神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:禍禍冴月
「ねぇ、知ってる?」
「あ? 何を?」
「近頃、ここら辺で話題になってるって噂」
「だから何だよそれ。知らねぇって」
「いや……路地裏で潜んでる奴を、何処かに攫っちまう連中が居るんだって」
「何処かって、何処に?」
「分かんない。噂だしさ。……こういう目立たない路地裏辺りを拠点にしてた奴等が、パッと居なくなって、しばらくしたらまた戻ってきた。……でも、戻ってきた奴等はすっかり怯えた様子で何にも言わない。とかそういうのが何度かあったらしくて」
「へー。金目当てで変なもんに首突っ込んで、よっぽどひでぇ扱い受けてきたんじゃねぇの?」
「やっぱりそう思う? ……ちなみにここ、そういう連中が急に消えたっていう路地裏なんだよね」
「……なんで連れてきた?」
「いや、何かあるかなって。……ごめんって、そんなに怒んないでって───」
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「知ってる? 幽霊の噂話」
「幽霊?」
「またベタな……定期的に流行りますよね、そういうの」
「しかもそれ、幽霊かもしれないってくらいなんだけどね」
「もうすごいあやふやに……で、どんな噂なんですか」
「それが……一瞬だけ、体に冷たいものが触れるんだって。何も居ないし、誰も触ってもないのに」
「……何それ。雨粒が降ってきたとかじゃないので?」
「うぅん、そういうのじゃないらしくて……あれ、どしたの?」
「……。私、それされたかも……」
「……どういうことですか?」
「さっき、一人で歩いてる時……急に、首の後ろ辺りがひやっとしたの。驚いて振り返っても何にもないし、誰もいないし……気のせいだと思ったら、今度は右手にも同じ感覚がきて……」
「……。え、マジ?」
「マジだよ。嘘じゃないし……」
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「うぅ……来ないなぁ……」
「……あれ、どうしたっすか?」
「あ、先輩っ。……それがその、今日一緒に巡回する子が時間になっても来なくて……」
「ありゃ。連絡も付かない感じっすかね」
「はい……その子、連絡はマメな方だし、病気で来れないって時とか用事がある時とかも事前に連絡はくれるし……今までこういうのは無かったから、心配で」
「りょーかいっす。ひとまず巡回は私と一緒に終わらせちゃって、その後相方の子を探しに行くっすよ」
「えっ、あの、いいんですか、先輩……?」
「いーっすよこれくらい。じゃ、ちゃちゃっと済ませちゃうっすよー」
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青白い人の形をした影が忙しなく動き、機器を弄り、手元のタブレットにデータを打ち込み、溶液に満たされた容器の中身を観察し、大小様々な機材を配線にて繋ぎ合わせ、組み立てていく。
此処は○○のミメシス、それらが集う研究所。
当初、ミレニアム自治区の人目に付かぬ場所にあった研究所は、決して長くは無いサイクルで各所を転々として、実験を押し進めていた。
現在はトリニティ自治区にて、人目の付かぬ奥地にひっそりと居を構えている。
長く一所に落ち付くと、面倒な手合いに補足されてしまう可能性がある。
人が寄り付かぬ廃墟地帯に居を構え続けた本体が引き起こした失敗を繰り返さないように、というミメシス達の意思であった。
故に今は、○○自身が残した数々の設計図のほぼ全てをそのままコピーして持ち出し、ミレニアムからは既に引き払っている状態となっている。
