ブルマ達が宇宙へ出かけているあいだに地球ではピッコロ大魔王が復活し大暴れしていたそうだ。
テレビでは被災した地域の中継がひっきりなしに流れ、別のチャンネルでは国王が「ピッコロ大魔王は勇敢なる少年の手により倒されました!」と平和宣言を発表していた。
ピッコロ大魔王という奴はキングキャッスルを襲い、国王になり代わっていた。
恐怖のどん底のような世の中を作ると宣言し、平和を謳う者は国王に逆らったと罰として処刑すると言い放ち、すべての悪人が自由に行動できるよう凶悪犯たちを脱獄させた。
その影響で街のあちこちでは警察がうろうろしている、まだ何人か行方の知れない凶悪犯が街に潜伏しているそうだ。おかげで街を歩きづらいったらありゃしない。
まったく、ピッコロ大魔王っていうのはどんな奴なのかしら!
怒り心頭にその顔を見たブルマは
「あれ、ナメック星人じゃないの」
そこに一切の恐怖などない。
悪いナメック星人っているんだとちょっと驚いただけだった。
◆
ほぼ同時刻、ギネもピッコロ大魔王のニュースを聞いていた。
しかも、聞くところによればそのピッコロって奴を倒したのはカカロットだと言うではないか。
ギネは今すぐにでもカカロットに会いたくなった。
しかし、彼女に連絡手段などない。
どうしたものかと考え、うちの息子はどこに行ったのかと知り合いに尋ねまわり、その答えは亀仙人のおじいさんから聞くことができた。
「悟空なら天界にのぼりおったわい」
「天界に…?」
どうしてそんなところに…?
そう疑問に思ったが、話を聞いてみるとそのピッコロ大魔王という奴はなんと神龍を殺してしまったらしい。
それによりドラゴンボールが使えなくなってしまったから、直してもらうよう神様に直接頼みに行ったのだそうだ。
亀仙人のおじいさんやクリリンくんも先ほど生き返らせてもらったばかりとのこと。
神龍って殺せるんだ…。
聞いた話の中でそれが一番の衝撃だった。
「それじゃあ私も天界に行ってくるよ」
ギネは別れを告げ天界へと飛び立っていった。
友達の家に遊びに行くような気軽さで天界に行くという言葉に唖然とするみんなを置いて。
天界に向かうと、だだっ広い神殿の真ん中くらいの場所でカカロットが座禅を組んでいた。
ミスターポポに見られながら、目を閉じてジッと瞑想している。
「何してるのさ?」
「母ちゃん!?」
声をかけるとカカロットが驚いた声を上げる。
姿を見るのも随分と久しぶりだ。3年ぶりと言ったところだろうか? いや、もう少し短いかな?
「何でここに?」
「そりゃあ息子の様子を見に来たに決まってるじゃないか。世界を旅するって言ったきり会ってなかったからね」
サイヤ人の基準では数か月単位で会わないのは割と普通なことだ。
宇宙ポッドで移動を繰り返すためすれ違いになることも多く、伝言がある際もスカウターで事足りる。さらには惑星の制圧に数週間、数か月かかるのは当たり前のことで、母星へと帰らずに次の任務へと向かうこともざらである。
ギネ自身もバーダックに数か月合わなかったことは何度もある。
そのため、しばらく会ってないと思うことはあっても、寂しいと思うことはほとんどない。
今回無性に会いたくなったのは息子の活躍を聞いたからだ。サイヤ人らしく強く成長する姿に胸がほっこりする。
「悟空がやっておるのは気の修業だ」
すると、神殿の奥の方から神様が出てきて教えてくれる。
だが、ギネにはそれがいまいち分からない。
「気? それって何なんだい?」
「身体の内側にある力のことだ。空を飛ぶときに気を巡らせるだろう?」
「エネルギーのことかい? あんまり意識したことはないかな。ちょっと力を込めれば空くらい飛べるし」
サイヤ人にとって空を飛ぶことは義務教育に等しい。
幼い頃に歩き方や読み書き、言葉の話し方を覚えるのと同じように、空の飛び方を覚える。気の巡りを意識せずとも、そのくらいのことは簡単にできる。戦闘力の高いサイヤ人にとってそのくらい造作もないことだ。
「ナメック星人が魔法みたいな力を使えるのはその気ってやつのおかげなのかい?」
「それだけではないが……気の扱いを覚えることはあらゆる術の基礎となることは確かだ」
「へぇ……」
「おぬし、全然分かっておらんな?」
「うんまったく」
気と言われてもピンとこないギネにミスターポポが実演して見せる。
ミスターポポは目に布を巻いて何も見えないようにする。そして、自分が鬼をやるから自由に逃げていいとカカロットに言ったのだ。
