短めです。
フリデとカトに運ばれ*1、基地内で見つけたシャワールームで体を洗い流されたアレサ。義肢は見つかっていないのか、それとも見つけた上であえて着けさせていないのか、定かではないが、彼女は未だ四肢欠損状態だった。
「そろそろ降ろしてくれ……」
「やだやだやだやだやだやだやだやだ」
「義肢は回収済みだけど、まだ渡さない」
「まだってなんだまだって。あとフリデお前私を振り回すな!!」
揺れる基地内を走る二人。今はフリデに俵担ぎされている彼女は、されるがままの状態だ。
途中、逃げゆく兵士たちや、中で暴れ回るヘルメット団の残りとすれ違うが、気配を完全遮断した二人を見つけることはできない。施設内の照明は明滅しており、混乱の最中ということもあって、目の前を通り過ぎたとしても知覚できないようだ。
「──! カイザーPMC理事長の撃破確認。まああの機械種族なら、自力で這い出てくるか。こちらカト、対象を保護した。
「終わり閉廷以上解散みんな待ってるよ」
「…………」
気が付いたら、やろうとしていた何もかもが終わっていた。三日間、カイザーPMCをむしゃぶり尽くそうとしていた魂胆は、今やどこにもない。アレサは大きくため息を吐き、遠い目になった。
「……地上へ向かうぞ」
「……そうだね」
「うん」
通路を抜け、ガレージに繋がる大きな空間へと出る。運搬用にか、地上部から貫通して広めのトンネルとなっているその場所へたどり着くと、皆が待っていた。
「来たぞ! 我々の勝利だッ!」
「おかえり〜〜〜!!」
「王の帰還だ! 盛大に迎えて差し上げろ!」
『社長の確保を確認しました。ひとまず、目標達成です』
万屋Kenshiのメンバーたちが、アレサらに手を振る。全員戦闘時の衣服だが、皆して鉄笠とガルムマスクを外していた。ホログラム越しだが、スソノも安堵した様子を見せる。
「……良かった。思ったより無事そう」
「フフッ、そうみたいですね」
「げ、アイツ……」
「……これで、一件落着ですね」
『ぐぎぎ……』
ゲヘナ風紀委員会の幹部メンバーが集い、管制室にいる一人を除いて一息つく。そこに何故かワカモがさもメンバーの一員であるかのように居るが、ただの一般通過指名手配犯である。
「無事で良かったわ。じゃないとリベンジできないもの」
「……ひとまず、大目標は達成したね」
「あははっ! 本当に手足がないじゃん!」
「良かったです……」
隅っこで、便利屋68はアレサの帰還に喜ぶ。近くというかすぐ側にゲヘナ風紀委員会がいるため、気が気でないようだが、この場で彼女らが捕まることは無いだろう。今は。
そして、
「…………」
「……ホシノ」
フリデに抱えられたまま、アレサはアビドスの四人の前に連れて行かれる。寸前でアヤネのホログラムが浮かび、この場に全員が揃った。
「アレサ」
「……」
「私は許さないからね」
告げられた言葉はただ一言。張り詰めた様子はないものの、厳かに告げたホシノの一言は、アレサを反省させるには十分だった。
ようやくフリデがアレサを降ろし、カトが持っていた義肢を彼女に嵌め込む。手足を取り戻し、数時間分の不自由から解放された彼女は──ホシノに向かって、百二十度腰を折ることだった。
「ごめんなさい」
「よし許す」
「軽ッ」
思わず顔を上げたアレサは、ホシノが向かってくるところが見え──抱きしめられた。
「もう二度と遺書なんか書かないで。分かってても、怖かった」
「……悪かった」
「二度と自分から囮になる作戦も、今日から禁止」
「……わ、分かった」
「あと、銀行強盗も盗みももうやらないで」
「善処する」
「善処じゃない。しないで。人として駄目」
「分かった分かった痛い痛い神秘込めるな!!」
メキメキメキ! と音を立てるアレサの肉体。後ろでアビドススナオオカミが若干ショックを受けていたが、いつも通りなので、アビドスのメンバーはスルーした。
ようやくホシノが離すと、目尻に嘘ではない涙を浮かべる。今日ほど表情筋をここまで動かしたことはないだろう。お互い疲れた様子で、それでも笑い合うことはできた。
「……おかえり、アレサ」
「ただいま、ホシノ──皆」
「ん、おかえり」
「おかえりなさい!」
「おかえりっ!」
『おかえりなさい、アレサさん!』
友の帰還に、歓声が上がる。この瞬間のためにやって来た者たちが、失われたものを取り戻すことができた者たちが、彼女のために力になった者たちが、皆で喜びを分かち合った。
失ったものは、無い。手にしたものは多く、手放さなかったものも、ちゃんと元の場所に戻ってきた。
ただそれだけを、皆で祝いたい。
──作戦が、終わった後で。
『水を差すようで申し訳ないが……アレサ、何かが来ているのが分かるかい?』
「……あぁ。こればかりは運次第だったが、やはり来たな」
ズズズズ……と地響きがし、天井から砂がこぼれ落ちる。爆撃はもう終わっているはずなのに、何が起きているのか。
アレサは知っていた。遥か昔から、この地にいる存在を。
「神秘に惹かれたか。それとも何だ……まあいい。全員地上へ待避! 生き埋めにされるぞ!!」
「えっ、何!?」
『協力者へ通達! 協力者へ通達! 至急地上へ避難してください! 至急、地上へ避難を! 地震が来ます!』
