Blue Kenshi   作:外道カヤノ

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26.また会う日まで

 

「万屋Kenshiは解体する」

 

 カイザーPMCとの大決戦、ビナーの追撃……それらが終わった翌日。ようやく落ち着いて話せるようになったアレサたち『万屋Kenshi』のメンバーは、そのオフィスがあった場所に集まっていた。

 夕日に照らされた街並みの中、ただポツンと一件だけ崩壊した場所がある。

 

 あの時から表層部は崩れたままで、地下空間は騒ぎで荒れた時のまま。まるでそこから時が止まってしまったかのような姿で、誰もそこから手を出していない。唯一無事だった道場は残っているものの、土足で歩かれた跡がくっきりと残っており、瓦礫も散っていてもう使い物にならないだろう。

 

 道場に集った二十一名。そして、統領たるアレサが、その中心に立って言った。

 

「……え?」

「は? おい」

「嘘でしょ?」

「いきなりすか?」

 

 戸惑う者は、案外少なかった。しかし全くいないというわけでもなく、ざわめきが広がる。

 

「先の戦いで、私は大衆に「アビドス生徒」だと知られた。名前もな。おかげで、名実共に私はアビドスの生徒となった」

 

 アビドス廃校対策委員会は、元々正式に認可された生徒会ではなかった。ホシノが『アビドス生徒会』の唯の一員であり、それがアビドスという存在を今日ここまで存続し続けていたのだ。

 だが、これがシャーレによって正式に認可されたことで、対策委員会は生徒会と同一となった。

 

 鉄杖アレサは小鳥遊ホシノの元、アビドスで転入することとなり、「これまで不登校だった」というカバーストーリーの元、カリキュラム的な問題で一年生からのスタートとなる。

 

 そして、それはアレサが建てた企業の、終わりを示していた。

 

「基本的に、生徒が起業を行うのは校則違反だ。それはアビドスも例外じゃない。早速、対策委員会から企業の解体か、売り渡しを命じられたよ」

 

 言葉に憂いはなく、アレサも納得した様子でいる。自ら建てたというのに、満更でもない顔をしている彼女に──

 

 エリが拳を入れた。

 

「ッ」

「テメェっ」

 

 反撃はしなかった。あるがままを受け入れ、アレサは受け身も取らずに倒れ伏す。

 

「何で素直に受け止めてんだ」

 

 襟首を掴み、強引に持ち上げる。義肢の重さなど、今のエリには関係なかった。

 

「テメェなら万屋Kenshiを残す方法なんていくらでも思いつくだろ! いや、思いついてたはずだ。なのになんで解体を受け入れてんだッ!!」

 

 ──誰もが言わんとし、それでも黙っていたことを、エリは口を出さずにはいられなかった。

 

 最初は強引に、「起業する」と言った強いだけの阿呆に、仕方がなくついて行った。そこまでは皆変わらない。しかし、付いていくにつれて、それは阿呆の言葉では無くなっていった。

 

 銃以外の力を知った。常識の無さに呆れた。責任を受け持つ姿に憧れた。──彼女に付いていけば、自分では手に入れられなかった「何か」が手に入る。そんな希望、あるいは確信があった。

 

 それが夢半ばで終わるなど、誰もが嫌だと叫びたかった。

 

「……分かってんだよ。仕方がないってことくらい。所詮アタシらはアウトローだから、こんな楽しい時間にも終わりもあるってことくらいよぉ」

 

 ぽたり、ぽたりと、エリの頬から夢が垂れる。

 無機質そうに見える光の無い瞳が、アレサの目がエリをじっと見つめる。少なくとも、いつもも向けている、観察するような眼差しではなかった。

 

「……不思議なことを言うものだ。それで終わりではないだろう」

「ッ……」

「私が死んだ訳じゃない。お前も、万屋Kenshiを失ったからって死ぬ訳ではないだろう。何故、()()が消えたくらいで死ぬほど悲しむ」

 

 エリの手を取り、ゆっくりとアレサは起き上がる。土埃を片手で払うと、壊れたオフィスを眺めた。

 

