Blue Kenshi   作:外道カヤノ

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24.青き剣士

 

 真っ先に戦いに出たのは、ホシノだった。

 盾を構えたまま吶喊し、自ら囮役(タンク)に出る。殺意を隠すことなく、否、殺意を出してでも相対しなければ、やられるのはこちらだと、本能が察した。

 彼女は一発目をビナーの顔面に放つ。

 

「ッ!? ホシノ先輩!?」

「突っ立ってたらまずい! 私が先陣を切るッ!!」

 

 射程外にも関わらず、散弾銃の引き金を引く。その銃口から放たれたのは、拡散する薄桃色の極光だった。

 ゴッ!! と被弾するホシノの神秘。しかし、ビナーのいかにも堅そうな装甲には()()()()()。無理やり射程外から濃密な神秘を浴びせただけなのもあってか、ダメージになっていなかった。

 

 だが、ビナーがホシノを見た。ホシノはそのまま走り出し、まだ無事な舗装された道を駆ける。

 視線が外れ、彼女が作った隙を、ゲヘナは見逃さない。

 

「アコ、サッドニール教授。私もこれを対処する。コレは、アビドスに留まる手合いじゃない気がするわ」

『既に準備済みです。補助は私に任せてください!』

『疲弊している者は撤退だ。イオリ、チナツはこの場に残ってヒナのカバーを。あの様子ならイオリの神秘の方がダメージが入りそうだ。スソノ、君は情報共有を』

『やっています!』

 

 風紀委員会は幹部とまだ余力がある者だけが残り、それ以外は背中を向けたビナーに対し銃撃を放つ。ヒナのレーザーが、イオリの特殊弾が放たれ、ビナーの装甲を撫でる。サッドニールの言う通り、イオリの弾丸の方が削れがいいが、それでも最低限のダメージでしかない。

 さらに万屋Kenshiのメンバーが、一斉に援護射撃を行う。やはり通りは悪いようだが、物量で言えば今はこちらが勝っている。

 

『……あれ、社長とあの七囚人はどこへ?』

『……は!? 本当に居ない!?』

『彼女らならメンバーを置いてアビドス校舎へ向かってるが』

『このタイミングで!? アレサさん!?』

 

 オペレーター陣営が今になって気づき、ヒナも何か物足りないと思って横を見ると、確かに忽然としていた。ちょっとした縁ができそうだったと思えばいつの間に。

 しかも、肝心のアレサまで居ないのである。ヒナは静かにキレて、行使する神秘量が増した。

 

『アコさん、奴の弱点はそちらでも解析できますか!?』

『それが、不可能なんです。あの機械蛇、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()! 目視情報からの分析しか!』

『……僕からもアプローチ不可能だ。現場の判断に委ねられるか』

 

 一度に多くの銃弾を浴びせられたからか、ビナーが振り向こうとする。しかし、そこに新たな神秘が。小規模とはいえ無視できない爆発を頬に受け、ビナーは吼えた。

 

「Gaaaaaahhhhhh────!!!!」

 

「こっちを向いたわ!?」

「ん、狼狽えないで。むしろ好機」

「──そういうことか。口の中へ集中攻撃して! ムツキは爆弾の投擲準備!」

「「「了解」ですっ!!」ッ!!」

 

 ビナーの口内。大口を開いたのをチャンスと見たシロコが、専用ドローンを展開してミサイルを乱射する。アルは次弾を撃ち、ノノミはガトリングを回転させる。ハルカとセリカがそこに便乗して、ありったけの弾をぶち込んだ。

 

「Gaggg!?!?」

 

 カヨコの見立て通り、怯んだ。ビナーにとって主砲たる口内は熱暴走を起こし、全身から煙を噴いてうつむく。その瞬間を、皆が待っていた。

 

「『『全軍、総攻撃!!』』」

 

 今その瞬間に出せる全てを、ありったけの力を放出する。

 ホシノがこの世界最高の神秘の輝きを放ち、ヒナが終幕を齎す神秘の煌めきを撃つ。追従するようにアコやスソノ、サッドニールが彼女らの神秘を絞り、強化し、散布する。そうして皆が放つ銃撃や爆撃が、流星群の如き嵐をビナーに浴びせた。