「それは流石に無茶じゃないかい? だって見えないじゃないか。私だって捕まえられないよ」
「ふふ、見ておれば分かる」
今からやろうとしているのは目隠し鬼ごっこ。
だが、とてもじゃないがギネにはカカロットが捕まるようには思えなかった。
目というのは一番大事なものだ。相手の動きが見えなければ戦いにすらならないから、目を意識的に鍛えるのは当たり前のこと。
攻撃を避けるにしても、攻撃をするにしても視力が良いかどうかはとても重要なのだ。
もしも視力が損なわれることがあれば、如何に戦闘力が高くても戦線を離脱せざるを得ない。
カカロットはミスターポポからある程度距離を取ると一気に跳躍し木の上へと登る。それから、何度かジャンプをして木の上を飛んで進むと、もう一度飛び上がり神殿の屋根の上に飛び乗る。
ミスターポポはピクリとも動かない。
「やっぱり無理じゃないかい? だってピクリとも動かないじゃないか」
「黙ってみておれ」
ポポが動き出したのは次の瞬間だった。
縦横無尽に動き回ったカカロットのことを完全に見失っているはずなのに、迷うことなくカカロットのいる方へと一直線で向かっていく。
カカロットも慌てて迫るポポから逃げ出し、方向転換をしたり跳躍したりして不規則に逃げ回るがすべて無駄。まるですべて見えているかのような動きで、カカロットの動きを完全に模倣して追いかける。
「ぎゃっ…!?」
「捕まえた」
そしてカカロットは捕まった、あっさりと。
音で居場所を割り出したり、気配でどこにいるかを判断するといった感じではない。
そんな間接的な方法ではなく、もっと直接的な方法で、それこそ実際に見えているかのような動きで追いかけていた。
「ねえ、あの布もしかして透けてない?」
「そう思うなら試してみるのだ」
ミスターポポが目に巻いていた布を貰い目の前に掲げてみる。
うん、まったく透けていない。
目の前が真っ暗だ。
「これが気を読むということだ。気を読むことができれば、相手の居場所や強さを判断することができる。相手の動きも気の揺らぎで予測することができるから、動きを先読みして目で見て行動するよりずっと早く行動することも可能だ」
「……スカウターに頼らずとも戦闘力を測れるのか」
「そういうことだ」
ナメック星に行ったとき、ナメック星人は気配のようなもので私たちの接近を感知していた。
そのときは音や気配で気付いたのかと思っていたが、おそらく私の戦闘力を感じ取って接近に気付いていたのだろう。
戦闘力を上下させる民族というのは一定数いる。
ナメック星人もその一人なのだろう。その中でも一際コントロールが上手で、魔法のような術を使うこともできる。
戦闘力を上下させるのはこういう理屈があったのか。
力を隠しているわけじゃなかったんだね。
「それで、これを習得するために座禅が必要なのかい?」
「左様。心を落ち着かせれば気を感じることもできよう。特に悟空はジッとするということができておらん。体力があることは素晴らしいが、精神を鍛えねば底は見えているというものだ」
サイヤ人的な考えでは戦闘力が高くて戦闘経験を多く積めばそれでいいと思うのだが、ナメック星人の視点ではそうではないらしい。
身体ばかりではなく
そうして、気を感知するための修業が始まった。
その内容はジッと瞑想して己の内側に眠る力を身体全体に巡らせるというもの。悟空は要領が掴めないまま、1日、また1日と日が経っていく。
「なあ? 本当にこれって意味あるのか?」
「意味はある。おまえ、雷よりも早く動くことができても、空のように静かに構えることができてない。それじゃあ全然力を活かせてない」
「ふひ~~」
修行にしても冒険にしても、身体を動かすのが日課の悟空にとって精神の修業というのはつらく苦しいものだ。
身体を鍛える修行は亀仙人のもとでやったことがある。自分よりはるかに強い相手に打ち負かされたこともある。負ければ殺されてしまうような戦闘なら何度か経験したこともある。
ただ、それらはすべて肉体的なもの。
精神的なものではない。
気の扱いを学ぶのが難しいのは、それを知覚すること自体の難易度が高いからだ。
身体を鍛えるのはただがむしゃらに動けばいいが、気の扱いという抽象的なものについて学ぶ場合はそうはいかない。
繊細さ、綿密性、精密性。
そうした精神性が必要になってくるのだ。
