本日は二話投稿しております。
もし読んでいない方は前話へ。
万屋Kenshiのオフィスは、無惨な姿へと変わり果てていた。
事務所区画は全て瓦礫と化し、中に居たであろう社員は、皆PMCによって捕縛、後頭部に銃を突きつけられた状態で寝かされていた。
それは、地下にいた社員たちも同じで──アレサは、義手義足を外された状態で拘束されていた。
「動けば撃つ。まあ、お前は動けんだろうがな」
「…………」
この状態になってから、かれこれ一時間以上は経っていた。撃たれても死にはしないとはいえ、常に銃を突きつけられた状態は、精神的に強く疲弊する。アレサはともかく、このような状況に怯える者は少なくなかった。
動くことも、喋ることも許されない。ヒリついた時間だけが過ぎている中、ついに状況に変化が起こる。複数の足音。それにつられて首を動かそうとし、銃口で後頭部を突かれて元に戻る。だが、それを何者かが止めた。
「休め。連中の拘束、良くやった」
「はっ」
万屋Kenshiたちに向けられた銃口が上げられ、兵士たちが揃って姿勢を楽にする。その瞬間を狙って反抗を起こせばできるだろうが、来た者たちを見れば、その気にはなれなかっただろう。
ようやく頭を動かすことができたアレサは、それらを見て驚愕する。何せ、敵対者と共に、よく知る人物が居たからだ。
「──どういう、ことだ。アビドスに、先生も!」
カイザーPMC。その理事長たる機械種族が、大勢の兵士を連れてやってきた。
カイザーPMC理事長。四つ目の機械種族で、機械種族割には恰幅な体格をしている。黒のスーツとオレンジのネクタイを着けた姿は、アレサでもよく知っている。何せ、何度も情報収集の際に写真を見たからだ。
そこまでは良かった。
だが、その中に、アヤネを除いたアビドスの四人と、先生が混じっていたのだから。
皆、こちらと同じように銃を突きつけられているが、違うのは歩けていることと、それぞれが得物を持ったままということだろう。明らかに処遇が違う。
「クククッ……何を意外そうに。貴様は私よりアビドスの者共と話していたのだろう? だったら、何故こうなったか分かっているんじゃないか」
「いや、分からない。分からないに決まっているだろう……! 本当に、どういうことなんだ。なあ、おい! ホシノッ!」
焦り、口が開いたまま叫ぶ。シロコを見れば、何故と疑問を浮かべながらも冷や汗を垂らしていた。ノノミも同じようだが、悲しげにアレサを見つめている。セリカは苦虫を噛んだように周囲を睨んでいるものの、アレサに心配そうに目を配らせている。
──ホシノは、まるで敵を見つめるかのように、アレサを睨みつけていた。
「ホシ、ノ……?」
カチャン、と銃口が向けられる。アレサの顔に、ホシノの
「ククク、クハハハッ! 鉄杖アレサ、貴様は好き放題し過ぎたな。だがもう終わりだ。貴様は、アビドスに売られたのだよ」
「売られた……? ま、待て! 私はアビドス生ではない。売られたとはなんだ? 一体どういうことだッ! 先生! お前も私のことはよく知っているだろう!? 何がどうなっているんだッ!」
状況が読めず、ヒステリックに叫ぶアレサ。呼ばれた先生は、そんな彼女に、申し訳なく視線を逸らすことしかできなかった。瞬間、アレサの顔が強く歪み、射殺さんばかりにPMC理事を睨みつけた。
「お前、アビドスに何をしたァッ!!」
「やかましく吠えるなぁ。五月蝿すぎるが、今の貴様はお笑い様だ。這いつくばっている可哀想な貴様に、詳しく教えてやろう」
PMC理事はわざとらしく両腕を広げ、ホシノとアレサの前を遮るように歩く。勝利が確定したかのように振る舞う彼は、経緯を話し始めた。
「まずは目先の疑問から答えてやろう。どうやって今まで身分がないまま生きていたかは知らんが、鉄杖アレサ、確かに貴様はどの学園の学生でもない。アビドスに正式入学した者は、ここにいる者と、校舎で拘束した一人とで五名。連邦生徒会の公開データベースにも、貴様の名前はない」
そこまでは、アレサもよく知っている。自身のスマホは拾ったもので、アカウントやメールアドレスは作れているものの、身分証明となるものは一切ない。学園に所属することもなく、シャーレに何かしら身を置いたこともない。
「だがな、貴様は
「……は?」
「疑問に思うのは当然だろう。しかし、貴様はアビドスと共に行動することが多く、アビドスのために個人的に行動していることも多い。身分の存在しない、ヘイローの持ち主かつ一企業の代表取締役社長が、まるで同盟関係の如く仲良しである──すなわち、
詭弁だ! そう叫ぼうとした瞬間、アレサの顔面に熱いものが降りかかった。顆粒状の鉄が突き刺さり、悲鳴を上げることも出来ずに悶える。
ホシノは、黙らせるかのように、彼女に一発撃ち込んだ。
「ほら見ろ。
「〜〜ッ! ……っ、ぶふっ、げほっ!」
