神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:禍禍冴月
こんな後日談、if話やら何やらが見たいなど、活動報告の方で募集しています。
シャーレのオフィスにて。
ゲヘナの風紀委員長と万魔殿議長というツートップが並び立ちなう。といった所。
「あの『極光』を放った装置は、ミレニアムからの発表によれば、超大型の打ち上げ花火用打上げ筒の仕業だと宣っていたが……」
マコトさんは目の前のテーブルに取り出した写真を見せびらかすように置いた。
フレームの中には遠景で撮られた『テラー・デストロイ』。その巨体、天まで伸びる砲身が丸々と収まっている。
「あいにく、その程度で納得するほど呑気ではない。こちらで色々と調べさせてもらった」
マコトさんとヒナさん、両者の視線が私を射抜くように差し向けられる。威圧感が凄まじい。
……超大型の打ち上げ花火用打上げ筒、というのは、私が眠っている間、セミナーが公的に発表した、現在巷を騒がせている『テラー・デストロイ』に対する返答なのだとか。
私が試射したあの一発は、どうにも私の想定以上に騒がれていたようで、窓口がパンクする程に問い合わせが殺到したらしく。
セミナーから……我が校ミレニアムサイエンススクールの部たるエンジニア部による製作物の一つであり、悪ふざけによって『極光』が放たれてしまった次第であります。とかなんとか、そういった具合の発表をしたのだという。
エンジニア部をよく知ってくれている人らは、なぁんだまたエンジニア部か、と納得してくれたとのこと。
まぁそれでも、あの膨大な熱量を発射できる製作物について話がある、と軍需企業やらの問い合わせが増えたり、妙な探りをしてくる手合いが増えたりで負担は減らなかったらしい。
『今度のお祭りに使いたいので、話題の超大型打ち上げ筒を借用したいのですが?』とどストレートに聞いてきたのは百鬼夜行連合学園だったか。
……そういえばヒビキさんがド派手な打ち上げ花火用の装置を作ってたりしてたっけ。あれを応用したりして、めちゃくちゃどデカい花火を打ち上げる装置でも作れないものか。
何ならあの砲塔レベルに大きくして、他自治区からも見えるような花火にしてみたっていいかもしれない。持ち運びに関しても粒子化装置で収納して、現地でサッと取り出して設置するだけで良さそうだし。
うふふ、今度作れたら作ろ。
ぽやん、と開発計画について思いを馳せていると、より鋭くなった視線に気付いた。
いけないいけない。つい考え込んでしまった。
ピリピリとした空気感がオフィスの中を支配していて、そんな空気に晒されたユメさんが異様にそわそわしている。か弱い……
「我々の要求としてはな、先生。この危険極まる巨大兵器の開発者を探し出し、洗いざらい詳細を吐かせてもらいたい……といった所だったが。つくづく優秀だな、先生よ。まさか我々の訪問を予見して、予め開発者を呼び出しておくとはな」
マコトさんは先生に向けて感心したように口調を和らげる。
それに関しては全くの偶然なんだけどなぁ、という先生の表情には気付かなかったらしい。結構露骨だったのに……いや、気付ける余裕が無いほどに焦っているような、そんな感じが二人からしている。
「……この巨大兵器は、ミレニアムのエンジニア部たる○○が開発したもの。そうよね?」
有無を言わさぬように、逃げ場を無くすらしく睨めつけるヒナさんが私に言葉を向けてくる。
「えぇ、はい。改めまして、私がエンジニア部の○○です。あの巨大砲台を作ったのは間違いなく私です」
一歩歩み出て自己紹介がてら肯定を示すと、お二人はその反応が意外だったように瞬きをした。
「……案外素直に認めるのね?」
「いやぁ、そこまで情報を握っている相手に嘘を言っても。それに、隠すほどのことでもないと思っていますし」
「そう。じゃあ、○○。その巨大兵器について、詳しく聞かせて貰える?」
低くなったヒナさんの声が、視線が、私を貫かんばかりに刺々しい。興味云々よりも、敵意じみた何かを思わせるけど……。
まぁ、私はエンジニア。自慢の製作物に対して説明を求められたのならば、それに正々堂々と応えよう。
愛用のタブレットを取り出して、ホログラム液晶を呼び出す。
そこに映し出すのは、謹製の設計図。『テラー・デストロイ』を詳らかとする、これ以上無いほどのプレゼン資料。
それをお二人の前に掲げて、見えやすいように調整しながら胸を張った。
「それでは僭越ながら。超大型打ち上げ花火筒……もとい、宇宙戦艦搭載型主砲『テラー・デストロイ』について、ご説明させていただきますね」
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「……要するに、貴女はアビドス砂漠の一画で列車砲『シェマタ』を見つけて……」
「はい」
「……それを一度リバースエンジニアリングして、残された資料を基に改造して……」
「はい」
「……『テラー・デストロイ』という、超大型の砲台を作り上げた、と」
「はい。基となった主砲をよりスケールアップ、スペックアップさせた渾身の一品です。夢はどでかく、ロマンもたっぷり詰め込んだ代物ですよ」
「ふん、解体だ。それ以外に余地はない」
「そんなぁ!?」
プレゼン、説明を続けることしばらく。
だんだんと頭を抱え出したヒナさんが話を要約し、マコトさんがバッサリと切り捨ててきた。そんな殺生な!
