冷たい帝国   作:暖かい作者

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今日も投稿していきますが、少しペースを落とすかもです。


第十一話

 

 日本国、東京。

 先日発生したグラ・バルカスの潜水艦による領海侵犯事件は、潜水艦が鹿児島湾から脱出したことで、危機は過ぎ去った。

 だがその事件から一夜明け、日本国内ではグラ・バルカスに関する話題が尽きなかった。

 

『グラ・バルカス帝国の原潜、鹿児島湾に侵入か!?』

『高まるグラ・バルカスの脅威!核保有国は新世界で何が目的か!?』

 

 今日の新聞の一面は、軒並みこの事件の詳細についてだ。防衛省が発表した事件の概要を受け、各メディアはこぞってこの事件を取り上げている。

 防衛省の発表によると、潜水艦は探知出来ており、護衛艦が追尾していたと説明。ただし相手の目的がわからないため、撃沈できなかったことなどを公表した。

 そして潜水艦はそのまま鹿児島湾にまで侵入。数時間滞在したのち、撤退した。その後、海上自衛隊はロデニウス王国周辺まで追跡したと言う。

 

「メディアもだいぶ騒いでるな」

「ええ、意図的にリークしましたが狙い通りでした」

 

 事件の報道の後、防衛省幹部らはこの事件について談義する。彼らの言う通り、この事件をあえて発表させたのは防衛省の策略だった。

 

「核保有国が日本の領海に原子力潜水艦を派遣し、侵入させた……相手の意図がなんにせよ、これでより一層グラ・バルカスの脅威が伝わった筈です」

「ああ。これで核保有に関する議題も、肯定的になるといいんだが」

 

 グラ・バルカスが持つその脅威度を改めて認識させる意味で、この情報の公開は大きな効力を持っていた。

 なかなか進まない核兵器の保有に関する議論に冷や水を浴びせるかの如きこの事件は、改めてグラ・バルカスという国の得体の知れなさと、その脅威を語るに相応しいものになる。

 そうして彼らが談義していると、幹部の方が何かを思い出したのか、部下の一人に情報を聞き出す。

 

「ところで、鹿児島湾で取った音紋はどんな感じだ?」

「はい。現在スーパーコンピュータに掛けて解析しております」

 

 部下はそう言って、今も横須賀総監部のスーパーコンピュータにて解析している原潜の資料を持ち出した。

 

「今判明しているのは、冷戦期の原子力潜水艦の中では少しばかり煩い方だと言うことです。比較用に、同じ技術レベルと思しき80年代のアメリカ原潜の資料を持ってきましたので、比較していただければ」

「どれどれ……」

 

 そう言って部下は、80年代の攻撃型原子力潜水艦の代表格だった『ロサンゼルス級』の資料と、今回鹿児島湾に侵入した原子力潜水艦のデータを比較する。

 すると若干ながら、グラ・バルカスの原潜の方が騒音が高いことがわかった。粗雑、とまではいかないものの、原子炉の騒音を隠蔽する技術が同時期のアメリカ海軍より遅れているのかも知れない。

 

「ふむ。吸音ゴムの質が低いのかもしれんな。つまり探知自体は容易だと?」

「史実の原潜と比べて、ですね。それでも原潜なのは変わりませんし、この広い惑星です。原潜一隻を探すのは、大海原で白鯨を狙って見つけるようなものですよ」

「何か対策はあるか?」

 

 幹部にそう問われ、部下は続ける。

 

「防衛省としましては、現在民間が進めている第三文明圏の海底ケーブル計画に便乗し、それに対潜探知装置を載せる事を計画しています。これならわざわざ護衛艦を出さなくとも、ケーブルに沿って海域を監視できます」

「なるほど。確かに海底ケーブルなら、敷いておきさえすればあとは本土にデータを送るだけだ。第三文明圏における原潜対策とシーレーン確保はできそうだな」

「問題はさらに遠隔地……それこそムーやミリシアルとのシーレーンの確保ですね……」

「防衛費増額で、海自は今後は5個水上艦隊を抱えることになるが……それが完成するのは10年後だろうし、今は現用の戦力で安全を守るしかないよな」

「そうですね。厳しくなるかと思います」

 

 今後の計画で、海上自衛隊はより実戦的な編成である水上艦隊を5個も抱えることになる。これは単純計算で護衛隊群7個分の換算になる。

 それが実現すれば、第三文明圏より以遠の国とのシーレーンも確保できるとの試算だ。

 だがそれが実現するのは短く見積もっても10年後の話。増強が間に合っていない今現在では、現有の護衛艦を使ってシーレーンを守るしかないだろう。

 と、今度は部下の方が何かを思い出したのか、幹部に聞き出す。

 

「ところで、ムーにコンタクトをとった第1護衛隊群は、今頃接触してる頃でして?」

「ああ。そろそろ彼らもコンタクトを取れる筈だが……」

「大丈夫でしょうか。核を使っていきなり原潜を送ってくる国ですよ?上手くいきますかね?」

「さぁな。俺たちは専門外だ」

 

