ベンがハルツィナ樹海をあてもなく彷徨ってから、既に数日は過ぎようとしていた。
いくら歩いても森を抜けるどころか人の気配すらない。出会うのは凶暴なモンスターばかり。
そして襲いかかってくるモンスターたちをオムニトリックスで変身しては返り討ちにする。
そんな状態が続けばさすがのベンでも気が滅入ってくる。
「かかってこい!正義の鉄拳を受けてみやがれ!!」
そして今も、初日に戦った狼のモンスターと、何度目かわからない戦いを繰り広げていた。
「ったく、毎日飽きもせず追い回しやがって!この俺がそんなに美味そうに見えるってのか!?」
赤い肌に4本の腕を持つ筋骨隆々な巨漢。ベンがこの姿につけた名はファーアームズ。
四つの黄色い複眼がモンスターたちを睨みつけている。
4つの剛腕を駆使して次々と殴り飛ばしていく。
「うぉらぁ!」
真正面からの正拳突きを喰らわせる。風圧が巻き起こる程のパワーで殴られた狼は血反吐を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
しかし隙をつくように、1匹が背後から飛びかかる。しかしフォーアームズはそれを背負い投げで地面に叩きつけた。あまりの馬鹿力に地面が大きく割れ、巨大なクレーターができる。
さらに近くの大木を抱き抱えると、いとも簡単に根元から引っこ抜いて、そのまま乱暴に振り回す。
「お前らの相手はもううんざりなんだよ!ホームランだ!!!」
4本の腕全ての力が込められたフルスイングによって、狼たちは纏めてうち飛ばしてしまった。
敵があらかたいなくなったことを確認し、胸のオムニトリックスのマークを叩く。体が緑色に光り、その巨体が徐々に縮んでいくと、元のベンの姿に戻っていた。
「ったく、なんなんだこの森。行けども行けども霧ばっかで全然変わんない。誰だよ自然は友達とか言い出した人は」
ここ数日、いくら森を進んでもクラスメイトは誰1人として見つからない。そのうえその辺で見つけたよく噛むと酸っぱい汁がでる枝でなんとか飢え誤魔化す日々。
グゥ〜〜〜〜〜
獣の呻き声かと思うほどの音が森中に鳴り響く。
しかしフォーアームズが暴れ回ったせいで、もうこの辺りにモンスターはいない。
音の正体は、ベンの腹の虫だった。
「ハァ……。この辺りにスムージーの店ってないの?」
あるわけがない。空腹がいきすぎて変なこと言い始めるベン。
枝で飢えを凌ぐもの正直限界がきていた。その時、あるものが目に止まる。
それはフォーアームズが殴り飛ばしたモンスターの死骸だ。
それを見て、今まで考えたくなかったことがベンの思考を埋め尽くしていく。
「いやいや、流石にこんなの食べる気にならないって。これならじいちゃんのゲテモノ料理の方がまだマシだよ」
『ゴミ虫だましの幼虫だ。新鮮なのは手に入りにくいんだ。これが最高のご馳走な国もあるんだぞ』
『羊のタンのスモークもあるぞ?』
『食用ミミズだ。プロテインたっぷり!』
「ウゲェ〜…前言撤回。どっちも変わんない」
あまり思い出したくない記憶を掘り返してしまい、余計に気分が悪くなった。
ため息を吐いてそのまま立ち去ろうとするも、また腹の虫が鳴る。今度はさっきよりもデカい音で。
「はぁ…。これだけは使いたくなかったけど、そうも言ってられないよね」
そう言ってウォッチのダイヤルを回し、人差し指で弱々しく押し込んだ。ウォッチから緑色の光が溢れ出る。
身長が縮み、皮膚が緑色に変化ししていき、デフォルメされた二頭身のカエルのような姿へと変貌を遂げた。
「感謝しなよ。この食物連鎖の頂点、アップチャックが全部平らげてあげるから」
粘着性のある触手のような舌が4本、口から飛び出す。舌で狼を絡め取ると、そのまま口の中へと放り込んだ。
明らかにその小さな体には入りきらないサイズなのだが、このカエルのようなエイリアン、名前はアップチャックの胃袋は一種のワームホールになっており、どんな物でも消化、吸収することができてしまうのだ。
「うん、食べれる。てことはやっぱこの肉、とんでもないゲテモノなのかも」モグモグ
どんなものでも食べることができるアップチャックだが、不思議なことに普通の食べ物は摂取できない。以前ピザを食べてみたらそのまま吐き出してしまったことがある。
今目の前の肉を食べれるということは、つまりそういうことなのだ。
しかし背に腹には変えられないため、目の前の肉を次々と丸呑みにしては咀嚼し、胃に収める。
「あれ?なんか力が湧いてくる!これすごいじゃん!?」
アップチャックはわりとよく変身するのだが、今までにない、全身に電撃が迸るかのような感覚に気分が高揚していく。
大木が目に止まる。ベンはふと思った。
今ならものすごい攻撃ができるんじゃないかと。思わず口角が吊り上がる。思いついた途端、すぐに行動を起こすのがベンという人間である。
食べた物質がアップチャックの腹の中で吸収され、エネルギーに変換していく。
そしてそのエネルギーは体の許容量を超えるほどにまで膨張し、逆流を始める。
ゲェェェェェ!!!!
