冷たい帝国   作:暖かい作者

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今日も更新しました。

余談なのですが、最近冷戦期の海戦を学ぶために「Sea Power」というゲームをSteamから購入しました。
原子力空母からキーロフ級まで、さまざまな艦艇を使えるので楽しんでやってます。
なかなか本作の参考にもなるので、今後の描写にも箔がつくかもしれません。

※他作品と名前が被っていたので、登場人物の名前を少し改変しました。
マリー艦長→アンネマリー艦長
ユリウス・ローランド→ユーリー・ローランド


第十話

 

 鹿児島県、鹿屋航空基地。

 海上自衛隊の固定翼機を運用するこの基地にて、最新鋭のP-1対潜哨戒機が滑走路に並び、次々と発進して行く。

 対潜哨戒機のスクランブル発進だ。飛び立った哨戒機には、爆雷とソノブイが実戦仕様で積み込まれていた。

 この日、沖縄沖の海上は雨模様で波が高かった。その上強風により現場海域は飛行すら難しい状況であり、P-1哨戒機のパイロットは揺れる機内で通信機を手に取った。

 

「沖縄沖に到着……現場海域は強風により作戦実行は困難な状況!」

『ネガティブ。なんとしてでも哨戒行動を実施せよ。相手は核兵器を搭載している可能性がある』

「了解!作戦を実行します!」

 

 哨戒機のパイロットは通信を終えると、即座に傍にいるコパイの方を向き、ソナブイの投下準備を開始した。

 そして──

 

「ソノブイ、投下!」

「投下、投下!」

 

 P-1のウェポンベイが開放され、その中からソノブイが投下される。

 投下されたソノブイはパラシュートで減速し、そのまま海面にソフトに着水。プローブを伸ばし、深い水深を目指す。

 そしてソノブイによる潜水艦の探知が始まった。ソノブイは水中を漂いながら、ポーン、ポーンと感高い音を出しながら水中を索敵する。

 

 

 

 

 

 一方、その深い海中。

 グラ・バルカス帝国海軍、北部方面艦隊所属のディルフィナス級原子力潜水艦〈アルドゥルフィン〉は、日本周辺の偵察任務を帯びてこの海域に派遣されていた。

 ブラウン管のコンソールが光る薄暗い艦内にて、周囲の音を聞いていたソナー員が、ソノブイの着水音を聞いた。

 

「方位350、ソノブイの着水音です……」

「見つかったか……?」

 

 原子力潜水艦〈アルドゥルフィン〉の艦長──クラッツ・ミランダ中佐は、艦内にも響き渡っているソノブイの探知音を聞き、冷や汗を流した。

 周囲にばら撒かれているソノブイの音は、遠く離れた〈アルドゥルフィン〉の艦内にも微かに聞こえ、乗員達の肝を冷やす。

 

「おそらく対潜哨戒機、もしくは対潜ヘリかと思われます。これが出て来たと言うことは、どこかのタイミングで見つかっていたのかもしれませんね」

 

 冷静な副長が、クラッツ艦長に対して周囲の状況を予測してそう言った。

 

「相手はあのニホンだ。現代戦を理解しているとなれば、今頃必死になって捜索しているところだろう」

「ええ」

 

 既にどこかで見つかっていたなら、彼らが対潜哨戒機を出してきたのも頷ける。おそらくニホン側は大騒ぎになっていることだろう。

 おそらくこの先、ニホン軍は部隊を総動員して我々を探知しにかかる。流石に無警告で撃沈されることはないだろうが、乗員達は気を引き締めた。

 

「ところで艦長、我々の任務は日本国本土の偵察とのことですが、この状況でも作戦を継続しますか?」

「ああ、まだ日本国の地理についてデータが少なすぎる。作戦は継続する」

「了解しました」

 

 副長はクラッツ艦長にそう尋ねた。

 それもそのはず、この日本にほど近い海域に原子力潜水艦が派遣されたのは、日本本土のデータを集めるためだった。

 本土の方では今頃日本脅威論が浸透し始めており、先制核攻撃の話も持ち上がっている。しかし、日本の本土の位置が分からなければ攻撃しようにもできない。

 まずそのデータを集めるため、彼らはここに派遣されたのだった。

 そんな会話をしていると、クラッツ艦長は側にて魚雷発射管を担当する新兵が震えているのを見た。彼は平静を演じているのか、時折呼吸が浅く短くなっている。

 

