神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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SUCCESS/DEFEAT

 

 

 

「まだ、まだ、これから───!」

 

 

 

 ○○が掌の中に光を生み出し、小さな形となったそれを握り込む。現れたのは、銀鏡イオリの神秘を内包した神名文字。

 

 テクスチャの大部分が剥がれ、生徒から離れた変化を見せつつある○○の体は、自身が体内に取り込んだ神秘を自在に喚び出す事が可能になっていた。

 

 腰横に据え付けられたスロット部分。2つ並んで設置されたそこに喚び出した神名文字を嵌め込み、押し込む。

 

 

《『クラックショット』/EXTEND》

 

 

 "っ! ユウカ、アスナ、ホシノ! "

 

 

 いち早く立ち直った先生が、檄を飛ばして生徒の意識を引き戻す。

 

 ○○は手の内に出現したスナイパーライフルを掴み取った直後、生徒へ向けて無造作に3度引き金を引き、衝撃波を伴った弾丸が飛び交う。

 

 

 第一射が前列に居たユウカのシールドを粉砕し、衝撃で弾き飛ばす。

 第二射はその場から駆け出したアスナが奇跡的な挙動で回避する。

 第三射が狙った生徒に直撃する寸前、割り込んだホシノの盾に防がれる。

 

 三者三様に、直撃を免れた。

 

 反撃が来ない内に、もう一度。

 

 

《『リトルマシンガンV』/EXTEND》

《『プロフェッサーK』/EXTEND》

 

 

 二梃のミニガンを両手に保持したまま、放射状に乱れ撃つ。

 

 すぐさまに先生の檄が飛ぶ。

 羽根を有した生徒や瞬発力に優れる生徒が上方向へ跳ねて躱される。

 盾や遮蔽物を利用して、逸らされ、いなされる。

 射程範囲ギリギリに居た生徒が素早く移動することで避けられる。

 

 いくらか弾丸が当たった生徒も居たが、被害は軽微といった具合に抑えられる。

 

 

 

(うーん、これも結構対応されてきてるなぁ……)

 

 

 

 口の中で転がすように、ふむりと唸る。

 

 生徒の神秘と、そこに秘められた記憶から武器を生成する武装システム。

 生徒の力を扱うこの能力は、同じく生徒を指揮し、生徒の力を十全に引き出して扱う先生相手では通用しにくいものか、と。

 

 

 先生の指揮は見事の一言に尽きる。

『シッテムの箱』を用いた戦況把握、戦線指揮の圧倒的な優位な視点等があれど、元々そうした方面が向いた人なのだろう、と○○は思う。

 

 指示は的確、対応力も抜群。性格と個性がバラバラな生徒達の癖を把握してまとめあげ、手足のように自在に操作するかの如き手腕の凄まじさには舌を巻く。

 

 今だって、○○がスロット部を操作して、銃が喚び出され、発砲するまでの極短いインターバルに差し込むように飛んだ先生の指揮が、最低限のダメージで済むような動きを可能にしたのだから。

 

 極小の時間をかけて、自身の手札から最適に近い択を選び取り、対応するその能力。

 ことこうした戦闘において、とても厄介な存在。

 それが先生だ。○○は認識を改めた。

 

 

(……じゃあ、どうする?)

 

 

 生徒の力を模しただけの力が通用しにくいならば。

 対応力で遥か上を取られる、ならば。

 初見の技をぶつけてやるのみ。

 

 

 初見殺し上等なれば。

 

 

(試作段階ではあるけど、組み込んでみたコレでも使ってみようかな)

 

 

 うん、そうしよう。

 ○○が頷くや否や、手の中に再度光が集約。

 

 喚び出した神名文字は鬼方カヨコと猫塚ヒビキの2つ。

 

 

《Set》

 

 

 2つの神名文字を1つのスロット部分に無理矢理嵌め込み、押し込んだ。

 

 ドライバーへの過負荷と共に青い光を伴った火花が迸り、神名文字から増幅と抽出を行われた神秘が流動し、抽出された神秘の記憶と力がドライバーを通して○○の体内へと流れ込み、再び片手の内に集中し、銃身らしい形を象った。

 

 

 

