冷たい帝国   作:暖かい作者

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おはようございます。
今回は会議とその結果みたいな話で、次話から話が大きく進むかもです。


第九話

 

 雨の日の国防省庁舎。

 この日、国防省の大会議室では今後の戦略を決める会議が行われていた。赤いカーペットが敷かれた優美な会議室には、陸海空、そして即応軍などの各軍の幹部らが集まっている。

 

「はっきりと申し上げますと、日本国は我が国の脅威になり得ます」

 

 ピシャリと言い放つ冷たい声が、その会議室に響き渡った。

 

「まずあの国は技術立国です。彼の国の技術力は我が国に迫る勢いです。場合によっては、我が国を凌駕する分野すらあるかもしれません。そのため、日本国は今後我が国の前に立ちはだかり、脅威になり得る可能性があります」

 

 そう日本に関してハッキリと断言するのは、帝国国防省傘下の統合参謀本部から出向してきた参謀事務次長──オルガ・ホーキンスだ。

 眼鏡が光るいかにもエリートといった出立ちで、彼は持論を語っていた。議題は日本国についてだ。

 彼の国に対する調査はすでに始まっていた。まだ外交の場でのコンタクトは取れていないが、調査員やスパイなどを派遣し、その内情を探っている。

 その短い間で出た数多くの情報を得て、オルガは日本国を脅威と見做していた。

 

「しかし参謀事務次長殿、日本国は弾道ミサイルはおろか、核兵器すら持っていないと聞きます。そのような国が核兵器を持つ我が国の脅威になり得るとは、到底思えません」

 

 それに反論したのは、空軍長官のアーリーだった。

 何よりも核兵器が国のパワーだと信じている彼は、日本国が核兵器を有していないという情報を根拠に論じる。

 アーリーとしては日本国など放っておいて良いと言う考えであった。まず距離が遠すぎる上、敵対する理由もない。わざわざ成敗に出る必要は皆無だ。

 それにアーリーが指揮する空軍の性質上、日本のある第三文明圏にはグラ・バルカス勢力下の航空基地がない。一応建設は始まっているらしいが、そんな東の果てまで空軍を遠征させるのは気が引けた。

 しかし、オルガ事務次長はその意見にも反論を下す。

 

「空軍長官は大事な事を忘れなさっている。技術立国というのは、その気になれば()()()()()()()()()()()核兵器は開発可能なのですよ」

 

 オルガ事務次長は片指でメガネを揃え、言葉を続ける。

 

「日本には核兵器の開発に必要な技術が揃っています。錬金技術から信管まで、そして国内には原子力発電所も多数あると聞きました。なんなら大艦隊を築くよりも核兵器の方が安上がりまである……この時点で日本国は核兵器を開発可能であり、潜在的脅威と言えるのです」

 

 そういってオルガ事務次長は壇上での発言を終えた。

 彼が唱える日本国脅威論には、確かな説得力があった。確かに日本国は現在までの調査でも、高い技術力を有する技術立国である事が判明している。

 そのため核兵器の開発も、日本ならば容易だと考えられていた。

 

「……だとしても、一から開発するなら時間はかかるはずです」

「ならば尚更早期に叩かなければなりません。その時間的余裕こそが、致命的な結果を生むのですよ」

 

 オルガ事務次長は、自分が現役だった頃のことを思い出しながら語り出した。

 

「振り返ってみれば、ミッドガル連邦の時もそうです。あの国を田舎国家だと侮り放置で助長を許してしまったが故に、例の"天才"によって核兵器が開発されてしまったではありませんか」

 

 彼の言う通り、今回の件は冷戦開始のきっかけとなったミッドガル連邦の時と状況が似ている。

 実は核兵器をユクドで初めて開発したのはグラ・バルカスではない。ミッドガル連邦なのだ。

 ケイン神国との戦争が間も無く終結する頃、突如としてミッドガルに現れた"天才"と呼ばれる物理学者の登場により、核兵器が開発されたのである。

 その"天才"の手腕は他にも多岐に渡り、ジェット戦闘機やミサイル兵器の開発、複合装甲の開発による戦車の発達や、核兵器の応用による原子力機関の開発など、冷戦における基本的な要素は全て彼が発明したと言っても過言ではない。

 その結果起こったのは、ケイン共和国への侵攻とグラ・バルカス帝国との冷戦。そして長きにわたる核戦争の危機だった。そんな天才の助長を許してしまった苦い経験から、グラ・バルカスは早期に行動を起こそうとしていた。

 

「参謀事務次長殿は焦っていらっしゃる」

 

 もちろん、そのような早計な意見に真っ向から反対する者達もいた。帝国即応軍の司令官クリスタ・アンリエッタであった。

 

「まだ敵対もしていない国を脅威と見做すのは、いささか早計かと思われます。少しばかり大局を見ながら行動することが必然です」

 