 部下にそう問われても、幹部の方は外交のことは外務省に任せるしかないとして、それ以上の言及を避けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ムー大陸東部、沖合300km。

 高い波が立つムー大陸東部の海域に、突如として力強いウェーキが引かれた。

 2万トン近い、平らな甲板を持つその大型艦は、日本国海上自衛隊の護衛艦〈いずも〉だ。彼女はその力強い船体で水を押し除け、進んでいた。配下の第1護衛隊群を伴い西へと進む。

 

「前方異常なーし!」

「グラ・バルカスとは未だコクタクトを取れず!」

 

 ムー大陸東部の海域は、比較的波が高く潮風が辛い。そして海も冷たくなるので、見張り台に居る自衛官達も厚手のコートを着ていた。

 荒れた大海原を進む〈いずも〉の艦橋にて、艦長の山本一佐はひたすらにその地平線の先を見つめていた。その先に来るであろう、目的の艦隊に備えて。

 

「CICより報告!方位290、距離30海里より不明艦のレーダー波を探知!」

「了解。引き続き周辺の警戒を頼む」

 

 山本艦長は一言だけそう命令すると、傍の司令官の座席に座る荒木 正次郎 海将補に向き直る。

 

「司令、ムー海軍との接触はまだですが、不明艦よりレーダー波を感知しました。このまま接触しますか?」

「ああ。艦隊の速力を10ノットまで下げ、このまま接触してみよう。くれぐれも相手を刺激しないようにな」

「了解です」

 

 荒木が指示を下すと、艦隊はその通りに速力を下げる。そしてマストにこの世界の外交旗を掲げると、相手の艦艇がこちらに近づいてきた。

 そのうちに、薄暗い地平線にグラ・バルカスの船が見えた。

 

「見えました!巡洋艦級1隻!マストにグラ・バルカス帝国の海軍旗を確認!」

「ほう、来たか」

 

 山本艦長と荒木司令は、同じタイミングで双眼鏡を手に取った。

 

「その後方、ムー海軍の艦艇です!」

「情報通りでしたね。ちょうどグラ・バルカスの使節団が滞在している最中でした」

「都合がいい。当初の予定通り、このまま接触する。あちらさんの誘導に従うぞ」

「了解です」

 

 そうして第1護衛隊群は、接触したムー海軍の装甲巡洋艦と、グラ・バルカスのミサイル巡洋艦に追従し、目的地へと向かう。

 第1護衛隊群の左右を、二隻の種別の違う巡洋艦が囲み、エスコートする。片方のミサイル巡洋艦は原子力機関により楽々と進んでいるが、装甲巡洋艦の方は石炭を最大火力で燃やしていた。

 その間、自衛官達の視線はグラ・バルカスのミサイル巡洋艦の方に注がれていた。山本艦長と荒木司令も、そちらの方を見聞している。

 

「見てください、旋回式ミサイルランチャーです」

「ああ。確実にあれはミサイルだな」

「船の装備と規模から見るに、アメリカ海軍のバージニア級ミサイル巡洋艦に相当するでしょう。我々のイージス艦ほどではないにせよ、相当強力な船です」

「やはり我々とかなり技術レベルが近い。警戒すべきなのは確かだな」

 

 荒木司令は事前の情報にあったグラ・バルカスのミサイル巡洋艦を見て、この世界の軍事力も侮れないことを自覚した。

 山本艦長が例に出したバージニア級ミサイル巡洋艦といえば、原子炉を搭載していることでも有名だ。あのグラ・バルカス巡洋艦にも煙突がない。おそらく同じように原子炉を搭載しているかと思われる。

 そうなれば、その航続距離はほぼ無制限に近いだろう。今のところ海上自衛隊の艦艇には原子炉搭載艦が居ないことを考えれば、グラ・バルカスの方が一枚上手と言えるかも知れない。

 そんな風に考察をしていると、荒木司令が何かに気がついた。船の大体のシルエットが、かつての冷戦期に活躍していた海上自衛隊の艦艇に似ているのだ。

 

「……艦橋の造形をよく見ると、はたかぜ型やしらね型に似ているな。主砲はMk.42だし、ランチャーはアスロックの発射器に似ている」

「ああ、確かに、ところどころ冷戦期の海自艦艇に似ていますね。装備とか、装飾とかが日本風な気がします」

 

 彼らの言う通り、相手のミサイル巡洋艦の造形はところどころで日本風のデザインラインを感じられた。艦橋や格納庫、レーダーの形など、規模は違えど面影のある部分は多い。

 

「お隣のムーもそうだ、日露戦争期の装甲巡洋艦に似ている。異世界の船なのにデザインが似ているのは、何故なのだろうか……」

「まあ我が国も歴史が違えば、ああいう大型の護衛艦が配備されていたのかもしれませんね。別の世界線を辿った日本を見ている気がします」

 

