『アレサァッ!!』
「ぴゃっ」
施設内だというのに、先の爆撃よりも大きな声が轟き、アレサは思わずひっくり返りそうになった。声の主は、本来ならば居ないはずのエリ。怒りだけで全てを粉砕しそうなほどの彼女の声は、さらに続く。
『今からお前を助けに行く!! そのために、たッッッッッくさん援軍を呼んだからな!! 先行部隊、中継回線繋げッ!!』
『音量上げろ!! 生前葬だ!!』
『カイザーグループの正体見たり!! 子会社のPMCはか弱き少女の四肢を切り取る、血も涙もない鬼畜な企業だったのかぁっ!!』
「待て、ちょっと待て……」
三日後どころか半日も経っていないはずなのに、既に救援が来ている。あまりの事態にアレサは黒服の方を見るが、既に居なかった。
アイツ逃げやがった! と思う暇もなく、さらに施設が揺れる。爆撃以外にも、PMCを物理的に揺るがす何かがいるらしい。
そしてアレサは突っ込みたかったが、四肢が無いのは元からな上に、自ら切ったので、そこだけ冤罪である。
「な、何が起きて……ッ!?」
ズドドドドドドドォォォォンッ!!!!!!
「ギャッ!?」
連続二十発は着弾しているであろう、あまりにも綺麗なリズムを奏でる爆撃。アレサの記憶通りならば、アビドスはともかく、ゲヘナはこれほど精密かつ芸術的な砲撃技術を持ち合わせていないはずで、それ以外にこちらに協力してくれる、大規模な砲撃部隊を抱えているところなど……
「……まさか、トリニティ?」
『あっ、もしもし! 聞こえますか、アレサさん!』
「ヒフッ、ファッ!? ファウスト!?」
突如、ぼぅっと目の前にホログラムが現れる。名前が出そうになったが、ヒフミ……ではなく、かの『覆面水着団』のリーダー、ファウストだ。紙袋越しだからか、声が若干こもっている。しかし何故この場にホログラムが? と思って近くを見渡すと、隅っこに二人ほど黒い影が見えた。恐らくフリデとカトだろう。
(いや早く助けろお前たち!! サムズアップじゃないだろう!?)
『えっと、エリちゃんから「これを渡せば協力してくれるだろう」って言われたので、言う通りに情報を渡したら、支援して頂けるようになりました』
「情報……あっ」
ヒフミが言う情報とは、銀行強盗をした際にぶんどったものだろう。あの中には、学園を問わず黒い契約をしていた書類が大量にあったのだ。ティーパーティー関連のものも幾つかあったので、それなら絶対欲しがるだろう。
『なんか、助けに来た戦隊ヒーローのロボット? みたいなのも巻き込んでしまいましたが……』
「あ、それは別に無視していいぞ。
△▽△▽△▽△▽△▽△
──フィリウス派代表、『ティーパーティー』現ホストの"
涼しい夜風に当てられながら、本来ならスイーツが並べられていたであろうテーブルに置かれた資料を、彼女は一瞥した。
「なるほど。洲端エリさん……学園を去っていたと思えば、そういうことでしたか」
ヒフミと似たプラチナブロンドのストレートヘア。大人びた女性を彷彿とさせる、すらりとした少女。東屋の席につく彼女の姿勢は、誰が見ても百点を押すほど良く、どの角度を切り取っても絵になる美しさがある。しかし、今の彼女の表情は、ナギサをよく知る者しか分かり得ぬほどの変化があった。僅か一ミリ以下。ほんの一瞬だけ、眉をひそめたのだ。
「今は、『万屋Kenshi』と。『エデン条約』を前に、大胆な情報提供……友達を助けるための交渉材料としては、いささか値が大きいようで」
エリは、かつて『ティーパーティー』のフィリウス派に入会されたことがあった。幹部候補とかではなく、あくまで派閥の一端。それも諜報や情報収集といった部門への招待であったが、突如彼女は停学になったのだ。理由が「イジメに加担したため」とあって、当時のナギサは残念に思うだけで済ませていた──だが、その実態は逆だったのだ。