「……しかし、何故解体と? 元はゲヘナのものだからと接収させるのかと思いましたが」
不思議に思ったことが無意識に口に出てしまった。
列車砲『シェマタ』には、アビドスとゲヘナの校章が刻まれており、開発資料にも二校の共同開発であったと記述もある。
『テラー・デストロイ』に改造するにあたり、大部分のパーツを転用したために、ゲヘナの所有物を利用したものなのだからゲヘナにそれを有する権利がある、だとか何とか言われて持っていかれる流れだと思ったけれど。
ゲヘナってこういうシンボル的な兵器とか好き好んで所有したがりそうなものだし。
「……基となった列車砲に用いられていた技術と、それを齎した者の存在。その存在の関連がある以上、私達はそれを看過することはできない」
「『シェマタ』の技術と開発者が、ですか?」
「……雷帝と、その遺産。私達ゲヘナにとって、それは忌むべきもの。その痕跡があるものは、一片たりとも残してはおけない」
「……ヒナ、貴様。余計なことは言わないでいい」
「良いの。押し掛けて要求する以上、最低限でも事情は伝えておかないと」
雷帝と遺産。いささか興味を惹かれる文字列が並んできたが、お二人はそれ以上口にすることはない頑なな様子だ。何と生殺しな。気になる事だけ言って黙して語らずというのはやきもきさせるだけというのに!
とはいえ、お二人が求めることは理解した。要は危険な技術が用いられているから、そんな物は無くしてしまいましょう、と。
……もったいなくない?
「あ、解体するにしても爆破はやめておきましょう。エネルギーを供給するコア部分に誘爆しますし……自爆装置の機構も含めますと……多分、積んでいる規模的にも廃墟地域が丸ごと吹き飛ぶかと……」
ここキヴォトスにおいて解体作業=発破解体と言っても差し支えないので、念の為に。
ミレニアムでは丁寧な解体作業が比較的多いが、ゲヘナだとそうはいかないだろうしね。
そんな言葉を差し込んだ所、呆れと怒りやらが混じった視線がお二人から向けられる。何故に。
「……。……何故そんな広域破壊兵器を作った? 他自治区に対する牽制か、示威を見せびらかすためか?」
「うふふ、巨大砲台ってロマンじゃないですか」
「ダメだ、度の突き抜けた阿呆だ。話にならん」
「えーん、そんなぁ」
何処と無く、緊張していた空気が解れてきたような気がする。あくまでも個人的にだけど。
ユメさんなんか、ほら……すっかり涙ぐんでおろおろしてる。先生だって顔がまだ固いし。
「……改めて問うが」
言い訳は許されないとばかりに、マコトさんの口から追求の声が一際重たく言い放たれた。
「それ程の物を作り上げて、何をしようと言うのだ? 相応の目的があってこその暴挙だろうな? ……無論、どのような理由と目的であれ、解体以外に道は無いがな」
……改めても何も、なぁ。
「先程も申した通り、ロマンのため。そして……かつて作ろうとして頓挫した物をもう一度作りあげようと思ったからです」
超巨大な砲台。要塞の如き出で立ち。凶悪無比なスペック。それらを兼ね備えようとして、結局は実現できずに砂に覆われ打ち棄てられた列車砲。けれどそこに、私はロマンという確かな熱量を感じた。共感もした。私達だって突発的な熱に浮かされて宇宙戦艦作ろうとして主砲作っただけで断念しちゃったし。
ふん、と嘲りを隠そうともしない様子でマコトさんは私を見つめた。
「……作ろうと思ったからそうした。ただそれだけか? 作り上げた物が何を齎すのか、どのような影響を振り撒くのかも考えずに、か?」
「身も蓋もなく言えば……えぇ、そうですね。その通りです。作りたいと手掛けて、組み上げて、完成させた時こそ、最上の喜びですから。思い立ったその日その時、思い描いた私のロマンを形にできた時にこそ、私は生き甲斐を感じるものですから」
とうとうマコトさんは天井を見上げてため息を盛大に零した。
そうして舌打ちを一つ。改めて私に向き直った。
「……全くもって理解できんな。輪にかけて愚かな夢想家め。実利も益も考えず、ただその場の感情に任せて動くなど、分も弁えぬ獣のすることだ」
「あはは、作りたいものをただ作る、これこそ私の喜びであり、楽しみですから」