「新兵、大丈夫だ。我々から攻撃しない限り、撃沈される心配はなかろう」

「そ、それなら良いのですが……」

「まあ、居心地は悪いよな」

 

 それもそのはず、今〈アルドゥルフィン〉の周りではソナーの音がひっきりなしに鳴っている。360度、全てが敵艦に囲まれているようだった。

 

「艦長、方位250より水上艦のスクリュー音を探知しました」

「方位010、再びソノブイの着水音!」

「方位330、水上よりアクティブソナーです!」

「おいおい、まるで蜂の巣じゃないか……」

 

 艦長はそのあまりに厳重な対潜哨戒網に驚き、唇を噛み締めた。

 ここから先、日本本土までは長く厳しい道のりになるかもしれない。

 クラッツ艦長は震える乗員達の様子を逐一確認しながら、冷静にその哨戒網に突入しようとしていた。

 

 

 

 

 

 一方、同じ沖縄沖の海中。

 そうして隠密行動をしながら日本の沿岸部を目指している〈アルドゥルフィン〉を、後方からゆっくりと追尾している潜水艦がいた。

 それは日本国海上自衛隊の通常動力型潜水艦、〈そうりゅう〉だった。

 彼女は〈アルドゥルフィン〉の死角になる真後ろに取り付き、気づかれないようこっそり追尾している。

 

「敵艦、深度を下げます。変温層を突破」

「よし。我々も潜航だ。ピッタリ後ろに着いておけよ」

 

 潜水艦〈そうりゅう〉艦長──恒星次男 二等海佐は、部下に短い指示を送り、潜水艦を少しずつ前進させていた。

 本日午後に突如として日本の周辺海域に現れたその原子力潜水艦は、まだこちらに気づいていないのか、速力を上げる素振りがない。

 恒星艦長はしめしめと思いつつ、巧みな操艦で常に攻撃可能位置に陣取っていた。

 潜水艦というものは、その動力を問わず真後ろが死角だ。真後ろには潜水艦のスクリューがあるため、水が掻き混ぜられて音が聞こえないからだ。

 そのため潜水艦の真後ろに着くという事は、攻撃可能位置に等しい。恒星艦長はこの事態の対処を行っている海自上層部の指示に基づき、()()()()()()()()()()()に陣取っていた。

 

「敵潜水艦、進路変わらず。まっすぐ鹿児島へ向かっています」

「よし、まだ気づかれてないな。ソナー、敵艦の音紋は十分取ってあるか?」

「はい。こちらもバッチリです」

 

 恒星艦長は敵艦の発する音紋を、欠かさずデータに記録していた。

 音紋は潜水艦の艦級によってだいぶ出方が違う。ここでデータを取ることに成功すれば、早急な音紋照合が可能で、識別も容易になるのだ。

 

「敵艦、方位010へ変針。少し増速しました」

「よし、もう少し接近してみよう。こちらも増速、進路010、水深300」

「了解。潜航しつつ接近します」

 

 原子力潜水艦が進路を変更したのを皮切りに、〈そうりゅう〉もその後に続く。

 恒星艦長は潜航の勢いに任せ、無音で近づこうとした。その目論見は間違っておらず、むしろこの状況でさらに近づく度胸と指揮能力は大したものだった。

 だが──

 

──ガンッ!!

 

 不幸にも、海流で流れてきた小石が〈そうりゅう〉の吸音タイルに衝突した。その音は艦内に響き渡り、当然のことに艦長は素っ頓狂な声をあげた。

 

「ンッ!?」

「なんだ、何かに当たったか?」

 

 艦内に異常はない。

 だがしかし、今の音は確実に相手の原子力潜水艦には聞こえているはずだ。

 

「まずいっ」

 

 恒星艦長はコンソール上で原子力潜水艦が増速を図ったのを見た。即座に増速を指示し、敵艦の追尾を続行しようとするが……

 

 

 

 

 

 この小石の衝突音は、原子力潜水艦〈アルドゥルフィン〉の艦内でも聞こえていた。

 何かがぶつかる小さい衝撃音を聞き、後方を警戒していたソナー員が、血相を変えて艦長に叫ぶ。

 

