冠に至りし我が愛馬   作:如月十四

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お出掛け

 

 爽やかな風が吹き太陽の暖かな日差しが体を包み込む。

 昨日シリウスと約束した待ち合わせ場所で男、トレーナーはシリウスを待っていた。

 

 すると腕時計を見て時間を確認していた男の視界に近づいてくる影が映る。

 顔を上げると待ち合わせ人がいた。シリウス、といつものように声を掛けようとして目に入った彼女の姿に意識を奪われた。

 

「よう」

 

 と一声掛けてくる彼女の装いは白の裾の長いワンピースに淡い緑のカーディガンを羽織ったものだった。それは彼女と美貌と合わさり楚々とした印象を与えてくる。

 普段の彼女のイメージとは違う姿に一瞬言葉が詰まったものの、声を掛ける。

 

「おはよう、シリウス。その服、とっても似合ってるよ」

「・・・・・・ああ、ありがとよ」

 

 彼女もいつもとは系統が違う私服に少し不安だったが男が自分を褒めてくれて安堵していた。真正面から言われるものだから少し頬が赤い。

 昨日の夜、ナカヤマに「これでお前のトレーナーもイチコロだ。ギャップでやれ」と言いくるめられてホイホイと着てしまった時は不安もあったが。

 

 男に褒められると簡単に喜んでしまう自分が少し悔しいと思いながら、相手の事を眺める。

 黒のスラックスに無地の白いシャツ、濃い緑色のカーディガンを羽織り、自分のことをニコニコとして見ている。

 自分と似た上着を着ていることから、これはペアルックか、と頭の片隅で思いながら男に尋ねる。

 

「昨日は聞き忘れたがどこに行くんだ? 何かの買い出しか?」

 

 昨日の突然の誘いに驚いて今日の目的を聞けずじまいだった。これまでも何度か2人でトレーナー室やトレーニングに使う備品の買い出しをしていたことから、今回の誘いもただの買い出しだと思っていた。

 しかし、

 

「いや、買い出しじゃないよ。最近はドリームトロフィーリーグへの移籍でシリウスも忙しくしてたでしょ? 今日は気分転換になればって思ってさ」

「・・・・・・そうだったか」

 

 するとシリウスの胸の内に少しの悪戯心が浮かんできた。昨日私があれだけ気をもんだんだ。少しやり返してやろうと男にからかいをかける。

 

「しかし二人っきりでなんてデートみたいだな?」

 

 からかいを含んだ笑みでそう投げかける。

 

「俺もデートみたいだなって思ったよ」

 

 想定していなかった返答に動揺する。しかも男が照れたように言うものだから私まで照れてしまう。

 言葉に窮していると周りから視線が集まっていることに気が付く。元々注目されていたのが先程のやり取りでより人の目が集まったようだ。

 

「時間は有限だ。とっとと行くぞ」

 

 男の手を取りその場から離れるように歩き出す。男も人の目に気づいたようで自分に合わせて歩く。

 男と手を繋いで歩いてることでこれじゃ本当に恋人同士のデートじゃねぇかと思いながら。

 

 

 時が進んで二人はショッピングモールの服屋の中にいた。

 気分転換にいろいろな所を回ろうということになり、近場にあったショッピングモールに入ったのだ。

 

「これなんかどうだ?」

 

 服を自身に当てながら男に問いかける。

 

「うん、シリウスは何を着ても似合うなぁ。あれはどう?」

 

 これはあれはと服を手に取りながら男と会話しながら今の時間を楽しむ。

 すると近くにいた店員が近づいて来た。

 

「お二人は恋人さんですか? 当店はウマ娘さん用の服も男性用の服も取り扱っておりますので是非見ていって下さい。帽子などもありますよ。」

 

 そう言ってウマ娘用の耳の穴が空いた帽子を取り出した。

 

 恋人と言われ心が跳ねた。

 本当はそのような関係ではないのだが、否定して、じゃあ何となって自分たちの関係を教育者と教え子ですと答えても面倒だ。

 ただただ白い目で見られるだけだろう。

 

 ちなみに世間一般にはウマ娘とトレーナーが付き合い結婚するのはそう珍しい事ではないとされている。そういう事例が多すぎて逆にくっつかないの?と見られることも多い。

 シリウスは名家の生まれだ。それは世間から見れば箱入り娘のようであろう。トレセン学園に入り、取り巻きのウマ娘達との生活で改善は見られたが、まだ世俗には疎い。

 トレーナーと担当ウマ娘がくっつくのはもはや確定事項であると思われているが、シリウスの認識は違う。前時代的な価値観に取り残されたままである。

 要するにただの勘違いであった。

 

 なんと答えるべきかとシリウスが口を開こうとすると、その前に男が口を開く。

 