まぁ、ゲヘナ側の……マコトさんとヒナさんの懸念は割かし理解した。
雷帝という方が作り上げた象徴の一部が、私が見つけた列車砲シェマタであり、キヴォトスに騒乱と戦火を撒き散らしかねない危険な代物。
そんな雷帝が齎したものが存在することは許せず、痕跡さえも消し去ってしまいたい。
私はまたしても、もったいないなと心底思う。雷帝の齎したものは、シェマタだけを見てもとても優秀で革新的な技術と発想が用いられているのだし。
何かしらの形で部品や技術を流用したりしないのだろうか。如何に危険な代物であろうと、存在の残滓の一欠片も残さない、というのはどうにも発展性が見込めなくて。
あっまずい。エンジニア部魂が疼いて仕方ない。
……雷帝の作った物って、他に残ってないのだろうか。遺産と呼ばれるくらいだし、マコトさん達の口振り的にもいくつか数があったりしないかな。アビドス砂漠にもあったんだし、他の自治区とかにも今も眠ってたり……?
「……ところで、解体にはどれほど掛かりそうだ?」
帽子の隙間から、相変わらず鋭い視線を覗かせながらマコトさんが睨め付けてくる。
本音を言えば、解体などしたくはないのだけど……だってまだデータが取り切れてないものですし。
「えぇと、作業員があと三人程頂ければ、一日で済むかと」
「いいや。アレを作ったのはお前一人なのだろう? 片付けるのもお前一人で済ませろ。徹底的に、其処にあったという痕跡すら残さずにな。現地には監視要員が居るが、作業をするのは貴様一人だ。分かるな?」
さりげなくマイスターの皆さんを巻き込もうと思ったがすかさず処された。
あれの内部構造やら何やらを覗かせてインスピレーションを湧き立てようかと思ったのだけれど。
「そうですねぇ……あの規模でしたら、三日か四日あれば、といった具合ですかね」
やる気と気合、あとミメシスの私を増やせば1日で終わるものであるけど。
ミメシス、私から生まれただけあって、私のやりたいことを率先してやったりしてくれるので作業員的にも理想的なんだよね。
「では解体作業は明日と言わず今日中……今すぐだ。できないでは良心がない」
マコトさんはふむ、と一つ区切りを入れてからそう仰った。
解体計画も何もあったものじゃない超突貫イナズマ解体作業を即座に行えと!?
……まぁミレニアムでもままある事だしそれは別に良いか。
「……お言葉ですがマコト議長。貴女の懸念している事は理解しました。けれどもう少し──」
「猶予は与えん。あの技術は存在しているだけで害悪なものだ。ミレニアムとしても、そのようなものを一日でも長く抱え込んでおきたくはなかろう?」
おっと、空気がピリつき出した。
ここまで雰囲気のせいか誰も割り込まなかった話に、ノアさんが思わずといった具合に入り込むものの、マコトさんはまるで取り合わない。諭すような雰囲気はあれど、それこそ決定事項であり、揺るぎの無いものであると譲らない。
さて、ここで一つ考えてみよう。
私的にはあの砲台を解体するには惜しい訳で、進んでやりたいことではなし。
本音を言うなら断りたい案件ではある。
が、しかし。
目先の欲望を欲するあまり、本来より多く得られる筈であったものを逃したのは記憶に新しい。
私は改造と加工を施した砲台にしばしお熱となったばかりに、当初追っていた神秘の研究との比重をちょいと傾けてしまったばかりに、かつてのように神秘研究を自由に気ままにするには難しい環境に置かれてしまった。
本来であれば、現時点でもっともっと踏み込んだ神秘の研究もできていたのだけど……周りからは過激過ぎる、と止められている始末。
あの日あの時、砲台の開発をひとまず置いて、神秘の研究に傾倒していたのならば。
より革新的で、想像も付かないような成果を手にいられたのではないか。
私は、欲張ったばかりにチャンスを取り逃してしまったのではないか、と悶々とする思いが募るばかりで。
今もこうして、『テラー・デストロイ』は解体される流れに持ち込まれている。
一度躓いたばっかりに、私の成果が掌から零れていく。
……冷静に考えて、他校の校章が二つも入った物に勝手に手を加えて改造した私が悪いか?