《『ファンシーライト』/『デモンズロア』》

《Chimera》

 

 

 

 電子音声と共に○○の手の内に握り込まれたのは、異形の銃。

 

 

 デモンズロアと銘された銃身が、丸ごと迫撃砲に無理矢理挿げ替えられ、接合されたような、アンバランスな形。

 

 最早発砲すら怪しいような、不細工な改造銃らしきそれを○○は浅く掲げて、暴発も恐れずに躊躇いなくトリガーに指をかけた。

 

 

 "っ、まさか──"

 

 

 発砲。

 耳を劈き、ビリビリと大気を震わせる爆音と同時に、その音を聴いた者の背筋が凍り、思考が真っ白に染まるような、避けようのない怖気に見舞われた。

 

 

 音速で飛来し、蔓延する『恐怖』。

 

 

「あ゛っ……!?!」

 

 

 防御のため、迎撃のため、備えていた体がガチリと固まって、抗えない『恐怖』に包まれる。

 

 目に見えない感情による拘束を、何とか振り切り、体の制御を取り戻した生徒も居たが、すぐに無意味となった。

 

 

 

 飛来音を鳴らし、尾を引きながら降下してくる、第2の『恐怖』。

 

 

 迫撃砲として着弾した瞬間、複数の弾頭に封じ込められていた『恐怖』が、第2波として襲い掛かる。

 

 直撃せずとも爆風に煽られるように幾度となく広がった『恐怖』に心身を侵され、重く絡め取られた生徒達は、まともな身動きが取れなくなってしまう。

 

 

「っ、と……やっぱり、改善点、アリ、ですね」

 

 

 ○○が掲げた異形の銃が粒子に還る事なく爆発し、粉微塵に弾け飛ぶ。

 元より銃として成立している事こそが怪しい物。

 

 神秘に篭められた武器の記憶を混ぜ込んで顕現させる機能として開発したが……如何せん、思い付きで組み込んだ上、技術の洗練が足りず、効果を発揮し切った時点で爆裂すると安全性も低い。改善点は大いにある。

 

 ……しかし、現時点で欲しい特性は引き出せている。

 

 もう一度試して、データを取ってみようか。と、○○の手から新たに神名文字が生み出される。

 

 

 

《『メグマパワー!』/『レッドドラゴン』》

《Chimera》

 

 

 

 再び火花じみた神秘が迸り、光が混ざり合う。

 喚び出されるのは赤いアサルトライフルのマガジンに、火炎放射器のタンクが無理矢理に捩じ込まれ、接合されたような、歪な造形の銃。

 

 年頃前の無邪気で無垢な子供の工作のような拙い改造銃。

 

 

 新たなおもちゃを買い与えられた子供のように無邪気に掴み取り、銃口を差し向ける。

 

 

「これは、どうかなっ、と!」

 

 

 放たれるは炎の弾丸。

 単に炎を纏った弾丸ではなく、弾丸の形に形成された無数の炎が、周囲に区別なくばら撒かれ、生徒達を襲う。

 

 直撃し、肌と衣服を焼き焦がし、圧縮された炎の高熱と濃縮された神秘による衝撃を、『恐怖』によって動けない体を一方的に打ちのめしていく。

 

 また1人、2人、先生の喚び出した生徒が光になって消えていく。

 

 

 

「さて、お次、は……!」

 

 

 接合されたタンク内部が空になった途端、耐え切れなくなった銃が爆散し、跡形と無くなるものの、それに拘う事なく○○が次に混ぜる神名文字を選定している最中で。

 

 

 雄叫びを上げながら、小さな影が突貫する。

 

 

「ぅ、ああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

(ホシノさ……素手!?)

