくれる一つのピースなのだから。

 

 

 

【青春】と【学園】のテクスチャが貼られたこのキヴォトス。

 

 数多の生徒が、学園都市と呼ばれるキヴォトスで息づいて、暮らしている。

 生徒以外の市民も含めて、星の数程の人々が共に過ごしている。

 

 諍いや争い、喧嘩が絶え間ない、トラブルの温床たるこの世界に、突然現れた先生。

 

 シャーレの顧問として、責任ある大人として。キヴォトスの事件を収め、生徒の迷いを受け止め、教え導く先生。

 

 混沌とした世界に現れた、一つ輝く煌星のような光。

 

 正しく、物語の主人公のようで。

 

 

 

 そんな先生という存在と、生徒という駒が揃い、状況が噛み合い、反則めいた手段が実行される事によって、発揮される事象。

 

 

『大人のカード』を使った先生が生徒を導き、生徒と共に困難に立ち向かい、立ち塞がる脅威を打ち倒すべく戦う、その時にこそ。

 

 先生と生徒は、十全たる力を得て、その脅威を打ち砕く。

【青春】と【学園】の世界を脅かすものを打破するのだ。

 

 

 それがキヴォトスにおける絶対的なルール。

 世界が先生達に味方する、圧倒的な理。

 眩く希望に溢れた奇跡の力。

 

 

 ○○は、そう理解した。

 

 

 

(言い表すなら……主人公補正、みたいな。そういうものが、強く作用してる……!)

 

 

 

 主人公補正。

 

 

 創作物上で、最近では何かと言及される事の多い存在。

 ご都合主義、チートとも揶揄されるような、一種の反則じみたモノ。

 

 

 盤面をひっくり返し、理想の展開に世界を動かしていく、正真正銘の無法。

 

 それが今、先生達と生徒に作用して、自身に牙を剥いている。そのように、○○は認識して……

 

 

 

 ○○は、途方も無い歓喜が湧いてくるのを、ひたすらに感じていた。

 

 ただキヴォトスで無為に過ごすだけではきっと知り得なかった、感じる事も体感する事も無かった事象、知覚、知識。

 

 それが、自身に降り掛かってきている。

 

 未知なる力が、世界から働きかけられている大きな力が、今正に自分の体に襲いかかってきている。

 

 神秘を知らない自分では知る事の無かった、見る事も無かった世界が、目の前に広がっている。

 

 

 たまらなく、嬉しい! 

 

 

 びりびりと脳髄が焦がれるような、重く染み付く歓喜に打ち震えながら、○○は思考を進めていく。

 

 

 世界が味方している先生達。

 そんな相手に打ち勝つとしたら、どうするべきか? 

 

 

(そうした状況をひっくり返すには……何が必要?)

 

 

 ○○はくたりと首を傾げる。

 

 考えられるとするならば。まず一つは、相手側の力を上回る力で押し返す。

 いわゆるゴリ押し。圧倒的パワーオブパワーによる抵抗。

 

 

(これは……多分、今は問題無い。こっちの攻撃は通じてるし、あっちの攻撃も致命的なダメージには至らないし)

 

 

 現に。

 ダメージレース的な視点で見れば、未だ○○の優勢には変わりなく。

 例え先生側が、○○を倒す事ではなく、○○を足止めする事へ比重を寄せていたとしても。

 

 今の○○が持つ底無しの神秘。それによる圧倒的な力は、世界という巨大な枠組みを味方に付け、後押しを受けていたとしても早々に御しきれない力の開きがあった。

 

 

 

「はい、そこ!」

 

 

 

 銃弾を浴びせられる最中、両手に保持した『光の双剣』で牽制の意味を込めた反撃。

 圧縮されたエネルギー塊が大気を焼きながら飛来し、瓦礫を弾き飛ばす。

 前線に出てきている、ショットガンを構えた生徒───『大人のカード』により喚び出された伊草ハルカが、○○の放つ反撃により場が乱され、他の生徒がカバー出来る範囲をほんの少し超えた辺り。

 ○○が急速に体を前進させ、迫る。

 

 

「っあ……!?」

 

 

 飛びかかった勢いのまま、神秘を篭めた右脚による蹴撃を繰り出し、ハルカの体をサッカーボールの如く弾き飛ばす。

 そうして浮いたハルカ目掛け、両手のトリガーを引き続け、追撃を浴びせかける。

 

 くぐもった悲鳴を上げながら水切り石のように幾度となく地面を跳ね飛び、やがてぐったりと体を横たえ……

 

 

「せん、せ……申し、訳……」

 

