パルデアで天才たちは悩んでいた   作:風見鶏さんの作品おすすめです

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きっと大丈夫

 

 

 

ひとつ落ち着くように息を吸って、そして吐いた。

 

めぐる思考の中で、周りの歓声がぼんやりと聞こえる。

 

(ありがとう、みんな...)

 

倒れた最後のポケモンをボールに戻す。

 

いくつものミスがあった。チャンピオンの判断の速度に合わせるために、何割かの指示を感覚に頼ったからだ。

 

いくら経験を積んでいたとしても、センスがあるとしても、勘に頼った戦い方で甘い場面が出てしまうのは理解している。

 

チャンピオンという化け物相手にこの結果は悪くない、むしろ最高かもしれない。

 

引き分けと言えなくもない。だが先に倒れたのはこちら側だ、負けがどちらかと聞かれれば、それは僕。

 

才能が面白いほど露骨に出るのがポケモンバトルだ。突然現れた子供が盤石の地位を保っていたチャンピオンを倒したり、トレーナーズスクールに入る前の幼女が四天王に入り込んだりが当然のようにあり得るとはわかっている。

 

だが、それでも自分の半分ほどの人生しか過ごしていない子供に負けた。ポケモンバトルだけをして生きてきた自分が、圧倒的に有利な条件にもかかわらず負けたのだ。

 

どしりと今更、脳へかかっていた負担を感じる。澄み切っていた思考にモヤがかかって気持ち悪い。

 

 

ゆっくりとコートの中心へと歩を進める。

 

(あぁ理不尽だ...恥ずかしい、カッコ悪い)

 

マイナスな考えが脳を埋め尽くす。

 

項垂れた顔を上げるとそこにはネモがいた。こちらを見据え、笑みを浮かべていた。

 

(苦しい、死にたくなる、でも......)

 

 

「楽しかったよ、チャンピオン」

 

 

「わたしもとってもワクワクしました!!」

 

そんなことが気にならないくらいに、このバトルは楽しかった。

 

 

「引き分けで、いいんですよね?」

 

「そんな訳ないよ、先に倒れたのはこっちだ」

 

認めるのは癪だが、バトルに嘘はつけない。

 

「ならわたしの勝ちですね!」

 

「案外あっさり受け入れるね。先生相手だしもっと謙虚にくると思ってたよ」

 

「わたし負けず嫌いなんです!」

 

「ふふっ、だよね、トレーナーはそうでなくっちゃ」

 

シュンスケ笑うと、ネモもつられて笑った。

 

気づけば2人のバトルへの大きな拍手が2人に浴びせられている、美術講師の先生は何故か泣いていた。

 

「先生!カッコよかったぞ〜!」

 

「流石ネモ!パルデア最強のチャンピオンクラス!」

 

生徒たちの称賛の声がちょっぴり恥ずかしい、カッコいいなんて言われるのは何年振りだろうか。

 

しばらく手を振りかえしたりしていると、ネモに向かって女子生徒が走ってきた。茶色い目と髪のよく見た顔、アオイだ。

 

「ネモちゃん!今すぐわたしとバトルしよう!」

 

なかなか無茶なことだが、そうアオイが提案すると疲れ切っていた様子のネモはみるみる元気を取り戻した。

 

「いいねアオイ!連続でポケモンバトルだ!!」

 

「こんどこそボッコボコにやっつけてやる!」

 

バチバチと2人の間で火花が散るが、シュンスケが腕につけた時計をみると、水を差すように口を挟んだ。

 

「えっと...もう授業終わりだね...」

 

「「あ」」

 

 

とっくのとうに、五限終わりのチャイムは鳴っていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

オレンジ色の空が一面に広がり、わらわらと生徒たちが学園から自分の家へ帰りだしている。

 

今日の授業は終わり下校の時間、シュンスケはエントランスで彼らを見送る、新鮮だったこの光景もいまはずいぶんと慣れた。

 

最初は変な人をみるような目線を向けられたが徐々に認知度が上がっていき、最近は「先生さようなら〜」と手を振られるくらいにはここに馴染んでいる。

 

明日彼らはここを出発する、課外授業の宝探しだ。

 

何人もの講師が生徒たちにさまざまな知識や旅のノウハウを、僕もキハダ先生と一緒にバトルの基礎をできる限りわかりやすく教えたつもりだが、はたして大丈夫だろうか。

 

出来損ないの教師だが、生徒と触れ合い彼らに子を見守るような親愛を抱き始めると同時に、彼らの未熟さをひしひしと感じることがある。

 

冷静に考えて10歳ほどの子供を平然と完全に自由な状態で旅に出させるこの世界は少し無責任すぎないだろうか?