 

 

 飛びかかってくるホシノが猛烈な勢いで突撃、一瞬で○○との距離を詰めてくる。

 

 浴びせられた『恐怖』の拘束を強靭な意思で無理矢理振り切り、その小柄な身体に極限まで漲らせた神秘を纏い、○○へ迫り───

 

 ショットガンと盾を背中に収め、無手となった両手を突き出した先は、○○の両手。

 掌を重ね、指を絡め取り、組み合うように互いの両手を塞ぎ、○○の動きを封じた。

 

 

「む……!」

 

 

 そのまま重心を地面の方へと預けるように傾け、縫い止められる。

 これが意外にもすぐさま振り払えないパワーでもって行われていて、思わず感嘆を示してしまう。

 

 

「捕まえた……!!」

 

 

 勝ち誇るような口調と比べ、ホシノの顔は鬼気迫るもの。

 歯を食いしばり、華奢な体に宿る神秘を総動員させながら、○○をその場に食い止めんとする。

 

 

「やっぱり、いい、ですね、ホシノさん……!」

 

 

 喜色満面とばかりに○○はホシノを見やる。

 散々打ちのめされ、攻撃を喰らい、心身共に追い詰められたはずのホシノは、かつてないほどの神秘の出力でもって今の○○に食らい付いてくる。

 

 

 思えば、こうしてホシノと戦うというのは初めてだ。データの取り甲斐があるというもの。

 もっと反応を見なくては。何をすれば、何に対してどんな反応を示すのか、黒服をしてキヴォトス最高の神秘と言わしめる生徒の何もかもを詳らかにして、活かさないと。

 

 

 肩先の触肢は活発に蠢いて、両手を塞ぐホシノの方へと向かっていく。

 桃色のヘイローを、華奢な体を掴み取って、まずは引き剥がそうと差し伸ばされて───

 

 

 

 

 ホシノに続いて、○○の元へと飛び掛かる影が2つ。

 

 ネルとヒナの2人が、駆け出して、迫り来る。

 

 

「お、っとぉ!?」

 

 

 

 ホシノと同様に銃撃を浴びせる訳でもなく、差し伸ばした両腕で、○○の触肢を抑えにかかる。

 全身で、根元からまとめて束ねて抑え付けるようにして抱き着き、締め上げる。

 

 そうして地面に引き付け、押し付けるように、3人分の力が○○を拘束する。

 

 

(3人がかりとはいえ、今の私を抑え込むなんて……)

 

 

 跳ね除けようとするも、僅かに3人の方が上回っている為か、ギリギリと地面の方へ向けて抑え付けられ続ける。

 

 これには○○も困った。

 両手はがっしりと掌を重ねられ、指を絡ませられてしまっていて。一対の触肢もそれぞれを束ねるように拘束されている。先端に程近い箇所を暴れさせ、ネルとヒナの体を掴んで押し退けようとするものの、上手くいかない。

 

 

 進退窮まった膠着状態と陥った中で、○○をまっすぐに見つめるホシノが、鈍色に光る意思を携えた瞳で、○○を見つめるホシノが、口を開いた。

 

 

「ユメ先輩は、泣いてたんだ」

 

「何、を?」

 

 

 唐突に零れ落ちたホシノの言葉に、○○は返す言葉で聞き返した。何故か、何が理由で? という意味ではなく、あまりに唐突な声掛けに、反射的に応えてしまった。

 

 

「君に、○○ちゃんに、居なくなって欲しくない、って……!」

 

 

 ホシノがそう零す理由を、○○は言われずとももう分かっていた。先生と先輩方に涙ながらに訴えられた理由とそう変わりないのだと。

 

 ○○に止まって欲しいから。自身に死の危険を及ぼす程の行為など止めて欲しいから。

 

 

「だから、だから…………!」

 

 

 そして何より。

 

 

「大切に思ってくれてる人が居るのに、居なくなっちゃうのは、ダメだよ……」

 

 

 ぎゅぅ、と。○○の手を抑え込むホシノが、息も絶え絶えに絞り出して、項垂れた。

 

 

 沈痛な顔で懇願するホシノに、必死な顔でこちらを睨め付けるネルに、真剣な顔でこちらを見遣るヒナに囲まれ、○○は嘆息したように力を一瞬抜いた。

 

 

 

 分かっている。

 ○○は理解している。

 

 この実験に本格的に手を付けて、テクスチャを大いに剥がして、先程の皆の懇願を受けた為に、良く理解している。

 

 

 周囲の皆は、少なくとも、ここに来た人達は、○○の危険な行為を止めて欲しい。

 

 多かれ少なかれ、生まれ持った善性でもって、○○を引き止めたいと訴えかけているのだと。

 

 

 ○○は危険を承知の上。だけれど。

 それでも周りは納得をする事は無い。

 

 

 ○○はそれを知っている、分かっている。

 

 

 けれど、衝動は止めどなく、溢れてしまって。

 

 

 ───だって、こんなに綺麗で素敵ものを見せられたら、仕方がないでしょ? 

