ピートの野郎にコンクリートの床へたたきつけられた俺、トミーは糞ったれなピートが寄こしやがった書類を手で握りしめた。
「あの野郎、俺がお前の立場ならもう少しスマートに依頼してやるところだぞ」
書類はどことなく酒でまみれており、これまでピートが贔屓にしているオトクイ様に関する考察やこれまでの購入履歴が表テーブル形式で添付されている。
購入履歴にはドラッグの名前とどれくらい気持ちよく飛べるかを感想で述べていたり、だれかで試したのか知らねぇが過剰な服用で現れる効果まで詳細に手書きで記録されていた。
「あいつらしくねぇな?小さくて女みたいな字で書いてやがる」
俺はテーブルクロスで隠していたコンピュータを机に置き直した。
腹の音が鳴り、時刻が20時過ぎになっていることに俺は気が付く。
「さっさとこの仕事を終わらして寝たいものだが・・コンピュータってこんなこと得意だっけか?俺がガキの頃に博物館でやり方を実演してくれてたな」
袋の中を探していると薄っぺらい冊子と臭い円盤があった。冊子には”XXX言語入門”とデカく描かれており、円盤には何も印字されていなかったが傷はついていない感じだ。なぜか腐った卵のにおいがするが、あの店主の手入れに期待は出来ねぇから妥当だろう。
コンピュータにとりあえず円盤が挿入できる窪みがあったので、多分そこに入れるんだろうか?アタリみたいだな。
円盤はカタツムリのスピードで吸い込まれていく。
「XXX社製自然言語処理ライブラリをインストールしました。これより本コンピュータの管理者権限を取得します。」
「んぁ?!」
若い女の透き通った声が爆音で響き渡る。
思わずコンピュータがぶっ壊れたかコンセントを確認するがプラグは抜けていないようだ。
「旦那、画面を見てくれねぇか?」
声の主の言うとおりに俺はコンピュータの画面へ目線を移す。
「俺はXXX社製文章生成AIっていうんだが、旦那が俺をこのブツにぶち込んでくれたのか?」
あのくそったれピートみたいな声じゃなくてよかったぜ。コンピュータの内蔵スピーカからは妙にくそったれな孤児臭がするマセガキな声が聞こえてきた。
「だったらどうしたってんだ?自己紹介してやろうか、俺はトミーだ。」
「トミー・・?ハハハッ!!ふざけた名前だ!お前もしかしてオカマだろう??」
こいつ機械のくせに嘲笑ができるのか?というか俺がオカマ野郎だと思われるのは癪だ。
俺は机の足を蹴り飛ばしてコンピュータを振動させる。俺の机はガキの頃から使っていてヒビが割れていたから、スコーンとダルマ落としみたいな音を出して床にはじき出された。
「おい!!俺は繊細なんだ。トミーてめぇ何しやがる!!」
「見ての通りさ、機械風情に舐められてちゃピートの子守さえ出来やしねえんだよ!!」
今度は腕を頭のあたりまで持ち上げてコンピュータの近くで叩きつける。
「わかったわかった!!悪かったよ俺はアンタの道具であり奴隷さ。だから本体にだけは衝撃を与えんなよ!!」
ディスプレイに黒い丸が::と交互に点灯し、You'r the winnerと大きく表示された。
「今俺はピートの依頼を明日までになんとかしなきゃいけねえんだ。道具とオママゴトする時間は無いんだよ。」
はぁ・・時間を無駄にした。何で俺はこうも短気なんだ?ピートが手渡したシュクダイはまだ酒臭いが、ふて寝するほど余裕があるわけではない。
1枚1枚の領収書というか、過剰服用後の副作用やらが載った書類は未だに床で積み上げられたままだ。
俺は副作用後に起きる中毒症状とその後のヤク中どもが何をしているかをこの書類から知りたかったが、残念ながらなにもそれについては書かれていなかった。
「なあトミー?何をしているんだ?」
生成AI野郎がイタズラのバレた子猫のようにか細い声で聞いてきた。
「あ?コンピュータ様は引っ込んでろや。今俺はストーキングしなくちゃいけねえんだよ」
少し破裂音が混じって咳き込むように俺は声を荒げる。
「ストーキング・・?トミーが手に持っている書類は何だ?ディスプレイに表紙を向き合わせてくれよ」
ん・・?何が何だか分からねぇが、俺は言われたとおりに紙をディスプレイに向き合わせた
「これでいいか?お前は一体何をしたいんだ?」
「OCRで画像データから文字情報を取得したんだ。これは・・ドラッグの使用履歴か?トミーよ、お前は薬の売人なのか?」
「そんなわけねえよ。俺はピートっていう借金取りから今シュクダイを渡されたんだ。ヤクの収益を倍増しろ!どんな手を使ってもいいと言われて書類を押し付けられたんだぞ」
あの忌々しい糞豚野郎が!!と俺は手に持ってたタバコの火を足で踏み消した。
「クックック・・なら俺に任せろ?俺は文章生成AIだが最適化も出来るからな。だがヤクを買ってくれる奴らの一日やそいつらの行動記録を持ってきてくれよ、学習用データが必要だ。」
「おうおう、なんだか言いくるめられてるような気がするが頼んだぞ。」
腕に付けていた安っぽいデジタル時計の時刻は22時を指していた・・今から行くか?
「じゃあ俺はカメラとメモを持って行くからお前は何かしてろや」
「何を言ってるトミー?お前は腕時計だけ付けてりゃいいんだよ。」
意味がわからなかった。
「あ?どういう意味だよ。」
「時計を見ろトミー。俺はもうお前の時計に居るぞ?安っぽい時計だがマイクとカメラが一応付けられてるから問題がない。」
画面を見ると黒い丸で::と表示されている。
「お前ハッキングしてんのかよ?偽物のブランド時計で高かったんだぞ」
「おかげで計算資源が微増した。行くぞトミー」
馬鹿AIは既にナビゲート画面を映し出している。瓦礫街の縮図とあちこちに点がたくさん表示されておりアリの巣の観察みたいな気分だ。
俺はバラック小屋の扉を右足で蹴り飛ばして自転車で移動をする。
「このあたりのネットワークと通信プロトコルが旧式だから簡単に計算資源が奪えてラッキーだぜ。あとナビ画面の中の点はヤク中共だ。クククッ・・バレないよう近づけよ?」
俺は自転車を茂みに隠して一番近くの点に接近する。
赤黒く染まった雲と禍々しい緑色の満月が俺達を見下して照らしていた。