過去の自分がどれほどイかれたことをしていたのか痛感する、ホント賭け事とかにハマってたらどうするんだ。

 

あぁ心配だ、なんならもっとバトルだけじゃなくて旅のことも教えとけばよかった、野宿はポケモンセンターで回避できるとか、モンスターボールは10個買うとお得とか、彼らは知っているだろうか。

 

あ、そうだパルデアのポケモンセンターは泊まれないか。てことは野宿確定で...テントとか張れるのだろうか?

 

「先生」

 

そんなことを考えていたシュンスケに後ろから呼びかける声、振り向くとそこにはアオイがいた。

 

 

それからはどちらも喋らず、あたりがしんと静かになった。

 

 

 

「...やぁアオイさん、ちょうど僕も会いたかったよ」

 

「あの......」

 

 

「あ〜謝らなくていい、あのとき悪かったのは僕だ」

 

 

「違います、全部図星で焦ってることを言い当てられたのが恥ずかしくて、逆上して酷いことを先生に言ったのは私です......」

 

悲しそうな声で彼女は言う。

 

 

喋りたいのに口を開けない、そんな気まずい空気が流れた。

 

ああ、しんみりとした雰囲気は嫌いだ。

 

旅の途中で友達とこんなに感じになった時はどうしてたっけ?こんなときは、ずっと黙っていたかもしれない。

 

でもいまはそれじゃあダメだ、僕がどうやってでも、彼女に伝えたいことがあるんだ。

 

「僕の、今日のバトルはどうだった?」

 

なんとか、ぎこちない会話をつなぐ。

 

「すごく楽しそうで、うらやましかったです...」

 

彼女はそう返した。

 

そんな言葉が聞きたかった。

 

 

 

「なら、そのときの感情をずっと忘れないでほしいんだ」

 

 

「......」

 

 

「あのとき僕に教えてくれた目標は、きっとまだ諦めていないんだろ?」

 

「ネモに勝ちたいんです!!」と、初めて出会ったときの彼女はそう言っていた。

 

 

「はい...どうしてもまだ、諦めることはできないです」

 

アオイは正直にそう答える、どんな現実があろうと彼女は止まらない。

 

 

「ならそんな目標すら忘れてしまうくらいに、バトルとポケモンを楽しんで、大好きになって、何よりも愛してほしい」

 

シュンスケは続ける。

 

「トレーナーのほとんどは強さを求める。お金や力が欲しかったり、就職のためとか、悪人や野生のポケモンから身を守るためとか。自由を勝ち取るためとか、いい大学にいくなんて理由もあるし、君みたいに友達のためってのもある」

 

「理由はそれぞれだけど、トレーナーはいつか絶対に壁にあたる。それを乗り越える人もいれば、挫折して不幸になる人もいる」

 

まだ言葉は終わらない。

 

「でもバトルを、ポケモンという仲間をそれでも強く愛して、楽しんで、どんなに苦しんでも絶対に手放さないなら、ポケモンが、仲間が君を支えてくれる」

 

 

「あのときの僕らのバトルを羨ましいと思って、すぐにネモくんにバトルを申し込んだ君ならきっとできる。バトルとポケモンをなにがあっても愛することができる」

 

 

そうだ。それを確かめるために僕はチャンピオンに挑んだ。

 

 

「きっとそれなら間違えない、僕が保証する。」

 

彼女の未来を確信したかのような、そんな雰囲気だった。

 

 

そして最後にシュンスケは言う。

 

 

 

「だから応援するよ、君の夢を」

 

 

ああ、そうだ。

 

ずっとこう言いたかった。

 

無責任じゃだめなんだ。

 

チャンピオンと対等なライバルになるという馬鹿げた夢を、馬鹿な夢を持ったトレーナー仲間として、先生として。

 

安心だと、大丈夫だと、心の底からの言葉で伝えてやりたかったんだ。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

とても小さな声だったけれど、確かにシュンスケにはそう聞こえた。

 

 

 

わだかまりは、もうなかった。

 

 

 

 

 

 

 






完結です、ここまで見てくれて本当にありがとうございました。
もしかしたら宝探し後のストーリーもちょっと書くかも。

感想やアドバイス、誤字脱字の指摘お待ちしております。

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