後にカタカタヘルメット団なる不良集団のリーダーとなっていたことは、頭の片隅にあった。しかし、今や謎の企業に所属し、その企業の代表取締役社長を助けるために、交渉材料を投げつけてきた。
突如外野から放たれた右ストレート。無視することもできたが、内容が内容だっただけに、即座に対応した。
何せ、エリを停学に追い込んだ、現フィリウス派の生徒の幾名が、カイザーグループと黒い契約を結んでいたという証拠だったからだ。
ある意味、吉報だった。エデン条約前に、ある程度のゴミ掃除ができたのだから。
「彼女が復学できるよう、手配しておきましょうか──砲手、第三射準備。カウントはお任せします」
『承知しました。──射角再調整!』
専用のトランシーバー越しに聞こえる、盛大かつリズミカルな砲撃音。最大二十挺のL118牽引式榴弾砲による砲撃は、確実にアビドス砂漠にあるカイザーPMCの基地へ着弾しているだろう。──その砲弾の一部に、トリニティの生徒名簿がいくつか混じっているのはご愛敬である。
密かに寵愛するヒフミの頼み。既に時刻は夜で、日も跨ぐ頃。時間的に厳しい頼みであったが、エリの情報提供が最後の一押しとなった。おかげでお抱えの砲手部隊を叩き起こしてしまうことになったが、ナギサは紅茶を一口付けて思考を端に寄せた。
ヒフミの頼みならば些事だ、と。
「とはいえ、今はまだその時ではありませんね」
『エデン条約』の準備を進めているのは、今のところトリニティのみ。パテル派の
ゲヘナは機械種族の講師が着任したのと同時に、情報が一切得られておらず、最近は風紀委員会がゲヘナ外へ出ることが多い印象がある。消極的だったエデン条約に、何かしら動きを見せている可能性も否めない。
ここで、不穏分子を増やす訳にはいかない。と、ナギサは目を伏せた。
「ですが覚えておきましょう。万屋Kenshi──鉄杖アレサ。貴方の名を
彼女は想起する。頭に六本の折れた角を持つ、キヴォトスでは大柄すぎる体格の少女を。
突如全裸で落ちてきた、身分なき戦士。──その出会いは、彼女の出で立ちに似ていた。
△▽△▽△▽△▽△▽△
「どうなっている!? 一体何がッ、ぐおぉ!?」
「夜襲!! 夜襲です!! 対象確認──『ゲヘナ風紀委員会』でうわぁっ!!」
カイザーPMC理事長は、突如基地を襲った爆撃の音に叩き起こされ、着替えも半分ままならないまま地下管制室に来ていた。外にあるものは既にへし折れており、先の爆撃が車庫や倉庫を的確に破壊されてしまった。残すはアビドス本校の地下を利用して造られた、無数の地下空間だけ。本校に選ばれるだけあって、かなりしっかりとした地盤の中のはずだった。そのはずが、まるで震度2以上の揺れが断続的に続いている。
「何故ゲヘナの連中がいるのだ!? おかしいだろう!!」
「で、でしたら先の砲撃はトリニティです! 着弾前に三竦みのルーンが見えたと報告が!」
「あり得ません! あの二校が手を組むなど!!」
管制室に多数設置されたモニターの半分以上が、既に砂嵐。生き残っているモニターが映し出しているのは、ゲヘナ風紀委員会の軍隊。ゲヘナ最強の象徴たる空崎ヒナが、大群を率いて攻めてきている光景を。
「う、うわああああああ!! 『七囚人』ワカモと空崎ヒナがタッグを組んでいる!?」
「ヘルメット団!? 何故今になって多ッ!?」
それだけではない。
何故かヒナの隣にはあのワカモが揃っており、互いに睨み合いながらも、まるで熟練のツーマンセルかのように基地を破壊しまくっているのだ。二人揃って銃口からレーザー*1を乱射しており、こちらになす術はない。
