冷たい帝国   作:暖かい作者

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今回は短めです。


第七話

 

 旧レイフォル、立ち入り禁止区域。

 ここはかつて、レイフォリアと呼ばれていた場所だ。だが今では廃墟と化し、酷い匂いがする瓦礫と焦げた遺体が転がる地獄の跡だった。

 現地入りした帝国即応軍と帝国陸軍は、この地獄の惨状の後始末をするべく、NBC対応兵器を派遣していた。

 地獄の一丁目となった街の一角で、帝国陸軍の最新鋭主力戦車──フェンリルⅡ型主力戦車が停車した。その砲塔から、第4機甲師団に所属する戦車長ボス・ボラス軍曹が顔を出す。

 

「ひっでぇなこりゃ……」

 

 彼はガスマスクを口に付けながら、くぐもった声でそう呟いた。

 

「どこもかしくも死体だらけですよ。しかも炭化しているから気分が悪いです……」

「そうだな……」

 

 そう呟くのは、運転手のホルムズだった。

 この戦車の中では二番目の若手である彼も、今やボス軍曹と同じ気分なのか、ガスマスクに覆われた口元を覆って死体から目を逸らしていた。

 

「うっぷ……海軍ってのは手加減できないもんですかね?」

「仕方ないさ。レイフォルって奴らを一発で降伏させるには、これしかなかったのさ」

「けどあの一件、本国で相当叩かれてますよね。責任問題どうするんですかね?」

「さぁな。俺たち陸軍には関係ないことだよ」

 

 ボス軍曹はそう言って会話をやめた。それ以上は自分たちが考えることではないからだ。

 そんな中、女性砲手のマラッカがボス軍曹の方を向いた。旧植民地の南方諸国で生まれ育った彼女の褐色の唇から、凛とした声で報告が流れる。

 

「車長、この先はガイガーカウンターが酷いです。迂回しましょう」

「そうだな。爆心地に近いんだろう……俺もあそこには行きたくない」

 

 そう言ってボス軍曹は、運転手のホルムズに右の道路へ迂回する迂回するように伝えた。

 戦車が右に迂回すると、その途中、子供を抱えて死んだと思しき母親の影が見えた。ボス軍曹は見なかったことにした。

 

 

 

 

 

 神聖ミリシアル帝国。

 この国は世界一位の魔法文明国家として名を馳せる国だ。

 古代文明の遺跡から文明を築き上げ、今では世界にその名を知らぬものはいない、正真正銘世界最強の国だった。

 

「号外!号外!レイフォリアが廃墟になっちまったぞ!」

 

 そんなミリシアルの首都、ルーンポリスの街道では、号外売りが騒ぎ立てながら新聞を売っていた。

 その一面には、でかでかと廃墟になったレイフォリアの写真が映し出されており、ルーンポリスの人々は酷く衝撃を受けた。

 

()()()()が使用されたって噂だ!こりゃ大変だ!魔法帝国の族が復活したかもしれねぇ!さぁ買った買った!」

 

 号外売りは有る事無い事を並べたて、とにかく号外を買わせた。彼の足元にある帽子には、次々とコインが投げ込まれ、号外は見る見るうちに無くなっていく。

 

 その日、ルーンポリスではこのニュースで持ちきりだった。

 レイフォルを滅ぼしたグラ・バルカス帝国という国の存在は、今まで全く認知されてこなかった無名の国。

 だが、彼らが使用したとされる戦艦の砲弾は、古の魔法帝国と呼ばれる古代の恐怖帝国が保有していた「コア魔法」という兵器と類似している。

 その事が、魔法文明の長たるミリシアルのトラウマを誘発させた。中にはパニックになり暴動を起こしたり、穴を掘って隠れる国民も居たという。それほどコア魔法というものの存在は、彼らにとって恐怖の対象だった。

 

「……随分な騒ぎだ。ここまで喧騒が聞こえておるぞ」

「申し訳ございません。ただいま警察が暴動を鎮圧している最中でございまして……」

 

