零から最強に成り上がった男、才能あふれる令嬢に転生する 作:暁刀魚
体を動かすのは楽しい。
そもそも私が力に魅入られたのは、それを振るうのが楽しかったからだ。
その事を、”彼女”から教えられたからだ。
しかし人間というのは窮屈なもので、力を存分にふるえる場所は限られる。
少なくとも、アリア・クルセディスタはここ数年、力を振るう機会が一度もなかった。
だから今は、実に気分がいい。
「周囲に魔物の気配はないな、残念」
森の中を駆けるだけでも、その爽快感は計り知れない。
人は、生まれた時から人という器に縛られる。
鳥のように空を飛ぶことはできないし、馬のような速度で大地を駆けることもできない。
マナをつかわなければ、だが。
だが、マナによる身体強化さえアレば人は人の域を容易に飛び越える。
その感覚の、なんと心地よいことか。
目立つわけには行かないため、空を飛べないのが残念だ。
魔物がいないのも、惜しいな。
「このまま、森を一周して探知をしたら帰る、か」
もともと決めていたことではあるが、探知に魔物が引っかからなかったら今日の探索はおしまいだ。
体を動かして調子を確かめることが第一で、魔物の討伐は二の次である。
前者にかんしては、かなりの成果があった。
現時点での私は、前世のだいたい齢五十程度の頃の実力がある。
マナ量はもっと多いのだが、肉体が出来上がっていないのと戦闘勘が戻っていないためだ。
それでも、その頃の私は周囲に自分と同格の存在がいなくなり始めた時期。
無能の私が、ようやく花開いた時期でもある。
ある意味で、全盛期だな。
「それに齢七つで到達するとは、あまりにもこの体は才能の塊ね」
マナに関しては、覚醒した当初の爆発的な増加を加味しても、前世の最大値にはまだ及ばない。
それでも、まだまだマナは鍛えられる。
肉体だって、前世のそれとは比べ物にならないくらい自由に動く。
あまりにも恵まれていた。
「天才とは、こういう景色を見ていたのか」
かつて、私を置き去りにはるか遠くへとかけていった者たち。
その後姿が、思い出される。
そして――彼らを追い抜いていった時の感覚も。
”彼女”が見せてくれた、景色も。
だが、今は。
「……どうやら、このまま夜の散歩というだけでは終わりそうにないな」
探知に、引っかかった気配が一つ。
どうやら、まるで図ったかのように魔物が出現したらしい。
さて、それがダスタウラスなら言うことはないのだが。
何が出るかと、少しだけ興奮しながら私は気配の方に足を向けた。
◯
そこにいたのは、牛の魔物だった。
間違いなく、牛の形をしている。
しかし――
「……小さいな!」
着地と同時に、その牛の魔物を蹴り飛ばす。
軽く小突く程度の一撃だったが、魔物は勢いよく吹き飛んでいった。
とはいえ、死んではいないな。
「ブラウンバッファローか、既知の魔物だね」
ダスタウラスではなかった。
しかも肉がまずいタイプの牛魔物だ。
もし見つけたら、焼いてこの場で食おうと思ってたのだが。
惜しい。
「さて、一応魔術師ということなのだから……それらしい戦い方をしようか」
魔術というのは、マナを用いて外部へ影響を与えるすべての現象を指す。
たとえばマナによる身体強化は魔術ではないが、他者を強化すると魔術になる。
治癒魔術も同様だ、自己再生と他者の治癒は全く別の現象である。
というのも、人間は自分の体内にあるマナしか操れない。
それを体外に放出して、何かしらの現象を巻き起こすには特有の”コツ”みたいなものが必要なのだ。
「中には、詠唱という形でそれを体に覚えさせるものもいるけど……私はあまり好かないね!」
爆発的に膨れ上がるマナ。
それを体の外に放出してから望む形に組み替える。
今回の場合は――私の手先からあふれる、光。
光弾を飛ばすのだ。
コレの利点は、光源の存在で夜でも視界が確保できるということ。
私は狙いをつけて、起き上がろうとしているブラウンバッファローにそれを叩き込んだ。
結果、一撃でブラウンバッファローは消滅する。
跡形もなく消し飛んでいた。
自分でも少しばかりびっくりした、威力が明らかに前世より大きい。
原因は、魔術を構築する際のイメージを、肉体が正確にマナへと伝えられているからだろう。
魔術というのは、マナさえアレば誰でも使える技術だ。
そこに才能の差はないと思っていたが、天才すぎるとこんなところにすら影響が出るのか。
「思わぬ収穫だった」
攻撃魔術なんて、日常的にぶっ放すものではない。
というか、魔術というのは学ばなければ使えない、魔術を習っていない今の私が使えるのは本来おかしいのだ。
だから今まで気付かなかったが。
結果として、人前で使う前に気付けてよかった。
簡単な火を生み出すつもりで魔術をつかって、業火が生み出されたりするのを他人に見られたら。
実力を秘匿するのも容易ではなくなる。
などと思いつつ。
「……それどころではないかな?」
高速で、こちらに迫る気配が一つ。
逃げることも考えたが、ここで戦闘が会ったことは見ればわかる。
逃げた方が警戒されるだろうということで、留まることにした。
やってきたのは――
「何者ですか! 貴方は!」
黒い装束に身を包んだ、ミイだ。
いや、いきなり蹴りかからないでもらいたいのだが。
慌てて回避しつつ、着地したミイと私は向かい合った。