何もない真っ暗な宇宙空間。
生身の人間が放りだされれば10秒も意識が持たない場所。
不死身であるがゆえに死ぬことができず、しかし人間であるがために生存することができないベジータは、何度も何度も死亡と復活を繰り返していた。
身体が不死身となろうと精神は不死身ではない。
何度も窒息死を繰り返せば心に負うダメージは大きくなる。
そんな環境に晒されベジータは──
──エネルギー波で自分の心臓を貫いたのだった。
◆
時はベジータが地球を飛び立った時までさかのぼる。
あの日、ブルマに見送られ宇宙船に乗り込むベジータ王子を見て、ギネは昔を思い出していた。
それはとある任務でバーダックが大怪我を負い、帰ってきたとき。
『フリーザが裏切った』
開口一番にそんなことを言ってきたのだ。
困惑するギネをよそにバーダックは話を進める。
バーダック含むサイヤ人を皆殺しにせんとドドリアが襲い掛かってきたと。
自分は気を失い戦闘力が消えたことで偶然生き延びられたが、他のみんなは助からなかったと。
宇宙ポッドで急いで帰ってくる途中、惑星ベジータの近くにフリーザ軍の宇宙船が不自然に止まっていたのだと。
『フリーザはサイヤ人を皆殺しにする気だ。サイヤ人への帰還命令もそのために違いねえ。1ヶ所に集めてまとめて滅ぼすつもりらしい』
『そんな…!』
惑星ベジータはかつてないほどに賑わっていた。
いつもは惑星の制圧に出掛けているサイヤ人たちがフリーザの出した帰還命令により戻ってきて、いつもより賑わっていたのだ。
サイヤ人たちは久しぶりに顔を突き合わせた祝いに、あちこちでパーティーやら何やらを開いていた。
『カカロットは辺境の星にでも逃がす。飛ばし子としてな』
『飛ばし子…! 早すぎるよ、まだ言葉も教えてないのに』
『仕方ないだろう。そうでもせんとフリーザに滅ぼされてしまうかもしれんからな』
『そ、そんな…。だったら一緒に…』
『それもダメだ。オレたちはスカウターで居場所がバレてしまうからな。フリーザたちが見張っている今、撃ち落とされてしまうだろう』
幸い帰還命令のおかげで宇宙ポッドはたくさんある。
1つくらい盗んでもすぐにバレやしない。
絶対に生き延びて欲しい、また会いたい、そうした思いをのせてカカロットを遠く離れた平和な惑星、地球へと送った。
『…っ!? ちっ、またか』
『大丈夫かい! バーダック!』
バランスを崩しよろけるバーダックをギネは支える。
バーダックは右手で頭部を押さえながら
『ああ、どうってことねえよ。惑星カナッサで一撃を受けてからどうも調子が悪い』
『それって大丈夫なのかい?』
『大したことじゃない。時々変な映像が見えるだけだ』
『映像…?』
『ああ。今も見えたぜ? ギネとカカロットが抱き合っている映像がな』
バーダックが言うにはその映像はバラバラで一貫性がなく、知りもしない場所、知りもしない人物が出てくることが殆どなのだと。
メディカルマシンに入っても治らなかったらしい。
放っておけば治るだろうとのことで、バーダックは誰にもこのことを話していなかった。
『オレはフリーザと戦ってくる』
「そんな!? 無茶だよ、いくらバーダックでも』
「そんなことは分かってる。だが、オレは何もせずじっとしてることはできねえ。オレもサイヤ人だからな』
サイヤ人。
戦闘をこの上なく楽しく感じる生粋の戦闘民族。
これから戦いに行くというのに、バーダックの表情に楽しいという感情はなかった。
負けると分かっていて戦いを挑むのだから。
『大丈夫だ。たとえサイヤ人が滅びようとも、それで地獄に落ちようとも、そのときは一緒だ』
『うん、約束だよ』
しかし、その約束が果たされることはなく…。
フリーザへ挑んだバーダックは真っ先にフリーザの放ったデスボールに焼かれ、その数十秒後には惑星ベジータに着弾したデスボールが惑星の中枢を破壊し、大爆発に巻き込まれてギネを含むサイヤ人諸共滅ぼされた。
バーダックとは生前、死後、復活後も含めて一生の別れとなってしまい、どこにいるか見当もつかない夫を探し続ける羽目になってしまった。
(あの二人は昔の私とバーダックにそっくりなんだ)
たった一人でフリーザとの最終決戦に向かうバーダックの姿と、ブルマに見送られフリーザを滅ぼしに行くベジータ王子の姿が、不思議と重なった。
2人の容姿は似ても似つかない。
だというのに姿を重ねてしまったのは、未だに私がバーダックと再会できていないから。
フリーザと戦いに行くという強い決意を抱き、戦いに向かうその背中へと手を伸ばし……けれど、引き留めることなんてできなくて。
そのときのことを未だに引き摺って、何度も何度も夢に見ているからこそ、重ねてしまったのだろう。
だからなのかもしれない。
こうして衝動的に行動を始めたのは。
「ねぇ、神様」
ギネは神殿を訪れていた。