 ルーンポリスの中心地、天に高く聳え立つアルビオン城にて。一人のエルフ族の老人が髭を撫でながらそう言った。

 彼の部下達は、老人の呆れた様子にたじろぐしなかった。まだ怒りを抱いていないだけマシと言えるが、少なくとも良い気分ではなかろう。

 老人の名はミリシアル8世、栄えある神聖ミリシアル帝国の皇帝である。ミリシアル8世は喧騒広がるルーンポリスの街を眺めながら、深くため息をついた。

 

「それより本当であるのか?西方の未確認国家が、コア魔法を使用したなどと……」

「……事実です。コア魔法、あるいはそれに準ずる何かの使用により、レイフォリアは煤塵と化しました。撃ち込んだのはグラ・バルカス帝国という新興国家です」

 

 ミリシアル8世の問いには、この件の本格的な調査を進めている国防省長官──アグラ・ブリンストンが答えた。

 

「そのグラ・バルカスとやらは、魔法帝国に与するものか?」

「現時点では断言できません。しかし、現地レイフォルで得た情報によりますと、彼らは科学文明とのことで……」

「科学文明?かのムーのような技術体系なのか?」

「はい。その証拠に、彼らの扱う兵器からは魔力が感じられませんでした。国民の人間種の方には、多少なりとも魔力は宿っているようですが……」

 

 アグラは現状ではあまり多くのことが判明していないため、その先の言葉を濁した。その言葉を受け、ミリシアル8世は顎に手を置き考え込む。

 

「何者なんだ奴らは?」

「現時点では何も……しかし、実戦でコア魔法を使用したとなると、魔法帝国と同等か、それ以上の国力を持つ国かと思われます。実際、彼らと戦ったレイフォル軍の生き残りの証言から、誘導魔光弾の存在も疑われるのです」

「だとすると相当な脅威だな。コア魔法を容赦なく使う面で見ても、我が国に牙を向くかもしれん」

 

 ミリシアル8世は、国の行末を案じてそう不安を漏らした。それに呼応し、アグラに代わって軍務大臣のシュミールパオが、前に躍り出て強い語気で言う。

 

「陛下、私からも、早急にグラ・バルカスに対するさらなる調査と接触を試みるべきと進言します。それからレイフォリアに対するコア魔法の使用も、徹底的に追求する必要があります」

「……そうであるな。早急に手を打たなければならぬまい」

 

 シュミールパオはグラ・バルカスに対し、コア魔法の使用に関して強硬な姿勢をとるよう、皇帝に進言した。

 だがこの発言には、軍の幹部の一人が怖気付いて反論した。

 

「し、しかし……相手はコア魔法を保有する国家ですよ?もう少し慎重に行動をなさるべきでは……」

「ダメだ。やらなければ、我が国の威信と権威が失墜するぞ」

「…………」

 

 シュミールパオの言う通りだった。

 ミリシアル帝国はこの世界で最も技術力が進んだ、世界最強の国家であるはずだ。

 たとえそれが新興国家により揺るごうとも、その威信と権威を簡単に手放してなるものか。

 

「勝てそうにない相手でも、時には事を構えるしかあるまい。軍にはグラ・バルカスに対するさらなる調査と、対抗できそうな兵器の研究に勤しんでもらう」

「はっ」

「外務省には可能であれば、グラ・バルカスとコンタクトを取ってもらいたい。相手が話の通じる輩か、見定める必要がある」

「分かりました。すぐに取り掛かります」

 

 そうして皇帝の命により、ついに世界一位の国も動き出した。

 こうして数多くの国々がグラ・バルカス相手に動き出す中、第二文明圏で新たな動きがあった。

 

 

 

 

 

 ムー国。

 第二文明圏の列強国として、レイフォル以上の国力と技術力を有するこの国は、この世界で唯一と言って良い科学文明であった。

 ムー国は日本やグラ・バルカスと同じ転移国家とされており、その起源は一万二千年前にまで遡る。科学によって文明を築いたこの国は、いつの間にか世界第二位の強国になるまでに成長していた。

 そんなムー国も、グラ・バルカス帝国の話題で持ちきりだった。

 

