パルデアで天才たちは悩んでいた 作:風見鶏さんの作品おすすめです
「本日からここでお世話になります、タチバナ・シュンスケです。
オモダカさんの話だとバトル学のサポートとして活動して欲しいとのことですが、教職経験は全くないで是非ご指導いただけると嬉しいです。」
おぼつかくて少し堅苦しくなった挨拶だったが、パチパチパチと心地よい歓迎の拍手が鳴り、ほっと胸を撫で下ろす。
(こういう挨拶は苦手だな...)
学園に入った自分を出迎えてくれた彼女、パルデアポケモンリーグ委員長であるオモダカさんの計らいで職員室で僕は挨拶をしていた。
「はい、よろしくお願いします。タチバナ先生はこちらの席を使ってください、細かいところは後ほどにして...そろそろ始業のチャイムがなると思うので、今日はこちらのキハダ先生の補佐をしながら学んでいってください。」
というと彼女は早々に職員室を出ていってしまった、仕事ができそうな雰囲気が凄いがそれと同時にかなり多忙そうだ。
彼女から目線を切ると、今度は紹介された席の隣にいるキハダ先生と目が合った。
「あ〜よろしくお願いします、タチバナです」
「あぁ!よろしく頼む!」
ニッコリとしながら手を差し出してくる、なんだか明るくていい人そうだ、どこか安心感を覚えていると、さっきのオモダカさんか言っていた事業のチャイムが鳴った。
「今回の授業はグラウンドで行うから着いてきてくれ!」
「了解です」
あまりにもトントン拍子すぎないか?こんな仕事の手続きってスムーズなのか?なんて疑問を改めて持ったけど、そういえばこの学園いま忙しいらしいしな。
なんとか自分を納得させて、早足で歩き出すジャージ姿を追いながらグラウンドへ向かった。
(結構服装は自由な感じなのかな?)
⭐︎⭐︎
「クルトン『たいあたり』!」
「ウパー!『マッドショット』!」
(青春って感じだなぁ...なんだかスクールのとき思い出すわ。)
場所は青々とした芝生が広がるグラウンド。広くバトル用のコートが並んでいるそこで、生徒の前の自己紹介も滞りなく済ませた僕は各自バトルを始めた生徒たちを懐かしむような、生暖かい目で眺めていた。
カントーの生まれであることや、そこでバッジをコンプリートしていることを伝えた時は結構盛り上がって、中には伝説のポケモンを見つけたかのような表情でこっちを見る生徒もいたが、バトルに入るとやはりそちらに意識が持っていかれるようだ。
暖かな日差しと撫でるような優しい風が心地よい。
観察を続けていると、ひときわ目立つバトルが視界に入ってくる。
「ホゲータ!『ひのこ』!」
「ニャオハ!右に躱して『たいあたり』!」
自己紹介のときにこちらを強く見てきた少女の試合だ。
レベルの低そうなニャオハのように映るが、コンビネーションは本物。指示も的確だ。
相手の女の子も筋は悪くなさそうだが、どこかぎこちなく、その差は歴然といったところだった。
(あの子は間違いなく才能がある、というかありすぎる。)
あの若さでここまでの信頼関係を築けるのか
これまでの経験からの勘によって、おそらく手加減のようなをしながらバトルしているのは予想できたが、それでも滲み出るような圧倒的な才能と熟練の猛者のような練度。
バトルはもちろんニャオハ側、少し長身で黒髪をポニーテールにした少女の勝利で幕を閉じた。
(はえ〜やっぱパルデアにも天才はいるもんだな〜)
ポケモンバトルは才能がものをいう世界だ。30になってもバッヂをコンプリートすらできず諦める人間が当然のようにいると同時に、恐ろしい勢いで全てを下し、10歳と少しで大きな地方の絶対的チャンピオンになる人間だって存在する。
たが絶望するほどのことではない、バトルは強くなるためだけのものではないのだ。
相棒とのコミュニケーションだったり、将来の仕事に役立てたり、ときには野生のポケモンや、たまにいるガラの悪いヤツから身を守る手段にもなる。
いったい彼らの何人がバトルで僕のように生計を立て、他の子たちはなんの仕事につくのであろうか。
この授業が彼らのためのものになればいいな、なんてお節介を焼きながら僕は小さく『あくび』をした。
⭐︎⭐︎
「シュンスケ先生!私強くなりたいんです!!」
まぁ中にはこういう人もいるのだが...
職員室で先輩の先生から業務やルールを教わった後、エントランスで下校する生徒を見ている僕に話しかけてきたのは、あの時ホゲータを使っていた少女だ。名前はアオイというらしい。
(まだそんな焦る年齢じゃないだろう...)
走ってこちらに向かってきたからか、まだ息が上がっている。一応教師らしく一旦落ち着くようにと助言すると、彼女はそれを受け入れ呼吸を整えた。
「私強くなりたいんです!」
「いや聞いたから...」
おもわず呆れるような声が漏れてしまった。
「で、どうして強くなりたいの?」
大きな彼女の声に、周りの生徒たちは少し目を向けたが無関心を貫き、帰路へと歩いていく。
しばらく経つとそこは2人のみになっていた。
「ネモに、勝ちたいんです」
試合後の周りの言葉から受け取った感じ、確かネモはあのニャオハ使いの子だ。僕の目には随分と実力差があるように映ったんだけど、2人はライバル関係なのかな。
「そりゃまたどうして?」
「......とにかく、勝ちたいんです」
言葉に詰まるあたり、何か話しにくい事情があるのだろうが、まぁ用事もないし教師として断るわけにはいかないか。
「まぁ暗くなるまで、ちょっとなら教えてあげれるけど、今時間空いてる?」
「は、はい!」
少し前までは人に授業をするなんて全く想像しなかった。人生で初めて教師らしいことをするかもしれないと、新鮮な経験への期待から無意識に上がる口角を彼女に見せながら、僕は誰もいない空き教室を探して歩いた。
1人で書いてるとこれ面白いのかな、と不安になりますね。心を強く持ちたい。
誤字脱字の指摘、感想やアドバイスがありましたら是非よろしくお願いします。