「それくらいで、私たちの繋がりが切れるものか」

 

 目を見開く。

 アレサは周りをぐるりと見ているつもりだった。エリから視線を外して、フリデ、カト、スソノ、他万屋Kenshiのメンバーたち。壊れてしまった調度品や、あの時買った安いチェス盤。崩れて半分に割れた時計も、懐かしそうに見つめていた。

 

「例え企業としての『万屋Kenshi』が無くなっても、お前たちは万屋Kenshiで過ごした記憶を簡単に忘れられるか? 私が教えた技術や、自分で進んでみたいと思った将来の夢は、そう簡単に捨てられるものか?」

 

 そうして、ずっとエリから視線を外しているというのに。エリはずっとアレサに見つめられている気がした。

 

「ほら見ろ、何も失っていない。ただ帰るべき場所がバラバラになるだけで、私たちはいつでも集まれる」

 

 ようやく目線が合った時に、彼女が取り出したのは、スマートフォンだった。電話帳アプリを開いて、ズラリと並ぶ名前を見せる。

 そこでようやく、エリは彼女が言いたいことを理解した。

 

「……いいよなぁ、スマホ。かつての世界にコレがあれば、いつでも連絡が取り合えたのだが」

 

 よくよく考えれば、確かにそうだった。

 このご時世、物理的に会う必要は、極論無い。文字のやり取り、通話、動画などで、繋がろうと思えば皆繋がることができる。学園の垣根など、越えようと思えば越えれるだろう。

 

 当たり前にあったものなのに、何故見落としていたのか。

 否、当たり前だったからこそ、灯台の根元のように自分の視野が広がっていたと錯覚していたのだろう。

 

 万屋Kenshiという企業は無くなる。だが、それで名前が消える訳ではない。

 この世界は、携帯端末一つで繋がれる世界だ。たとえそれが無くとも、今度は手紙を飛ばせばいい。物理的に会いに行けばいい。

 

 そんな当たり前を、何故忘れていたのだろう。

 

 惜しむように語る彼女に、エリは──納得できずにもう一発頬を殴った。

 

「ブッ!?」

「ジジくせぇこと言ってんじゃねーぞ! そーいう絆とかじゃねーんだ。アタシらはどうすんだって話を聞いてんだよ!」

「そう、焦るな。私の話はまだ終わってないだろゴッ!!」

「だったら話なげーんだよボケが!!」

 

 分かったがそれはそれとしていきなり事を進めるコイツは殺す。

 

 しみったれた空気は何だったのか。ついに前社長をボコりはじめたエリに、半数が止めようとし、半数が笑いを抑えられずに観戦に勤め始めた。

 茜色の空に、決して軽くない肉が叩きつけられる音が響く。結局止められる者はおらず、エリは心赴くままにアレサを殴り倒した。

 

「ハァ……ハァ……で? 万屋Kenshiを解体するのは文句言わねぇ。ただ、アンタ以外はどーしろってんだ。まさか野放しじゃねぇだろうな? あ? 早く結論言えクソボケがよ」

「ぶぐ、ふ……ほ、ほら」

 

 タコ殴りにされた彼女が差し出したのは、厚い紙束。エリが見たそれは、「転校届」と書いてあるものだった。

 

「アビドスは、先の作戦で協力してくれた万屋Kenshiに、報酬として転校、ないし入学の権利を与えてくれた。あちらに、お金はないからな。これくらいが彼女たちなりの、誠心誠意の報酬だろう……ちょっと血拭く

 

 それは、どうやっても手に入れられなかったもの。

 いや、取ろうと思えば手にできただろう。ただ、そうする選択肢を取れなかっただけで、気がついたらするりとこぼれ落ちたものかもしれない。たった一枚の紙。されどその一枚で、人生が大きく変わるものなのだから。

 

 アビドスへの転校届。転入、入学届の三種類が束になっており、数えればそれぞれここにいる人数分ある。ここにはエリのような停学者や、フリデやスソノのようなサボりもいる。退学者も中にはいるだろう。だから三種類分揃っている。