 首都オタハイトにて、頭を抱えて唸る一人の青年がいた。情報分析官にして技術士官であるマイラス・ルクレールであった。

 

「なんだこれは……?」

 

 マイラスが見ていたのは、グラ・バルカス帝国の保有兵器を写したとされる写真であった。

 かのレイフォリアに対して()()()()を使用したともっぱら噂のグラ・バルカス帝国の出現を受け、ムー国でも早急な調査が行われていた。

 そうして撮影された兵器の中には、レイフォリアへそのコア魔法を投射したとされる大型戦艦〈グレード・アトラスター〉の姿もあった。

 

「この戦艦、我が国のラ・カサミ級よりも遥かに大きく、そして強い……こりゃ敵わんぞ……!」

 

 マイラスは〈グレード・アトラスター〉の姿とその大きさを比較し、一目でそう思った。

 ところどころに写っている乗員の大きさから推測したのだが、まずこの船、排水量が6万トン以上はある。

 そしてそれに準じた大きさの主砲は、目測だけで400mm以上はあるだろう。ムー海軍の最新鋭艦が口径305mmの艦砲しか備えないとなると、勝てる道理がなかった。

 

「はぁ……どうりでレイフォルが負けるわけだ」

 

 こんな化け物を相手に、レイフォルはよく戦ったと思う。自分が海軍軍人だったら逃げ出したくなる。そんな相手だ。

 

「にしても……」

 

 この戦艦が撃ち出したとされる大量破壊兵器、コア魔法……

 科学文明であるムーにとってそれは、古の魔法帝国の兵器とされているが、転移国家であるムーにはあまり馴染みのない物だった。

 そのため脅威や威力を予想しずらいが、実際にはこの戦艦の砲弾一発でレイフォリアは煤塵と化した。つまり──

 

「実戦じゃ敵を見る前に消滅しそうだな」

 

 非条理な現実が目の前にあった。

 コア魔法を艦砲の砲弾として撃ち出せるなら、ムーはおろか、ミリシアルでも勝ち目が薄い。

 いや本当に、なぜこんな化け物みたいな国が急に現れたのかと、マイラスは天を仰ぎたくなった。

 だが彼が疲れて目を擦るとその時、彼の背後にある扉が勢いよく開かれた。

 

「マイラス!大変だ!」

「うわびっくりした……」

 

 駆けつけてきたのは、親友で戦術分析官のラッサンだった。彼は相当慌てた様子だった。

 

「ど、どうした?」

「どうしたもこうも、オタハイトにグラ・バルカス帝国の船が現れた!国交樹立を求めてるっさ!」

「な、なんだって!?」

 

 それを聞いたマイラスは、急いで立ち上がってコートに手をかけた。

 

「すぐに行く!」

「よし、着いてきてくれ!」

 

 マイラスとラッサンは、グラ・バルカス帝国の船を一目見ようと、すぐさま行動を開始した。

 その日、ムー国首都オタハイトにグラ・バルカスが現れていた。

 




今回登場した兵器について。

戦車
『フェンリルⅡ主力戦車』
グラ・バルカス帝国がケイン共和国と共同開発した主力戦車。
次世代の要素を多数盛り込み、敵戦車を遠距離から圧倒する事が可能。両国では数年前から配備され始めた新型戦車であるが、最終的に2000輌以上が調達される計画である。
性能は地球で言うレオパルド2A4に相当するが、主砲はライフル砲。なおかつグラ・バルカス帝国陸軍は戦車の人員を4人にすることを要求している為、装填方式は手動である。
外観のモデルは「征途」に登場する86式戦車。

スペック
乗員:4名
重量:54.6t
エンジン:
水冷ストロークV型10気筒
1500馬力
速度:時速70km前後
武装:
主砲44口径120mmライフル砲×1
同軸7.62mm機関銃×1
車載12.7mm重機関銃×1
装甲:複合装甲
装備:
ブロードオフパネル
デジタル射撃統制システム
レーザー測距儀
高性能暗視・照準装置
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