一方で、ゲヘナ風紀委員会+七囚人が攻めてきている反対側の方向からは、有象無象にしては多すぎる数のヘルメット団が、PMC基地に攻め入っていた。あちらと比べれば脅威度はかなり低い。だが、数は圧倒的にヘルメット団の方が多い。倒しても倒しても湧いてくる雑兵は、今窮地に立たされているカイザーにとってあまりにも邪魔過ぎる存在だ。
「な、な……!? 本当に、何が、起きている……」
「理事長ッ! 今すぐテレビ中継を確認してください!」
「今度は何だ!?」
「あ、『暁のホルス』が……基地の前で、【クロノス】の取材に応じていて……」
「は?????」
【クロノススクール】。キヴォトスにおける報道機関と言えば、『報道部』を有するこの学園である。
そんな報道部が、今カイザーPMCの基地の前に、しかも小鳥遊ホシノが取材に応じている? 字面だけ取ればどう見ても世迷言なのだが、今この状況で部下が胡乱な発言をするとは思えなかった。PMC理事は、自身のタブレット端末からワンセグアプリを起動する。そこには──
『今、カイザーPMCにはご友人が捕まっているとお聞きしましたが、事実なのでしょうか?』
『うん……うんっ! だって、この目で見たんです! アイツら、私たちの目の前でアレサちゃんの手足を……!』
『て、手足……? すみません、もしよろしければ、もう少し詳しく』
『ひっぐ……う、うぇぇん……! ごめん、ごめんねぇ……!』
迫真の泣き顔で真っ赤な噓を垂れ流すホシノがいた。
『え、えーっと……あ、すみません! そこの方!』
『ん、砂狼シロコ』
『ではシロコさん。先ほどのお話なのですが……』
『アイツら、アレサの手足を私たちの前で切り取った』
『…………え?』
『物理的に、元の手足は目の前で砕かれて……あの子の、四肢は……もうこの世にない』
「嘘つけェ!!!!!!」
たまらずPMC理事は、自らのタブレット端末を膝で真っ二つに割った。
噓も噓。本当に真っ赤な噓である。出会った時からアレサの四肢は機械化しており、義肢は着脱可能な状態だった。確かに義肢はこちらで研究のためにと没収したものの、機械化している以上元から無いのも同然で、カイザーPMCが目の前で切り取ったという文言も全然事実ではない。
「奴ら本気で真っ赤な噓を吐きやがって!! しかも何我々のせいにしているのだ!? 元はといえばあのガキが基地の物資も資源も資金も確保したオーパーツも俺のクレジットカードも秘蔵の本も盗んだせいだろうがァッ!!」
(なんか最近取り締まりが強化されたと思ったらそういう……?)
(いや盗まれすぎじゃないか……?)
(俺のコレクションが消えてたってそういう……!?)
(もう帰っていいすか……)
しかし、もはやこの
やられた。PMC理事はそう悔やむことしかできない。
「奴らを殺すッ! 私も出るぞ!!」
「えっ、り、理事長!?」
今だ揺れる管制室の中、彼は壊したタブレット端末を投げ捨て、その場から立ち去る。行く先々で兵士が止まるよう懇願したが、今のPMC理事の耳は届かない。
「クソックソックソォッ!! アビドスのガキ共……! それに、万屋Kenshi!!」
こうなれば、始まってしまった戦争に勝つしかない。勝って、全てを蹂躙し、有耶無耶にすることで清算しなければならない。どうやっても「無理ゲー」の四文字が頭を支配するが、それさえも怒りで塗りつぶさなければ、PMC理事は頭がどうにかなりそうだった。
向かう先は兵装庫。地下施設の開発区画にある『ゴリアテ』ならば、戦況は覆せるかもしれないという、微か過ぎる希望。
電子ロックを外し、全長七メートル以上ある漆黒の巨体が眠るガレージの扉を開く。この一方的な蹂躙から抜け出すには、自ら攻め入る他ない。
「今に見てろ……! 我々の方が法的に正当性があることを! ただの癇癪で青春を無駄にしたガキ共に、『大人』の力を見せつけてやるッ!!」
ゴリアテ搭乗し、キーを投入して起動シーケンスを開始する。モニターに青い画面が映り──青い画面?
