パルデアで天才たちは悩んでいた 作:風見鶏さんの作品おすすめです
(うらやましい......)
無意識のうちに、アオイからはそんな感情が溢れていた。
ぶつかり合うポケモンの衝撃が、風を伝ってビリビリと肌を打つ。
スピードと技術、ポケモンとトレーナーの、美しき到達点。
レジエレキの攻撃を、『みきり』でルカリオが躱す。
最小限の動き、ルカリオが体を左に傾けば、そのすぐ横を掠めるように閃光が走る。
チリチリと体が擦れる音が聞こえてくるような、紙一重の攻防。
そんなポケモンを育て、手足のように指揮するトレーナーの2人の顔を見れば、輝かしいほどに汗を流し、大きく目を見開きながら満面の笑みを携えている。
両者ともによく育てられているとはいえ、耐久力に自信のあるポケモンではないだろう。一撃が致命傷となり、どちらかは確実に敗者となる。
バトルに生きてきた人生を、数多のトレーナーを退けたプライドと、積み重ねた経験と、血の滲むような努力。
その全てをさらけ出した上で敗れ、優劣をつけられ否定されるというのは、どのような感覚なのだろうか。
バトルを始めて数ヶ月の自分がネモに負け続け、彼女のライバルになるという夢が果てしなく遠く見えただけで、自らの存在すら否定されたような感覚に陥った。お前は最も大切な友達すら救えない、覚悟も努力も才能も足りない欠陥品だと。
彼らのようなトレーナーにとっての敗北がどれほどの苦しみになるのか、それがどれほど怖いことなのか、まだわたしは知らない。
けれども2人の表情に恐れはない。
自身を否定されることを繰り返し、慣れているのだろうか。
違う
敗北を知らず、苦しみを味わったことがないのだろうか。
違う
彼らはきっと、苦しみを塗りつぶしてしまうほどに戦いを愛し、ポケモンを愛しているのだ。
「ズルい...」
そんな誰かの呟きは、わたしのものだっただろうか。
わたしのモヤモヤした心を写すように、空には黒雲が立ち込めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
2人の人間と、2匹のポケモンだけが存在するバトルコート
「『はどうだん』!」
「『十万ボルト』!!」
そこでほぼ同タイミング。2つの技が炸裂し相殺した。
土煙が空を舞い、すさまじい技の応酬が止まる。
(そろそろ終わりかな......)
類稀なる才能をもつ2人のトレーナーは、いくつもの砂が顔に当たることを意に介さず目を開けながら、その瞬間バトルの決着を感じ取った。
土煙が、晴れる。
「決める」 「決めるよ!」
「『しんそく』!!」 「『インファイト』!!」
高速の攻撃に防御無視の捨て身の必殺、両者互角の競り合い。
拳と体がフィールドにいくつもの破裂音と衝撃波を生み、空気が揺れる。
ズドン
フェイントをかけ、極限までリスクを減らしたレジエレキの突撃に、ルカリオの拳がついにクリーンヒットした。
数手前の『みきり』を使用した打ち合いの中、何度も襲いかかる『しんそく』の軌道にバトルが終わる寸前で適応したのだ。
閃光が止まり、そして弾き飛ばされる。
戦闘不能、そう誰もが思った。先ほどまでの消耗に加え、彼女のルカリオの『インファイト』はそれほどに強烈なものだ。
だがシュンスケは、そのポケモンのトレーナーは信じていた。
『耐えろ』!!
攻撃により空中に吹き飛ぶ中、光を失った目がその声に呼び起こされ、いくつもの赤い点が再び点滅した、あの『インファイト』を耐えなったのだ。
そのスピードで地面に着地し、トレーナーのそばで指示を待つ。
両者が距離をとり、再びの睨み合い。
ジジジジジジジジジ!
己を奮い立たせる電撃がフィールド中を駆け巡った。
まだやれる、まだ負けていない。そう叫ぶような電撃だった。
その時だ。
とたんにレジエレキの生み出した叫びのような電撃がフィールドを包み込み、辺り一面が黄色く輝いたのだ。
(マジかよ......)
シュンスケは自身のポケモンの、伝説の底力に驚愕する。
『エレキフィールド』
それは偶発的に発生したものだった。不完全で、決して長くは持たない。
軽く羽ばたくだけで、40日のものあいだそこに嵐が吹き荒れる。そんな伝承がある伝説のポケモンを思い出す。ほんの些細な行動さえ、伝説ならば他のポケモンの技と同等の効果を持つのだ。
そしてこれで、レジエレキの電撃は100%すら超えた威力を生む。
初めに繰り出したときのように、レジエレキに飛び跳ねる体力は残っていない。
フラフラと揺れるその体は、強者たる意地と、トレーナーの言葉によって保たれている。
時間がない、このままネモが待つだけでその意識は失われ、バトルは終わりを迎えるだろう。
残り数秒、これがホントの最後。
ポツ ポツ ポツ
不意に彼の肌を流れるものがあった。
気づけば晴れの中のグラウンドは曇っており、雨が降っている。
ふと、思い出した。
「雨で発生する効果は何がある?」
シュンスケがアオイに問いかけた、あの空き教室での会話だ。
たった数日前なのにとても懐かしい、2人が仲違いしてしまう前の楽しかった日常、彼女はなんと言っていただろうか......
そうだ、こんなセリフだったはずだ。
「みず技の威力が上がって......
「・・・・が、必ず当たります!」
「『かみなり』!!!!」
「『バレットパンチ』!!!!」
2人の叫ぶような声が通り抜けた。
レジエレキが最後の力を振り絞る。
ルカリオが敵を打ち倒さんと、素早く距離を詰めた。
ゴロゴロという音と共に、頭上に黒い雲が現れ...
ルカリオは瞬時にその懐に潜り込み...
ズドン
ピシャーン
残り体力僅かなレジエレキに『バレットパンチ』が突き刺さり。
空から無数に拡散された『かみなり』がルカリオを貫いた。
時が止まる。
トレーナーもポケモンも、固まったように動かない。
雨だけがポツポツと、彼らの体を濡らした。
無限のような数秒が流れていく。
バタリ
ついに、レジエレキが倒れた。
そして
バタッ
ルカリオも、それを確認すると意識を失った。