いや、でも、あれじゃん。あんな巨大なロマンの塊をみすみす見逃すのは人道にもとるじゃん。エンジニア魂が疼いて仕方なかったんで何とかならないかな。
それでもって、ここらで学園間での不和や軋轢が起こりそうとなれば……私的にも本意では無い。
これからの研究活動において邪魔になりそうなしがらみはなるべく取り払うべきであるし、早々に取り掛かるとしよう。
余計な怒られ案件が生じて自分の時間削られるのはもっと嫌だし……。
ああ、けど、これで逃すことになる魚はやはり大きいわけで。あまり派手にやりすぎるのは、こういう事態を誘発するのだと痛感するばかり。
やっぱり、周囲が納得できて安心できる証拠を取り繕わなければならない。
危険じゃないなら、安全であるなら、合法であるなら。認めるに値する、研究を続けても問題無いと思えるものであるならば、良し。
この教訓を次に活かしていこうじゃないか。よし決めた。
うむ、と一人頷いて、はつらつと声を出す。
「分かりました。早速作業を始めるとしましょう!」
マコトさんの言葉に二の句もなく了承する。ノアさんや先生が何かを言いかけてこちらを見るのを横目に、壁面のスイッチを操作。
静かな駆動音でシャーレオフィスの全面窓の一部が展開していく。
"……○○? ちょっと、一旦止まって……。"
ひゅう、と風の音が吹き抜ける窓際を背にして、私は緩く手を振るのだった。
「それでは行ってきますね!」
背中から倒れ込むようにして身を空へと投げ出して、外へと飛び出していく。
急転直下、街中へのスカイダイブだ。
「○○ちゃんっ!?」
「ご心配なくー!!」
《Scramble!》
慌てて窓際まで手を伸ばしてきたユメさんにも手を振りながら、『ダアト・チェンジャー』を起動。
すぐさまトリガーを引けば、粒子の弾丸が空に投げ出された私の体を撃ち抜いて、純白で、所々が怪獣チックに刺々しい外装が装着されていく。
《Severe! wisdom! fusion rise!》
《DAATH!!!》
装着が完了すると同時、各部に装備されたバーニアが稼働。点火した勢いによって、重力による落下速度を殺さずに、むしろより早く加速させるように噴かせながら姿勢制御を行い。
くるり、地面に激突する寸前で弧を描く軌道で空へと舞い上がり、天高く飛び立つ。
獲物を狙うツバメのように軽やかに、鮮やかな動きでもって、流れる高速の景色を横目に、目的地へ向けて一直線に向かっていく。
「先に行って待ってまーす!!!」
シャーレオフィスへ向けてもう一度大きな声を張り上げて手を振り、何日かぶりの廃墟地域へ、砲台があるあの場所へと向かうのであった。
□■□■□■□■
「まぁそんなこんなで、『テラー・デストロイ』は解体となりました。……やっぱり、惜しいですねぇ」
エンジニア部の部室棟にて、最近の成果報告会に参加しながら私は一つため息を零した。
お茶請けのクッキーを一口。うん、サクサクとした食感からチョコチップの甘みが広がる。追いかけるお茶も美味しい。
近場に居る方の口にも一枚持っていくと、はむりと食べてくれた。
「うぅ、確かに……事情を色々と抜きにすれば、いえ、抜きにしなくとも弄ってみたいものでしたけど……」
「問題が問題だもんね、仕方ない」
マイスターの皆さんもうむうむ、とエンジニア魂擽られるものが弄れず終いになって非常に残念そうに頷いた。
そうして、手元のバームクーヘンを一齧り。幸せそうに頬を緩めた。
私も二つフォークで取り、二人で分けた。
"それでも、あの場で渋ったりはしなかったんだね? "
「そりゃ先生。あの場でやだやだと突っぱねた所でゲヘナ側の了承は得られなかったでしょうし……学園同士に亀裂が入るような面倒な事態に発展したとして、私の望むような事にはならなかったでしょうから」
私の付き添いみたいな形でこの会の見学をしている先生が、褒めるように囁いた。
いや、まぁ、本音を言えば全力全開でゴネたかった。というかゴネる寸前だったし。
解体作業は、マコトさんの言葉通り私一人で行われることになった。
砲台の監視のためか、現場には既にゲヘナの方がいた。確かあの人も万魔殿のメンバーだったか。赤い角が実に悪魔的で綺麗で、頂いた神秘もよく輝いていたもの。