 異世界には不思議な偶然もあるものだと思いながら、山本艦長と荒木司令は、より詳しい考察を始めた。

 

 そんな中、護衛艦〈いずも〉の甲板では2機のSH-60J艦上ヘリコプターが、離陸準備に入っていた。

 風を切るローターの音が甲板に響く中、日本国外務省より派遣された外交団は、二つのグループに分かれてヘリに向かっていた。

 

「朝田君、気をつけたまえ!今度の相手は一筋縄では行かないぞ!」

「ええ、覚悟しております!」

 

 かつてない規模で派遣された外交官達。

 そのうち第一グループのリーダーを務める御園が、若手外交官の朝田泰治に、ローターの音を掻き分けるような大声でそう鼓舞した。

 

「若いが君の外交手腕は、旧世界でも何度か証明されている!休暇中に転移に巻き込まれてからまだ少ししか経っていないが、頑張ってくれ!」

「お任せください!必ずや平和的に国交を樹立させてみせます!

「では、我々はムーの方へ!あとは任せたよ!」

「はい!」

 

 そう言って御園は艦前方のヘリパッドに駐機していたSH-60Jに乗り込んだ。ヘリコプターはそのままローターの回転速度を上げ、甲板から飛び立っていった。

 

「よし、行こう」

「ええ」

 

 後に続くように、朝田のグループもSH-60Jに乗り込んだ。

 ドアが閉まると、腕のいいパイロットの操縦で離陸体制に入る。機体がふわりと浮かび、揺れが少なくなる。そして高度をゆっくりと上げると、窓から見える艦隊は小さくなっていった。

 

 

 

 

 

 日本国はムーだけでなく、現在同国に滞在していたグラ・バルカスとも、同時にコンタクトを取ろうとしていた。

 そのため内閣調査員にグラ・バルカスの行動を監視させ、上手くタイミングを重ねたのである。

 これに驚いたのは、間も無くオタハイトでの滞在予定を終え、出港しようとしていたグラ・バルカスの使節団だった。突然とはいえ、かの日本国が自分たちともコンタクトを取りたいと言っている。絶好のチャンスだった。

 

「来ました!ニホンのヘリコプターです!」

 

 オタハイトより沖合30km。

 洋上を進む原子力空母〈ギャラクシー〉の甲板にて、出迎えの準備を行なっていたグラ・バルカス帝国外務省の使節団は、艦前方からやってきた白い点を見た。

 空母〈ギャラクシー〉に対してアプローチを取るそのヘリコプターは、艦載ヘリにしては全長が長く、その代わりに幅は狭くスマートな見た目をしていた。

 機体はそのまま、〈ギャラクシー〉の甲板に設けられたヘリパッドのマークへ向け、ゆっくりと降下していく。その様子を、〈ギャラクシー〉の艦載機パイロット達もこぞって見守っていた。

 

「すごいな、細長い機体がほとんど揺れてない。腕がいいんだろう」

「ですね、ありゃ中は快適そうです」

 

 艦載攻撃機隊隊長カイン大尉は、傍のアストンと共にその光景を見守っていた。同じパイロットとして、ニホン海軍の練度は興味があった。

 

「あれ、ソノブイが埋め込まれてないか?哨戒ヘリかも?」

「あれだけ長い機体、艦上運用は苦労するだろう」

「分からんぞ。相手にヘリ母艦が居るのかも」

「おっ、外交官が出てきた!」

 

 パイロット達が各々の感想を述べる中、SH-60Jのスライドドアが開き、その中からぴっしりとしたスーツに身を包んだ外交官が現れる。

 ニホンの外交官達は、艦長とグラ・バルカス帝国の外交団達に案内され、艦内の方へと入っていった。

 




今回出てきた兵器について。

水上戦闘艦
『アリエス級原子力ミサイル巡洋艦』
グラ・バルカス帝国海軍の原子力ミサイル巡洋艦。
原子力航行により主力艦に追従し、艦隊防空の中核を担う存在。洗練された対空システムはあらゆる航空機やミサイルから主力艦を護衛する。
本級の対空能力は、日本国のイージス艦を除けば最強レベルに入るであろう。
モデルはTNOに登場する原子力巡洋艦KASAGI CLASS(笠置型)から。

基準排水量:9100トン
機関:原子力タービン×2基
武装:
54口径127mm連装速射砲×3基
コメット 八連装対空ミサイル発射機×2基
メテヌス 四連装対艦ミサイル発射筒×2基
スピリット 高性能20mm機関砲×1基
324mm 四連装対潜魚雷発射管×2基
装備:電子戦装備多数
艦載機:ヘリ甲板のみ
同型艦:10隻
艦名:アリエス、ドゥベー、メラク、フェクダ、メグレズなど
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