Blue Kenshi   作:外道カヤノ

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20.訪れた報復3

 

 あの後、私たち四人と、先生、残された万屋Kenshiの人たちは、アビドス校舎へと赴いていた。カイザーPMCに結構校舎を荒らされたけど、オペレーターをしていたアヤネちゃんは無事だった。

 入られたのはムカついたけど、破壊行為はそんなにしていない。やっぱり、アイツらは事の琴線をきっちり守っているみたいだ。だから、あんなグレーゾーンスレスレのあくどい行為ができるんだろうね。

 

 流石に二十人も部室には入れないから、空き教室を代わりに集合場所にする。すると、私たちが入って早々、エリだったけ。カタカタヘルメット団のリーダーだった子が、私の襟首を掴んだ。

 

「テメェ……ッ! よくもアレサを売りつけやがったな!?」

 

 ──アイツ、何も知らせてなかったんだ。

 「敵を騙すには味方から」というけど、こんな気持ちにさせられるんだね。うん、おじさんはやらないようにしよう。

 

「あ、あの……」

「あぁ!?」

「っ、待ってください! おかしいと思いませんか? あの場で、一番止めなきゃ行けない立場の先生が、黙って様子を見ていたことに」

 

 ノノミちゃんのナイスフォロー。確かに、あの場で先生が全く動いていなかったのは、私から見てもおかしかった。ということは、先生には先に教えていたみたいだね。

 

 先生の方を見ると、やっぱり何かを知っている様子だった。

 ただ、どこか震える手で、いつも持ってるタブレットを見ていて、今になって動揺を見せてる。何かあったの?

 

"……今、アレサがメールを送ってきたんだ。多分、時間予約だと思う"

「んなっ……ってことは、アイツ、まさかあえてPMCに捕まったってのか!?」

"それは、昨日事前に聞かされてた。けど、このメールは違う"

 

 モモトークではなく、シンプルに電子メールで送られていた。おそらく長文だったからかな。ただ、キヴォトスはハッカーが蔓延る社会だ。セキュリティの信頼性が高いモモ社以外のSMSツールは、それほど使われていないはず。

 となれば、見られる前提かな。

 

"アビドスの皆にも、君たちにも"

「ん、私たちに?」

「アタシたちにもだぁ?」

 

 ……アレサは、何を綴っていたの?

 

 先生が、そのメッセージを読み上げる。

 

 タイトルは、「遺書」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先生

 

 

 

 私はいずれ、カイザーPMCに捕縛されるだろう。

 私はやり過ぎた。奴らのことを、ただの悪だと思って、好き放題してしまった。昔の悪い癖だ。倒すべき悪を見つけた時、私はすぐに暴力に頼ってしまう。

 

 もしそうなったら、私は奴らの奴隷にされ、死ぬまで力を酷使されることになるだろう。あるいは無数の契約で固められ、二度と学園生活を夢見れない人生を送ってしまうかもしれない。

 だが、因果応報だと私は思う。私のような大罪人は、この世界に似つかわしくない。

 

 この世界を訪れて、色々な子供たちに逢った。理不尽に争う子供たち、不条理に流されるままだった子供たち、欲望のために破壊を厭わない子供たち、大義のために戦争を仕掛ける覚悟のある子供たち……これまで世界中を旅してきた私でも、見たことのないような色めきを、私は見てきた。

 

 等しく可能性があり、等しく生きる命だった。前に進もうとする輝きも、後ろを向いてでも生きていこうとする翳りも、私には煌びやかに思えた。

 

 だが、私にそんなキラキラとした青春は合わないだろう。

 だから私は、この身を以て青春の舞台から退場する。

 

 アビドスの皆。最後まで協力できず、済まなかった。それと、色々迷惑をかけた。謝罪には遠いが、復興のためのプランをいくつか用意した。詳しくは万屋Kenshiのオフィスに行ってくれ。これを見せれば、アイツらも分かってくれるだろう。

 

 万屋Kenshiの皆。この会社は、元々お前たちを露頭に迷わせないために、無名の身分を利用して立ち上げたものだ。だから、好きなように企業理念を変えてもいいし、またヘルメット団に戻ってもいいだろう。あるいは、元の学園に戻るか、またはアビドスに入学するのもいいかもしれないな。

 私の部屋に、アビドス復興の計画表と、お前たちの旅立ちに必要なものを全て保管してある。好きに持っていくといい。ただ、計画表だけはアビドスに譲ってやってくれ。

 

 先生。

 最後の言葉になるが、私を一人の生徒として見てくれて、ありがとう。

 結局、学生にはなれなかったが、此度も楽しい人生だった。

 

 もし、キヴォトスで生まれ直すことがあれば、また会おう。

 

 

 

 さようなら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘘っぱちだ。

 

 分かっている。これは、予定調和の()()だって。

 

 嘘なんだって知っている。

 

 アレサは最初から、こうなることを見越してカイザーPMCに捕まった。

 

 だけど、だけどさぁ……

 

「…………」

 

 嫌な沈黙だ。誰もが絶句してる。最初からグルの私ですら、何も声が出なかった。

 本当に遺言書みたいだし。嘘でも綴った気持ちは本当なんだって、分かってしまった。どうして、アイツはこうも、ねぇ!