 

 

 

「……あぁ……」

 

 

 ホシノの感情に呼応するように神秘が高まり、抑え込む手の力が強くなっていく。

 

 その神秘の高まりに宿る感情が、瞳に宿る光が、眩くて。○○は瞳を細めて声を漏らした。

 

 

 今ホシノが抱いている思いは、決してポジティブなものではなかった。

 

 悲壮、後悔、悔恨。深く募った負の感情と、それ等を飲み下した末の強い決意。

 

 これ以上、大切に想う人を悲しませるような事にはさせない。そんな、硬く強い決意の眼差しが、ホシノの瞳に宿っていて。

 

 その思いを原動力として、ホシノの神秘がこれ以上に無い程の向上を見せている。

 

 

(……ああ、なんて、綺麗……)

 

 

 ○○は、ホシノの言葉の意味を咀嚼して、理解して、認識して、言葉を返すよりも先に。神秘が放つ純然たる美しさに見惚れて、見蕩れていた。

 

 

 宿した神秘が絞り出す、この煌めきの、輝きの何と素晴らしい事か。

 そこから引き出される神秘の力の、底知れなさといったら、もう堪らなくて。

 

 

 ホシノだけではない。

 ヒナも、ネルも。戦ってくれている他の生徒達も。皆、素晴らしい神秘を宿していて、輝きを余す事なく見せてくれた。

 沢山の、色とりどりの眩い煌めきが、○○の脳裏に焼き付いている。

 そのどれもが、とてもとても愛おしい、唯一無二。

 

 

 

 湧き上がる衝動は、焼け焦げた理性を振り切って、膨大な歓喜の火種として焚べられ

 て、膨れ上がるだけとなった。

 

 

「ッ、ぁ、は、はは、ぁははははっ!!」

 

 

 歓喜に塗れた哄笑。

 強い感情の動きに連動するように神秘が沸き立って、○○の膂力が増していく。

 

 3対1で釣り合っていた拘束の拮抗が、少しずつ破れ始める。

 

 

「っ、くそ、大人しく、してろぉ!」

 

「いや、です、ねぇ!!」

 

 

 声を張り上げながら、底上げされた膂力でもって抑えられた体を無理矢理に捩り、大きく振り払う。

 しがみついていた腕が、掴んでいた手が、弾き飛ばされる。

 

 そうして自由になった○○の手が、ドライバーの天面へと向かう。

 

 再び、あの破壊的威力を引き起こす攻撃を、自らの体を破壊する程の反動を持つ自爆技を、繰り出そうとしている。

 

 

「っ、押させるな!」

 

 

 ネルの叫び声がこだまする。

 弾かれた3人の手が○○を再び抑え込もうと伸ばされるが、僅かに届かず。

 指先が、押し込まれる。

 

 

《OVER DESTROY》

 

 

 不吉な音の響き、重低音を奏でる神秘の駆動が行われ、○○の体が、ヘイローが、不気味な程に光り輝いて、唸る。

 増幅された神秘が行き着く先は、○○の触肢の群れ。

 

 肩先から無数に生え伸びた人の手が、ケーブルが、皮膜が、羽根が、鋭く地面へと突き刺さり、神秘を注ぎ込む。

 

 

「───っ!?」

 

 

 

 ○○は考えた。

 

 キヴォトスという大規模なテクスチャ自体が相手に有利な状況を敷いている中で。その優位を崩すにはどうした手段を取るべきか。

 

 

 

 1つは先程試した通り、相手の力を上回る程の出力を維持し続けること。

 

 

 そしてもう1つ考えるとするならば、その優位を掻き消す為にテクスチャ自体を上書きするか、破壊などの干渉を行うこと。

 

 

 絵が描かれた大きなキャンバスに、上から新たな絵の具を塗り広げるか、絵が描かれたキャンバスごと破り、穴を開ける。そのようなこと。

 