 普通ならば、この量の神秘を浴びれば、相手は死ぬだろう。単純だが、もはや当たれば「死ぬ」としか言いようがない、質と数の両面を揃えた暴力。そう、普通ならば耐えれるわけがなかった。

 

 ──普通ならば。

 

「やったわッ!」

「……ごめん社長、フラグ云々もあるけど嫌な予感がする」

「……ん。まだ、来る」

 

 あれだけの攻撃があったおかげか、土煙が立ち、ビナーを覆い隠すように見えなくなる。流石に倒れただろう。そんな期待を、カヨコとシロコが否定し──

 

 ──それは砂煙の中で、オレンジ色の輝きを放った。

 

『皆まだだ、まだビナーは生きている!』

『対象の全身から大量の熱源、おそらくミサイルです!!』

「ムツキ!! 爆弾をチャフ替わりに全体にばら撒いてっ!!」

「はぁ!? 無茶言うじゃんッ!!」

 

 ポポポポポポンッ!! と小気味のいい音が響き渡り、咄嗟の判断でムツキが扇状に爆弾を目の前にばら撒いた。瞬間、大爆風が皆に襲い掛かる。砂煙と熱風が混じり、全身に突き刺さるような痛みが走る。砂地だからか、踏ん張れずに吹き飛ぶ者は多く、この時点で半数ほどが足止めを余儀なくされた。

 その一方で、強者たる二人は、土煙の中でビナーを見据える。

 

(アイツ、まだ倒れてない……!)

(いえ、むしろ──強くなっている?)

 

 吹き荒れた砂地に立つ、白き大蛇──否、()()()()()()()()()()()。それらはホシノらを一瞥すると、急遽顔の向きを変えて、彼方の方向へ動きだした。

 

「……は? なっ!?」

『え? ほ、ホシノ先輩! 目標がこちらへ向かって来てます!?』

「ん!?」

「はぁっ!?」

 

 目の前の脅威よりも、何を優先したのか。全く意図が掴めぬまま、あの巨体は生き急ぐかの如くアビドス校舎の方角へと向かってゆく。

 まさかの事態に、ホシノとシロコ、ノノミとセリカは走り出した。せっかくカイザーに勝てたというのに、正体の分からぬ存在に、無駄にされてたまるものか。

 

「待てッ、待てよこのぉッ!!」

 

 これ以上、【アビドス】を消してなるものか。

 

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 どれほど走っただろうか。

 

 

 

 どれほど彼女たちはヤツの体力を削れただろうか。

 

 

 

 小麦色に焼けた砂漠を走り、合流を急ぐ。

 

 

 

「なんでお前まで来ている!? あちら側につけ!」

「できませんッ! 今から先生(あの方)に会うのでしょう!?」

「そうだがッ! 流石に時と場合を弁えろ!!」

 

 人力の二倍は速度が出せる、隠密用の義足*1に換装し、あの場に万屋Kenshiの置いて踵を返したアレサは、砂漠を全力疾走していた。ビナーが出たのと同じタイミングで、先生から「剣が出来た」という連絡を受け、アレサは即座に取りに行くことを決めた。

 

 だが、その横で普通の足でありながらも同じ速度で並走するワカモがいた。

 

「今すぐ引き返せ!」

「嫌ですッ! 絶対に先生に会います。お顔を一目、一目だけ……!」

「何が嫌だ引き返せッ! 何故受動態なんだ! 自分からアプローチすれば相手になってくれる人だぞ!?」

「それは、その……」

「乙女かコイツ……ッ!?」

 

 肩をぶつけて睨み合っていた瞬間、二人の体が宙に跳ねる。後ろを向けば、装甲が赤化したビナーが、こちらを捉えて追いかけている。首だけを出し、胴体は砂地を泳がせて移動しているのだろう。動く度に足元が沈み、さながら蟻地獄の如くこちらを砂に沈ませんとしている。

 

「なんでこっちを追いかけている!?」

 

 奇しくも、アレサと先生が合流しようとしている方向は、アビドス校舎がある方向だ。急にアビドス校舎を──その方向にあるものを──狙い始めたビナーの意図を、アレサは掴めない。まさかこっちに来るとは全く思っていなかった彼女は、熱風の中であるにもかかわらず冷や汗が止まらない。

