三部構成です。
今日の当番はアレサだ。
今の時刻は朝七時。始業にはまだ早いが、普段なら私が起床する時刻だ。寝泊まりに使っている地下の作業場から出て、最低限姿を整えてオフィスに顔を出す。
そこには、
「起きたか。待っていたよ」
──かなり豪華そうに見える朝食を用意して、待っているアレサが居た。
"おはよう。すごいねこれ"
「あぁ、おはよう。
"じゃあありがたく"
豪華そうに見える、というのも、テーブルにはかなりの量の料理があるが、その一部が明らかに携帯食料のようなブロック状のものがあり、その一部だけが物凄く雰囲気を台無しにしているからだろう。
それ以外はというと、炒めた野菜を絡めたご飯、パンに生ハムを挟んだ"ミートラップ"、先述の"ブロック型栄養食"、ドラゴンフルーツのペーストで作った"ダストウィッチ"。焼き魚多数に牛乳。というメニューだった。
"……炭水化物が多いね"
「パンばかりだろう? とりあえず、食べながらでも話そう」
"「いただきます」"
ご飯とパンという、和洋折衷な朝のメニュー。まずは野菜が絡んだご飯を頂いた。
……ほんのりと醤油の香りがする。焦がし気味な野菜のシャキシャキ感と、熱いご飯が合う。ごまの香りがするのはごま油で炒めたからだろうか。味が色とりどりになっていて美味しい。
牛乳で飲み込みつつ、次はミートラップを一口齧る。生ハムの間にマヨネーズとコショウが入っている。肉のうま味に、マヨネーズのまろやかな酸味がとても良い。何というか、好きなものだけを食べている感覚がする。パンも固めな感じなのが、柔らかい生ハムとよく合っている。
「ふふ、随分と美味そうに食べるな」
"うめ……うめ……"
「おかわりもあるぞ」
ブロック型栄養食も食べてみることにした。正方形の、茶色いケーキのような見た目だが、フォークで刺してみると以外としっとりとしていた。一口食べてみると、ブルーベリー味のソ〇ジョイといった触感と味だ。甘めに味付けされているのか、お菓子感覚で食べることができる。
"アレサ、これは?"
「ブロック型栄養食だ。かつての世界の携帯食でね、本当ならもっと味が薄かったんだが、ここは調味料に溢れているからな。食べ続けても飽きないよう、甘めに味付けしてみた」
アレサが語るに、遠征や、ちょっとした遠出の時にもこれを持っていたらしい。食事にも、ちょっとした間食にも食べられる、保存の効く料理がこれしか無かったという。
「古代の栄養糧食という物品もあったんだが、アレらはレシピが失伝していた。皆血眼になってレシピを探していたんだが、結局見つからなかったな」
"そんなのがあったんだ"
「消費期限がほぼ無く、一食で腹を充分に満たすことができる携帯食となると、誰もが欲しくなるだろう?」
頷きながらも、今度はダストウィッチなるものを食べる。うん、イケる。こっちのサンドイッチに使っているパンは、結構しっとり気味だ。ドラゴンフルーツの甘酸っぱさが丁度いい。
"そういえば、なんでこれは塵なんて名前が?"
「……あぁ、それか」
何故かアレサが顔色を悪くする。何があったのだろうか。
「元はサボテンを使う料理だったんだ」
"サボテン"
「食うぐらいだったら自殺を選ぶレベルでクッッッッッッッソまずい」
"……え? 確か、君のいた世界って常に食糧難だったよね?"
「あぁ。だがアレを食って短い命を引き延ばすか、食わずに安楽を選ぶかと迫られたら……」
"わかった! わかったからこれ以上は!"