神殿の奥から神様が姿を現す。
「何の用だ?」
「ちょっとドラゴンボールについて聞きたいことがあってさ」
「ドラゴンボールについてだと…?」
「うん。フリーザを滅ぼすみたいな願いは叶うのかい?」
ドラゴンボールは何でも願いを叶える。
だが、より正確には”基本的に”何でも願いを叶えるというのが正しく、例外は存在している。
「フリーザ……というのは、サイヤ人を滅ぼした者のことか?」
「そうだよ」
「だとしたら無理だ。ドラゴンボールは私が作った。私の力を超える願いは叶えることができん」
「……やっぱりか」
返ってきた答えはギネの予想通りのものだった。
ギネは次の質問を投げかけることにする。
「じゃあ、ベジータ王子の記憶からフリーザのことを消すっていうのは?」
「それなら可能だ。……しかし、本人の意思に反して願いを叶えることはできん」
「そっか…」
もしも、ベジータ王子の記憶からフリーザが消えれば戦いを挑むことは無くなる。
そう思ってのことだったが、どうやらドラゴンボールは製作者の力を上回る願いは基本的に叶えることができず、相手に干渉するには許可が必要なのだという。
だが、そんなことをベジータ王子が許すはずもない。
同様の理由でベジータ王子を地球へと転移させるというのも無理だ。
どうやってもベジータ王子とフリーザの激突は止められない。
手を出すとしたら、戦いの決着が着いた後。そうでないと絶対に王子はフリーザのことを諦めない。
でも、それではタイミングが遅い。
如何に不死身とはいえ、ギネにはどうにも嫌な予感がするのだ。
このままでは、ベジータ王子が二度と地球に帰ってこなくなるような気がしてならない。
「だったら、ベジータ王子が叶えた不死身の願いに条件を追加するのは? 例えば、身体が粉々になるくらいのダメージを負ったら地球に強制転移させるとか」
「それも無理だ。ドラゴンボールで同じ願いを二度叶えることはできん」
ベジータは不死身の肉体のほかに様々な注文を付けた。
そのせいで追加の注文をすると、同じ願いを叶えるという風に解釈されてしまうそうだ。
どうして同じ願いを叶えられないかと言えば、ドラゴンボールの製作段階でそういう風に作ったから。
同じ願いを叶えることができるように作り変えることもできるらしいが、それには新しくドラゴンボールを作り替える必要があり、かなりの月日が掛かってしまうのだそうだ。
(一体どうしたら…)
問答の末にギネは頭を抱える。
ドラゴンボールを使えば助けることができるかもしれないと思っていただけに、それができないとなるともうどうしようもない。
もともと、ドラゴンボールは他者を害するように作られていないのだろう。
実にナメック星人らしい代物だが、こういう形振り構っていられない場合には非常に面倒である。
「ベジータを助ける方法ならある」
「……えっ」
そんなときに神様から助け舟が出される。
「ナメック星のドラゴンボールを使うのだ」
「あぁ…! そっか…!!」
ギネは神様の言葉に自分の視野が狭くなっていたことを反省する。
そうか、その手があった!
「ナメック星のドラゴンボールはやっぱり強力なのかい?」
「強力だとも。私が作ったものよりよっぽど」
「だったら、その願いでフリーザを?」
「いいや、それはムリだ。あちらのドラゴンボールも、製作者を超えた願いを叶えることはできん」
本場のドラゴンボールならできるかと思ったが、やはり無理なようだ。
それもそうか、それが可能なら宇宙からとっくに悪は滅んでる。
「あちらのドラゴンボールならば同じ願いを叶えることもできる。先ほど言っていた不死身の条件の追加というのもできるだろう」
もちろん、ベジータの存在を脅かすような条件の追加はできない。
だが、その辺は上手く考慮すればどうとでもなる。
ドラゴンボールは意外と融通が利くのだ。
「だったら、神様の宇宙船を借りてもいいかい? それから、私じゃナメック語が分からないから出来れば神様にもついてきて欲しいんだけど」
「宇宙船を使うのは構わん。……だが、私は今地球を離れることはできん」
「えっ…」
「ちょっとばかり地球で面倒なことが起こっておってな。私はそれから目を逸らすことができんのだ」
神様の瞳には強い決意が見えた。
ベジータやバーダックと同じ強い意志を秘めた瞳。
それを見てしまっては、ギネも引き下がるしかない。
「しかし、お主には故郷を教えてもらった恩もある。私の代わりにミスターポポを連れて行くといい。ミスターポポもナメック星にも行きたがっていたし、ちょうど良い機会だ」
どうやら以前ナメック星に行ったときは神様一人で行ったそうだ。
ミスターポポは神様代理人として神殿を守っていた。
「お主の願いは誰かを救いたいという純粋なもの。きっとナメック星の長老たちも認めてくださることだろう」
