憑依体質の忌み子を見つけたから鍛えてみるわ 作:なめこばたー
土地の痩せ、寂れた寒村。
そこに根を下ろす住民達もまたやせ衰えていた。
彼ら彼女らは一人の男に群がっていた。
かぶり笠を深く被り、黒い着物から覗く引き締まった肉体は確かに修練者のそれであった。
傍から見ても、男は外様から来た事がわかる。
そして、その男に皆救いを求めているのだ。
「ほ、本当にどうにかしてくれるんですね…!?」
群がった村民の1人が、眼下の窪んだ瞳から縋るようなを光を滾らせて男に唾を飛ばす。
「あの忌み子を…!奴を……」
男はその先を言葉にしなかったが、それでも求めている所はすぐに察しのつく事であった。
――殺す。消す。祓う。
男を囲む村民達は一様にそれを望んでいる。
それを認めると、男は編笠を少し持ち上げて言った。
「あぁ、任せておけ……!」
常人であるなら居竦むであろう村民達の狂気を、霊媒師である男は真っ直ぐに見つめ返した。
☆
俺は転生者であった。
チート能力を貰い、異世界に飛ばされ、
ハーレムを作り、魔王を討ち滅ぼして世界の危機を救った。
その後特にやる事が無くなったため、
(本当はある。でも世界は平和になったから気にしない)
ぷらぷら旅をしていた所、
(本当はだめ。でも世界は平和になったから気にしない)
「東の地」なる明らかに日本モチーフの大国がある事が判明した。
行くしかねぇだろ。俺は思った。
「東の地」は巨大な孤島な上に鎖国しており入国は難しいということだったが、大ジャンプして入国。
期待通り和製ファンタジーっぽい外観に俺はにっこりした。
てきとーに観光して日本食食ったら帰る腹積もりだったが、「妖怪」なる存在に東の地は滅ぼされそうらしい。
これを消すなんてとんでもない(日本食)
さくっと妖怪を滅ぼし、その手柄をもって鎖国を解除し、日本食を世界に流通させようという雑な動機のもと、俺は動き出した。
テンションで購入した編笠と黒い着物。
腕に包帯を巻きつけて、田舎のヤンキーばりに数珠まみれ。
気分は凄腕霊媒師。
ぶん殴れば妖怪が死ぬ事は確認済みなので問題ない。
霊能力(拳)だ。
「案内します」
群がっていた村民の1人が案内役を買って出た。
この寒村は東の地でも辺境に位置する隅っこの村だ。
力を持つ妖怪は何故かそういう所にいるので、
辺境に行っては妖怪を殴り殺し次の辺境に行くという行動を繰り返していた。
その中でもこの村は別格。
通りかがった時に俺の鍛え抜かれた強者センサーがぴくりと反応したのだ。
これは東の地にきて初めての事だ。
「あ、あそこです。私たちはこれ以上近付けません」
案内役を買って出た男は倒壊寸前というような木造の家屋を指さすと、忌まわしげに睨みつけた。
それもそうだろう。
村に訪れた俺が自分が霊媒師であり、妖怪をぶっ倒せると告げた時に事情を聞いた。
――――忌み子。
数年前、1人の赤子が産まれた。
直後、母親は死んだ。
産湯に付けられたばかりの赤子に頭からバリバリと喰われてしまった。
悲鳴を上げた乳母が次に喰われ、
助けを呼びに行った父親が村人数人を呼び赤子を抑えようとしたが喰われた。
そして村は呪われてしまった。
村から一定以上離れると地獄のような痛みを感じるようになり、
村周辺の草花や木々が萎れ、
村人たちはやせ衰えてゆく。
痛みで村から逃げることも出来ず、
赤子に近づけば殺され、
村に居るだけで正気を吸われる。
まさに生き地獄だ。
このままでは皆息絶えてしまう――
――そんな中で俺。霊媒師が来た。
ということらしい。
これでも救国の英雄だ。その過程で救われない状況というものはある程度見覚えがあったが、これはその中でも中々えぐめだ。めっちゃ可哀想。
俺は厳しい顔を作って元凶の住まう家屋に向かった。
えっ、もうやるんですか。みたいな顔を案内してくれた人にされたが、俺の出来ることはぶん殴って殺す事だけだ。
手を軽く振ってあっち行ってろと促した。
ある程度近付くと粘り気のあるプレッシャーが俺にかかってきた。
気にせずにすたすたと歩くとさらに重圧が増した。
ひょいと壊れた木造の隙間から様子を伺う。
「――く わ せろ! !」
俺は反射で首を後ろに避けた。
がきん!という金属を叩きつけた様な音が鳴る。
サメを思わせるでかい歯茎が眼前で閉じていた。
例の忌み子が家屋を突き破り、俺に噛み付き攻撃を仕掛けて来たのだ。
「良い歯並びだな」
「――っ!?」
そう言いながら忌み子の顔面を殴り飛ばした。
折れた歯を撒き散らしながら家屋にぶっ飛ばされて、そもそも限界っぽかった家屋は土煙を上げながら派手に崩壊した。
感触はあった。絶命しただろう。
しかし、俺の強者センサーは未だにビンビンであった。
(1人じゃない、のか?)