 

 虚ろな様子で謝罪を零しながら意識を落とし、掻き消えていくヘイローと共に、体が光の粒子となって消えていく。

 ヘイローが破壊された末の消滅ではない。死亡した、という訳ではない。

 

 

 その一部始終を見つめながら、○○は興味深げに瞠目する。

 

 

(体が消えた……でもヘイローが破壊された訳でもない、意識の消失反応を示しながら消えていった……)

 

 

 ちらり、と周囲の様子を見渡す。

 皆、苦々しい顔はすれど、酷く狼狽えている者は居ない。強烈な忌避的反応は無い。人一人が消えたにしては随分と薄いリアクション。

 普通人が消えたのならば、○○の惨状に悲しみを持つ相手ならば、もっと大きく慄いても良いものを。

 

 

(……あの現象は死んだ訳じゃなくて、ダメージの蓄積による撤退のようなもの。では喚び出された生徒はそっくりそのまま写し出されたコピー?)

 

 

 けれどもミメシスとは違う。

 ○○のミメシスは会話をしない。思考はできるが、それまでといえばそれまで。

 まるっきりコピーして召喚しているような『大人のカード』由来の生徒とは違う。

 

 

(……おもしろ〜)

 

 

 次々に引き起こされる、興味深い事象の渦中。つい思考に耽ってしまった○○が異変に気付く。

 

 

 自身の動きを阻害する為に降り注ぐ十字砲火の最中、エネルギーを収束させる、特有の甲高い音が耳に届く。自身が持つ『光の双剣』からのものではない。

 

 

 

「魔力充填、100パーセント……!」

 

 

 

 特徴的な、可愛らしい声色。

 天童アリス。

 視線を上げれば、彼女の持つレールガンたる『光の剣』が突き付けられ、今正に収束されたエネルギーを解き放たれようとしている所で。

 

 

「っ、光よ──────!!」

 

 

 撃ち出される極太レーザーの威力は、開発に携わったエンジニア部たる○○は勝手知ったるもの。

 加えて、先生と『大人のカード』、テクスチャ……○○という敵を阻むという状況によるバフがかかっている今、その威力は計り知れない。

 

 

 現にアリスの『光の剣』から放たれた極光が持つエネルギーは、初めてエンジニア部の部室を破壊したあの時よりも、最後に見たあの時よりも、ずっと眩くて、熱くて、凄まじい煌めきを帯びていて。

 当たったら痛いだろうな、と○○の脳裏に危機感を走らせる。

 

 

 故に、抵抗の為の一手を、撃ち破る為の一射を構える。

 

 

「じゃあ、こっち、も……!」

 

 

 リロードを終え、同様にエネルギーを充填させた『光の双剣』を右手に構え、トリガーを引き抜く。

 収束されたエネルギーが解き放たれ、『光の剣』にも劣らない、青白い神秘の光芒が迸る。

 

 放たれた極光の一撃同士が真っ向からぶつかり合い、エネルギーの余波を四方へ散らしながら眩い鍔迫り合いを繰り広げ……数秒間の拮抗の後、光の粒となって霧散した。

 

 

「もう、一発」

 

 

 エネルギーが尽きた右手の『光の双剣』を粒子に戻し、左手の『光の双剣』の銃口に青白い光が再び集光、収束。

 立て続けの第二射を放とうと構え直した直後に。

 

 

 

「────救護っっっ!!!」

 

「ぅ、わっ!?」

 

 

 雄叫びと共に降ってきた盾───トリニティ総合学園の印章が刻まれた盾が、地面へ陥没せんばかりの勢いで『光の双剣』を穿ち、射線を無理矢理下方向へと落とさせるだけに留まらず、保持していた『光の双剣』を指から取り落とさせた。

 

 発射を阻害された為に行き場を失ったエネルギーが暴発し、衝撃で地面を抉り巻き上げるも……力強い手が土煙を突き破り、○○の片腕を掴み取った。

 

 

「貴女を、救護いたしますっ!!」

 

「結構、ですっ!」

 

 

 とてつもない剣幕を纏って現れた救護騎士団長───蒼森ミネの気迫に一瞬気圧され、動きが止まったその隙。片手のみにも関わらず、膂力によって○○の爪先が浮く。

 

 

「っ! ぁ、は、すっご……!」

 

 

 視界が逆転し、凄まじい速度で地面に背中が叩き付けられる。

 ○○が感心を見せる最中、更なる追撃の一手、拘束の為に伸びてきたもう一方の腕を……肩先の触肢で絡め取り、そこを起点として上体を起き上がらせ。

 