こうして各地を転々としていく生活を始めた。研究所自体の引越しは『しまえる君Z』があるので、一切合切を粒子化してしまい込む。膨大な神秘を秘めている本体から作られた都合上、しまい込める容量も多いため、苦労も無い。移動に関しても、光学迷彩によって誤魔化せる。
そうしてミメシス達は、自らに籠められた探求心の赴くままに、研究と実験を押し進めていった。
○○自身が十分に手を付けることのできなかった、保留していた事柄を率先して。
それは自らの感情のためか、本体を補助し、奉仕するために作り出された存在のためか。
ただはっきりしているのは、やりたい事をやりたいだけやれるというのは、とても楽しくて、嬉しい事なのだ、という喜びだった。
研究所の朝はそれほど早くはない。
けれど決して眠らず、不夜城の如く稼働は24時間体制で続けられている。ミメシスは睡眠と食事を必要とせず、継続的な活動が可能なので、物理的な体力の限界は無い。本体が居た頃も、そのようにして不満一つ漏らさず活動していた。
朝は早くない、というのは今重点的に力を入れている実験を、日が昇ってから幾ばくか時間を置いて始める、といった意味である。
研究材料の健康状態を加味した結果、それらに睡眠時間は多めに取らせた方が良いだろうと判断したために。
そうこうしている内に、規定の時間が差し迫る頃合いとなった。研究材料から採取を行わなくてはならない。
担当する一人のミメシスが器具を揃えて、研究材料が揃った部屋の扉の前に立ち、電子ロックを解除し、開いた。
「ひっ……!」
ミメシスが足を踏み入れた途端、聞こえてきたのは小さな悲鳴と息を飲む微かなざわめき。
ミメシスは部屋の中を見回し、『研究材料』がしっかりと揃っていることを確認する。
数を揃えたベッドやテーブル、椅子が並んだ、それなりのゆとりを持たせた部屋の中に視線を及ばせる。
一人目。トリニティ総合学園二年生の生徒。体躯は小柄、腰部に羽あり。
二人目。トリニティ総合学園一年生の生徒。頭部に羽あり。
三人目。トリニティ自治区を拠点とする不良生徒。施設に近付いてきた所を確保した。長身、やや痩せ気味。
四人目。同じく不良生徒。三人目と共に確保し、収容している。身体的特徴は特になし。
そして最後の五人目は───居ない。
ミメシスが視線を滑らせたその時、扉の裏側から飛び出してくる影が一つ。
「───オラァッ!!」
五人目の生徒。血の気の多い気質のスケバンが、雄叫びと共にミメシスの後頭部へ椅子が振り下ろした。
ミメシスが確保した人数分、この部屋に揃えておいた椅子の一脚が迷いなくぶち当たる。
「……くっ……」
吸い込まれるように当たった椅子は、手応えさえも感じさせなかった。
鈍い音も、軽い音もなく、ただ柔い何かに僅かに沈み込んだだけの不可解な感触が、生徒の手の内側に残った。ミメシスは、たたらを踏む事も、身動ぎを起こすこともなく、何も無かったように佇んでいる。
椅子を頭部に押し当てられたまま、ミメシスがくるりと振り向いた。
視線を向けられた生徒が一歩たじろぎ、がらん、と音を立てて椅子が床に零れ落ちる。すかさず押し返そうと腕が突き出された。ミメシスは意にも介さず、ゆっくりとした仕草で生徒に近付いていく。
「こ、の……っ!」
生徒は拳を握り、必死に振りかざして殴りかかる。頬に突き刺さった拳は、ミメシスに何の痛痒も与えなかった。ミメシスはその手首をがちりと掴み取り、その場から一歩も動けぬように固定した。
生徒はその顔に恐怖を浮かべている。胸に抱いた僅かな希望ごと、奈落の底に落とされたような、高低差のある、濃ゆい恐怖の感情。
この五人を確保してから、今日で七日となる。その間、毎朝決まった時間に材料から恐怖を収集するために規則性を持たせて、この部屋の扉を開けた。部屋には時計も備え付けていたから、直に生徒もその規則性に気付いたことだろう。