 クリスタ長官としては、実際の戦争になれば配下の即応軍も駆り出されるため、まだ実態の分からない国に対して戦争を仕掛けるのは避けたかった。

 彼女としても参謀本部の意見はわかるが、だからと言って先制攻撃を仕掛けるのは、帝国の「戦争を避けたい」という本音からすれば本末転倒だと思っている。

 

「何を言いますか、即応軍司令官殿は怖気付いておられか?」

 

 だがオルガ事務次長は反論した。

 

「この世界は野蛮で喧嘩っ早い国ばかりで、帝国は常に戦争のリスクを抱えているのです!ならば早期にこの脅威を見つけ、先制攻撃にて破壊するのは理にかなっているではありませんか!」

「…………」

 

 彼が捲し立てあげるのも無理はない。

 パガンダやレイフォルでの事件以降、軍内部には「この世界は野蛮」という認識が徐々に浸透しつつあった。

 そのため「野蛮な国と接触するくらいなら、先制で核攻撃を仕掛けて殲滅してしまえ」と言う意見も、軍内部から多数上がっていたのだった。

 

「我ら参謀本部としては、事務次長殿の意見を推したい」

 

 そう言うのは、帝国参謀本部事務総長──ウォール・パスタルだ。彼はあまり口を開かない寡黙な性格だが、今回ばかりは語気を強くして語る。

 

「我が国はこの世界に転移してから戦争続きでした。通常兵器による戦争はコストパフォーマンスが悪く、帝国経済が疲弊しかねません。先制核攻撃による敵国の殲滅は、我が国が取れる唯一の手段だと論じます」

 

 あまりに早計な参謀本部の意見に対し、空軍長官アーリーが反論した。

 

「無理だ。現在空軍では弾道ミサイル兵器の総取っ替えを行っている。そして配備待ちの新型の弾道ミサイルを持ってしても、第三文明圏までは届きません」

「ならば海軍の原子力潜水艦を用いて、至近距離から弾道ミサイルを放てば良かろう」

「そうです!」

「待ってください!また海軍に核攻撃の責任を押し付けるつもりですか!?」

 

 と、海軍の反論を受けて会議は一気に紛糾し始めた。

 海軍としてはレイフォリアへの核攻撃の後、世論からその責任を問われているため、また責任を押し付けられるのかと怒り心頭だった。

 これを治めるべく、司会進行役の若い士官が海軍長官のユーリーに問いただす。

 

「その海軍としては……本件に関してはどうお思いで?」

「我が海軍としては、現在独自に日本国への調査を進めているところであります」

 

 その言葉と共に、会議が一旦静まる。

 誰もが海軍の意見を聞きたがり、落ち着いて席についた。

 

「日本国の海域に向け、偵察の原子力潜水艦を向かわせました。彼の国が敵対するかどうかは、少しばかり偵察を待ってからでも良いのではないでしょうか?私はそう思います」

 

 その説得力のある反論、悪く言えば時間稼ぎのような言葉を受け、参謀本部の面々も少し頭が冷えたのか、ゆっくりと喋り出した。

 

「……ふむ、それくらいならいいでしょう。ただし、時間の猶予はないとここに警告しておきますからね」

「…………」

 

 オルガ事務次長はそう言って言葉を締め括った。

 この日の会議では、日本に対してはひとまず原子力潜水艦による偵察の結果を待ち、様子見を行うこととなった。

 今後の戦略は第二文明圏の安全の確保とミリシアルへのさらなる調査が盛り込まれ、終了した。

 

 

 

 

 

 日本国、市ヶ谷にある防衛省庁舎。

 戦後からずっと日本の防衛を担ってきたこの組織にて、ちょうどさっきある重大な会議が終わった。

 会議の後、廊下にある自販機から飲み物を買いながら談義する二人の防衛省幹部がいた。

 

「しかし、政府はこの数ヶ月で思い切った決断をしたものだ」

「はい。転移前からすれば考えられない事態です」

 

 缶コーヒーを買いながら、二人はそう話した。彼らが話題にしているのは、やはり今回の会議で決定した防衛整備計画の増強についてだった。

 

「やはり、グラ・バルカスが核兵器を保有している事が確定したのが大きかったな。各メディアもあの国の脅威をこぞって報道している」

「しかし、そのおかげで我々の予算も増額されました。ようやくこれで防衛整備計画を実行できそうです」

 

 彼らの言う通り、今回日本は大規模な自衛隊の拡張計画を打ち出した。それは戦後日本において最大とも言える規模であり、かのアメリカ軍の軍備拡張計画にも通ずるところがある。

 決定したのは以下の通り──

 

海上自衛隊

○ 護衛隊群の廃止、水上艦隊への改変

 既存の護衛隊群の名称/編成を改め、より実戦を想定した水上艦隊へと改変する。これは会議中幹部から「平成の連合艦隊」とも表現された。

○ 大型ミサイル護衛艦の配備

 グラ・バルカス帝国が有する強力な空母打撃群の存在を鑑みて、大量のミサイルで武装した大型護衛艦を配備する。歴代水上戦闘艦の中で最大級になる他、なによりもミサイルによる攻撃力を重視した設計になると予想される。