土煙が晴れて現れたのは、
先程殴り飛ばした忌み子ではなく、
獣のように4足で立ち、ぐるると唸る童の姿だった。
瞳孔が縦に割れてネコ科を思わせる耳を生やした子供は狂犬病みたいな表情でこちらを警戒している。
(さっきの歯茎マンと明らかに様子が違うが――。容姿に面影がある…これは…)
……分からん。
とりあえず超スピードで近づいて
「――ぎゃひっ!?」
首から上を血霧に変えるつもりでぶん殴った。
俺の脳内予想図と違わず、忌み子は首から上をグロテスクな肉塊に変えた。
ぴくぴくと痙攣する手足はいつもの見慣れた光景だ。
「まじかよ」
ほぼ首なし死体と化した忌み子は発光した。
発光が晴れるとまた別の姿になっていた。
作務衣に袴を履き、髪を後ろに束ねる姿は侍を思わせた。
容姿は子供でも纏う雰囲気は歴戦である。
どこから出たのか腰の刀を握っていた。
「ふむ――間合いでござるよ?」
咎めるように忌み子に言われた時には刀は振り抜かれた後であった。
黒い着物が斜め下から切り裂かれた。
居合斬りである。
「肉を断てないでござるか。
――――おもしろい」
「お前なんなの? いや、お前らか?」
「これはどうでござるか!?アハハ面白い――これも駄目でござるか!すごい!すごいでござる」
「話聞けよ」
何度も切られて全裸になるのも困るので服に魔力を通して防御する。
手刀で切り結びながら忌み子に向かって対話を試みた。
「ちゃんと殺してるよな俺?
お前殺したらまた別のなんかになるの?キリがないぞこんなの」
「おもしろい!おもしろい!あははははは
斬っても斬れぬでござる!あははは」
何度殺しても死なない不死身の化け物との戦闘経験はある。しかし思い描くどの化け物とも目の前の存在は違った。
殺す度に強さや知性、趣向までも変わっている。
そして1番の違和感。
「お前でもないだろ。
俺の強者センサーにひっかかってるやつ。
そいつを出せよ。殺してやるから」
ずっと感じている強者の存在。
確かに目の前の子供から感じるそれは、殺しても殺してもなくならない。
であるならば切り替わるこの子供の存在の中に俺の強者センサーが反応している事になる。
「強者せんさー? 知らぬが拙者じゃ不足でござるかぉ――ぎゅべ!!?」
「お前はもういいって」
言外に「強者」の存在を認めたのでもう用はない。
いい加減斬りかかれるのも嫌だ。
刀を鷲掴みして手刀を振り下ろすと侍忌み子は縦に割れた。
駄目元で復活しないようにサイコロ状に死体を細かく刻んでグロテスクな肉塊にしてやった。
しかし奮闘虚しく、ミンチになった肉片達は発光しはじめた。
「乱暴なお人でありんすなぁ」
次に現れたのは美麗な着物を肩まで着崩した花魁のような忌み子であった。
煙管を吹かす仕草が艶っぽいが、容姿は子供のままなのでめちゃくちゃ犯罪臭がする。
「お前でもないな。次」
距離をとって幻惑を見せてきたが拳圧で花魁ごと吹き飛ばしてミンチにした。
「ししし、怖い人でさ。あっしじゃ適いそうもない」
「次」
「なっ!?ごぺっ」
忍者みたいな黒い装いの風貌。
速攻で土に潜って逃げようとしたので先回りして引きずり回した。ミンチになった。
「ワシを超えれるかの。ニンゲン――!」
「んー。多分違う」
「のじゃろ''びっ!?」
狐面を付けた神格っぽい雰囲気。
九本の尾っぽから放たれる卓越した魔法は超越者のそれだったが、俺の強者センサーはもっと強い存在を感じている。
狐火を全て跳ね返すと変な断末魔を上げてミンチになった。
「次」
「次」
「次」
「次」
「次」
…………
………………
…………………………
…………………………………………………………………………
ほとんど無心になって作業のように命を摘んでいった。
永遠にも思えるミンチ肉の製造は一昼夜経っても終わらなかった。
しかし、これは無限では無いという確信があった。
確かに感じる強者の気配。
具体的には魔王級の圧。
入れ代わり立ち代わり現れては散らされていくコイツらは「壁」なのだと理解しはじめた。
その証拠にだんだんと存在の圧が強くなっている。
「次――」
「おっ。やるねぇ」
正面からの拳をそいつは受け止めた。
涼しげな目元でこちらを見つめ、長めの茎を食みながら飄々と軽口を叩くそいつは中々強そうだった。
準魔王クラスかな。
「でもお前じゃないな」
「そうだねぇ。僕じゃない。
それでも僕で最後だよ。
さーて、強い強い君を僕は越えられるのかな」
「負ける前提で気取んなよ」
俺との差は歴然。しかし打ち合える。
