冠に至りし我が愛馬   作:如月十四

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壁ドォゥン

 

 穏やかな天気。

 晴天に輝く太陽が暖かく人々を見守り、三女神が今日もウマ娘の幸福を願う。

 

 そんな良き日にシリウスシンボリとそのトレーナーである犬飼の姿が見れた。

 そこは電車内、周囲の人々に押されて壁に手を突いている犬飼と、壁を背にして犬飼の腕の中にシリウスシンボリが居た。

 

 (何故こんなことに・・・・・・)

 

 シリウスシンボリが心の中で呟く。

 

 事の始まりは自身の後輩の一言であった。

 

 

 

 

「シリウス先輩、今度私のレースがあるんですけど見に来てくれませんか?」

 

 カフェテリアでいつのように集まってきた後輩達と昼食を取っていると後輩の一人であるウマ娘にそう言われた。

 その娘は最近デビューしたウマ娘で惜しくも2着。まだ未勝利だったはずだ。

 

「シリウス先輩のトレーナーさんにも声を掛けているんです。お世話になっているお二人に今回のレースを見て欲しくて・・・・・・」

 

 まだ彼女にトレーナーがつく前、自分とトレーナーである犬飼が面倒を見ていた。

 そのことに恩義を感じているのだろう。

 

「ああ、いいぜ」

 

 コイツのレースは来週の休日だったなと思い出しながら応じる。

 

 娘ががやったー!と喜ぶ。私達も行くからなと周りの奴らも娘に檄を飛ばす。

 そうやっていつも通りの日常が過ぎていった。

 

 

 

 

 後輩のレース当日。

 シリウスは犬飼とともに電車に乗りレース場に向かっていた。

 じゃあ、あたしら先に行ってるんでトレーナーさんと来て下さいと、そう言って後輩達は先に出ていった。

 

 最近、後輩達がなにかとつけては自身とトレーナーを二人にしようとしてくる。

 ありがたいが自身の気持ちが周りにばれていそうで少し複雑な気持ちだ。

 

 横に居るトレーナーに至っては楽しみだねぇと言いながらぽやぽやしている。まるで日向ぼっこをしているゴールデンレトリバーのようだ。

 

 そうやっているとトレーナーと言葉を交わしていると電車が止まった。見ればまだ目的の駅まで少しあるようだ。

 少しして電車が出発する。

 

「おっと」

 

 トレーナーが周りに押されたのか体が揺れる。

 先程の駅で余程の大人数が乗ってきたのだろう。

 周りを見れば電車に乗った時は座れない程度だった人の密度がいつの間にか満員電車並になっていた。

 

 ガタン、ガタン――と電車と揺れる。

 その度に周りから押されて自分とトレーナーの距離が縮まる。

 しまいには壁に追い込まれてしまっていた。

 トレーナーが自身の背を壁にして自分を守って入れている。そのためか互いに向き合う姿勢となる。

 

 いつも以上にトレーナーを近くに感じる。

 身長のためか自身の目線がトレーナーの胸元にある。

 よく鍛え上げられた筋肉が目に入る。

 

 ガタンッ!と強く電車が揺れた。

 バランスを崩したのかシリウスの顔の横にダンッ!とトレーナーの手が置かれる。

 

 急な事に驚いて顔を上げると思っていた以上に近くにある顔に息が止まった。

 姿勢を崩してかがんだためかいつもとは違う高さに顔がある。

 

 いつもの優しげな目が普段とは違う距離で自身を見つめる。

 

「ごめん、シリウス。ちょっと揺れちゃって」

 

 そうなのだろう。

 電車の揺れもそうだがそれに併せて周りにも押されてきつそうな表情が目に入る。

 自分を守らんとするその姿に胸の奥からこみ上げるものがある。

 それと同時に周りからの圧力に耐える事に心配になってしまう。

 

「もうちょっとで着くからっ――!」

 

 腰に手を回されてトレーナーが驚く。

 グイッとトレーナーを自身に向けて引っ張る。

 

「シリウスッ?!」

「押されてきついだろ。こうしとけ」

 

 トレーナーと自分の体がくっ付く。まるで抱き合っているかのような姿勢だ。この前の腕を引っ付けてイタズラをしたときとは体の密着度がまるで違う。

 

「でも・・・・・・」

「大丈夫だ・・・・・・いいから、ほら」

 

 自分が譲らない事が伝わったのかトレーナーの力が緩む。

 

 密着した体から互いの熱が伝わる。

 触れ合っているからかトレーナーの体が良く鍛えられていることが分かる。

 女のものとは違うゴツゴツとした感触が異性の違いを教えてくる。

 

 電車の揺れを言い訳にしてトレーナーの胸に頭を預けると早鐘を打つ相手の鼓動が伝わってくる。

 自分の鼓動もトレーナーのものと同じくらい早鐘を打っている。

 自分とトレーナーの鼓動が重なるとまるで溶け合ったかの様だ。

 

 トレーナーの顔はきっと真っ赤になっているのだろう。見なくても分かる。

 自分の顔もそれと同じくらい色づいているだろう事も。

 だから相手の顔を見れない。

 いつもの顔が出来ない。こんな顔トレーナーに見せられない。

 

 それでも、もう少しだけ、もう少しだけとこの時間が続いて欲しいと、まだ触れ合っていたいと思ってしまう。 

 

 なんとか顔の熱が引いた頃に目的の駅に着いた。いつもの顔が出来たはずだ。

 チラリとトレーナーの顔を見てもまだ熱は引いてなさそうだった。

 そのことに少しは意識されているのだと安堵した。

 

 駅に着いてしばらくしても二人の間に会話はなかった。だが、いつもよりまた近くなった距離があった。

 

 

 

 

「あっ、シリウス先輩~。こっちです。・・・・・・なにかありました?」

 

 レース場に着いて後輩達と合流する。

 自分たちの間にあった空気を感じ取ったのか自分に向けて小声で聞かれる。

 

 なんでもねぇと答えながら観客席に移動する。

 後輩達と喋ることでさっきまでの空気が霧散する。そのおかげでトレーナーともいつも通りに話すことが出来た。

 

 

 レースに出た後輩は未勝利がなんだったのかと思うくらい周りを撫できって勝利した。

 シリウス先輩~、皆さん~と笑顔でこちらに手を振りながら自分たちの前を駆けていった。

 

 

 

 

 その後、初勝利の打ち上げをしてトレセン学園に帰った。

 

 シリウスは布団の中で眠るために目を瞑る。

 そうしているとどうしても今日の事が思い浮かぶ。

 

 電車での出来事が何度も何度も頭に浮かんでくる。

 あの感触が忘れられない。

 

 ごろんごろん、と何度も布団の中で寝返る。

 

 

 そんな様子を同室のナカヤマフェスタが見ていた。

 いつもと違う様子。

 どうせトレーナーとなんか合ったんだろとすました顔でシリウスを見ていた。

 コイツトレーナーが絡むとポンコツみたいになるな。

 最近のシリウスの見せる姿に驚く。

 気を許しているのならうれしいもんだ思う。

 

 それはそれとして、

 うーん、うーん、ごろんごろんとうるさい様子に苛ついてきた。

 さっさと寝たいのだ。

 

 おらぁ、とシリウスに枕をぶつける。

 いつもの喧噪が部屋に戻ってきた。

 

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