 

 

 テクスチャに干渉するには、どうすべきか。○○は知っている。散々試して、経験している。

 

 だから、今回も同じこと。

 

 

 

「壊、れろ……!!」

 

 

 

 テクスチャに対して、膨大な量の神秘を、一気に流し込む。

 

 

 脈動するように、ポンプのように、触肢が蠢き、供給され続ける神秘を余さず注ぎ込む。

 

 地表を通し流し込まれた膨大な量のエネルギーが渦巻き、行き場を失い、暴走する。

 地を膨れ、捲り上げ、地響きと共に光となって生徒達の足元から溢れ出し───

 

 

 火口より湧き上がるマグマの如く噴出した神秘が幾条の閃光となって突き出し、生徒の体を貫き、飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、ふ、ふぅ、ふぅ……っ」

 

 

 神秘の熱量が大気を焦がし、独特の匂いが辺りに漂う。

 

 ○○と対面していた生徒は、一人残らず地に伏して、力無く横たわる。正しく死屍累々の状況。先生が喚び出した生徒達も、次々に光の粒子となってその姿を解けさせていく。

 その場で立っているのは、○○だけ。

 

 その○○自身も、溶け落ちる体の輪郭と、神秘の放出に耐え切れなかった触肢から走る痛みと反動、虚脱感に見舞われ、しばらくは満足に動けそうもない。

 

 けれども○○は、そんな小事にかかずらっている暇はなかった。

 

 

 

 

 

 

 ○○が視線を落とす先。自身の足元。

 

 神秘の膨張、爆発により捲れ上がった道路、地面。

 その内の、極小の点。

 

 

 

 

 ピンポン玉程の大きさの、異質な『黒色』が、覗いている。

 

 

 

 

 

 土でも、瓦礫でも、道路の破片でも無い。

 

 その一点だけが、明らかに歪な異物。ミレニアム廃墟地域の何処にも馴染まない、キヴォトスの何処にあっても決して自然に感じる事のできない、穴が開いている。

 

 

 見間違いでもない。

 幻覚でもない。

 強い思い込みが引き起こす幻視でもない。

 

 

 触れて、見て、感じられる。

 キヴォトスというテクスチャに空いた穴は、確かにそこに有った。

 

 

 

 

 

 

 

 変化が起きる。

 

 穴の縁から幾何学的で不可思議なノイズが走り、やがて穴自体を飲み込む程に拡がり、塞いで。

 

 穴が見えなくなる。

 

 押し寄せる波に流される砂のようになだらかに、呆気なく。

 そうしてテクスチャの解れが正され、直され、ただの地面に戻っていった。

 

 

 穴が見え、何事も無かったかのように閉じるまで、瞬き数瞬で終わる程の僅かな時間だった。

 ほんの少し見逃してしまえば、変化など無かったように思える瞬間。

 

 ○○は、それを確かに見届けて、満足そうに笑った。

 

 

(やっぱりこの方法でテクスチャを割るのが手っ取り早い……!)

 

 

 アプローチはこの方法で良い。過剰な神秘を注入し、器が耐え切れなくなる程に過負荷を与える工程は、テクスチャを破り、破壊するに足るのだ。

 

 テクスチャの破れ、解れを自ら再生するという初見の現象も確認できた。

 これは空けた穴が極小であるが為か、それともキヴォトス自体がテクスチャの乱れを正す機能を有しているのか。

 

 

(なら、今の私の出力で、今此処のテクスチャを壊し切るには至らないか……もっと出力が要る。より高密度で……いや、私のコレよりも膨大な神秘を凝縮した一撃でなければ、テクスチャは破壊できないか……?)

