パルデアで天才たちは悩んでいた   作:風見鶏さんの作品おすすめです

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VSネモ その4

 

 

 

(うらやましい......)

 

無意識のうちに、アオイからはそんな感情が溢れていた。

 

ぶつかり合うポケモンの衝撃が、風を伝ってビリビリと肌を打つ。

 

スピードと技術、ポケモンとトレーナーの、美しき到達点。

 

レジエレキの攻撃を、『みきり』でルカリオが躱す。

 

最小限の動き、ルカリオが体を左に傾けば、そのすぐ横を掠めるように閃光が走る。

 

チリチリと体が擦れる音が聞こえてくるような、紙一重の攻防。

 

そんなポケモンを育て、手足のように指揮するトレーナーの2人の顔を見れば、輝かしいほどに汗を流し、大きく目を見開きながら満面の笑みを携えている。

 

両者ともによく育てられているとはいえ、耐久力に自信のあるポケモンではないだろう。一撃が致命傷となり、どちらかは確実に敗者となる。

 

バトルに生きてきた人生を、数多のトレーナーを退けたプライドと、積み重ねた経験と、血の滲むような努力。

その全てをさらけ出した上で敗れ、優劣をつけられ否定されるというのは、どのような感覚なのだろうか。

 

 

バトルを始めて数ヶ月の自分がネモに負け続け、彼女のライバルになるという夢が果てしなく遠く見えただけで、自らの存在すら否定されたような感覚に陥った。お前は最も大切な友達すら救えない、覚悟も努力も才能も足りない欠陥品だと。

 

彼らのようなトレーナーにとっての敗北がどれほどの苦しみになるのか、それがどれほど怖いことなのか、まだわたしは知らない。

 

 

けれども2人の表情に恐れはない。

 

自身を否定されることを繰り返し、慣れているのだろうか。

 

違う

 

敗北を知らず、苦しみを味わったことがないのだろうか。

 

違う

 

彼らはきっと、苦しみを塗りつぶしてしまうほどに戦いを愛し、ポケモンを愛しているのだ。

 

 

「ズルい...」

 

そんな誰かの呟きは、わたしのものだっただろうか。

 

わたしのモヤモヤした心を写すように、空には黒雲が立ち込めていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

2人の人間と、2匹のポケモンだけが存在するバトルコート

 

 

「『はどうだん』!」

 

「『十万ボルト』!!」

 

そこでほぼ同タイミング。2つの技が炸裂し相殺した。

 

土煙が空を舞い、すさまじい技の応酬が止まる。

 

(そろそろ終わりかな......)

 

類稀なる才能をもつ2人のトレーナーは、いくつもの砂が顔に当たることを意に介さず目を開けながら、その瞬間バトルの決着を感じ取った。

 

土煙が、晴れる。

 

 

「決める」 「決めるよ!」

 

「『しんそく』!!」 「『インファイト』!!」

 

高速の攻撃に防御無視の捨て身の必殺、両者互角の競り合い。

 

拳と体がフィールドにいくつもの破裂音と衝撃波を生み、空気が揺れる。

 

ズドン

 

フェイントをかけ、極限までリスクを減らしたレジエレキの突撃に、ルカリオの拳がついにクリーンヒットした。

 

数手前の『みきり』を使用した打ち合いの中、何度も襲いかかる『しんそく』の軌道にバトルが終わる寸前で適応したのだ。

 

閃光が止まり、そして弾き飛ばされる。

 

 

戦闘不能、そう誰もが思った。先ほどまでの消耗に加え、彼女のルカリオの『インファイト』はそれほどに強烈なものだ。

 

だがシュンスケは、そのポケモンのトレーナーは信じていた。

 

『耐えろ』!!

 

攻撃により空中に吹き飛ぶ中、光を失った目がその声に呼び起こされ、いくつもの赤い点が再び点滅した、あの『インファイト』を耐えなったのだ。

 

そのスピードで地面に着地し、トレーナーのそばで指示を待つ。 

 

 

 

両者が距離をとり、再びの睨み合い。

 

 

ジジジジジジジジジ!

 

己を奮い立たせる電撃がフィールド中を駆け巡った。

 

まだやれる、まだ負けていない。そう叫ぶような電撃だった。

 

その時だ。

 

 

とたんにレジエレキの生み出した叫びのような電撃がフィールドを包み込み、辺り一面が黄色く輝いたのだ。

 

(マジかよ......)

 

シュンスケは自身のポケモンの、伝説の底力に驚愕する。

 

『エレキフィールド』

 

それは偶発的に発生したものだった。不完全で、決して長くは持たない。

 

軽く羽ばたくだけで、40日のものあいだそこに嵐が吹き荒れる。そんな伝承がある伝説のポケモンを思い出す。ほんの些細な行動さえ、伝説ならば他のポケモンの技と同等の効果を持つのだ。

 

そしてこれで、レジエレキの電撃は100%すら超えた威力を生む。

 

初めに繰り出したときのように、レジエレキに飛び跳ねる体力は残っていない。

 

フラフラと揺れるその体は、強者たる意地と、トレーナーの言葉によって保たれている。

 

時間がない、このままネモが待つだけでその意識は失われ、バトルは終わりを迎えるだろう。

 

残り数秒、これがホントの最後。

 

ポツ ポツ ポツ

 

不意に彼の肌を流れるものがあった。

 

気づけば晴れの中のグラウンドは曇っており、雨が降っている。

 

ふと、思い出した。

 

「雨で発生する効果は何がある?」

 

シュンスケがアオイに問いかけた、あの空き教室での会話だ。

たった数日前なのにとても懐かしい、2人が仲違いしてしまう前の楽しかった日常、彼女はなんと言っていただろうか......

 

そうだ、こんなセリフだったはずだ。

 

 

 

「みず技の威力が上がって......

 

「・・・・が、必ず当たります!」

 

 

 

 

「『かみなり』!!!!」

 

「『バレットパンチ』!!!!」

 

 

2人の叫ぶような声が通り抜けた。

 

レジエレキが最後の力を振り絞る。

 

ルカリオが敵を打ち倒さんと、素早く距離を詰めた。

 

 

ゴロゴロという音と共に、頭上に黒い雲が現れ...

 

ルカリオは瞬時にその懐に潜り込み...

 

 

ズドン

 

ピシャーン

 

 

残り体力僅かなレジエレキに『バレットパンチ』が突き刺さり。

 

空から無数に拡散された『かみなり』がルカリオを貫いた。

 

 

 

 

時が止まる。

 

トレーナーもポケモンも、固まったように動かない。

 

雨だけがポツポツと、彼らの体を濡らした。

 

 

 

 

無限のような数秒が流れていく。

 

 

 

バタリ

 

 

ついに、レジエレキが倒れた。

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

バタッ

 

ルカリオも、それを確認すると意識を失った。

 

 

 

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