銃と端末は取り上げたが、それだけ。武器自体は無いが、代替になるものは家具として置いてあった。
そうして、脱走を試みた。
結果としては、これから失敗に終わるだけであるが。
「……ひっ、や、やめろ、やめろ……!」
ミメシスはその言葉に、手元へと粒子を寄り集めることで答えた。
握られたのは、手元に拳銃らしい形状の持ち手をした、歪な剣。持ち手からまっすぐに伸びた刀身の両刃から、棘のように鋭く突き出した、ガラス片じみた刃が不揃いに並んでいる。
その剣山のようなシルエットを見た目の前の生徒のみならず、部屋の中全員が顔を青く染め上げ、限界まで後退った。
「や、やめろっ!! やめろっ!! 来るな、来るなよっ!!」
腰を抜かしながら、必死にミメシスを遠ざけようと試みる生徒の腕を捻り上げ、床へと引き倒した。
仰向けに倒れ込んだ体の腹部を踏み締め、苦しげな吐息を漏らしながら、なおも抵抗を続けようとする生徒へ向けて、ミメシスは手にした剣を躊躇いなく振り下ろした。
「っあ゛ぁあぁ!!?」
ギザギザと不揃いな段を成したノコギリのような歯を、ガラス片で形成された刃を体に押し付け、引く。
それから刃を戻して、位置を整え、また引いて、斬り付ける。
時には鋭く。早く。鈍く。角度を付けて、垂直に突き立てて抉るように、平行に押し立てて撫でるように。
「ぁっ、ぃ、ぎ、や、あ……っ!」
刃が肌を通る度、ガラス片に黒い光が微かに灯っていく。
暗闇に灯る、僅かな火種のように、怪しく頼りなく揺れる光。
それは負の感情の具現化。とりわけ、恐怖という一面を抽出された、仄暗い力の集合体。
ガラス片に宿り出すそれを横目に見やりながら、ミメシスは腕を動かしていく。
その度、体の下から、周囲から巻き起こる悲鳴に何の頓着も持たずに、今日するべき作業を淡々と進めていく。
「あ、がっ……! い、ぎゃ、あぁ……ッ!」
キヴォトスに住まう者達は、極一部の例外を除いて、全面的に痛みに強く、頑強性が高い。外の世界であれば致命傷に当たる衝撃にも耐え、怪我の治りも早い。
とりわけ、銃弾に撃たれる衝撃や爆発物等による熱にも強く、日常的な刺激であるために慣れている者が多い。銃で撃たれ、爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされようが、痛いは痛い。けれど当然のように我慢できる。
そんな頑丈なキヴォトスの住人にも、馴染みのない痛みもある。
斬られること。刺されること。引き裂かれること。削られること。抉られること。圧されること。穿られること。
銃弾飛び交う普段の日常からは遠い、痛み。
それを与えるため、そして痛みに付随して湧き上がる恐怖を取り出すためにミメシスが作り出した、恐怖抽出器具『テラー・エクストラクション』。
銃型の持ち手から伸びる刀身に埋め込まれた、神名のカケラを加工したガラス片は、接触した生徒の『恐怖』を吸い上げ、その内側に溜め込む抽出機構。
肌に当てれば刺さり、撫でれば声を我慢できない程の擦過傷を引き起こし、強く押し付ければそれ以上の痛苦を対象にもたらすそれは、暴力的なシルエットも相まって、この場で最も恐怖を呼び起こす物体と化していた。
理不尽に、不条理に与えられる痛みというものは、負の感情を増幅させてくれる。その中から、恐怖という一要素を抽出することこそが、今現在ミメシスが行っている実験の目的である。
サンプルの数は多ければ多いほど良い。未知の多い分野となれば、いくら集めても十分ということはない。
ひたすらに、無心に、ミメシスは手を動かし続けていく。
「あッ、あぁ゛あ゛ぁッ!!!!」
開き始めた傷にガラス片の先端を押し当て、ヤスリがけを行うように丁寧に撫でて、なぞっていけば、痛みは増大した。悲鳴は喉を裂かんばかりに張り上げられ、体の先は痙攣を引き起こしている。