 

 

 肩先の触肢……根元から炭化したようにボロボロに成り果て、だらりと下がるのみのそれらに目を向ける。

 

 無数の触肢によって神秘を注ぎ込んだは良いが、想定していたよりかは威力が拡散してしまったように思えた。

 

 

 ならば、より超高密度で、より超々高出力で、より膨大なエネルギーを、一点に集約させてテクスチャに撃ち込む。

 

 それだ、今思い付く限りだとそれしかない。

 

 

 

 

 

 

 ───あぁ、そういえば。

 

 ちょうど良いものを、造っていたじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

「先生」

 

 

 くたり、と重たげに体を持ち上げた○○が、先生を見据えて微笑む。

 何時になく硬い顔で、悲痛で、悲壮な色をした表情を解してあげたくて。

 

 繰り返される神秘の膨張による興奮と高揚。○○の思考が、脳内麻薬に侵されたようにどくどくと熱を帯び続けて、止まらない。

 

 

「今の、先生達は……キヴォトスの、テクスチャに、よって、極めて、強力な、力を得て、います」

 

 

 ぼそり、ぼそり。上手く紡げない言葉がもどかしくて焦れったい。その気持ちを抑えながら、語りかける。

 

 

「そして、テクスチャに、干渉する、術があるのも、ご覧の、通り」

 

 

 自らの体へ注目させるように、大きく手を広げた。

 先生は緊張の面持ちで、○○の言葉を待った。

 

 

「キヴォトスの、テクスチャを、剥がす為に、より大きく、剥がす為に……アレを、使います」

 

 

「今、この場に敷かれた、テクスチャに、向けて、膨大なエネルギー、を、撃ち込み、ます!」

 

 

 先生が、ドローン越しに見守っていた生徒達が言葉を失う。

 

 ○○が指し示したのは、背後に悠然と聳え立つ、超巨大兵器。先生と生徒達がこの場に赴いた理由の一つ。

 ○○が『テラー・デストロイ』と銘打った、白金の砲塔を携えた弩級のエネルギー兵器。

 

 

 以前にその砲塔から放たれた超級のエネルギー放出。観測し、解析したヒマリから告げられたその威力は、ミレニアム市街地の約七割を焦土に帰すとされた。

 

 

 それを、地表に向けて、この場に向けて撃ち込む。

 

 ○○は確かにそう言った。

 

 ○○は確かに、それを実行しようとしている。

 

 

「その時、テクスチャ、が、剥がれるのか……どの程度、剥がれるのか……その、影響は、どのような、ものか……」

 

 

 ○○は無論、あの質量を誇るエネルギーがどういった結果を招くかなど、考慮している。

 

 きっと廃墟地帯が地図から消える事になるやもしれない。

 キヴォトスに、甚大な被害が出るかもしれない。

 

 

 けれど、けれど。

 

 

 

「試して、みましょう……!」

 

 

 

 理性の蕩けた声で、○○は囁いた。

 

 

 無論、平時の○○では口にしない発想だった。

 

 しかし、無数の神秘を取り込み、幾度とない膨大な神秘の増幅と放出、再生によって心身共々に絶大な負荷に曝された○○は。

 

 理性を失った獣のように、自身の欲求に、探求心に、ロマンを追い求める欲望を剥き出しにした、人の理を介さない何かとなっていた。

 

 

 

『……そこまでです、○○。……もう、終わりにしましょう』

 

 

 誰も二の句を告げない中で、凛とした声が響く。

 

 

 "っ、ヒマリ……。"

 

『えぇ、先生。準備は整いました』

 

 

 "……待って、ヒマリ。……やるのなら、私が……。"

 

 

『いいえ。このハッキングは、私が立案し、主導したもの。……これらにまつわる責任の全ては、私の掌中にあるのです』

 

 

 ○○はここで改めて、今までの戦闘行動がドライバーへハッキングする為の時間稼ぎと認識した。

 ○○の目の前で行われた作戦会議でも、どのような手練手管で対抗してくるのかを敢えて知らないようにと、耳を塞いで待っていた為に。

 けれども、動揺は無く、やってみせて欲しい、とばかりに動向を見守った。

 

 

(……ハッキング対策は当然仕込んである。アレくらいの強固さなら、どうなるか……)

 

 

 ミレニアムに属するならば、機器へのハッキング、クラッキング対策は入念にするべきである事は周知の事実。

 作成した機器が悪意のある攻撃に晒され、悪用をされてはいけないことであるし……何より、自爆機能を仕込む2割程は、この懸念を見越してのものである。

 

 当然、『ミスティック・ドライバー』にも対策は仕込んでいる。

 

 

 預言者達を解析している中で見つけた、強固なプロテクトシステム。

 預言者のコアパーツ内部に付随していたそのシステムをドライバーに組み込み、○○自身のセキュリティで覆った、二重のハッキング・クラッキング対策。

 

 

(あのプロテクトにハッキングが完全に通ったとしても、サブシステムが起動する……ドライバーが完全な機能不全に陥る事は無い……!)