柄にもなくガタガタと体が震え出したアレサを、私は全力で落ち着かせた。
あの後、こっそりサッドニールに詳細を聞いてみると、かの世界のサボテンはそもそも食材として使えるものではなかったらしい。しかし食糧難に喘ぐあの世界では、それでも貴重な食材の一つで、なおかつ砂漠でも生産が効くものだったため、料理としてゴリ押してでも利用していたらしい。
その結果、
その後、焼き魚を頂き、牛乳を飲み干した。焼き魚はシンプルに塩で味付けされたアユだった。どこで手に入れたかを聞くと、普通にスーパーで安売りしていたらしい。今度焼き加減とかを聞いてみようかと思った。
"ごちそうさま。朝から結構ボリューミーだったなぁ"
「おそまつさまだ。これから仕事なんだろう? 手伝うよ」
"ありがとう。それじゃあ、この書類から頼めるかな"
──朝いっぱい食べたからか、夕方になるまで元気に活動できた。
△▽△▽△▽△▽△▽△
本日はアレサの仕事場に来ていた。
アビドス自治区の市街地。柴関ラーメンがあった区画の一つで、まだそこかしこにビルが残っている。……とはいえほぼほぼ廃墟化しているのだが。
「挨拶ができる人間は建築もできる。今からビル解体を行うぞ。返事ィ!」
「「「「ウッス!!」」」」
「よし、ではご安全に!」
「「「「ご安全に!」」」」
なんだこれは……
メガホンを持ったアレサが合図を出すと、作業着に身を包んだ少女たちが、一斉に動き出した。大体が不良生徒や傭兵たちだが、中には元万屋Kenshiのメンバーもいる。
とりあえず、私はアレサに一声かけた。
「先生か。見ての通り仕事中だ」
"やあアレサ。この集まりは?"
「手頃な奴らにビル解体依頼を出したんだ。報酬も出るし、計画通りにやってくれるなら気持ち良く
その辺りはきっちりしているらしい。かつてのホシノらが見たら、「アビドスに部外者が入り浸っている」という事態だけで嫌そうな顔をしていただろう。
しかし今は情勢も緩やかになって、やらなければいけないことにも手を出そうとしている。そのために外部の力が必要なら惜しまないスタンスを、彼女たちも受け入れつつある。
元々アレサがそういうスタンスだったからか、影響されたのだろう。
「先生も手伝うか? 私は現場監督だから、見回りをせねばならん」
"そっか。 それじゃあ、私もやってみようかな"
「OKわかった。今工程を確認するから待──」
ドガァンッ!!
「──ッスゥー……フゥゥ……ちょっと待っていてくれ」
……明らかにヤバい音が鳴ったので、私は近くにあったヘルメットの予備を被った。アレサはというと先程の音源の元へギュンッ!! と音を置き去りにする速さで吶喊した。
多分、バイトに来た誰かがやらかしたのかな……
数分後、ヘルメットを被っているにも関わらず、頭にたんこぶを生やして気絶した生徒を二名ほど引きずってきたアレサは、それらを雑に投げ捨てて私に向き合った。
"えーっと、程々にね?"
「程々もクソもあるか。いくら頑丈とはいえ、建物の解体は危険な作業なんだぞ。しかもコイツら、使う予定がなかった爆発解体用のダイナマイト持ち込んで来やが──」
ドッゴォォォンッ!!
「…………殺すか」
"待って!! 落ち着いて!!"