緑色に光る吐瀉物が、アップチャックの口から吐き出された。
汚いことこの上ないが、これがアップチャックの種族__グルマンドの戦い方である。
稲妻を纏った吐瀉物は、まるで弾丸のようなスピードでまっすぐ飛んでいき、大木に命中した。
ドカァァァァァァン!!!
ダイナマイトが爆発したかのような轟音が周辺に響き渡る。
爆発の余波によって、周辺の木々はまとめて吹き飛んでいき、あまりの衝撃にアップチャックも思わず吹き飛ばされてしまった。
吐瀉物が着弾したはずの木は、一片の灰すら残さず、跡形もなく消滅していた。
「こりゃすごいや!今までの火炎ゲロの中で一番の出来だ!」
その辺のガラクタやエネルギー物質を食べた時よりもずっと強力な攻撃ができたことに驚嘆するアップチャック。満足げに仰向けになり胸のマークを叩くと、元のベンの姿に戻った。
「うげぇぇぇ…不味いうえに胃もたれしそう」
アップチャックの副作用、もしくは後遺症とでもいうべきか。変身を解除しても味覚や胃の満腹感などはそのまま残るようで、苦しそうに腹部を刺さっている。初めて変身した時は口からネジが飛び出したこともあったが、おおい今回はそれよりひどい。
しかしかなり強引かつ変化球な方法でだが、なんとか飢えを凌ぐことに成功した。味は最低最悪だが。
一応腹が満たされたことで、色々と考える余裕が生まれる。
そしていま自分がこのような事態に巻き込まれた原因を改めて考えている。
「ていうか、ここってやっぱり地球とは別の星なのかな?昔同じようなことあったし」
かつて友達だった敵と共に、宇宙人の闘技場に拉致されたことを思い出す。あの時はなんとか闘技場にいたとあるエイリアンの助けもあって地球に戻ることができたが、今回はそう簡単にいきそうにもない。
「それともあいつの残党が……いや、そんなはずはない。あいつは確かにあの時……」
脳裏に浮かぶのは、タコような頭部を持つ恐ろしいエイリアンの大ボス。
決着をつけてからすでに7年の月日が流れたが、今でも夢に出てくる。決して消えない忌まわしい記憶と共に。
しかしそんなはずはないと奴の存在をすぐに思考の隅に追いやった。
「ジュリー…それにハジメ……先生…クラスみんな…大丈夫かなぁ……待ってなよ…ヒーローが必ず助けにくるから……」
強烈な眠気がベンを襲った。空腹が満たされたことに加え、これまでの疲れが一気に襲いかかってきたのだ。
瞼がどんどん重くなり、意識が遠くなっていく。
「おい!おい貴様!!」
「ん?」
すると突然頭上から声が聞こえた。
「何故人間がこの樹海にいる!?ここ数日暴れ回っていたのは貴様か!?」
視界に映るのは、虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の大男の集団だった。
その光景を見てさっきまでの眠気が嘘のようになくなる。
ひとまず体を起こして両手を上にあげ、無抵抗であることを示す。
「これ以上トラブルは勘弁なんだけど…」
思わず顔が引き攣ってしまうベンであった。
ハジメは神水で魔物の肉を攻略しましたが、ベンはアップチャックを使うという超変速的な方法で攻略。こいつ無印の追加エイリアンの中では妙に出番が多いっすよね〜。最終回のトリも務めてますし。
今は無印のエイリアンたちの登場がメインですが、近いうちにエイリアンフォースやアルティメットエイリアン組もどんどん出す予定です。お楽しみください。