 

 エリはそれを手に取ったまま固まる。アレサは口を拭うと、固まったままのエリから書類の束を取ろうとした。だが、引き抜けない。

 それは私のものだと。

 

「……取り上げはしない。一旦落ち着け」

「お」

「お?」

「おま、お前……アビドスが、全員を受け入れるって、本当か?」

「本当だとも。復学に関しては、カリキュラムや単位の不足も、ある程度はシャーレが支援してくれるぞ」

 

 ほら、と渡される一枚の紙。転校届だけを渡されたが、エリは自身が停学中の身であることを明かしているため、もう二枚はくれないのかとは言わなかった。

 順番に、アレサは用紙を配ってゆく。エリのように配ったまま固まる者もいれば、手に取って喜びを隠せない者もいる。今だに事態に追いついていない者も、震えが止まっていない。

 

「さて、配り終えたか。一応言っておくが、私も、アビドスも、お前たちの意思を尊重する! だから強制は絶対にしない! 申請期限は、まあ一週間くらいでいいだろう。高ぶる気持ちは理解できるが、だからこそ落ち着いて考えて欲しい」

 

 未来へ、どう向かうか。

 

 委ねられた用紙が、これまで手に入れた物の中で、何よりも重く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 

"それで、ここに来たんだね"

「寝床がそこしかないってのもあるが、こうも全員集まられるとはな」

 

 ぎっちり。

 

 としか表現できないほど集まった、シャーレのオフィスの中。今だ仕事をしていたのだろう先生と、その手伝いをしていたアレサの前には、万屋Kenshiのメンバーが全員集まっていた。

 落ち着いて考えてみろ。と言った手前、彼女たちが落ち着ける暇などありもしなかっただろう。考えた上で、やはり誰かの相談が必要だと判断したのは、奇妙なことに全員。言ってしまえば悪いが、学の悪い彼女たちは、少しでも人生経験のある先輩たちに、話を聞いて欲しいと思ったのだ。

 

「とりあえず、先生。私が必要書類をやる。先生は先生らしいことをしてやれ」

"わかった……さて、一人ずつ話そうか。聞かれたくない話になりそうなら、個室に行くけど"

「い、いえ! ……多分、みんなにも聞いて欲しい相談になると思うので」

 

 声を出して反論した少女は、そのまま一歩前に出た。皆は自ずと沈黙し、その少女の相談を待つ。順番的にも、心構えをするにも、丁度いいと思ったのだろう。

 目元が隠れたおかっぱの少女は、深呼吸する。言い出そうと口を開き、それでも言葉にしてしまったら。そんな躊躇いを見て、先生は落ち着かせようと手を伸ばす。

 

 だが、それを遮るように、少女は一歩踏み出した。

 

 

 

「私っ、元の学園に復学したいんですっ!!」

 

 

 

 ──誰もが彼女を見た。

 

「本当は、すごく嬉しいし、けれど嫌なんです」

 

 辿々しくも、言葉を紡いでいく。そうしなければ、今堰き止めているものが溢れそうになるから。

 

「アビドスの方たちは、思った以上に優しくて、けど私はあの人たちを襲った……悪い、人です」

 

 一昔前の彼女ならば、このようなことを一回でも口にしただろうか。彼女だけでなく、ここにいる皆が、そうだっただろうか。

 先生は手を下げ、ただ彼女の声を聞く。

 

「万屋Kenshiにいて、みんなで剣術を学んだり、知らないこと、色んなことを勉強したりして、ようやく気付いたんです。生きるために必死になっていると、周りが全然見えていませんでした。何も知らなかったら、本当は壊しちゃいけないものも、知らずの内に壊しちゃうんだって、知りました」

 

 ──アビドスの襲撃を依頼された時は、何も考えていなかった。

 ただ滅びゆく学園の事情など知らず、むしろ「どうして死んでいないのか」と考えるほどに、無関心で、それ以上に自身の身の回りのことで精一杯であった。

 