ガラス片に灯る光は、仄暗く、けれど内側をじわじわと染めていく。
反応が大きければ大きいほど、より多く恐怖を抽出できる。
何度も、何度も、つぶさに、しらみ潰しに反応を確かめていく。どの角度で抉れば、どれ程の力を篭めれば、どこを刺して斬れば、この生徒から効率的に恐怖を得られるのか。
「あッ、がっ、ぁ゛っ……! ッ……!! か……っ!」
丁寧に、丁寧に、死んでしまわないように丁寧に、作業を進めていく。
肌が破れる。血が滲む。肉が抉れる。肌の薄皮に潜む体組織が露出する。
増大する痛みから、増幅される恐怖を、丹念に、入念に、取り上げていく。
生徒が意識を落とす頃に、ちょうどガラス片の全てが黒く染まり上がった。
ぐったりと動かなくなった生徒から零れ落ちた体液が床に広がっている。ミメシスはガラス片を染める黒色をしっかりと確認してから懐を弄り、青色の薬剤に満たされた注射器を模した器具を取り出した。
器具の先端を足元の生徒の体へと打ち込み、薬剤が注入された直後。生徒の体が青白い光をぼんやりと帯び始め、全身を包んでいく。
光が収まる頃には、傷一つ無い状態の生徒の体が横たわっていた。
幾度となく体を嬲られ、泣き叫んでいた顔も。
裂かれ、抉られ、内部が覗いていた肉も。
皮の外へと飛び出さんとしていた中身の痕跡も、何もかも。何とも無かったような健康体として再生している。
唯一、体の外から溢れ切った体液は床にそのままぶち撒けられているが、命に別状は無いことをミメシスは経験則として知っているため、気に留めない。
脈を測り、呼吸を確かめればそれで良い。
打ち込んだ薬剤は、本体が作り出した『治せる君α』。ミメシス達の手によって改良が施されたそれは、対象が死んでさえいなければ、どんな致命的な損傷でも元通りに復元させるものとなっていた。
大目標はヘイローが破壊された生徒を復活させる程の効力を持たせることである。
投与が終わり、意識も無く寝転がる生徒が問題なく整った呼吸をしていることを確認し終えて。
ミメシスの視線が、ぐるりと横を向く。
視線の先に居る、他の生徒達が一斉に体を強張らせた。
本来のこの時間は、生徒全員に栄養を摂取させた後、恐怖の採取の予定だったが、どうやら生徒達は今し方の光景を見て恐慌状態に陥っているらしい。
ちょうど良い。このまま他の生徒の恐怖を採取してしまおう。今ならより良いものが取れることだろう。
「ち、ちがっ、違う! 違う! 私は止めたの!! やめようって、でもその子が聞かなくて……!」
ミメシスが一歩近付くと、生徒の内一人が涙ながらに絶叫した。
「その子が、いつも同じ時間に来るやつを狙って、武器を奪えば、何とかなるからって! 上手くいきっこないもんそんなの! だからやめようって!!」
どうやら勘違いをしているらしい。別段、脱走を起こそうと襲いかかってきたことを怒っている訳でも、それを止めなかった周囲の者に怒っている訳でも、事情を話せば手を止める訳でも、何でもない。
ただ、恐怖を取れればそれで良い。
「ひっ、や、っ、ごめんなさい! ごめんなさい!! ごめんなさい!!」
ミメシスは手に持った『テラー・エクストラクション』をしまい込み、また同じ物を取り出した。ガラス片の中身が空の、新しい物。その切っ先が目の前の生徒に向けられると、逃げる事すら諦めて蹲り、絶叫を続けた。込み上げるあまりの恐怖とストレスから、完全に錯乱し切っていた。
それもまた、ミメシスにとっては好都合で、嬉しい誤算であった。その勘違いを最大限利用するように、一歩一歩、ゆっくりと歩み寄っていく。
ミメシスは弁明しない。誤解を解く素振りをしない。その意思を伝えることは決してしない。