 

「ッ、ぐ……!?」

 

 

 掴まれていない片腕を差し伸ばし、ミネのヘイローに触れ、軽く握り込む。

 たったそれだけの行為でも集中を掻き乱すには十分な刺激が走り、動きが劇的に鈍る。

 神秘を吸い取ってやれば、○○の手を掴む力が緩んだ。

 

 ミネの腕を振り払い、空となった手を深く握り込み、その拳に神秘を流し込み。

 

 

「お返し、です!」

 

 

 ミネの胴体へ拳を振り抜き、一閃。

 

 重い破砕音と共にミネの体がピンボールのように先生陣営の方へ放物線を描いて弾け飛び、派手に着弾。

 

 

「……へぇ」

 

 

 拳に残った軽い手応えを感じながら、○○はまたも感心を滲ませた。

 

 

(直前にヘイローは離したとはいえ、拳を当てる寸前に盾を割り込ませてくるとは……それに、後ろに飛んで威力を分散させられましたね)

 

 

 ○○の拳を防いだ代わりに盾は見る影もなく砕けてしまったものの。

 ヘイローに触れられ、神秘を吸われ、拳が当たる寸前まで硬直していたというのに、咄嗟の瞬発力と豪胆な意思によって威力を極力殺してきた相手を前に舌を巻いた。

 消滅もしておらず、意識も健在な様子。○○を力強く見つめる瞳に、揺らぎは無い。

 

 

(やっぱり強いな……さっきまでとは大違い。時間が経つ事に、私の力に対応してってるみたい)

 

 

 自身の力が高まるにつれて……○○という力が脅威的になるにつれて、対する先生側の力も増していくような、そんな状況。

 

 悠長に時間を与えれば与えるほど、自らを打ち倒すための、脅威を打破するための力を手に入れるのだと、そう思わせるほどに、生徒達の能力の向上は凄まじいもので。

 

 

(……私も、負けてられない!)

 

 

 再び、十字砲火が始まる。

 ○○の足を、行動を先んじて封じるための阻害。

 

 それを防ぐように、○○の触肢がうねり、幾重にも広がって、傘のように○○の体を覆い隠す。

 瞬間的に展開されたその動きを止める間もなかった。

 動きを阻害されなくなったその隙に、○○の手が動き出し……

 

 

「っ、くそっ、ダメだ、来るぞ!」

 

 

 ○○の手が、ドライバーの天面を深く押し込む。

 ギュゥン、と地響きのように重く低く唸る音。電子音と混じり合った、ギチギチと捻れ軋むような音が周囲の緊張を最大限に高める。

 

 

《OVER DESTROY》

 

 

 今の○○にとって、テクスチャを剥がす為の手っ取り早い行為。

 神秘の増幅により自身の体を破壊する程の出力が、噴き上がる。

 

 膨張された神秘が○○の体を青く輝かせ、ヘイローがぎちぎちと脈動を始める。

 

 光が収束する先は、○○の右脚。

 

 収まりきらぬ程の膨大なエネルギーが、きぃぃん、と耳障りなほど甲高い異音を立てて○○という小さな器の更に狭い箇所へと押し込まれていく。

 

 急速に高まり続けるエネルギーに、足元の細かな瓦礫が巻き上げられる。

 一歩、二歩。眩い程に神秘を蓄え始めた脚を踏み締め、放出する先を選ぼうと視界をくるりと見渡し。

 

 

 "───ヒフミ! "

 

「は、はいっ!」

 

 

 ───視界の端に、白い何かが降り立ち、○○がその気配を察知した瞬間。

 

 

 

「おぉっとぉ!?」

 

 

 ぐるん、と○○の体が抗えない力でもって生徒達とは逆向きに方向転換。

 視界に収まったのは、ずんぐりむっくりとしたフォルムの、奇妙な白い鳥。

 何処を見てるのかイマイチ分からない両目に、嘴からだらしなく垂れた舌がぷらぷらと揺れ動いている。

 

 奇抜なデザインな鳥型マスコット────『ペロロ』が、ぽよぽよと踊るように跳ねて……

 

(────あぁ、すっごい吹っ飛ばしたい気分になってくる!)

 

 

(注目が逸らせない……! 挑発されたように、惹き付けられてる! こういうのもあるのか、面白いなぁ!)