 

「おいワカモ、四の五の言っている場合じゃない! せーので二手に分かれろ!」

「っ、えぇ、承知しました……「せーのっ!!」」

 

 アレサが左、ワカモが右と別れて走ると、ビナーはその真ん中を突っ切り、二人を無視した。ようやく狙いが自身ではないことを知ると、アレサは並走しながら考える。

 

「コイツ、私狙いじゃないのか。それなら、校舎か? いや……まあ倒さねばならんことに変わりないか」

 

 救出時に貰った透化(いつもの)ポーチから、基地内でくすねたRPG-7(ロケットランチャー)を取り出す。走りながら狙いを定め、ポシュッ! と小気味のいい音と共に、ロケット弾頭をビナーの頭部へぶつけた。ビナーは避けることなく顔に爆発を浴びるが、まるで効いていない。

 

「聞こえているかワカモ! 私かお前でもいい、注意を逸らせ! コイツの足を止めねば先生が危ない!」

「承知しました! ──鎮まりなさいッ!!」

 

 瞬間、膨大な神秘の一撃が、ビナーの顔面を貫いた。さすがワカモ──と言いたいところだったが、それすらも無視してビナーはアビドス校舎へ向かうのを止めない。

 それを見たアレサは、さらにパンツァーシュレック(バズーカ砲)を取り出し、ビナーの顔面へ再度爆発を浴びせる。当然、神秘を込めた一撃だった。──だがそれさえも無視する。

 

「なんだコイツ──!」

 

 ビナーの気配が変わった。張り詰め、怒りが見えるその形相を目の当たりにする。と同時に、ワカモが叫んだ。

 

「アレは、先生!」

「ん!?」

 

 アレサが正面を向くと、一台の高機動車*2が走っているのが見えた。白い塗装と【シャーレ】のエンブレム。運転席を見ればエリと先生が相乗りしており、確かにワカモの言う通りだった。

 だが、それをにビナーが殺意を向けているとなれば、話は変わってくる。

 

(──まさか)

 

 大口を開き、内部にあろう集光レンズが輝く。疑念は確信に変わり、アレサは叫んだ。

 

「止まれえええぇぇぇぇェェェッ!!!!」

 

 今、ビナーを止めなければ、先生に被害が及ぶ。はち切れんばかりに雄叫び、各々がありったけの力を振り絞った。

 アレサは瞬時に両脚を戦闘用義足に換装し、大地を蹴ってビナーの脳天に踵落としを放つ。

 ワカモは再度神秘を込めた──どこから取り出したか分からないが、明らかに身の丈の二倍はあろう大きめのRPG-7を取り出し、神秘を濃縮させて撃った。

 

 ゴッッッ!! と開かれた上顎が強制的に閉ざされ、下顎は濃密な神秘の爆撃によってアッパーカットされたかの如く閉められる。今まさにビナーの『アツィルトの光』(極太のレーザー)が発射される寸前、強制的に口を閉ざされたビナーは、口内でレーザーを発射してしまった。

 ──瞬間、ビナーの頭部が盛大な爆発を起こし、張り付いていたアレサを吹き飛ばした。

 

「ッ!!」

 

 爆風を受け止めれる体勢ではなかった彼女は、宙を舞い、砂地に落ちる。レーザーは発射されなかったものの、爆発の威力はここ一体を軽く吹き飛ばす程度には、高い威力だった。だが、あの様子であれば、まだ倒れていないだろう。

 そういえば、先生は無事か。顔についた砂を拭い周りを見ると、横転した高機動車があり、その横で、布に包まれたものを必死に運ぶ二人の姿があった。

 

 あぁ、そうか。ビナーはアレを危険視したのか。

 アレサは立ち上がり、急いで二人の元へ向かう。口の中をやられたんだ。すぐに起きはしないはずだろう。振り向いて確認したくなる衝動を抑え、彼女は取りに行く。

 

「先生っ!」

「……! アレサ」

"お待たせ……これを"

「あぁ。エリ、先生、ありがとう。……後は、任せろ」

 

 何か言いたげなエリだったが、口を紡ぎ、サムズアップだけしてトラックの後ろへと行く。

 先生も同じ様子だった。シャーレのスーツであろうコート、その懐から何かを取り出そうとして、止めた。

 

"アレサ"

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

[『大人のカード』を使う]

 

[『剣』を渡す]

 

 

 

 

 

 

"カッコイイところ、見せて!"