「本艦後方に接触音!真後ろに潜水艦です!」

「なにっ!?」

 

 クラッツ艦長はその報告を聞き、即座に指示を下した。

 

「急速潜航!深度620!機関最大戦速!」

「了解!潜航します!」

 

 その指示により、原子力潜水艦〈アルドゥルフィン〉は急速潜航を開始した。

 艦がみるみるうちに前へ傾き、資料やボードなどが崩れ落ちていく。艦長達もその場の突起に捕まり、転ばないようにしていた。

 突然現れたその潜水艦は、〈アルドゥルフィン〉の真後ろ、つまり攻撃可能位置にいた。早く逃げなければ、魚雷を放たれるかもしれない。

 そのため、クラッツ艦長はまず敵艦の位置を聞き出してから状況を把握することにした。ソナー員に敵潜水艦の位置を尋ねる。

 

「追ってくるか?」

「いえ……相手も最大戦速のようですが、だんだん距離が離れていきます。どうやら通常動力のようです」

 

 ソナー員がそう言うのを聞き、不審に思ったクラッツ艦長は近くのコンソールを見た。

 すると確かに、真後ろにいたはずの敵潜水艦の反応は、見る見るうちに遠くへ離れていっている。

 

「通常動力型潜水艦、距離12海里に遠ざかりました」

「はぁ……万事休すだ、肝を冷やしたぞ」

 

 十分な距離を取ったところで、艦長達は安堵して一息ついた。先ほどの新兵に至っては、涙目で大きく息を吐いていた。

 とりあえず危機は脱したが、すかさず副長が敵艦の分析を始めた。

 

「真後ろで、攻撃可能位置でしたからね。いつのまにそんな位置に……」

「どうやらニホン国の潜水艦乗りは相当練度が高いらしい。だがアレでは、我が原潜には追いつけなさそうだ」

 

 こちらが原子力潜水艦であることが幸いした形だ。しかしあれでは、同じ原子力潜水艦だった場合に目も当てられない。

 クラッツ艦長は周囲の警戒を怠らぬように命令し、〈アルドゥルフィン〉はより厳重な日本本土へと迫ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 一方で、横須賀にある海上自衛隊の指揮センターでは、喧騒に包まれていた。

 突如として現れた国籍不明の原子力潜水艦は、そのまま鹿児島沖まで近づいている。探知はできているが、相手はそんなものなど意に介さず進んでいる。

 

「〈そうりゅう〉の追尾、振り切りられた模様!」

「原潜は鹿児島沖に近づきます!」

「くそっ、逃したか!」

 

 今まさに南の沖合で起こっているこの一連の追跡劇に、オペレーター達は状況を叫ぶ。

 海自の幹部らは即座に新たな命令を下した。

 

「水上から接触している〈すずつき〉に、魚雷発射可能位置まで近づくよう指示せよ!」

「はっ!」

「それから、北部より接触中の〈いせ〉より対潜ヘリコプターを発艦。対潜ヘリには短魚雷を装備させ、フル爆装で発艦させよ!」

「はい!」

 

 海自の幹部らは、すぐさま新しい指示をオペレーターに指示した。

 指揮センターの壁に設置された大画面のコンソールの上で、各艦がその指示通りに動き出す。

 海自としては、敵艦が鹿児島に入る前に包囲網を完成させるつもりだった。敵艦は原子力潜水艦との事で、核兵器を搭載している可能性すらある。

 もしこれがかのグラ・バルカス帝国の核攻撃、もしくはそれの予行演習だとしたら……嫌な予感は拭うしかなかった。

 一方その頃、指揮センターの一角に設置されたガラス張りの防音室にて、一部の幹部自衛官らが会議を行なってきた。

 

「どうしますか。敵潜水艦を、撃沈するのですか?」

「やめておいた方がいいと思う。まだ核攻撃どころか、発射管の注水すら確認されていない。攻撃の要件を満たしていない」

「しかし、これが敵の予行演習だったとしたら……次には本格的な核攻撃が待っているかもしれんぞ」

 