 

「ふざけるなッ!!」

 

 ふざけるなよ、鉄杖アレサ!!

 

 アイツ、()()()()()()()()()()()ところまで、作戦の内なのかよ!! 君が私に見せてくれるって言ったのに。君が自ら生贄になるって、カイザーを内側から崩壊させてやるって豪語していたのに!

 

 どうして自爆覚悟なんだよ。なんでそう簡単に死のうとするの!

 

 これ以上私に、友達が死ぬところを見せないでよッ!!

 

「アイツ……ッ!」

「ホシノ先輩……?」

 

 作戦? もう知らない。こうなったら、アイツを意地でも引っ張り上げてやる。

 そうだ。あの憎きカイザーPMC理事長も言ってたじゃないか。「私が彼女をアビドス生だと認めた」って。なら、助ける理由は足りてる。

 

 今から生徒会室に行かなきゃ。忌々しいけど、アイツのために装備を引っ張り出さなきゃね。本当ならアイツ用に取っておいたはずなんだけど、もう出してもいいか。

 理由ができた以上、死体が残らないくらいには殴りつけるからね。首を洗うまでもなく──

 

「ホシノ先輩!」

「ッ! ……!」

 

 ふと顔を上げれば、皆が私を見ていた。驚いて、優しい眼差しを向けていて──

 

 ……え? 

 

 …………もしかして、

 

「……こ、声に出てた?」

「うん」

「あっ」

 

 待って。今の、どこまで声に出てた?

 

 エリちゃんはなんか呆然としてるし、他はすっごく笑いを堪えてるし! か、かわいい後輩たちの眼差しが……い、いやだこんな目で見られるの! すっっっっごく全身が痒いんだけどさぁ!

 

 い、いやアレじゃん。あんなの聞かされて、気がおかしくならない方がアレじゃん!

 

 本ッ当に、本当に何を考えてるのさアイツ……

 

"そっか……ホシノにも、友達が……"

「ん」

「あら〜♡」

「ッハッハッハ! なんだ、アビドスの先輩ってこんなかわいいヤツだったんだな」

「生温かい目で見るな〜〜〜!!」

 

 なんだよ、私がバカみたいじゃん! けど、

 

「……ん。気持ちは、同じ」

「あんなの聞いたアタシも、いや、万屋Kenshiは腹が立ってしゃーねぇ」

 

 シロコちゃんが、エリちゃんが、いや、それ以外の人たちも。「遺言」に怒ってる。

 あれだけ場を荒らして、あれだけ人を導いて、それで「はいさよなら」なんて、嫌だよね。唐突過ぎるもん。知ってた私だって、こんな気持ちなんだから。知らない人からすれば私以上の感情が溢れてる。

 

"……ひとまず、このメールは置いておこう。ホシノ、君はこうなることを知っていたね?"

「……うん。ごめん先生。私は、昨晩アレサと作戦会議をしてたんだ。だから、この後アイツがどう動くかを知ってる」

"私は、「近日中にカイザーPMCに捕まるが、その時の状況を音声だけでもいいから記録しておいて欲しい」って言われてた。もっと詳しい情報を教えて"

「もちろん」

 

 私に注目が集まる。昨日聞かされた、アレサの作戦。

 自ら捕まって、その後どうするのか。アイツは遺言なんてものを作って、私たちに何をして欲しかったのか。

 

 ──想いを馳せながら、アイツの作戦内容を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 ドサッ! と冷たい床の上に放り投げられる。四肢のない少女は、何もできないままぐったりとしていた。顔や体は砂まみれで、汗か涙かもわからない液体ですっかり付着してしまっている。

 そうなっているのは、十六にも満たなそうなあどけない少女だというのに。カイザーPMCの兵士は、ゴミを扱うかのようにその場に放置し、鍵をかけてそこに閉じ込めた。

 

 カイザーPMC基地内にある独房。使われることは無いだろうと思われていたその場所の一つに、アレサは監禁されてしまった。

 四肢はなく、本人の姿を見るに動く気配もない。絶望に打ちひしがれ、何の力も無くなったであろう彼女に、同情を向ける者は居なかった。何せ、彼女は四肢さえあれば、あの『七囚人』のワカモと対等に戦うことができる存在である。言うなれば「バケモノ」。そんなバケモノに、いかに無力化されているといえど、近づこうとする者はいなかった。

 

 PMCの中では。

 

「クックック……私から見ても、酷い有様ですね」

 

