パルデアで天才たちは悩んでいた   作:風見鶏さんの作品おすすめです

5 / 13
完結したら文章は随行しようと思ってます、拙くてすいません。


亀裂と秘密

 

 

 

学校の大きなイベントである、宝探しが近づいて来た。

 

最近はみんな浮き足だった様子で、教室を覗いてみると、どこどこの町で合流しようだとか、ここまで一緒に行こうだとか、どれだけバッチを集められるか勝負しようみたいな話をよく聞く。

 

その空気は授業にも伝染するようで、特にシュンスケが担当するバトル学の授業は、より一層活発さを増しており、いつもより素早くグラウンドに集まった生徒たちは、我先にとポケモンを繰り出している。

 

「せんせ〜」

 

「どうした?質問か」

 

一年生の男子生徒が、カイデンを肩に乗せながら彼に話しかけて来た。黒い髪を短く切った、背の低い子だ。バトルが少し苦手なようで、何度か話をしているから顔を覚えている。

 

「バトルって、どうしたら強くなれますか?」

 

ずいぶんフワッとした問いだな、と彼は思いつつ、少し間をおいてから答える。

 

「ポケモンを知って、自分とポケモンを信じることかな」

 

「信じる?」

 

 

「そう、まず自分を信じて指示をためらわないこと、トレーナーの迷いはポケモンの迷いにもなる」

 

「なるほど...」

 

「でも何も知らずに自信満々なのはダメだ、何度もミスを繰り返してしまうとポケモンもトレーナーを信じれなくなる。」

 

スッと頭に羅列されていく言葉を、できるかぎり優しく、生徒に伝わりやすい言葉に置き換えて話す。

 

 

「だから相棒のポケモンをよく調べたりコミュニケーションを取ったりして、何が好きが嫌いか、得意か不得意かを知って、理解して、それでちゃんと理由のある自信をつけて、ポケモンと戦う。」

 

生徒は頷きながら、キラキラとした顔でこちらを見つめており、その顔にはカイデンが頬ずりをしていた。

 

この様子なら今これ以上のアドバイスをすることは蛇足だろう、バトルを楽しんで、ポケモンを愛し、愛されている。

 

 

そんなことを先生が考えていることはつゆ知らず、男子生徒は元気よく感謝の意を伝えると、走り去っていった。

 

 

グラウンドに再び目を向けると、生徒たちのみんなが気持ちのいいバトルをしている。相棒と勝利を喜び、互いを認め合い、拙いながらも成長しているのを感じる。

 

けれどもグラウンドで一番手慣れた、レベルの高いバトルをしている場所はなんだか奇妙だ。

 

そこにいるネモとアオイの指示は行き届いてないわけではない、質の良い信頼関係による、目を見張るほどのバトル。

 

アオイのホゲータは、彼とのレッスンでより裏付けされた知識からミスの無い指示を出しているが、どこか焦りのような、なんとなくどこにモヤがかかったような様子で。

 

ネモの声はいつも通り、元気な様子ではつらつとした指示を繰り出しているが、バトルにはどこか遠慮するような、相手に気を使いすぎているような印象が見受けられた。

 

なんだかあまり見たことのない状況だ。レベルは高く、それだけを見たらつい褒めてしまいそうだが、どこかポテンシャルを出し切れていないようで、歯痒い。そんなバトルを彼は眺めていた。

 

 

 

 

⭐︎⭐︎

 

今日の授業を全て終え、帰路につく生徒を見送る。

 

この景色をみるのもずいぶん慣れてきたようで、手を繋いで帰る双子のような生徒や、ポケモンを出して両手で抱えるように歩く生徒を優しい目つきで見守っていた。

 

「あと何回ここにいられるだろうか」と彼は思う。

 

宝探しが始まれば大半の生徒は旅にでて、授業を受ける生徒は減ると聞いた。そうすれば講師陣の負担も減り、臨時である自分の役割は無くなっていくだろう。

 

仮にやることがあったとしても、バトル学のサポートだって自分よりもしっかりとした、教室の経験がある人間のに変えたほうがいい。今よりいくらか授業がきっとスムーズに進む。

 

もしそうなったなら、とも考える。

 

何もする予定がない。ジムリーダーの試験でも受けたら、自分は合格できるだろうか。

特定のタイプのエキスパートとして専門的な知識をつけ、上手くトレーナーに合わせた手加減できるとは想像しにくい、資金面のやりくりなんて考えたくもない。

 