 学園からはみ出された人間が生きるには、どうやってもアウトローの道を進む他ない。無法なアルバイト、学園に代わる組織への加入……あるいは、孤独に挑まんとするか。

 

 狭まった選択肢は視野すらも狭める。そうした選択肢は、決まって悪辣なものになる。

 ようやく気付いた時には、既に傷付けた後だった。

 

「……だから私、もう一度元の学園で勉強して、今度はちゃんと、一人の生徒として……アビドスに、謝りたいんです」

 

 少女の行動に誰も口を挟むことはなかった。「そうしたい」という気持ちは、何よりも目先の大人に強く伝わっていた。

 今度こそ、自分の力で。何をすべきで、そのために何をなせばいいのか。

 失敗して、失敗して、失敗して、それでもと立ち上がれたのなら。傷つけて、どうしようもない溝を作って、けれどもう一度その溝に橋を架けるチャンスが生まれたのなら。

 

 ──皆に背中を押されながらでも、自分の力で立ち上がりたい。

 

「どうしようもなくて、犯罪に手を染めることしかできなかった私じゃない。学校にいた時の姿で、今度はちゃんと──普通の学生の私で、あの人たちに会いたい……話したい、友達になりたい!」

 

 望んだのは「普通」であること。

 

 ゼロからのスタートを、彼女は望んだ。

 

"そっか。しっかりと、考えたんだね"

「……っ! はい!」

"……君の望みはわかった。私は『先生』として、君の復学手続きを手伝うよ。復学先は?"

「私は──」

 

 ──そこからは、スムーズに相談が進んだ。

 

 彼女にあてられて決断が決まった者。予め決めた道を歩もうとしていた者。様々な思いが、シャーレの中で木霊してゆく。

 時刻は日を跨ごうとしているが、先生はそれでも話を聞き続けた。今だからこそ、彼女たちに必要な助言を与えなければならない。前に進もうとする者たちの助けに、ならなければならない。そんな強い意志はあれど、彼の柔和な表情は揺るがなかった。

 

「オレはブラックマーケットに戻るぜ。復学とか転校とか、ありがてー話だったけど……もうちょっと、オレはアウトローの空気に浸りてぇんだ」

「アタシ、復学してーんだ。アビドスの姿を見て……アイツが啖呵切ったとこ見てたら、アタシも頑張らなきゃなって思ってよ」

「私も復学したいです!」

「オレは帰るぜェ! 古巣ってヤツによォ~!」

"……うん。君たちが決めたことに、私は特に口は挟まないよ"

 

 中には不良生徒に戻るという、先生にとっては見過ごせない道を進む者も居たが……それでも彼はその意思を尊重した。

 

"もしも困った時、助けて欲しいと思った時は、遠慮なく私を頼って欲しい。私は、君たちの味方だからね"

 

 勿論、悪いこと以外なら。

 そう付け加える先生に、皆が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

「そっかぁ。それで、殆ど復学していったんだね」

「それだけ、皆にやりたいことができたのだろう。そのために、元の居場所に戻ろうとするのは当然のことだ」

 

 アビドス校舎の屋上。透き通るような空の下で、ホシノとアレサは二人揃って砂漠を眺めていた。

 結局、アビドスへ転入した者はアレサ、エリ、フリデ、カト、スソノの五名のみ。万屋Kenshiの幹部メンバーだった者だけが、この砂漠の地に残った。

 

「せっかくアビドスに生徒をいっぱい誘致するチャンスだったのになぁ~」

「いいのか? 元はといえば、アビドスに散々喧嘩売った面子だっただろう」

「それは、今でも許さない。けど、ずっと許さないままじゃ、駄目なことも知ったから」

 

 だからこそ、報酬として提示した転入を選ばず、復学を選んだ者たちが多かったのが、ホシノにとっては意外だった。

 

「案外、こんな砂臭いところに居られるか! なんて思われたんじゃないか?」

「うわ~……ありそうで困る」

「まあそんなことは無いだろう。皆、アビドスのことが好きだって言っていたからな」

「……そっか」

 