 幹部自衛官達は、敵艦を撃沈するかどうか決めかねていた。

 今これと同時刻、首相官邸の方でも対策がリアルタイムで中継されているが、現場の判断はある程度自衛隊に任されていた。

 

「どうする、奴はまもなく鹿児島だぞ」

「失礼、発言よろしいでしょうか?」

 

 幹部自衛官らが決断を決めかねている中、そう切り出したのは若手幕僚の三津木だった。

 司会進行役が発言を許可すると、彼は立ち上がり、眼鏡をそろえて口を開く。

 

「この際ですから、敵艦は鹿児島に引き込みませんか?」

「は?」

 

 だが三津木が言ったその意見には、幹部自衛官らは素っ頓狂な声を上げた。

 それもそのはず、彼の言っている事は海自の封鎖作戦を無駄に期す意味不明な作戦だからだ。

 

「何を言っているんだね。敵艦をみすみす見逃すと言うのか?」

「それともなんだね。引き込んでから鹿児島湾を封鎖し、敵艦と根比べでもするつもりか?」

「それも面白いですが……今回は違います」

 

 三津木は続ける。

 

「鹿児島湾には、より詳しい音紋を計測できる音響測定所があります。周りも狭いですから、音もよく取れるでしょう。ここに敵艦を引き込んで、今後の対グラ・バルカスのためのデータとするのですよ」

 

 その説明に、幹部自衛官らはある程度納得した。確かに水上、水中からでも敵艦の音紋は取れるものの、より本格的な設備があるならそれに越した事はない。

 

「ふむ……リスクはあるが、やってみる価値はありそうだな」

「引き込む際、機雷や対潜哨戒網を工夫する必要があります。そこで私が直接指示を下す方が都合がいいのですが……それも許可していただけますでしょうか?」

「……わかった、許可しよう」

 

 海自幹部らは、少し悩んだのちにその作戦を承認。そして三津木に対し、作戦の指揮を命じることにした。

 

 

 

 

 

 一方、徐々に日本本土に近づいていた原子力潜水艦〈アルドゥルフィン〉は、周辺海域の異変に気がつき停止した。

 

「艦長……この先、機雷やソノブイが大量に撒かれてます」

「どれどれ……」

 

 覗き込んだコンソールには、雑音を放つ対潜機雷やソノブイが、大量に配置されていた。その数はざっと数百にも及ぶだろう。

 

「すごい量だ……だが、一箇所だけ空いているぞ」

「ええ。その先には狭く入り組んだ港湾があります」

 

 おそらく港湾の機能を止めることが出来なかったため、わざと機雷の網を退けたのだろう。その証拠に、今も民間船らしき反応が低速で港湾から出港している。

 

「浅いですが、軍港があるかもしれません。潜入してみますか?」

「そうだな。機雷に注意しつつ、低速で近づいてみよう」

 

 艦長は副長にそう指示を下した。

 原子力潜水艦〈アルドゥルフィン〉は、機雷に注意しながらそのまま低速で港湾へと潜入していく。

 

「まるで誘われているみたいだ……」

 

 艦長は不気味なまでに静かになったその周りを警戒しつつ、その網の中へと入って行った。

 




今回の話、なんと史実に基づいてます。
実は知り合い伝いで鹿児島湾に中国海軍の原子力潜水艦を引き込んで音紋を取っていた話を聞き、今回の話はそれをモデルにしました。
とはいえ鹿児島湾への侵入自体はニュースにもなっているので、皆さんもどこかでご存知かと思いますが……



今回出てきた兵器について
潜水艦
『デルフィナス級原子力潜水艦』
グラ・バルカス帝国の攻撃型原子力潜水艦。
こちらは戦術級の原子力潜水艦で、主に敵潜水艦や水上艦への先制攻撃を行う他、空母機動部隊の前衛に展開し偵察活動に投入される。
ベルディエンチェ社の持つ高い潜水艦建造技術を生かし、水中を30ノットで航行しながら高機動を発揮する事が可能。
モデルは特になし。

基準排水量:5300トン
機関:原子炉×2基
武装:
533mm魚雷発射管×6門
 プルート 長魚雷
 メテヌス 対艦ミサイル
合計20発
同型艦:30隻
艦名:ディルフィナス、スアロキン、ロタネヴ、アルドゥルフィンなど
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