アビドスと万屋Kenshi、便利屋68の面々は困惑しながらも頷き、地上へと向かって走り出す。ゲヘナ風紀委員会たちはヒナがすぐに指揮を取り、同じ方向へと走り出した。
そこからゾロゾロと、残党の兵士やヘルメット団らが、他にも基地に残っていた者たちが逃げ出してゆく。流石に生き埋めにはなりたくないようで、いつもは世紀末じみた者たちも、懸命に走っていた。
フリデとカトは既に居ない。地下空間に残すはアレサ一人。
……ではなく。ガレージだった場所から、這い出てきた機械の手。アレサはそれを見つけると、力任せに引き抜き、そのまま引きずって走り出した。
「ガボッ、ガッ……て、鉄杖ぉ゛ごっ!? 痛い゛ッ! ひ、引きずるな゛ガァッ!!」
「言っている場合か。お前たちも疎んでいたアレが来るぞ」
「ぎッ、貴様……ギャッ!!」
ボロボロになり、音声機能も故障気味なカイザーPMC理事長。その腕を引っ張ったまま、瓦礫まみれのトンネルを走る。
「きっ、貴様は、ッ! 我々のッビジネスだけでなくゥッ!? 野心さえ、げべェッ! 私の、夢もごォッ!! ヤ、
「別にいいだろう。お前もアビドスから
「違うッ!! 我々ェべげッ!? る、ルールに則゛ッ、とコ゜ッ! カッ、勝手にひぎぃ!! しゃっ、しゃっきィ゛んを゛ッ、負ったのは、ア゛イツらだッ!」
瓦礫に削られ、酷く摩耗しながらも叫ぶ彼の主張は、彼女の足を止めるどころか、加速させて削りダメージを悪化させてゆく。
──あぁ、そういえばこんな貴族も居たな。
アレサが思い返すのは、『国殺し』を実施した時のこと。手始めにグレートデザートの【都市連合】首都に攻め入り、街に住まう貴族を拷問の果てに皆殺しにした瞬間を。
最初から最後まで、自分が正しいと吠えていた暴君共。弱者には何をしてもいいと、ジャイアニズムが当然と主張していた堕落者。自身が下層の人間によって生かされているにも関わらず、何も理解せずそれらを焼き滅ぼそうとしていた愚者たち。
何も高潔さを、人間性を感じない。なのに貴族という地位にいる。そんな人間ばかりの国を、誰が好きになれようか。
今のPMC理事は、それらと同じだ。法的な正当性という透明なバリアを張っただけの、意地っ張りな『大人』。子供の目線で見てみれば、同じ『子供』にしか見えない。
かつての世界ならば、絶対に
「知っているぞ。アビドスが多額の借金を負った理由くらいは。そこにお前たちカイザーが漬け込み、利権を狙っていたこともな」
アビドスは自然現象によって斃れた。建物を無慈悲に破壊し、全てを砂に埋める『砂嵐』。天災によって困窮したアビドスに、手を差し伸べるように見せかけ、罠に嵌めたのは【カイザーコーポレーション】だった。
借金問題は『カイザーローン』が、利権を──目当ての兵器を──確保した後の管理はPMCが取ろうとしていた。
目当てが兵器だった以上、平穏な交渉では手に入れられない。それは理解できた。法のギリギリを狙い、間接的に苦しめることで自ら利権を手放すやり方も、戦術の一つとして考えることもできる。
カイザーはその点において、やり過ぎた。アビドスを弱者と見做し、侮辱と屈辱を重ねた。
嫌がらせは往々にして加速しやすい。誰だって、壁越しに相手を殴れる状況は、とても気持ちいいものだから。こと人が持ちうる残虐性は、大人も子供も変わらない。原初的な欲求である以上、避けられない。
だが、人は邪智暴虐に反旗を翻す質である。
「弱者を殴り続ければ、弱者に叛逆されるのは当たり前だろう。それが法であれ、ルールであれ、戒律であれ、駄目駄目と連呼されれば我慢できなくなるのは当然だ。
太陽を、
かつてアビドス本校だった場所に建てられたこの場所も、この屈辱も、今日この日をもって晴れるだろう。
エンブレムがペイントされた壁はひび割れ、砕けてゆくのが見えた。
「鬱憤を溜め込ませ過ぎたな、ブリキの王。『子供』相手に油断し過ぎだ。黒服の方がもう少し上手だったぞ」
「認め゛ん……ミ゛ッ、とめ゛んぞぉ……」
ようやく地上へ出ると、夜は明けそうになっており、暁色の空が見えた。水色と薄桃色のグラデーションは、まるで終幕のよう。
地響きは止まらない。砂が舞い、風が吹き荒れる。『砂嵐』の前兆が訪れるも、それは形をなさない。何故なら、『砂嵐』は副産物であって、元凶はもっと別のものだったからだ。
誰が想像できようか。しかし、実在している以上、それ以外の原因は存在しない。
砂地を荒らし、全長五十メートル以上を超える巨体を、水を得た魚の如く動かすソレは、ついに顔を見せた。
『『算術工学部』より全員に通達。目の前に現れたものに少しでも臆したのなら、逃げるんだ。アレは、並大抵の生徒が相手できるものじゃない──』
純白の装甲で覆われた大蛇。機械でありながら、オレンジ色のヘイローを輝かせる、異質な存在。鱗であろう装甲に並ぶミサイルポッド。大口を開けば、レンズを嵌め込んだ砲塔が見えた。
誰かが言った。「音にならない聖なる十の言葉」を呼称する者。
『──『
その一柱、『
ブルアカステータス風のプロフィール
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見たい
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いらない