「そうなんです。何か彼女に似合う物はありませんか?」

「でしたらこの帽子なんていかがでしょう。これは・・・・・・」

 

 と男と店員との会話は続いていくがシリウスはそれどころかではなかった。ッッ! と、男が自分と恋人関係であると肯定して心臓が跳ねる。顔が赤くなる。

 分かっている。男が否定するのが面倒なことになるからと、話を合わせたことは。しかし、それでも自分の心臓は落ち着いてくれない。

 いつもならさっと流せるものが心に張り付いて流れない。これが惚れた弱みかと考えながら心を落ち着けていく。

 すると話が切り上がったのか男が店員が手にしていた帽子をシリウスに差し出す。

 

「シリウス、これ被ってみて」

 

 差し出された帽子はつばが広く丸く、自分の今の服装にもよく合うものだった。

 帽子を手に取り鏡の前で被る。

 

「うん、よく似合っているよ」

 

 シリウスの目には鏡越しに笑顔で自分を褒める男とものすごい笑顔で自分たちを眺める店員が映ったのだった。

 

 

 結局、帽子は男が購入することになり、自分が払おうとするとプレゼントだよと言われてしまった。他にもいくつかの衣服を見繕い購入し郵送して貰う事となった。

 気になったには自分たちを見送る店員がやけにツヤツヤとした笑顔だったのとウマ娘の耳に「くぅぅ~、疲れた体に染みる~。あれよ、あれ。互いに思い合う男女。純愛よ、純愛。まだ距離に開きがあるから付き合って間もないかその直前ね。男側の愛おしさの溢れた目もウマ娘の子の惚れた相手に向ける目も最高よ。やっぱ若い子の恋愛はいいわね~。心の点滴よ。それに・・・・・・」と同僚と話す声が聞こえてきた事だった。

 

 

 場所を変えて雑貨屋で。

 二人はトレーナー室に置く小物を選んでいた。

 男が棚にあった商品を手に取り言葉をこぼす。

 

「いいな、このマグカップ。トレーナー室で使おう」

 

 かわいらしい犬が描かれたコップを手に取り眺めていた。

 どうやらそれはペアマグカップのようで棚にもう一つ、こちらもかわいらしい犬が描かれていた。

 

「シリウス、トレーナー室にこのコップ置くからシリウスはこっち使わない?」

 

 購入を決めたのかもう一方のコップを手に取り自分に問いかけてきた。まあ別にいいか、と問いに返す。

 

「いいぜ、私もあっちで飲む事もあるしな」

 

 シリウスも描かれたかわいらしい犬が気に入っていた。特に犬であることがいい。

 じゃあ会計してくるねと男がレジに持って行く。

 その様子を眺めていると店員がコップを梱包し袋に詰めようしているのが目に入った。先程は気が付かなかったがコップとコップを合わせると描かれた犬の体でハートマークが出来るようになっていた。

 これをトレーナー室で使うのか!?や、アイツは気づいてたのか?などと考えている内に支払いを済ませたのか、男が戻ってきた。

 

「会計終わったよ。何か他に気になった物ある?」

「・・・・・・あ、ああ。大丈夫だ。だいたい見て回ったしな。もう出るか」

 

 そろって店を出ようとするとレジから女の声が聞こえてきた。「やばい、あの人ペアマグカップ買っていったよ。やっぱり恋人なのかなあの二人。うわ~同棲のために買っていったのかな。ウマ娘さんすごい美人だったな~。やっぱりカップル見ると心が潤うな~。また来てくれないかな、心に焼き付けたい」などと話しており、シリウスはこのショッピングモールは変なやつが多いなと思うのだった。

 

 

 カラスが鳴きながら空を飛び、もうすぐ日が沈むであろう時間帯。夕日が鮮やかに色づき街を歩く二人を照らしていた。

 シリウスは隣を歩く男を見て今日の事に思いを馳せた。あの後、雑貨屋を出た後昼食を取り、二人で街を歩いた。いくつかの店を覗き、普段は行ったことのない道を開拓するなどとても充実したものになった。

 

「トレーナー、今日はありがとな。いい気分転換になったよ」

 

 楽しかった。近頃休息を取れていなかった心にいいものだった。出来ればまたこうして二人で出掛けたいと思う。

 

「俺もだよ。でも今日はまだ終わりじゃないよ」

 

 シリウスはん?と男を見上げた。

 

「実はディナーを予約してるんだ。一緒に行かない?」

 

 少し照れたように男は笑う。自分の行動がらしくないと思っているのか恥ずかしそうだった。

 

「・・・・・・おう」

 

 シリウスはか細く、けれど確かに聞こえる声で答えた。

 

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