問題が発生したため、PCを再起動する必要があります。
エラー情報を収集しています。自動的に自爆プログラムを開始します。
「ゑ?」
よりによって、このタイミングで──いやよく見れば文面が違うような。
PMC理事が機能停止したのも束の間、『ゴリアテ』は全身から光を放ち、ガレージを潰すほどの大爆発を起こした。
△▽△▽△▽△▽△▽△
一方その頃。戦火広がるPMC基地の前で、報道部の取材は続いていた。泣き止んだホシノに再度焦点が当てられ、報道部の"
「では、これからあなた達はご友人を取り返しに行くのですね?」
「ぐすっ……はい。ここまで【ゲヘナ】の方や、他色んな方々に助けられて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
「我々は安全のためこれ以上基地に踏み込めませんが、応援しています! ご友人の方、無事だといいですね」
「うん……っ」
(先輩、あんな演技派だったんだ)
(後で皆でじっくり見ましょう☆)
(うわぁ……)
今まさに、噓っぱちとはいえ泣き顔を全国に晒しているホシノは、ぐちゃぐちゃの顔のまま何度も頷く。横でシロコらがそれぞれ反応を見せているが、残念なことにカメラの範囲外だ。
「そろそろ時間でしょうか。中継は以上になります! 報道部の川流シノンでした!」
ようやく中継が終わり、報道部が用意したライブカメラが止まる。すぐ側が戦地と化してるだけあって、これ以上は危険だという判断だ。シノン的にはもっと奥へ踏み込みたい気持ちがあったが、ゲヘナ風紀委員会とブラックマーケットのヘルメット団が、それぞれ軍隊を組んでPMCに襲い掛かっている現場には、流石に足を踏み入れたくはない。
後はこの記録を持って帰るだけ。大軍勢対カイザーという稀有な状況を生中継できたので、アーカイブにすればさらに視聴者は増えるだろう。まさしく歴史的瞬間。この記録を落とすわけにはいくまいと──
「……ゑ?」
「あ、流れ弾」
──その記録が保存されているライブカメラが、目の前で大破したが。
先ほどまで涙で顔を濡らした少女は既にいない。何故か白煙が漏れている散弾銃を片手にした彼女は、その場で防弾チョッキを羽織り、髪をポニーテールに編んだ。なお、その少女の後輩三人は目を逸らして口笛を吹いている。
ギギギ、とシノンの首が変な音を立てるが、この戦場でカメラマンをしているのならば、
「先輩、時間」
「分かってるよ。んじゃ、君らは安全なところに行ってね。あとカメラご愁傷様」
この戦は記録に残さない。生中継はさせ、SNSで断片的な情報として拡散させる。
それが、アビドスにできる、彼女のための策略だった。
「まあ、見せられないもんね。アレサと私たちの方が、アイツらと比べて何百倍も強いってところ」
ガシャコンッ! と散弾銃をリロードする。拳銃をバリスティックシールドの裏に格納し、ホシノは自身の神秘をできうる最大まで放出する。
その姿は、かつての『暁のホルス』そのもの。
「あの委員長ちゃんがビームを出せたのなら、私にもできるかな」
先生が来るその日まで、たった五人で学校を守り続けた存在。幾度となく襲撃を喰らい、時には砂嵐に辟易した日々。約九億の借金という宿痾に蝕まれながらも、それでもと青春を、希望を目指して歩み続けた者たちが、
だからこそ、彼女はなりふり構わない姿を見せたのだろう。
だったら、こちらも自由にやろう。
満天の夜空に煌めく星のように。「私たちの方が輝いている」と主張するのだ。
「行くよ、皆」
「ん」
「はいっ♠︎」
「オッケー! やっと気持ちよくアイツらをブッパなせるわ!!」
『皆さん、アレサさんを助けに行きましょう!』
──アビドスの進軍が、始まった。
【悲報】カイテンジャー、ナレ死
それぞれの視点は次話にて。
ブルアカステータス風のプロフィール
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