その後は変わる変わる、ヒナさんやマコトさんやらと監視が継続されながらの解体作業が続いた。まぁ特に問題もなく、滞りなく済んだのだけど。
なお解体した資材は全てゲヘナ側に持っていかれてしまった。こちらで秘密裏に処理するといった答え以外は何も帰ってこなかった。ついでに設計図やら関連資料もまとめて持ってかれた。これも二度と出回らないように消すとのこと。徹底してるぅ。
あそこまで形にしていた物が無くなってしまったのはやっぱり口惜しい思いが募るばかりだけど……有意義な失敗だったと割り切って次に行くとしよう。
苦い思い出を飲み下すが如く、シュークリームを一口。甘いカスタードが雪崩込んで、お腹の奥まで幸せにしてくれる。
"……ところで、続々とお菓子が出てくるこの箱って一体……? "
「おや、気になるかい先生。エンジニア部謹製、お菓子好きな乙女の味方を」
ふふん、と自信満々に私達は傍らの機械をご紹介。
私の胸元程の大きさの、シェフ帽を被ったような箱型機械からは常に甘い匂いが漂い、稼働中であることを示している。
チン、と甲高い音を立てれば、正面に取り付けられた扉が開き、中からマカロンが並んだ天板が飛び出てくる。
出来たてのそれを、先生の方へと差し出した。
「○○の作った、投入した資材を適切な形に加工、選別して神秘を抽出する『エキストラクトンV2』に着目してね……」
「食べたいお菓子を選択し、加工部分に材料を投入することで……あとは待つだけでお菓子ができあがる、お手軽お菓子生成マシーン!」
「美味しいお菓子が食べたいけど、お金が無い、美味しく作れない……そんな皆の優しくて甘い、心強い味方」
「名付けて、『スイーツ・クラフトチェンバー』!」
んぐっ、と先生が小さく呻いた。しまった、マカロンは美味しくなかったか。
"う、うぅん。大丈夫。ちょっと驚いただけ……。確かに画期的だね。"
「ふふ、作る手間も掛からず、他の作業をしながら美味しいお菓子が食べられる……」
「そして、お菓子に欠かせないものもしっかり作れますとも!」
チーンッ、とまた甲高い音が鳴れば、『スイーツ・クラフトチェンバー』のコック帽部分がぱかりと開いた。
湯気立つ香しいカップが人数分並んでいる。
「レンジ機能を応用してお手軽に美味しいお茶も用意できます!」
"うーん……ちょっと怒られそうな気配が……。"
「何を言う。学習データを基にそれぞれの茶葉に合った絶妙な淹れ方、蒸らしも完全再現だ。これはアフタヌーンティーでさえもお手軽にできる時代が来るぞ、先生!」
「まぁまぁ、まずはお茶の味を見て下さい。きっと紅茶党の方もお気に召すものでしょう!」
そうして皆の元にカップを渡していく。
先生にも渡そうとして……受け取ろうと差し伸ばされた手を目にして、一瞬躊躇った。
先生の手が、様々な形にブレている。
しなやかな女性の手に、屈強な男性の手に、幼さが残る小さめな手に、少しシワが刻まれた手に。
それに合わせて先生の姿が、色々な形にブレていく。
ぐっ、と眉間に力を入れて、自分に気合いを籠める。
差し出された手は、艶やかな指先が、困ったように中空を漂っている。
形はブレていない。しっかりと定まっている。
"…………○○? "
額縁越しの瞳が、心配そうに私を見つめている。
「……いえ。きっと先生にも気に入って頂けるでしょう。どうぞ、ご賞味あれ」
「……ところで、何でユメさんは○○の首筋に顔を埋めたまま何にも言わないの?」
「ずっと気になってたのに言えなかったことを聞きますね!?」
"……置いてかれたから、ちょっと拗ねてるんだって……。"
「ああ、うん。○○が悪い、かな……?」
○○ボディ:数々の神秘が詰め込まれているお陰で素の耐久性も大幅に向上。高所から落下しても地面に人型の穴が空くだけで済む。済むことをわざわざ確認した。めちゃくちゃ怒られた。
○○アイ:時々、先生の姿が何人もの残像が重なって、切り替わって見えることがある。どの姿も、変わらず先生だと認識できる。えいやっと気合いを入れると姿が一人に固定化される。今回は穏やかおっとり系な女性だった。