 カツン、カツンと、靴音を立てて檻の前に現れる。笑い声と共に、暗黒から訪れた『黒服』は、この中で唯一アレサに同情していた。

 

「奇しくも、貴方に気付かされた通りでした。()()()()()()()()()()()()()()、見えるものも違いますね」

「…………」

「……あぁ、ご心配なく。今、カメラにはダミー映像が流れています。起き上がっても大丈夫ですよ」

 

 瞬間、アレサはごろんと転がり、うつ伏せになったまま、芋虫のように肩と僅かに残った太ももを動かして這う。あまりにも手慣れた……本当に芋虫めいた動きで黒服に近寄る様に、黒服は思わずビクッと体が跳ねた。

 

「お、おぉ……一応お聞きしますが、大丈夫でしょうか?」

「腹が減ったこと以外は問題ない……いや大問題だ。何か腹が膨れるものはないか」

「ではこちらを。こちらのペットボトルは経口補水液です」

 

 袋を開けられたブロック食と、蓋を開けた500mlペットボトルを檻の前に置く。すると、アレサは歯を剥き出しにして噛みつき、器用に頭と顎を動かして咀嚼し始めた。ペットボトルは歯と舌を使って開け、吸い込むようにして飲む。

 檻から顔の半分だけ突出し、喰らいつく姿はあまりにも汚らしい。しかし、今のアレサは両手が使えないどころか無い。ある程度は仕方がないだろう、と黒服は割り切った。

 

「んぐっ、ジュズズズ…んく、んむ……ぷはっ! ふー……生き返る」

「……お顔を拭きましょうか?」

「いや、それは駄目だ。お前の存在がバレる」

「あぁ、なるほど。そういうのも()()()()と」

「私の世界では、奴隷になっている状態の方が安全で、かつ良いトレーニングがしやすいんだ」

「……貴方の故郷のことが、少々分からなくなってきました」

 

 満足げに檻から顔を離し、寝転がったまま黒服に顔を向ける。

 

「まあなんだ。カイザーPMCの解体ショーはまだ始まっていない。開催は三日後だ」

 

 砂にまみれ、どん底に墜ちた者とは思えない。勝ちを確信した笑み。今まさに死地に赴くというのに、むしろそれを待ち受けている。

 今のアレサは、死すらも全うする戦士の顔であった。

 

「三日間、私はあの兵士共に凌辱を与えられるだろうな。散々暴れ回ったんだ。その分の報復を受けるだろう。……あるいは、兵士入りの契約でも書かされるか? まあ何にせよ、終わった頃にアビドスと万屋Kenshiの面々が私を助けに来るだろう。今頃、ホシノが私の作戦を皆に伝えているはずだ」

 

 楽しげに、にんまりと犯行予告を告げる彼女に、黒服は感嘆する。

 三日間、アレサは自身に起きる全ての不幸を溜め込み、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。カイザーPMC理事長が、四肢を失ったアレサにどのような禊をさせるのか。ある程度想像はつく。だが、PMC理事は黒服から見ても汚らしい大人の部類だ。誰の目も届かないのをいいことに、想像を超えた凌辱を行なうかもしれない。あまり想像はしないが、どのような未来が待ち受けているかは見えている。

 

 確かに、これならばグレーゾーンばかりを走っていた【カイザーグループ】に、大打撃を与えることができるだろう。知らずの内に罪状を重ねたカイザーPMCは、アレサという被害者によって自滅する。

 助けに来る確信は、黒服にもあった。当事者の立場であれを見れば、()()()()()()()()()()()()()は、なんとしてでも取り返しに行くだろう。

 

 ──完璧な作戦だ。

 

「クックック……クククッ、クックックッ!」

「……黒服?」

「いえ。ククク……いやはや、なるほど……ックックック」

 

 だが、それは、

 

「鉄杖アレサ。貴方は名優だ。貴方にとっては、合理的で完璧な作戦なのでしょう──ですが」

 

 

 

 

 ズドドドドドドドォォォォンッ!!!!!!

 

 

 

 

「……………………おい、なんだこの連続爆撃は」

「──貴方は、自身が撒いた種を勘定に入れていなかった。それが作戦失敗の原因です」

 

 一瞬にして戦士の顔が剥がれたアレサを見て、黒服は今度こそ腹を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警告:アビドス廃校対策委員会の救命

 

 

警告:便利屋68の復讐

 

 

警告:風紀委員会精鋭部隊の進撃

 

 

警告:算術工学部の天罰

 

 

警告:フィリウス派砲手の演習 着弾まであと1秒

 

 

警告:ブラックマーケット駐屯ヘルメット団隊の群れ

 

 

警告:『七囚人』ワカモの散歩

 

 

警告:無限回転寿司戦隊・カイテンジャーの登場

 

 

警告:万屋Kenshiの報復 広域回線開通まであと1秒

 

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