どこまでも戦闘が大好きな悟空にソレを求めるのは酷というもの。
育ちは地球とはいえその性根は何処までもサイヤ人なのだ。ナメック星人式の修行法は向いていない。
なかなか上達しない日々が続いた。
「ねえ、やっぱりああやってジッとしてるのはサイヤ人向きじゃないよ。もっと闘争心を刺激するものじゃないと…」
「しかしな…」
ギネの指摘に神様も言葉を詰まらせる。
神様自身も悟空にこの修行法が向いているとは思っていないからだ。
しかし、これ以外に気の巡りを知覚する方法を教える方法を知らないというのもまた事実。結局、指導というものは自分と同じことを効率的になぞらせることがほとんどである。
「だったらさ、何かカカロットを奮起させるような言葉はないのかい? 下界のことならなんでも見えるんだろう?」
「そう言われてもな…」
神様だからといって何でもできるわけではない。
立場が神となっただけで、その本質は一端のナメック星人なのだ。
悟空を奮起させるような言葉なんて、そう都合よく思いつくわけが──
「──あっ」
そこで、神様は思い出す。
悟空を奮起させる絶好のネタを。
「悟空よ」
そして意気揚々といった様子で悟空に話しかける。
日々の精神修行で疲れ果て心なしかげっそりとした表情のまま悟空は神様を見上げ…
「これは私が偶然見たものなのだが、ベジータは気の操作ができておったぞ」
「えっ…!?」
次の瞬間、雷に撃たれたかのような衝撃を受けた。
「ベジータって、めちゃくちゃ強いだけじゃないんか!?」
「その通りだ。ベジータは私の目から見ても戦闘の天才だ。センスの塊のようなヤツだと言ってもよい。師もおらず、気の概念すら知らないというのに、独学で気の操作を身につけおった。にわか仕込みではあるがな」
神様は語って聞かせる。
かつて、ベジータの修業を覗いたときに見た光景を。
それは重力室でのこと。
西の都から程離れた場所に設置されたその一室はベジータのトレーニング用に世界最高の科学技術をふんだんに盛り込んだ施設で、その過酷さは精神と時の部屋にも匹敵する。
その施設内には気攻波──エネルギー波を増幅して反射する装置があり、ベジータはこれを利用して自身の攻撃を何度も反射させて攻撃回避のトレーニングをしたり、倍増した威力のエネルギー弾を迎え撃つといったことをしていた。
そのとき、無茶という言葉を知らないベジータは際限なくエネルギー弾を反射させ、ブルマが作り上げた装置が耐えきれずオーバーヒートするまでにエネルギー弾の威力を増幅させてしまったのだ。
しかも、不運にもその一撃は絶対に避けられない軌道でベジータに向かっていった。
このままでは死んでしまうと直感したベジータは咄嗟にギャリック砲を放ち、なんとかエネルギー弾を迎え撃つことに成功!
重力室内部が大爆発を起こすだけで、ベジータの命や重力室自体に別状はなかった。
そのときベジータが放ったギャリック砲。
構えこそ異なるものの技の性質は亀仙人のかめはめ波に非常に酷似している。
しかも、注目すべきは気をただ放出するだけでなく練り上げていたことで、両手の掌にぎゅっとエネルギーを集めることで本来の実力以上の力を一時的に発揮していた。
これを天才と言わずして何と言うか。
「悟空よ、このままではベジータとの差が埋まることはないぞ」
「ッッ…!?」
ベジータとの差が埋まらない。
それはイヤだ、絶対にあってはならない。
ベジータが強くなるのは嬉しいが、自分が強くなれないのはすごく嫌だ。
「だったら、一緒に修行頑張るしかないね」
「……母ちゃん」
「ベジータ王子を絶対に超えてやるって言ってただろう? 私も気ってやつに興味が出てきたからさ。一緒に修行しようよカカロット」
ギネは悟空の肩をポンと叩く。
すると、淀んでいた悟空の気分も晴れていく。まるで青空のように。
「よぉし! オラ頑張るぞ!」
悟空「気って何だ? よく分かんねえ」
ベジータ「穏やかさってなんだ?」
こいつら仲良しか?
【ベジータの気の操作について】
原作においてベジータ(戦闘力1万8000)のギャリック砲と悟空(戦闘力8000)の3倍界王拳かめはめ波が拮抗するという有名シーンがある。
演出は最高の一言なのだが、よくファンからは「何で3倍界王拳で押し切れないんだ!」と突っ込まれる。
そのため、本SSではベジータが独学で気の操作を習得していたことにします。
ナメック星でもすんなり気の感知を習得してたし、才能はあったんや。