殺す気で放つ本気の連撃を真正面から耐えてくる。
あちらの攻撃で微かにとは言え手傷を負った。
東の国で戦った中じゃ間違いなく1番強いと言える実力者だ。
特に笹の葉のような鉄器と鉄糸とを無数に操る戦闘法は初見かつテクニカルで、一方的な戦いを叩きつけられてしまった。
しかし戦闘が長引くほど肉体の性能でこちらが勝ってゆく。
決着はゴリ押しだった。
隙とも言えない隙を無理やり咎め、ダメージ覚悟の特攻で相手の心臓に貫手をぶっ刺した。
不格好だが、強者相手には大体こうなる。
「――やるねぇ。あの子によろしく」
それだけ言ってさっさと絶命した。
こいつの言い分だと、遂に強者センサーの発信源とご対面である。
こいつより強いとかもうほぼラストバトルだよなぁ。さすがに予想外だぁとか考えていると、目の前の死体が発光する。
「――――」
とうとう、現れた。これで最後。
俺はそいつ目掛けて拳を振り抜こうとして、
新たな姿を型どった忌み子の眼前で拳を止める。
拳圧が吹き抜け散切りの髪が後ろに靡く。
絶命する寸前だというのに忌み子は表情をぴくりとも変えていなかった。
「お前か?」
「ころさないの?」
「……」
小汚い子供だった。
ボロ布を纏い、グシャグシャの髪は手入れなんてしたことがないだろう。
スラムの路地裏にいけばいくらでも居そうな痩せたガキ。
そしてこいつが恐らくは本体だ。
(弱い……見た目通りの強さしかない。
なのに俺の肌を焦がすほど存在に圧を感じる。
なんだこの矛盾は)
「はやくころさないとまた――」
少女が発光すると造形を変えた。
今のところ殺さないでこの現象が起こった事は無い。
本体ゆえの性能だろうか。
しかしまた、引っかかる言動だ。
あの子供は本気で殺されるつもりだった。
そして存在の変化を本意と思って無さそうな感じだ。
「かぶかぶぶ!何を呆けてぇぇ!あ、いるぅうう!?」
「うるせぇ」
隈取りのような化粧をした忌み子が長い髪を振り回しながら襲いかかって来たのでミンチにする。
再び先程の浮浪者のような風貌になった。
何もかも諦めた瞳でこちらを見つめる。
「はやくころして。わかったでしょ」
懐かしい瞳だ。昔よく見た。
最近ようやく見なくなった瞳だ。
「あなたしか、たぶんむりだから」
俺の鍛え上げられた第六感が囁く。
殊勝なフリをして命乞いをしているのではなく、
本心から己の絶命を願っている。
自らを絶命させられる存在に希望を見出している。
終わらない絶望の螺旋を脱する事に期待を抱いている。
気に食わねぇな。
「嫌なこった」
俺はそう言うと少女にデコピンをした。
眉間に吸い込まれた中指は少女の意識を確実に刈り取る。
俺の鍛え抜かれた第六感がそれを最適解だと囁いた。
……念の為暫く様子を見ても少女が変異する様子はない。
腕に巻いていた包帯を解くと少女をぐるぐる巻きにした。
霊験あらたかっぽい呪文が書かれている包帯は土産屋で買ったそれっぽいものに過ぎないが、まぁポーズは必要だろう。
米俵のように少女を担ぐと俺は村へ戻った。
☆
村の様子は戦々恐々と言った所だった。
一昼夜、轟音につぐ爆音をこえて破裂音が鳴り響いていたのだ。当然だろう。
戦闘の起こっていた現場から離れた広間に村人たちは寄り合っていた。
主要っぽい人達へ肩に担いだ少女を無力化したと宣言した。
殺さへんの…?って顔をされたが、このまま連れて行くと言ったら反対の声も出なかった。
村の呪いはすでに消えている。
ミンチ量産中に気付いてたら解けていた。
これで村を離れてももう痛みは無いし、痩せた土地や草木も徐々に元の姿に戻るだろう。
大層な喜びようだった。俺も嬉しかった。
礼にとなけなしの金銭を渡してきたので固辞し、
そのまま放置するのも忍びないのでクソデカ猪をその辺で狩ってプレゼントした後、俺は村を去った。
今後は彼ら次第という事になる。
強く生きのびて欲しい。
さて、村を離れ山中をのしのしと歩いている時の事である。
時刻は明朝。少女の意識をデコピンで刈り取ってから数時間経過している。依頼を受けてからは丸2日近くは経とうと言う所だ。
俺はチートなので肉体は全然疲れてないが、精神的には割と疲れていた。
クソデカ熊の寝床を強奪してクマ肉と休憩地点をゲットして一息ついたところ。
「なんでころさなかった」
少女が目覚めた。
「なんで……!やっと、やっとしねると
おもったのに! なんでころさなかった!」
「俺が生きて欲しいと思ったからだ」
「な、にが!おま、ふざけるな!ころせ!ころせ!