○ 航空護衛艦の配備

 こちらもグラ・バルカスが有する空母打撃群に対抗したもの。後述する新型戦闘機の配備と合わせ、実用化は6年後とされている。

○ 原子力潜水艦の配備

 グラ・バルカス帝国が原子力潜水艦を保有していることに備え、海自も原子力潜水艦を配備する。これで通常動力型では達成できない任務も可能になるとされている。

○ 新型フリゲート艦の配備

 かねてより計画されていた「3000t型将来護衛艦」を増強し、古い護衛艦の更新として配備を行う。なるべく早期の配備を推進する他、当初の計画数よりも建造数が多くなることが決定した。

 

航空自衛隊

○ 次期ステルス戦闘機の開発

 グラ・バルカス帝国が有する強力な空軍に対抗し、高度なステルス性能を備えた新型戦闘機を配備する。研究には多額の投資が行われており、実用化は4年後とされている。

○ 既存戦闘機の改修/再生産

 空自の規模を強化するため、既存戦闘機の中で再生産が見込めるものの生産を開始する。なお搭乗する戦闘機パイロットは、海外が消滅したことであぶれてしまった民間パイロットを勧誘する。

○ 音速爆撃機の配備

 今後長距離を飛行可能な爆撃機の需要が高まるとし、超音速爆撃機を配備する。設計はK重工が計画していたP-1哨戒機可変翼案を基にするため、実用化は3年後とされる。

○ 新型輸送機の配備

 新世界の惑星が広く、より長距離の輸送が必要と考えられるため、新型の大型輸送機を配備する。これはアメリカ空軍のC-5級の大型機になる予想。

 

陸上自衛隊

○ 装甲戦闘車両の増強

 戦車、装甲車、装輪戦闘車などの装甲戦闘車両を大々的に増強する。国内の全師団に装甲戦闘車両を配備し機械化を推進する他、戦車に至っては900輌定数とした。

○ 陸上配備型イージスシステムの配備

 グラ・バルカス帝国が有する弾道ミサイル兵器への対処のため、陸上にイージスシステムを配備する。これは在日米軍基地に残された資料から有効であると判断された。

 

その他

○ 日本版GPSの整備

 民間、官共に非常に需要があるため早期に配備する。また自衛隊では、後述の早期警戒衛星と合わせた自動迎撃システムの構築も模索されている。

○ 早期警戒衛星の配備

 グラ・バルカス帝国の核攻撃に備えるべく、衛星を用いた早期警戒網を構築する。これと陸上配備型イージスシステムと合わせ、日本本土を防衛する自動迎撃システムが構築される予定。

○ 自衛隊員の大規模増員

 上記の増強計画を実現するため、自衛隊員の定数を大幅に増強した。採用計画がうまくいけば40万人規模となる予想であるが、採用者が足りない場合に備え、政府では限定的ながら徴兵制度の導入も模索されている。

 

 なおこれとは別に、JAXAと協力して新世界惑星におけるロケット再突入に関する研究も予算に盛り込まれている。

 これは新世界における有人飛行につながるとされているが、国産弾道ミサイル兵器への応用が期待されていた。

 そして何より、最後の項目が一番目を引いた。

 

○ 国産核兵器の配備

 

 もはや理由は言うまでもない。遠方とは言え、核保有国がこの世界に存在するのが確定したため、抑止力の確保のため国産核兵器の配備は急務だった。

 

「だが国民の間では、まだ核兵器の配備には意見が分かれているようだな」

 

 だが今までの通常兵器達ならまだしも、核兵器の配備強行には多少なりとも反対意見があった。

 

「そうですね。今朝も政府に対してデモ活動が行われていたようですよ」

「通常兵器ならまだしも、あの核兵器だしな。多少の抵抗があるのは致し方ないが……相手は核保有国だ。もう少し現実を見れないのかね?」

「それはどうにも……ただ国民の意見の中には賛成派もいる事ですし、今後の情勢次第では配備推進に傾くかもしれませんね」

「そうだな。なるべく左右に偏りすぎなければ良いが……」

 

 そうして彼らがコーヒーを飲みながら談義していると、突如としてその平穏は破られた。

 そのすぐそばに幹部自衛官が息を切らして、駆けつけて来たのだ。

 

「長官!大変です!」

「どうした?」

「沖縄沖に、国籍不明の潜水艦が現れました!機関の波長からして、原子力潜水艦かと思われます!」

「何ぃ?」

 

 幹部自衛官は目を見開き、すぐに飲みかけのコーヒー缶をゴミ箱に捨て、駆け出した。

 

「くそっ、奴ら早速現れたか。指揮所に行く、ついて来い!」

「はっ」

 

 そう言って幹部自衛官らは、すぐさま指揮所へ向け移動を開始した。

 この日、日本の領海付近にグラ・バルカス帝国の原子力潜水艦が現れたのである。

 

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