 

 

 だからこそ、無理にこのハッキングを止めずとも良いのだ。

 テクスチャの破壊は、その後に実行すれば……

 

 

 

『───ごめんなさい、○○。このような手しか思い当たらなかった私を、どうか恨んで下さい』

 

 

 

 

 

 

 

《自爆システム/起動》

 

 

 

 

 ピー、と甲高い音。

 

 システム中枢に組み込まれた電子ロックが解除され、○○のドライバーが音から一瞬遅れて、内部から爆発を引き起こした。

 

 

「───あ?」

 

 

 轟音と爆炎が巻き上がる。

 

 ロマンを掲げるエンジニア部として、凡その開発品には組み込んである自爆機能。

 自爆による不利益も、合理も知った事ではなく、ただただ、ロマンを追い求めるが故に組み込まれ、搭載されるその機能。

 ただ爆発するだけでは面白味が無い、とばかりに、派手に、ド派手に、何もかもを吹き飛ばす程に景気良く、爆散する。

 それこそ、開発品諸共全てを粉微塵にするように、花火のような、ある種芸術的な爆散を。

 

 

 そうして腹部から迸る盛大な爆発に、○○の体が包み込まれた。

 

 

 

(あのプロテクトがこんな簡単に突破され……いや、そもそも働いてない……!? ぁ、くそ、ダメだ、体が……!)

 

 

 

『ハンドレッド』を取り込む事によるテクスチャの急激な剥離を介して、○○と半ば融合するように、腰へ吸着していたドライバー。

 ○○の神秘を増幅させる為の生命線が、ドライバーが破壊され、その繋がりが強制的に引き剥がされる。

 

 自爆により、全機能が強制停止し、制御を手放される。○○の意思や正式な承認を伴ったものではない、万が一機器に破損が起きた際にメイン機能を最低限リブートする機構などもまとめて吹き飛ばす、致命的なまでの爆発は、○○の膨れ上がった神秘を統制できず、みるみる内に霧散させていく。

 

 装着者たる○○に、全神経を根こそぎ引き千切るような苦痛と、体の熱を全て拭い去るような底知れない虚脱感を与えながら、神秘が萎んでいく。

 

 

 齢十数年の人生の中、今までに味わったことの無い痛苦。喪失の感覚。

 その果てに何があるのか、直感的に感じ取れた。

 

 

(あぁ、これが、死にそう、って感覚……?)

 

 

 ───いや、この喪失感、虚脱感は……前にも、あったっけ。

 

 

 脳裏に高速で掠めていく人生の映像の流れで、該当する記憶が呼び起こされる。

 

 

 以前、アビドス砂漠へ赴いた時。

 

 まだ黒服とも、ゲマトリアとも邂逅をしていなかった頃。神秘が何たるかを知るために、ヘイローを持つ巨大機械蛇の噂を聞き付けて、半ばやけっぱちになりながら砂漠の調査をした時。

 

 何も見つからず、何も分からず、気力も体力も尽きて、膨大な砂地の中で倒れ込んで。自分の何もかもが溶けて無くなってしまいそうな感覚を味わって。

 

 ───その時に、ホシノさんに助けてもらったんだっけ。

 

 

 

 

 視界が眩む。前後左右の知覚が霞んで、自分が地に足を付けているのか、自分が何を見ているのか……○○の思考が、薄れていく。

 

 そうして意識が飛んでいきそうな時間が、ゆっくりと引き伸ばされていくような感覚に陥った。

 

 1秒を極限まで圧縮したかのように、視界に映る光景がスローモーションで流れていく。

 けれど、体から抜け落ちていく熱や、手足の感覚が、やけにくっきりと、感じ取れていく。

 思考だけが世界から取り残されたような、奇妙な状態に陥っていた。

 

 