ころせよおお!!」
壮絶な慟哭は血を吐くようだった。
「ああ、また……」
発光をはじめる少女はこちらをドス黒い瞳で睨めつけた。
「ころしてよぉ……」
「やぁだにょ~ん」
俺は両手の親指で豚鼻を作り、余った指をワキワキと広げる。ハーレム連中にも評判のくそうざ顔面花弁でそれに応えた。
なんなのこいつという表情には確かに殺意があったが、俺はそれを鼻で笑った。
ちなみに天狗のような風貌になった少女は風を操って攻撃してきたので、意趣返しに俺は鼻息でミンチにした。
これだけ戦うと、俺の戦闘経験は相手を大体分析してくれる。
最初は新たな生命を自分に宿してストックを増やしているのかと思った。
おそらく本体を殺せば終わるという点で見れば当たらずも遠からずなのだろうが、少し違う。
自己生成にしては余りにもストックの貯蔵が早すぎるし、個体差がありすぎる。
明らかな神格、武芸者、野生、怪異――――再現と言うにはあまりにも真に迫り過ぎているし、あれらは間違いなく少女に宿っていると俺の第六感も言っている。
憑依だ。
超憑依体質。と言ったところだろうか。
どこからか、なにかの存在を自らに宿して、実際に受肉させてしまう体質。
あれらが死霊の類いだとしたら、それは実質的な黄泉がえりだ。喜んで己の好きに振る舞うだろう。
しかもそれらは多重に取り憑くときた。
取り憑いたモノは少女は殺す程に強くなっていた。
つまり表層に現れているのは1番外側の、弱い存在。
玉ねぎの皮みたいミルフィーユ状に取り憑いてゆくのだ。
殺した次の瞬間、そいつより強い敵が階段状に現れる。
産まれて数年しか経っていないのにこれだ。
育ちきったら俺じゃなきゃキツいかもな。
(受肉できるキャパシティが広すぎる。
強さに上限がなく、数に際限がないとしたら、
――――なるほど。魔王以上の脅威だな)
強者センサーがビンビンの理由に納得しつつ、
肉塊から戻った少女を見やる。
「名前は?」
「……うっさ、しね」
あー。赤子の頃から取り憑かれて化け物扱いか。
そりゃ無いか。(第六感読心)
しかし口が悪い。そんなこと言う口はこうだ。
うり。うりうり。
「!! ぶぁにふる!ふぁめろ!」
「ぎゃはははタコみてぇ」
「ふぁべろって!あ''あ''あ''」
「克子。お前の名前は克子だ。
あらゆる状況に打ち克つ。そういう意味を込めた」
「……わたしは……」
「別に、覚悟も決意も後悔も。
そういう感慨は後回しでいいよ。これは俺のワガママだから」
「……?」
「君には早急に強くなってもらいます。
具体的には準魔王級くらい」
「……は?」
「多分君の憑依体質、君が雑魚いからそんなタコ部屋シェアハウスみたいになるんだよ
俺が見るに、君より格下は入れない様になる」
「え、ちょ、はぁあああ??」
「そしてきっと、格下の憑依は自分の制御下に置けるようになると睨んでる。
うん、俺の第六感がこうするのが気持ちいいって言ってる。
んじゃ、克子の武者修行がてら東の国救って、
日本食を世界に解禁しにいくぞ……!」
「」
「あっ。光った」