ならどこぞの用心棒にでもなろうか。危険な場所にゆく研究者や、お金持ちのお嬢様なんかを守って金をもらう、ジムの経営に比べたら単純そうだが、あまりそれだけをしている自分の姿を想像できない。

 

彼は人生でトレーナーとバトルしかしていない、それしか脳のない人間だからだ。

 

旅をしながら相手を倒し賞金を貰い、ジムやトレーナーが集まる大会に参加して、結果を残すだけの人間。

 

今ある人脈も大体がバトル繋がりで、その知り合いからの紹介でたまに雇われることがあったりもしたがそれも数えるほど。

トレーナーをしていない自分が想像できないのは、現在教師としてここにいるという事実があろうと変わることはないのだった。

 

 

「先生!」

 

考えに集中し、周りの景色を意識すらしていない彼の意識は、アオイの声によって現実に呼び戻させる。

 

そういえば今日はキハダ先生に許可をもらいグラウンドを借りているのだった、ここまでマンツーマンで教えていたが、これが初めての実践。

 

呼びかける声に咄嗟に返事をして、2人でグラウンドへと向かう。

 

歩を進める中で、今日の授業を思い出す。

 

彼女の生き急ぐようで、どこか迷いのあるバトル。「なにか困ってることがあるよね」と彼から疑問が浮き出てくるのは当然のことだった。

 

少し足取りが遅くなり、ひとつ間を置いて彼女は話し始めた。

 

「わたしが少し前にここに転入してきたってこと、先生に言いましたっけ」

 

初耳だった、アオイは言葉を続ける。

 

「もともとはガラルにいたんです、両親の仕事の都合でここにきて、友達とも離れ離れになって、すっごく不安だった。」

 

「そこで初めて友達になったのが、隣に住んでるネモちゃんなんです。とってもおっきい家に住んでて、お金持ちなお嬢様なのにすっごく明るくて、初めてあったばかりの私にも優しかった。」

 

「それで、一回バトルをしたんです、初めて渡されたポケモンで、初めてのバトル。すっごく楽しかった」

 

グラウンドについた、話は続く。

 

「そこでたまたまわたしは勝ったんですけど、負けたネモちゃんのほうがとっても喜んだんです。素質あるよ!とかもっとアオイと勝負したい!って。わたしのライバルになるかも、なんていってたり」

 

苦笑するアオイに相槌を打ちながら、彼は話を聞き続ける。

 

「それでとっても仲良くなって、ネモちゃんのおかげで不安だった学校も寂しくなくて、友達もいっぱいできました。出会ってまだ短いけど、親友だと思ってます」

 

「生徒会長で、いつも明るくて笑顔で、人気者。でもバトルの時は変だったんです」

 

「授業のときや、休憩時間のとかも、先輩とか友達をバトルに誘ったりしても、全部断られてて、その度にすごく悲しそうで、寂しそうな顔をする。あとで先生に聞いたら、ネモさんは強すぎるからみんなバトルしたくないんだと思う。なんて言うんですよ」

 

断る生徒たちの感情はわかりたくないが、理解できてしまう、よほどの人間でない限り、だれだって負けるのは嫌いなのだ。

 

「そのあとネモちゃんに聞いたら、自分がチャンピオンで、この地方で1番強いって聞かされて、最近みんなが天才に勝てる訳ない!なんて言ってくるらしくて」

 

 

 

「最初の勝負に勝った時の、ライバルになるかもって言われた時の笑顔の意味が、なんとなくわかった気がしたんです」

 

 

(痛ましいな)

なんとなく、話の流れを読み取りながら彼は静かに心を痛める。

 

「だからわたしは、ネモちゃんのライバルにならないといけないんです!」

 

長く、出し切るようなアオイの言葉をシュンスケは聞き終わる。友達思いの彼女だからこその、やさしい悩みだ。

 

最初に会った時、彼が抱いた疑問がやっと解決された。

ネモに勝ちたいという理由、この年齢であそこまで幅広い、ざっくばらんな知識を持っている訳。

 

「なるほど...よくわかったよ」

 

彼女の言葉を吟味し、絞り出すようなひと言を返す。

 

「時間もないし、まずバトルしてみよう、ちゃんとレベルに合わせたポケモンを使うから思いっきり来ると良い」

 

ひとまずバトルだ。

 

これでもし彼女に良い変化が起こるなら、いや、起こってしまうなら、教師として"言わないといけないこと"がある。

 