口に入った顆粒を吐き出し、今度はホシノを睨む。
「そして、貴様はやり過ぎたな。
貴様と違って、残りの五人は、真面目に借金を返していたというのに」
「!!」
PMC理事の言葉に、アレサは動揺を隠せなかった。そして、彼女を見るアビドスの皆の目つきも変化する。疑念から、軽蔑へ。
「何でも、ブラックマーケットで暴れていたのも貴様らしいな。あそこには我々の系列の銀行もあった。それを悉く破壊してくれるとは……クククッ」
全て見覚えがある。全て、そこに自身が関わったことがある。動揺は焦燥へ、感じたことのない汗が、顔から噴き出てくる。
「お陰で、【アビドス高等学校】は信頼が落ち、今では利子が3億。期限は一週間以内だ! せっかく慈悲で月1.2%の利子に落ち着いていたのを、貴様のせいで週30%の返済に変わってしまった。その落とし前を、アビドスはまずは貴様で払うことき決めたのだよ」
ようやく、アレサは事態を理解した。自身が暴れ過ぎた結果、カイザーに全て悟られてしまったのだ。
やっと信頼を、一歩だけでも寄り添えたかもしれないホシノが、ここまで怒り狂っているのも、ようやく理解してしまった。
「此度のアビドスの信頼低下の原因は貴様だ。見ろ、貴様を見るアビドス共の目を」
シロコも、ノノミも、セリカも、ここではない場所で見ているであろうアヤネも──皆、アレサに怒りを向けている。
自分のせいで。
尤もで、然るべきで、何も反論の余地もない。正しく、受け止めるべき罰が降ったアレサは、俯いた。
「だが、我々は慈悲をくれてやろうと思っていてな。鉄杖アレサ、貴様は我々が接収し、これから作るであろう『カイザー軍事訓練学校』の、初の生徒にしてやろう。その手ぐせの悪さと、狐坂ワカモと同等に戦える戦力、ただ処刑するには惜しい力の持ち主だからな。
喜ぶといい、アビドスの皆々。こやつ一人のお陰だ。借金の返済期限を一ヶ月までに伸ばしてやろうじゃないか!」
下衆な笑いが轟くが、アレサの耳には聴こえない。見捨てられ、絶望に染まった彼女は、穴に入るかのように顔を砂地に埋めた。
批難されるべき罪に身を染めた彼女は、こうしてどん底に墜ちた。
「鉄杖アレサを連れて行け。他は放って構わん。所詮は此奴が居なければ烏合の衆だからだ。クハハハッ! ハハハハハッ!!」
兵士によってアレサは持ち上げられ、そのままPMC理事と共に連れて行かれる。その様子をアビドスの四人はただ見つめ、先生は訝しげに状況を見守り、万屋Kenshiの皆は誰も動くことが出来なかった。
四肢が無いからか、さもビニール袋のように雑に首根っこを掴まれて持って行かれるアレサ。
ホシノは最後にその姿を一瞥し、何も言うことなくアビドス校舎に向けて歩き出す。
しかし、誰も気付いていなかった。
二人が悪ガキのような笑みを浮かべていることに。
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夜のアビドス校舎。その屋上にやってきた二人は、互いに柵に背中を預けた。冷たい風が頬を撫で、髪を揺らす。星明かりの下、先にアレサが口を開いた。
『ホシノ、お前は私を生贄にしろ』
『生贄、って、は?』
言っている意味がわからない。そんな顔をするホシノに、アレサはあっけらかんと告白した。
『アビドス本校があった場所に、カイザーPMC基地が開発されていた。そこで私は、仲間と共に金品とオーパーツと企業機密情報と銃火器をいくつかとカイザーPMC理事の口座情報とクレジットカードの番号とパスワード情報を盗んだ』
『……盗み過ぎじゃない?』
『その罪をカイザーPMCの前で告発しろ。奴らは犯人探しに躍起になっているからな。その犯人が見つかったとなれば、それが私であれば、喜んで捕まえに行くだろうな』
シロコの銀行強盗仕草を超える大犯罪っぷりに、流石のホシノも呆れ顔になった。なお、相手が相手なので、別にホシノは責めはしなかったが。
とはいえ、ホシノは少し考えてから、真面目に言う。
『……そうなると、君はカイザーPMCに捕まることになるけど、どうしておじさんたちが言い出さなきゃいけないわけ? 自白すれば捕まえてくれるじゃん』
アビドスとアレサ──万屋Kenshiは、仕事柄協力的なだけで、関係性は意外と薄い。そこにアビドスが協力する義理はないが、そこにこそアレサの考えがあった。
『
『なるほどぉ……あれ、じゃあなんで捕まるの?』
『ふふっ、よくぞ聞いてくれた』
PMCに捕まるとどうなるか。あまりホシノには想像がつかない……したくないのだが、ハッキリ言ってロクな目に遭うことは無いだろう。
だが、コイツの場合、逆に──
『当然、内部から全部ぶっ壊すためだ』
カイザーPMCの方がロクな目に遭わないだろう。
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