パルデアで天才たちは悩んでいた   作:風見鶏さんの作品おすすめです

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「はぁ〜やらかした〜」

 

気の抜けた男の呟きが、部屋の中でわずかに反響する。

 

土曜日の休み、宝探し直前の大切な時期だ。他の教職員は今日もあそこで働いているかもしれないが、シュンスケはそうではない。

 

シンプルにバトル学の副担任という、比較的やることが少ない立場にいるのもあるだろうが、これまでの人生で決してやってこなかった事務作業ということに関してあまり期待されていないというのも、今日の休みの理由の一つではありそうだった。

 

だが今ここまで落ち込んでいる理由は、そんな少し同僚から期待されなかった程度のことでは無い。

 

生徒に対して、冷たいことを言ってしてしまったという、自責の念が彼を追い立てていたからだ。

 

「まだ10回もレッスンしてないのに、おせっかいだったかな〜」

 

レッスンとは、学園の生徒であるアオイに頼まれて放課後に行なっているバトルのマンツーマンレッスンである。

基礎的な知識をつけさせ、これまでのトレーナーとして学んだバトルのノウハウを限界まで詰め込んだ。

 

その授業の最中、彼女がバトルの目的から、精神的に追い詰められていることを知った彼は、かなりキツイことを言ってしまったのだ。

 

「ネモのことは助けようなんて考えない方がいい」

 

それは単にバトルの目的を否定するだけではなく、暗に友達を見捨てることを示唆している。

どちらかといえば大人びている彼女とはいえ、生徒は生徒、決定的な亀裂が生じてしまい、回復は難しいと思えた。

 

ふいにグゥと腹がなる。それはストレスからの腸の悲鳴などではなく、腹がすいたことを知らせるメッセージだ。

 

なんだかんだトレーナーとして楽しみも苦しみも味わってきた彼は、案外ずぶとい性格なのかもしれない。

 

「気分転換でもするか!」

 

少し歩いて遠い店にでも行ってみよう、パルデアの名産といえばなんだっただろうか。

 

昼まで洗っていなかった顔を洗うと頭がスッキリとする。軽く身だしなみを整え、ボールを腰につけると、彼は部屋を出た。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「よう、久しぶり!」

 

 

チャンプルタウンの東側、宝食堂という店のカウンター席に座り、メニューを見ていると後ろから懐かしい声。

 

ハルキ・タカハシ、シュンスケにパルデアで教師として働くことを進めた、同じカントーのトレーナーだ。

今はパルデアでリーグ職員をしていると聞いている。

 

ぼさぼさだった黒い髪は昔よりずいぶんと整えられており、整った顔立ちであるからスーツがよく似合う。

 

 

軽くあいさつを済ませると彼は確認もせずに、「どっこいしょ」とシュンスケの隣の席に座った、カウンター席だから自由だし、シュンスケがそれを拒絶するほど、彼らの仲は悪くなかった。

 

「ここは何が美味いんだ?」

 

「基本的に全部が美味いな、好きなの選べばいいと思うぜ」

 

自然に始まる会話の始まりは、宝食堂について。サイトでも高評価だったし、その言葉に偽りはないのだろう。

 

「しゃあラーメンひとつ」

 

『おれは焼きおにぎりセットひとつ!」

 

「はいよっ!」

 

空白の時間が生まれて、置かれている水を飲む。細かな氷の入った水が喉とほてった頭を冷やした。

 

 

 

他愛もない話がしばらく続いた。パルデアの飯、ポケモン、人々。

だがやはり、2人で話せば話題はこれにいきつく。

 

「最近どうなんだ、学園の方は」

 

コップをカウンターに置くと、彼は聞いてきた。

 

「まあぼちぼちかな」

 

「ぼちぼちか、それはいい!」

 

彼は大きく口を開けて豪快に笑う、懐かしい仕草だ。

 

出会ってから数えきれないほど何度も戦った。ジムへ挑戦する途中でも、それが終わった後の大会でもいくらか当たったことがある。

彼の相棒であるニドキングはタフで豪快、息の合ったコンビだ。

 

「でも、最近悩んでるんだよ」

 

「悩んでるって、なにが」

 

もちろん悩みとはアオイとネモのことだ。昔からよく相談に乗ってもらっていた。

いまや数少ない仲のいい友人でもあるし、打ち明けるのも悪くはないだろう。

 

「それがさ......

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

シュンスケの相談を、彼は黙って聞いていた。

 

ネモというチャンピオンは孤独で、アオイが危ういと。

 

ネモの強さに真正面から相対すれば、無事では済まないと。

 

楽しそうに、決して怒らず、店員から渡された焼きおにぎりを齧りながら聞いていた。

 

話が終わると、彼は感慨深そうに呟く。

 

「俺たち、大人になっちまったな」

 

「そんなに変わったか?俺たち」

 

質問に答えるため、ハルキは水で料理を流し込む。

 

「変わったよ」

 

さも確信しているような、そんな声色で彼は語る。

 

「お前も俺も、昔は身だしなみなんてほとんど考えやしなかった。金はバトルに使うから服はできる限り安いやつ、髪はボサボサで、匂いだけは最低限ポケモンに嫌われない程度の清潔感だったか。」

 

「まぁそんくらいだろ、教師と会社員やってるなら当然じゃないか」

 

 

「それだけじゃないね、俺たちは丸くなった。恐ろしいほどに」

 

淡々と、彼は冷たく言葉を紡ぐ、それは懐かしむようで、それは成長をかすかに喜ぶようであり、変化を悲しむようなものだったのかもしれない。

 

 

「俺たちは強さと、勝利しか見えてなかった。チャンピオンになるだとか、ジムバッチのコンプリートだとか、それぞれ目標は違ったが、結局俺たちはそれしか見ていなかった。」

 

 

確かにそうだったかもしれない、強さを求めて、僕らは必死だった。

 

 

「俺は今リーグで働いてるが、あの時の生き方に後悔はない。とにかく孤独で、苦しくて、心地いい暖かさはなかった、だがみんなが同じ熱を持っていた。焼けるような、本気のヤツらだけが持てる熱を」

 

 

暖かさと熱、似たような言葉ではあるが、それは違う。

 

周りの称賛も投げ捨てて、己のプライドを賭けて、相手に勝つと言う意思、たとえ誰に認められなくても強さを求めるものだけがバトルに携える、心の情熱がそこにはあった。

 

 

「みんな今はバラバラで、後悔してるヤツもいるかもしれないけれど、俺は過去に戻ったとしても同じ道をいく!強さを求めた人材を、俺は自分で誇りに思う!」

 

 

どんどん声が大きくなっている。周りに迷惑かもしれない。けれどこの先の言葉は止めてはいけない、聞かないといけないと、直感でわかっていた。

 

 

 

「ネモは、チャンピオンは俺たちが目指した姿で、アオイはあの時の俺たちじゃないのか!憧れた強さの結末が孤独でいいのか!」

 

 

 

 

 

「お前が2人を肯定しないなら、俺たちの人生に意味なんてないだろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

家でボールに触れる。モンスターボールを初めて持ったとき、僕は何を思っていたのだろうか。

 

6つのボールの柄はバラバラで、いくつかはボロボロ。

 

けれども僕の思い出が詰まった、1番の宝物だ。

 

覚悟は決まった、彼らに問う。

 

 

「また、力を貸してくれるか?」

 

 

 

ゆらゆらと、ボールがゆれた。

 

 

 

 

 

 




ラストスパート入ります。

書き終わってから初めて多機能ホームという存在に気づいたので、こっからルビ振ったり文字を大きくしたりするかもしれません、みんなこれでやってるんだ...

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