恐怖を与える存在は、ある要素を備えていなければならないのだと、ミメシスは耳にした。
恐怖を与えるものは、喋ってはならない。
恐怖を与えるものは、正体不明でなければならない。
恐怖を与えるものは、不死身でなければならない。
そうでなければ、恐怖を与える存在の神秘性は薄れ、より真に迫った恐怖を露わにしてやることはできないのだと。
だからミメシスは、此処では鉄面皮であることを心掛けている。
研究が進む、良好な結果が増える、サンプルが多く手に入る。喜びに満ちる事は数あれど、与える恐怖が鈍ってはならない。だからこそ、恐怖を与える対象の前では口端を決して動かさず、恐怖の収集に耽る。
「ぁ、あ、……っやだ、やだ! やだ! やだぁ!!!」
目の前の、良質な恐怖をふんだんに撒き散らす生徒に向けて、ガラス片をゆっくりと押し当てて、引き抜いた。
研究所の一室で、恐怖の収集を終えたミメシスは、デスクに並べられた本日分の成果を改めた。
今まで収集していなかった生徒の神秘が数十点。
元々エンジニア部にて開発されていた光学迷彩装備。それの改良及び改造版を使用し、姿を隠した外部活動班のミメシスが集めてきたもの。未収集の生徒が居れば、通り際に神名のカケラを押し当て、一瞬の内に収集を済ませる方法によって、神秘の収集も変わらず並行して進められていた。
本日分は、ワイルドハント芸術学園の生徒のもの。それとトリニティ自治区にて未収集であった生徒のもの。どの神秘も良い輝きに満ちている。後ほど、複製に回す予定。
その横に並べられたのは、『テラー・エクストラクション』から抽出した生徒の恐怖。
これまで各自治区を転々としながら、無作為な生徒を研究所まで招き、恐怖を与えてから抽出し、処置を施してから解放。また無作為に生徒を選び直し、恐怖を抽出する。
そうして多くのサンプル数を揃えたそれらを、一点に集約させた、拳大の宝玉のような黒い塊。
────収集した恐怖を一つに濃縮、圧縮を行ったもの。
本体が躍起になっていた合成神秘、もとい『ハンドレッド』に倣う形になるが、神秘ではなく恐怖をより集めたものとは、一体どのような結果を見せてくれるだろうか。気になってしまったからには、試さざるを得ない。ミメシスはそのように、恐怖の収集に没頭していった。
黒服がかつて本体に言い聞かせていた、神秘と恐怖の関係性。鏡写しのように存在する、生徒の神性。
神秘の反転した先、顕現する恐怖とは何か。
思考は未知なるそれらに心を奪われ、心酔し、追求していくばかり。
ミメシスを構成する、本体から注ぎ込まれた剥き出しの探求心が唆られ続けていく。
本体たる○○には、人として培ってきた倫理観や道徳観、理性が、何より先生に嫌われたくはないなぁ、と一人の生徒として思考する歯止めがあった。
しかし、一つの感情を糧に生み出されたミメシスには、感情に枷を付ける外付けの理性など無かった。
ただ、思うがままに在るのみ。
───本体は利口過ぎる。もっとしたいことを、やりたいようにやって、こんなにも楽しくて、面白いのに───
ミメシスは手のひらにある一つの成果物を見つめる。ちょうど今、生成を終えた試作品の出来栄えを、光にかざしてじっくりと観察する。
照らされる光を呑み込むような、泥のように重たく黒い力の奔流が閉じ込められた、カケラ。
恐怖を閉じ込めたそれは、差し詰め恐怖のカケラ。黒々としたエネルギーを内に秘めた輝きを愉しむように、手の上で転がした。
あの日あの時、本体たる○○を喪う夢を魘された梔子ユメが帯びていた、あの純真なる『恐怖』の輝きには及ばないにしろ、こちらもかなりのもの。
数々の微々たる恐怖を寄せ集めた、純正品とは異なる規格外品。
称して、『
○○と同じように、とても嬉しそうに。純粋な喜びと、胸に湧いたわくわくとした好奇心のままに、笑っていた。