残酷かもしれない、嫌われるかもしれない。それでも、彼はそれで良いと思っている。

 

グラウンドで距離をとり、彼は腰のボールを撫でる。

 

「いくよ、ミニリュウ」

 

 

洗練された手つきで、ポケモンを繰り出した。

 

 

 

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

 

それはそれは美しいバトルだった。

 

彼女の喜びが伝わってくるような、自信に満ちた指示はホゲータへ淀みなく伝わり、ほとんどミスはない。

 

全力で彼とミニリュウのコンビネーションに立ち向かい、数少ない技を技術でカバーしながら2人を追い詰め、そして勝利をおさめた。

 

 

 

「ホゲータ!やったぁ!」

 

倒れるミニリュウを確認し、ホゲータとアオイは喜びをあらわにする。

 

「よくやったミニリュウ、もどれ」

 

戦ってくれたポケモンに労いの言葉をかけながら、彼はミニリュウをボールに戻す。

 

喜ぶアオイと、悲しむシュンスケ、勝敗から見て当然の表情だか、シュンスケの悲しみは、敗北からのものではなかった。

 

 

 

「アオイさん」

 

「はい!」

 

「いい、バトルだった」

 

苦虫を噛み潰したような言葉を吐き出す。

 

この先の言葉は、言いたくない。

 

 

 

 

「でも君は、」

 

 

 

 

 

 

 

「ネモのライバルになろうとしちゃいけない」

 

 

彼には珍しい、強く断定するような言葉。

 

突然の発言を、彼女は飲み込めていない。

 

 

「え、なんでですか」

 

人呼吸置いて、彼女は疑問をぶつける。

 

「今のバトルは、良かった、素晴らしいし、悪くない才能を君から感じた」

 

 

「じゃあなんで、いけないなんて言うんです!」

 

意味がわからない。彼女から疑問が飛ぶのも当然だ。

 

「でもネモとのバトルではそうじゃなかったからだよ。君はライバルになろうと必死すぎて、俗に言うイップスのようなものになっている」

 

「............」

 

心では理解していたのか、いないのか、彼女は何も言わない。

 

黙り切った彼女に畳みかけるよう、彼は言葉を絞り出す。

 

 

「このままじゃ君は壊れてしまう、型が崩れて、次第にバトルを、ポケモンを憎むようになる。」

 

「僕は何人も似たようなヤツらを見てきた。才能に合わない約束や夢に固執して壊れていくようなトレーナーを。全部を捨てて、終わっていくトレーナーを」

 

本心だった。子供の頃からの夢を、強さを求める余りバトルを呪い、ポケモンを呪い、自身の才能の欠如すらを憎みながらおかしくなっていく者たち。それは聞いた話などではなく、程度の差はあれどいくらかの顔馴染みや友人まで狂っていった、この目で見てきた現実だ。

 

だからこそ、旅だった僕と同じほどの、小さな子供がああなるのは耐えられなかった。

 

 

「君はまだやり直せる、ジムを巡って、バトルするのはいい、ただ、ネモを追いかけるのだけはダメだ」

 

 

 

「アオイさん、わかってくれないか」

 

俯いた彼女から、言葉は返ってこない。すっかり暗くなったグラウンドを沈黙が包む。

 

 

 

「うるさい」

 

彼の説得を突き放すような、涙交じりの声だった。

 

「もういいです!」

 

涙を流しながら、それを心配そうに見るホゲータをボールに戻し、彼女は走り去っていくのを、彼は悔しそうに見送るしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

沈む心の中、1人でグラウンドの整備を終わらせ授業の準備を済ませたシュンスケは、かなり遠くに借りている部屋へ戻るため、ずいぶんと暗くなったパルデアを歩いていた。

 

こんな時間にここを歩くのは初めてだ、町を離れてゆくほどに辺りはさらに暗く、陰鬱な空気を滲ませてゆく。

 

 

正しいことをしただろ、と自身に言い聞かせる、壊れていくトレーナーを、救ってやろうとしただけだと。

 

けれども同時に、他の人ならどうしたかとも考えてしまう。自分より遥かに生徒との話し合いに慣れた、優秀な教師たち。彼らに相談しておけば良かったのではないか、と自己嫌悪が止まらない。

 

それを中断させたのは、ニヤニヤとした笑みを浮かべた男たちだった。

 

 

「おいそこの兄ちゃん」

 