話を聞く限り、ナメック星のドラゴンボールを使うには各村の長老が出す試練に挑み、認められなければならないらしい。
邪な心のある者にボールを使わせないための試練。
昔は惑星制圧をやっていたこともありギネは認めてもらえるか不安だったが、そう言われてしまえばなんとなく自信も出てくるというもの。
よし、頑張ろう。
そう思いミスターポポに宇宙船の場所まで案内してもらおうと声をかけようとしたところで──
「──ちょっと待った!!」
そこに、一人の少女の声が響いた。
というか、聞き間違いでなければこの声は
いったい何処にいるのかとその姿を探していると、その少女──ブルマは突然姿を現した。
「話は聞かせてもらったわ! ナメック星には私も連れていってちょうだい!」
突然のブルマの登場に唖然とする一同。
神様とポポは目をぎょっとさせ、ギネも驚きを隠せず開いた口が塞がらない。
僅かな静寂のあと、いち早く調子を取り戻した神様がおずおずと言った様子で尋ねる。
「お主、何処から現れたのだ?」
「これを使ったのよ。じゃーん! 名付けてミクロバンド!」
「みくろばんど…?」
「そう! 私が作った道具の一つで、ボタンを押すとこうやって身体を小さくすることができるのよ。ほら!」
ブルマが腕につけた時計のようなものをポチポチッと操作すると、言った通りに身体が小さくなり、もう一度ボタンを押すと元の大きさに戻る。
「あとは、追跡メカに乗ってギネの跡を追ってきたのよ」
「わ、わたしの?」
「そうよ。だって、明らかに言動がおかしかったんだもの。急に私が作ったスカウターが欲しいとか言い出すし。何かあると思ったのよね~」
うまく隠したつもりだったがバレていたか。
ドラゴンボールで願いを叶える際にベジータ王子に話を通す必要があるかもしれないと思い、適当な理由を付けて欲しがったが……どうやらお見通しだったようだ。
「でも、結構急いで飛んでたはずだけど、よく着いてこられたね」
「何言ってるのよ。これくらいどうってことないわ。この1年以上、私が一体誰の相手をしてたと思ってるのよ」
そうか、そうだった。
ブルマはベジータ王子の成長速度に匹敵するレベルでポンポン兵器を開発していたのだ。
ギネの動きを捉えることなど容易いことだろう。
「さあ! 宇宙船なら私が開発した最新式のものがあるわ! 今すぐナメック星の場所を教えなさい! 超特急で向かってやるんだから!」
ブルマの作った宇宙船は素晴らしかった。
スピード特化ということもあり、その最高速度はサイヤ人が一般的に使用していた宇宙ポッドの10倍以上。
3年前、悟空の乗ってきた宇宙ポッドを解析・修復するのみならず、さらに改良して複数製造していたのだ。
あっという間にナメック星へと到着し、ドラゴンレーダーを片手にエアカーでナメックの地を爆走した。
ナメック星人が出す試練もブルマはものともしない。
知恵比べでは圧勝し、力比べでは科学力を以てナメック星人をも打ち倒し、誰かを助けたいという純粋な願いは穏やかなナメック星人たちの心にジャストミートした。
「よろしい。貴方の願いはとても純粋なもの。ドラゴンボールを使うことを認めましょう」
そして、遂には最長老をも認めさせドラゴンボールを7つ集めて見せた。
これにはギネも半笑いを浮かべるしかない。
ブルマはもはや何でもあり過ぎる。
「願いを言ってください。ポルンガに頼むには、ナメック語で言う必要がありますから」
願いは何かと言うナメック星人。
迷うことはない、もう何を願うかは決めているのだ。
「ベジータ王子が自ら命を絶つようなことがあれば、ブルマのもとに強制転移させて欲しい」
ギネの言った言葉をナメック星人がナメック語へと変換しポルンガに伝える。
拒否されることはなく無事に願いは叶えられたのだった。
ベジータ王子とフリーザの戦いの邪魔はできない。
強者の意志はドラゴンボールの願いすら拒んでしまうからだ。
だから、その意思に逆らわないような願いならば───ベジータ王子自身が選択可能な願いならば拒否されることはないだろうと考えた。
そしてその予想は見事的中。
ブルマお手製のスカウターからベジータがフリーザに宣戦布告を行っているのを聞いたあと、スカウターを繋いで急いでベジータに叶えようとしている願いの内容を伝え…。
どうにかこうにかベジータ王子とフリーザが戦いを始める前にボールを集めて願いを叶えることができたのだ。
そして願いを叶えて数刻後……
「ちっ…まさかあんなくだらん願いの世話になることになるとは。くそったれが…」
「ベジータ!!」
ブルマが目じりに涙を浮かべ抱き着く。
ベジータはそれを鬱陶しそうにするものの引き剥がしまではしない。
ベジータとブルマは再会を果たしたのだった。
一方そのころ…
悟空「ク、クリリンが……殺された…!」