 

 

 視界一面に広がる、ペロロの踊り。

 そのでっぷりとした丸い土手っ腹に、○○が小さく飛び跳ね、右脚を突き出して────

 

 

 

 

 直撃と同時、閃光のように煌めく神秘が迸り、ゴゥ、と凄まじい暴風と衝撃波が周囲を襲い、吹き飛ばしていく。

 

 ペロロの白い体は木っ端微塵に弾け飛び、衝撃の余波が周囲の瓦礫すらも塵に変わってしまった。

 

 

 

「───ぁ、あー……あ、あ……」

 

 

 びりびりと、視界が白む。

 神秘の膨大な放出、その余波が全身に広がって、えも言えない痺れを引き出して、無意識のうちに声が漏れ出て、その感覚に浸る。

 

 

(強制的に注意を惹かせるデコイを置いて被害を逸らすとは……なかなかやってくれるじゃないですか……)

 

 

 空中で炸裂した衝撃で自身も吹き飛ばされ、まっさらとなった地面に仰向けに寝っ転がりながら感心を露わにする○○。

 

 だが体を起き上がらせようとするも上手くいかない。

 

 

 僅かに上体を起こしてみれば右脚は完全に跡形も無い。ペロロと衝突した神秘が超爆発的な威力を伴って脚の付け根から先を破壊し、その欠損部分からどくどくと神秘が垂れ流されている。

 

 衝突前に意識を逸らされたせいか、衝撃の余波が伝播したのか、左脚も膝下から先が何も無い。

 

 神秘が両脚から溢れ出ていく。

 痛みというよりも、神秘が強制的に昂った高揚とえもいえぬ興奮、全身と下半身から喪失していく神秘の嫌に冷え切った感覚が渾然一体となって○○の体を支配していて、言葉にはし難い状態に置かれて、よく分からなくなっていた。

 

 

「あ、れ」

 

 

 しまったな、と○○は独り言ちる。

 

 

(足が無いと、こんなにも動きにくいんだ……起き上がれない……)

 

 

 何かを支えにして動こうにも、○○自身が放った衝撃で周囲の瓦礫は軒並み吹き飛び、手の届く所にない。

 

 それなら触肢を使って体を起こそうか、とも考えたが、力が籠らず、上手く動かせない。残った四肢も、起き上がる為の行動に移れず、もぞもぞと地面の上でもがくのみ。

 

 体から放たれた神秘の暴走は、四肢を破損させるに留まらずに器の輪郭さえもヒビ割らせ、再生が終わるまで満足な身動きも封じてしまう。

 

 

 結果、全身から漏れ出した、血溜まりのように広がる神秘の中に埋もれ、必死に起き上がろうともがくだけの○○の姿が浮き彫りとなった。

 

 

 異形のヘイローもひび割れ、神秘を漏出させ、輪郭が覚束無い。その逆に、新たに現出した橙色のヘイローは意識を繋ぎ止めんとばかりに強固な色合いで形を保ち続けている。

 

 

 

 

 そんな体の惨状に反して、○○は内心で楽しくなってきていた。歓喜の思いが、時間と共に指数関数的に膨れ上がっていく。

 

 

 超高出力な攻撃と、その反動。

 銃器を介してではなく、自らの体の一部から直接放たれる、景色を破壊する程の圧倒的破壊力を持ったロマン技。

 そしてそんな無茶をしても、破損した体を再生してしまえる神秘の御業。

 

 

 それを体験して、リスクやデメリットを体感してなお、ドキドキが止まらない。

 創作物で描かれるような、正しく絵空事。それが自分の体を通して現実となったのだから。

 

 次に放つならば、両脚でやってみようか。はたまた違う部位からやってみようか。

 

 

 ぱちぱちと脳髄に染み付くような歓喜。沸き立つ悦びが精神を焼いて、虜にしてくるようで。

 

 ぐるぐる巡り回る思考が、○○のインスピレーションが刺激されっぱなしで、とめどない。

 正常な思考が、ドーパミンじみた脳内物質に侵されてトンでいく。

 

 

 そうして神秘がもたらすモノの余韻に浸っている内に、○○の身体の再生が行われていく。

 

 溶け落ちてしまいそうな異形のヘイローは逆再生のごとく形を取り戻し、輪郭は今一度はっきりと線を形作る。

 

 再生が進み、両腕や触肢に段々と力が入るようになってきた事を自覚しながら、思考が巡る。

 

 

(……再生が腕に比べて遅い……というか、再生力がさっきより落ちてる……? 再生のためのエネルギーが減ってきたのか、破損箇所が多いからか……それともこれも『大人のカード』にまつわるテクスチャの効力……?)