 

 先生は、憧れるような笑みを向けて、アレサに抱えていたものを渡す。

 これから、戦場へ子供を向かわせるというのに、『大人』に似つかわしくない表情だ。しかし、先生は目の前の人物が『子供』だと分かっていても、『子供』として扱うことはしない。

 

 一人の『戦士』。一人の『剣士』。あるいは、『英雄』。

 

 アレサは渡されたものを手に取る。布を剥ぎ、刀身を朝日にかざせば、青い輝きを放ち、その威光を知らしめた。

 これは、確かにこの世界にあってはならないものだ。メイトウでも斬れなかった『神秘(こどもたち)』を、目の前に居る神秘に一歩踏み込んだ者も、あるいは来訪者たちさえも、これならば斬り捨てることができるだろう。

 キヴォトス唯一のメイトウにして、真に殺人道具なりうるもの。頸を落とす剣として、これ以上に似つかわしいものはない。

 

 だが、アレサはこれからもこの剣を携えるだろう。

 

「──勿論だ。見ていてくれ」

 

 彼女はこの剣で、青春の物語を作り出すつもりなのだから。

 

 いつの間にか、皆が集まっていた。ビナーを追いかけて、走ってきたのだろう。

 ホシノが見ている。シロコや、ノノミ、セリカ、アヤネが見ている。

 ヒナも、アコも、イオリやチナツ、サッドニールも見ている。

 風紀委員会の部下たちも、万屋Kenshiのメンバーたちも、ワカモや便利屋68ら指名手配犯たちも見ている。

 

 先生も見ている。

 

 その中で、アレサは蒼穹の如き色めく大剣を構える。両手に持ち、腰を深く、刀身は左斜め下へと。

 

 対して、ビナーはようやく口内の修復を終えた。散々神秘を浴びせられ、満身創痍ではあるものの、その危険性、その脅威、『恐怖』を()ってしまった蛇神は、絶対にアレを止めなくてはならないと決意した。自爆してもいい。暴走してもいい。何としてでもアレを消し飛ばさんと、集光レンズに極限までエネルギーを溜め込む。

 

 アレサにはビナーのように、エネルギー源となるものはない。手足は機械であるものの、人体は普通の人間のもの。ヘイローだって何度も死に、何度も別人となって生き返った実績があって、ようやく具現化したものだ。何か、特別力を持っていたわけでもなく、転生特典と言えるようなものでもない。

 

 個人には有り余る人生経験、知識量、技術の数々。それすらも、努力すれば個人で全てを習得できる範囲。ただそこに理不尽な死を数回挟んだだけで、実際はアレサのような何でもできる人間というのは、それほど珍しくない。

 

 そんな人間ができることの集大成である彼女は、神秘という人間とはまた可能性を抱える、この世界の子供たちと比べれば、それほど大したものではないだろう。

 

 彼女は砂漠にある砂粒の一つでしかない。本来ならヘイローだって顕現しない、ちっぽけな人間なのだから。

 

 だが、もしもその砂粒の一つが、星になれるのなら。

 

 星に憧れたのなら。

 

 生と死を繰り返してでも、ただの人間の限界を機械に頼りながらでも、太陽に手を伸ばさんとしたのならば。

 

 

 

 

 

「この大空に、私の剣技よ──届け!!」

 

 

 

 

 

 奇跡だって、起こせるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アツィルトの光』が放たれると同時に、アレサが大剣を横に振るった。瞬間、顎を開くかの如く、上下に極光が裂かれ、止まる。ビナーは大口を開けたまま停止し、アレサは刀身を右へ向けたまま、残心。ただ静かに、時が止まった証拠は無いと、砂煙が証明し──

 

 ──数秒後、ビナーの頭部が、ズルリと二つに分かれ、墜ちた。

 

*1
見た目は競技用義足

*2
自衛隊で利用される中型自動車。トラックみたいな見た目





 次回、対策委員会編第二章、最終回

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