二度目の爆発音を聞いた瞬間、青いメイトウを抜刀しようとしたアレサを、私は全力で止めることしかできなかった。
──その後も、あるはずのない爆発音が定期的に響き渡り、その度にアレサが飛び出しては犯人を殴殺*2を繰り返すアレサを宥めた。
なお、余談だがビル解体は事故もなく上手くいった。
△▽△▽△▽△▽△▽△
今日はアビドス校舎に来ていた。珍しくアレサ一人だけが登校しているようで、部室には彼女だけがいた。
「来たか、先生」
部室でノートPCを動かす彼女は、何というか、いつもの姿と違い過ぎて違和感があった。
「私だって事務作業はするんだぞ? まあなんだ、コーヒーを淹れるから待っていろ」
PCの他に、ノートや本を広げている様は、まるで勉強しているかのよう。そこに、アレサはコーヒーを淹れたマグカップを手渡してきた。飲んでみると、味が少し違ったのが分かった。多分デカフェコーヒーなのだろう。
私は対面の席に座り、彼女の様子を見る。
「建材生産設備が整った今、販売先を探しているところだ。ゲヘナとトリニティがやはり一番売れそうなところなんだが、あそこは両方が犬猿の仲なせいで、どちらかに偏った売り方をすればすぐに文句を出してくる……」
"……大変そうだね"
「先生的には、いずれ『エデン条約』関係で呼び出しを喰らうんじゃないか? 一度下見でもいいから、両校に行ってみるのもいいだろう」
"うん、考えておくよ"
「……」
"……"
静かな時間が流れる。普段は誰かしらいるこの部室は、今は二人きりだ。コーヒーの香りと、カタカタカリカリと鳴る音。気付けば、私も『シッテムの箱』を取り出して作業をしていた。
こんな空気だからか、手を動かさずにはいられない。まるで、この部屋が仕事への意欲を突き動かしているかのようだ。
「……先生は」
"……ん?"
「故郷に帰りたいと思わないのか?」
ふと見上げると、私の顔を見つめる彼女がいた。あの豪胆不遜な様子はない。年相応の少女のように、心配そうな目で私を見ている。
帰りたいというのは、私も
『連邦生徒会長』に指名され、毎日銃弾が飛び交うこの世界で『先生』に指名された。その理由は、未だに分かっていない。私が知っているのは、私個人の情報と、『外』から来たということだけ。
──今更になるが、
確かに私には帰る場所があった。『外』には私の家も、家族が住む実家もある。だけど、今は私のいた『外』は
頼めば普通に帰れるかのような。今は仕事場にいるから、帰ろうと思えば帰れると思えるような。
まるで、
"私は、今は『先生』だからかな"
要領の無い言葉が出て、何を考えていたのかも霧散してしまう。
"もうすっかりこのオフィスが家になっちゃったし。あ、でも大丈夫だよ。私のことは、あまり気にしないで"
むしろ、私よりも今は、君の話を聞きたい。
先生という立場なのもあるけど、こんなに可愛い子に囲まれて幸せなことは早々ない。けれど、彼女たちは大切な生徒だから。私は『先生』として、君たちと触れ合い、夢に向かって成長してゆくところを見届けたいんだ。
友達がいるなら、友達と一緒に切磋琢磨してほしい。もしも道を間違えている時は、私が正しい道へ導いてあげなければならない。責任を負う時は、私も一緒に取ろう。『大人』として、『子供』を守ることは当たり前なのだから。
だからアレサは、何も気に負わなくていいんだ。たとえ君が私以上に人生経験が豊富で、あらゆる罪に手を汚していようとも、今の君は大切な生徒の一人なのだから。
"君は──この世界で学校を作りたいと言っていたね"
「……あぁ」
"だったら、君の夢が叶うところを、先生として見届けたいかな"
君は夢を持つことを重視していたね。私はもう『夢』をあまり見なくなったけど、代わりに誰かの『夢』を見届けることが好きになってるんだ。
嘘。本当はもっと何か、別の夢を見ていたかもしれない。
私の将来の夢は、学校の先生だったんだ。
違う。私は
私は、『先生』ただの普通の人間のはずで、
どうして私は『キヴォトス』にいるのだろう。
──私のミスでした。
「……もしも」
作業の手を止めた彼女は、私を見つめる。どうしてそんな顔をしているのか、分からないけども。
「もしもお前が、
──私がお前を
彼女の言葉を聞いて、私は心の底から安堵した。
先生は
我々が先生ならば、物語の中の『先生』とは誰を指すのでしょうか。
『先生』が持ちうる善性は、本当に
私たちは、それらを問い続け、探究します。
──我々もまた、そのような『役割』を当て嵌められていますから。
ブルアカステータス風のプロフィール
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