枯れ尾花の君について 作:野花
本記は、著者たる加州清光以外の閲覧を厳密に禁じるものである。
これは、本丸「
主、義輝は、眉目の
美男子というより美丈夫だし、赤い薔薇より紅色の牡丹のようだった。
まあつまり、着飾ってるのが当然っていうか、華を肌身に纏うような、みればハッと目をとどめたくなるような…目が覚めちまうようないい男だった。
俺は主の初期刀に選ばれた。
権限でいろんな主君に合った話を、つとどこかから聞いていてね、それで、俺の主はどんないけずな男か、別嬪さんかね、と楽しみに権限したんだ。
ところが、目の前にいたのはずたぼろの戦装束の大男と、政府関係者らしきビジネススーツの人間。
戦装束の男は、顔に赤がこびりついて…かなり形相も雄々しげだったけど、俺を見ると破顔していったんだ。
「其の方が加州清光か!よろしく頼もう、予は足利義輝だ」
きれいに髭をたくわえたにしては、笑ったその顔が幼げで…かつての主の、あの人を思い起こさせた。気丈で、戦場で死ぬことをわかりきったような、立派な顔の…
「うん…俺が加州清光だよ。性能は自信あるから、いっぱい使ってね」
「ははは、刀を扱うのに、性能も何もあるまいよ!」
「ちょっともう!それ、俺みたいのにはけっこう効くよ…」
――・・・スーツ曰く、この、「足利義輝」と名乗った戦装束は、本物の足利義輝らしい。
生まれた時代がそもそも俺たち刀剣男士が要された時代の人間ではないとのことだが、それだけならまだ、時空を超えて審神者の適者を探した話も聞いたから、大したおどろきはなかったさ。
だが、この足方義輝は、どうやらなにがしかの手違いで、この空っぽの本丸に突如現れたらしい。しかも記憶もあいまいなのか、今自分が何をしていてここに来たのかも覚えていないってさ。
そもそもが、修正されようとする時代に生きていたような人物なのだ。そこらへんはさすがにスーツの役人らが十重に取り調べしただろう。
その結果、義輝は”審神者としての霊力をためる器が異様に大きい”ことがわかったのだ。
ただでさえ人不足とよく聞く審神者事情だ、そういった人物が現れて、利用しない政府ではなかったらしい。
どうにか審神者の仕事をつたえ、あとは初期刀と仲良く本丸運営をお願いしようってことで、ようやっとさっき、俺を権限させたのが、ことの次第だと。
「あんた…主さん…んー…義輝さあ、大丈夫なの?服もぼろぼろだし、戦の最中だったんじゃない。あんたを待ってる人もいるだろうし、帰れるなら元の時代に帰った方が…」
「何を言う、加州清光よ。予はちょうど将軍という地位を誰かに明け渡したいと思っておったのだ。…それに、ここに呼ばれたのも縁よ。予の執務を手伝っておくれ」
「…ははっ、なんだか、ほんものの将軍様にお仕えするみたいだね」
「はっはっは!」
義輝は俺の言葉に、朗々とした笑い声を返してくれた。
あの人と二人で本丸の門をくぐった日を、俺は忘れないと思う。
槍に刺し貫かれたように点々と開いた、背中の着物の穴を。
真正面から見た時では感じなかった、ちょっと寂しそうな背中を。
現れた時からぼろぼろの主なんて格好がつかないから、これは、俺が刀解されるまで、だれにも言わないでおくつもり。
でも、忘れたくはないから、こうして記しておく。