5人の内、1番大柄な男が話しかける。舐め腐った、甘ったるい言葉遣い。

 

「何」

 

短く返す。パルデアは治安が良いと思っていたが、カントーと大して変わらないのかもしれない。

 

あるいはまだ悪事に手を染めて、日が浅いから見つかっていないかだろう。 

 

「ちょっと金くれねぇか?いま困っててよ〜」

 

複数人の余裕からか、煽るような間の伸びた喋りは止まらない。

 

「やだね、今イライラしてんだ」

 

「はぁ?いまなんつった?」

 

 

淡々と返す彼に、男は口調を荒くする。この状態でなぜ俺たちに怯えず、煽るような言葉を返すのか、男にはさっぱり理解できなかった。

 

「だから、嫌だっつってんだろチンピラ野郎が」

 

今度は逆に、脅されている側が語気を荒くする、生徒も誰もいない夜、複数人の悪意のある人間を前にしている中では、本来血の気の多いトレーナーが敬語を使う義理はない。

 

怒りが頂点に達したのか、大柄の男の指示で彼らはポケモンを繰り出した。

レパルダス、ヘルガー、ヤミカラス、スカタンク、ニューラ、チンピラらしく全てがあくタイプだ。

 

「おい調子乗んなよメガネ野郎!!」

 

男たちの怒号と、取り巻きのガヤがうっとうしい。

 

ポケモンに四方を囲まれて、牙を見せられようと焦る様子は見られない。

 

「5体1なら、ルールは問わない、"なんでもあり"ってことでいいんだよね」

 

淡々と、あくまで平静を保ちながら、彼は確認するように男たちに語りかけた。

 

「ああそうだよ!何でもありだ!!お前らやっちまうぞ!!」

 

 

男の言葉が、バトル、いや一般的にはリンチと言われる行為の合図だった。

 

「ヤミカラス『たいあたり』!」

 

「スカタンク『とっしん』!」

 

「ニューラ『ひっかく』!」

 

「レパルダス『でんこうせっか』!」

 

「ヘルガー!!『かみつく』!!」

 

 

 

 

 

 

彼は1番奥の、ハイパーボールに手を置いた。

 

潰せ 『しんそく』

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎

 

 

すっかり外も夜になった頃、歴史教師であるレホールは次の中間テストの準備を終え、職員室で調べ物をしていた。

 

基本は遠い地方で発掘された化石のニュースや、新たな歴史の考察、論文などの、興味の湧くものをまばらに検索するだけ。

だが今回は少し方向性の違う、歴史と関わりの薄そうな人物の名前を彼女はパソコンに打ち込む。

 

"タチバナ シュンスケ"

 

聞き齧った生徒や教師の評判は

 

「カントーのエリートトレーナー」

「カントー出身の普通にいい先生」

「黒髪で丸メガネの人」

「結構有名だったらしいバトル学の先生」

 

と、特筆すべき点はバトルのみに見える。

 

しかし彼女、レホールには何か引っかかるようなものがあった。

 

授業を教室の後ろで見ていたときの顔、長年各地を旅していたという話、ここで噂になるほどのバトルの強さ、そして何より。

 

(いつか忘れたが、何故か、何処かで確実に名前を聞いたことがある気がする......)

 

歴史を愛し、教師となった彼女の頭の片隅にでも引っかかる情報、それは恐らく、何か歴史に関係したモノ。

 

エンターキーを押し、いくらかタブを開く。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【タチバナ シュンスケ】

 

ハナダポケモンスクール元所属

 

カントー地方第54回、〇〇大会ベスト4

 

ホウエン地方第5回、〇〇大会準優勝

 

カントー地方第57回、〇〇大会優勝

 

リーグ公式の情報によると、カントージムバッチを13歳でコンプリートしている。

ホウエン地方チャンピオン、ダイゴと親交があることで知られている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

違う

 

タブを閉じる。

 

 

【カントーのホープ、タチバナシュンスケ】

 

違う

 

【ホウエンチャンピオン、ダイゴへの特別インタビュー】

 

違う

 

 

 

違う

 

 

 

違う

 

「これだ」

 

似たような内容の記事をスクロールして、恐らく求めていた記事が見つかった。

 

彼女は記事を開く。

 

題名は

 

【ガラル南部にて地震による遺跡崩壊 古代のポケモン捕獲】

 

 

 




誤字脱字の指摘、感想やアドバイスとても助かります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。