 

 

 妙な感覚が胸の中を這い回るようで、どうにも釈然としない。

 世界全体が相手の味方に回っているというのはつまり、世界全体が敵であるということ。

 能力にも下方修正を与えられているのだろうか、それとも単に自分の行動が要因で出力が落ちているのか。

 

 

 とにもかくにも、まずは身体を起こさなくては。

 ぐぐ、と少しずつ上体を引き起こし、じたばたともがいて、触肢も使って支えにしようと模索している最中で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───もういい!!」

 

 

 

 

 

 絹を裂くような絶叫が響き渡る。

 

 

 

「…………もう、いいだろう……?」

 

 

 

 悲痛、悲惨の感情を煮詰めた声が、○○の耳を打つ。

 

 

「……ウタ、ハ、先輩?」

 

 

 どんなに悲しいという感情を詰め込めば、このような声が出せるのか。

 何故、そのような声で、私に言葉を向けてくるのか。

 ○○は純粋に不思議に思って、ウタハの声がする方へ顔を向ける。

 

 ○○が巻き上げた土煙がはけて、次第に良く見えるようになってくる。

 先生と、生徒。皆一様に、強張って、血の気を引かせた顔をしている。

 痛々しいものを見るような、無惨極まる事故現場を見るような。

 

 先生の顔はより深刻で、今にも倒れてしまいそうな程に感じられて、○○は首を傾げようとして……皆が浮かべる表情の理由に思い当たる。

 

 

(再生する所、皆さん見てないですもんね〜……不可逆な傷と思われてますし、大丈夫だとアピールしないと……)

 

 

 血溜まりのように広がる液状の神秘の中に沈み込みながら、何とか立ち上がろうともがく様は何とも痛々しく映った事だろう。

 

 キヴォトスに住む住人は、皆頑丈であり、怪我の治りも早い。

 一部の者はベコベコに潰れた空き缶のようにされても短期間で完治はできるし、電車に跳ね飛ばされたとて重傷までに至らない者もしばしば。

 

 

 けれど、喪失には抗えない。

 

 

 元々無いもの。無くしてしまったものを取り戻す事は、叶わない。

 

 無くした四肢を生やせる事など、ありえはしない。

 

 

 

 例外を除いて。

 

 

 

『もう、もう止めてくれ○○……これ以上は……』

 

 

 しゃくり上げる泣き声がドローンから聞こえてくる。その声の後ろで、同音異字の言葉で○○に訴えかけるのは、ウタハ以外の全員。後方支援に徹している生徒。今ばかりはハッキングの手を止め、呼びかけている。

 

 

 他の生徒も同じような心境で○○を見るしかできない。

 救護するべくいち早く飛び出して駆け付けようとする生徒もいる。

 

 片腕ならばともかく、両脚を失ったとなれば継戦どころではない。満足に動ける様子でも無いために、戦闘不能になったと見なす方が妥当だろう。

 

 極めて沈痛な声色で、震えるようなか細い声で、ヒマリが語りかける。

 

 

『……もう、終わりです、○○。そのまま投降を───』

 

「……大、丈、夫、です、よ」

 

『っ何を! もう満足に話す事もままならない、その状態で……! お願いです、もう動かないで……』

 

 

 

「いい、え」

 

 

 

 今の私は、単なる生徒ではない。

 

 常識を凌駕して、更なる衝撃を与えよう。

 

 そう決意した○○は口角を吊り上げて、ちょうどよく動かせるようになってきた触肢を、高らかにたなびかせた。

 

 それから気合いを篭めて、喉から声を吐き出す。

 

 

 

 

「復────」

 

 

 

 

 触肢が地面を叩き、勢い良く上体を跳ね上げると共に垂れ落ちる神秘が形を成して行き。

 

 

 

 

「────活!」

 

 

 

 

 勢い良く猛り唸る蒸気機関の如く、神秘の光を溢れさせながら地を踏み締め、力強く着地する。

 

 倒れ込むこともなく、自身の神秘によって再生した脚をゆらゆらと揺らして動かして、何の異常も無いのだと示しながらご機嫌に周囲へ笑いかける。

 

 

「あ、はは、は! どうで、しょう、この力!」

 

 

 一歩、一歩、確かに動かして、健在を示す。

 湧き上がる途方もない高揚に促されるまま、声を吐き出して、笑う。

 

 

 

「まだ、まだ、これから───!」

 

 

 

ハッキングが完了するまで、残り247秒。

 

 

 







生塩ノア:通信ドローンの映像越しから○○が全身のテクスチャ剥がしたり欠損部位再生しながら戦う様子を記憶に焼き付ける羽目になっている。
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