(────うぅん、プロテクトはきちんとかけてたはず、なんだけどな……やっぱり、私が作ったセキュリティなら、破られるのは容易いか……)

 

 

 この瞬間のみ、思考がやけに透き通る感覚。

 それを機に、○○は色々と思考を巡らせてみる。眠る前の記憶の精査のようなものとして、気軽に構えた。

 

 

(体は……ダメだ、やっぱり全然動く気がしない。どんなにダメージを食らっても、何ともなかったのに……)

 

(……ドライバーを強制的に外されるとこうなる、か……検証、足りなかったな……調整しとかなきゃ……)

 

 

 思考だけが先行して、体が全く動かせないもどかしさ。むずむずとして煩悶とする思いだけが募っているが、今更どうしようもない。大人しく思考にリソースを回す事とした。

 

 

(ミメシスの私達は、ちゃんとデータ取ってくれてたかな……? ……結構バカスカ範囲攻撃したから、巻き込まれてなきゃいいけど……)

 

 

 ユメと共に先行させたものと合わせた複数体をデータ取りのために後方にミメシスを控えさせたが、○○はやけに心配になってきた。

 自身に比べれば脆いが、流石に1人くらいは生き残っていてくれると良いが。

 

 

(……今回のデータで……きっと、もっと面白いものが、ロマンに溢れたものが、作れる……戦ってる最中にも、思い付いたのがたくさんあるし)

 

(……部の皆も、私があっと驚くようなものを作ってるって言ってたっけ……お披露目会、しなくちゃ)

 

 

 今こうしている間にも、脳裏で新たなインスピレーションが湧き出して、意欲が溢れてくるようで。幸せな心地が、滲み出てくる。

 

 

(……そうだ、せっかくリオさんに、ヒマリさんも居るんだから、2人にもデータを共有しないと……あの2人なら、きっと、凄いものを作ってくれそう……)

 

 

 ○○がより期待を寄せたのはリオである。

 アバンギャルド君に、エリドゥ。そして今回見せてくれたアビ・エシュフを作り上げたビッグシスター。

 今回得られた潤沢なデータに、これまで○○が取り続けたデータも合わせれば……何かまたとんでもないものを披露してくれるのではないか、なんて。

 

 

(……黒服さんにも、データを渡さないと……いや、あの人なら、今もどっかで見てるんじゃないかな……見てるんだろうなぁ……)

 

 

 そんな取り留めもない思考が、景色が、記憶が、浮かんでは消えていく。

 ふわふわとした心地が、段々と薄れていくように思えてきた。

 

 

(と、いうか……自爆の威力、こんなに強くしてたっけ……?)

 

 

 あくまで主要機能の破壊までに留めたつもりではあった自爆システム。

 しかし、ドライバーの細部に至る全てを破壊し尽くし、粉微塵に吹き飛ばす威力へと昇華しているそれに、ほんのりと違和感を覚えて、改めて思いを馳せる。想定外の事態の原因究明は必要な事であるために。

 

 

(……ハッキングも、プロテクトも、自爆も……キヴォトスのテクスチャが、ドライバーを確実に破壊するように、作用したとか……? それとも……)

 

 

(それ、とも……)

 

 

 そこまで頭の中で思考を並べていた所で、睡魔に近い、抗い難い強烈な虚脱感が意識を吸い上げていく。

 

 腹部からに留まらず、全身からも零れ落ちる致命的な欠落が、○○の意識をこそげ落としていく。

 

 それに抗おうと四肢に力を込めてみようとするも、全くの無意味に終わった。

 

 

(ぁ、ダメだこれ、眠い……)

 

 

 思考が沈んで、何も無い暗闇の中に落ちていくような浮遊感が、足元へ伝っていく。

 

 

 だんだんと、何も、考えられなくなって。

 

 

 

「は、は」

 

 

 

(ここまで、かぁ……)

 

(あぁ、もったいない……まだ使ってない武装もあったのに……他にも、試せてない機能も、あったのに……)

 

(いや、やっぱり、今から、試そう、データ、取らないと……)

 

 

 

 最後に吐き出そうとした言葉も紡げないまま、口から溢れ出る吐息と共に意識を手放して、崩れ落ちた。

 

 

 

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