 ふわりと髪が持ちあげられる。黄土色が埋め尽くす大地に吹く風は、砂粒も運んでしまう。そうして世界を埋め尽くさんとする砂は、今日だけはそれほど数が少ない。久しく心地いいと感じたそよ風に、二人は身を委ねた。

 

「──次に彼女たちに見せるアビドスは、命が芽吹く場所にしたいんだ」

 

 肌を削り取らんとする砂の暴風。起伏が激しく、常に陽炎が視界を覆う砂の大地。あちこちに『舟』の残骸が零れ落ち、砂塵を纏い屍を貪る蟲が蔓延る世界。虚飾の繁栄で塗り固められた街。血も涙も乾いてしまった人々だけが棲まう社会。持ち上げることもできない地盤を支える、ただ枯れ果ててゆくだけの奴隷(いのち)

 

 それがかつての世界。名もなき剣士が生まれ、育った砂漠だった。

 

 アビドスもそうかと問われれば、アレサはハッキリと否定するだろう。

 

 確かに死にゆく世界だっただろう。つい最近まで、邪知暴虐の帝国に全てを貪られんとしていたのだから。仮にそれらが居なくなったとして、後に残るものは何もないことが確定していた。砂嵐を防ぐ者は誰一人として居なくなり、そして消えて行く。

 屍も、爪痕も、全て砂の中。掘り起こそうとする者は、誰もいない。そうなれば、かつての世界と同じように終末へ──否、何もかもが終わってしまった後と化す。

 

 死とは、知覚もできないほど一瞬なのだから。

 

 だが、まだ終わっていない。

 彼女たちはまだ前を向いている。進軍するかの如く突き進み、歩みを止めていない。

 

「せっかくのチャンスを蹴ったアイツらに、来なかったのを後悔するくらいに、この世界を変えたいんだ」

「だから、学校を作るの?」

「そうだ。アビドスが復興できたら、今度は私がやりたいことをやる。お前の隣に学校を作って、生徒の争奪戦をしよう」

「物騒だなぁ〜。けど、いいかもねそれ。学校ができたら、いっぱい生徒が集まって、その分だけ人も増える。そうしたら、この砂漠もあっという間に人工物で埋もれるかもね」

「あぁ。そうやって人が増えて、出来る事も増えていって、栄えてゆくんだ」

 

 武器を失っても、まだ手足がある。手足を失っても、まだ身体を動かして這いつくばることができる。何もかも失ったわけじゃない。失ってもなお、動かせるものがあるのなら動け。死んでいないのであれば、生きているのであれば、地べたを這い、泥水を啜ってでも立ち上がれ。

 

 負けて、無様を晒して、それでもなお生きているのならば、世界を統べる王にだってなれる。

 その証明が、ここにいる。

 

「生涯、その光景を見届けることなく生きてきたが、この世界ならできそうだ」

 

 だからこそアビドスは立ち上がった。

 

 私たちはまだ、生きている。

 生きているから、取りこぼしたくはない。

 

 たとえその先を見れずに終わることになろうとも、大切なものを手放す理由にはならないから。

 いつかまた、『大人』になってここに訪れることができた時、あっと驚くような変化も見てみたいと、そう思ったから。

 

「かつての栄光を幻視するほど雄大に、キヴォトス三大学園と肩を並べられるほど強き学園を目指すぞ。やることは山積みだがな」

「んじゃ、よろしくねアレサ。おじさんはもうちょっとのんびり休養してるからさ~」

「お前も働けホシノ! 確認すべき書類が百を超えているんだからな!!」

「いや~だ~~~! せっかくこんな昼寝日和にぃ~~~!!」

 

 屋上から階段へと走りだした少女を追う。追って駆け出す少女は、明日の希望を夢見て笑う。

 二人の姿はまるで『子供』のようで、太陽はそれを微笑ましく見ていた。





 これにて、本当にアビドス廃校対策委員会編、第二章は終了となります。

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