冷たい帝国 作:暖かい作者
なお次回から日本側のパ皇戦の様相が描かれるので、グ帝の影が薄くなるかも
神聖ミリシアル帝国。
眠らない魔法都市と言われた首都ルーンポリスにて、皇帝ミリシアル8世は部下達から報告を受け取っていた。
「ムーと日本が、グラ・バルカスとコンタクトを取っただと?」
ミリシアル8世の問いかけに対し、外務大臣のペラクスは確証を持って肯定した。
「間違いありません。ムーに関しては先日から動きがあり、通商条約まで締結しています。日本に関しても、同様の進捗かと。これでこの世界に存在する科学文明国がグラ・バルカスと国交を持ったことになります」
ペラクスの分析の通り、グラ・バルカス帝国は第二文明圏に存在する国々とは、もうほとんどコンタクトを取り終わっていた。
パガンダやレイフォル以外とは平和的に交渉が進んだようであり、もうすでに第二文明圏各国との貿易が開始されている。
そしてその輪の中に、日本国も入ってきたと見られており、これでこの世界の科学文明国は全てグラ・バルカスに近づいたことになる。
「陛下、まずくないですか?彼らとグラ・バルカスは同じ科学文明で、親和性が高いです。彼の国が魔法帝国の使いではないことは判明したばかりですが、こうも科学文明同士で結託されると我が国の立場が……」
「……彼の国の立場は我が国すら圧倒するやもしれん。こうして手を拱いていると、いつか追い越されるな」
魔法文明国の長として、科学文明国の結託を無視するわけにはいかない。ミリシアル8世は立ち上がり、命令を下す。
「そろそろ我が国もグラ・バルカスとのコンタクトを取るぞ。まだあの国について不明点が多いが、このまま何もしないわけにはいかん」
「了解です、直ちに取り掛かります」
「軍は科学文明国の状況を探れ。奴らが我が国に仇成すか、さらに見極める必要がある」
「了解しました」
ミリシアル8世の命令は直ちに実行され、世界一位の大国は出遅れながらも行動を開始した。
ムー、港湾都市マイカル。
工業地帯が集まる経済都市としての風格を持つこの地域では、労働者達や経営者達が集まって今後の経済の計画を練っていた。
「最近介入してきたグラ・バルカスって国の企業、色々と凄まじいな」
「ああ。いろんな電子機器が入ってきてるからな。ラジオの生産業も乗っ取られちまった」
本日の会議では、最近介入してきた海外勢力により、大きく塗り変わったムー経済についての話題が語られた。
グラ・バルカスがムーに対して行っている貿易事業は、ムー国内の経済を大きく躍進されている。しかしそれは、経済力や産業力に劣るムーが侵食されている事態でもあった。
「うちの地域も、グラ・バルカス企業が工場を買いたいって言ってる。うちの工員使ってライセンス生産でどうか、だってさ」
「ライセンス生産に切り替えたら、ムーとグラ・バルカスの両方から補助金もらえるぞ。いい話だろ、乗るべきだ」
「だよなぁ。ムー資本の企業も買収が相次いでるし、そろそろ手を結ばないと……」
結果的にムー国内の企業は、グラ・バルカスに買収されるか、傘下に降るかしかなくなっている。
グラ・バルカスの政府は、ムーの産業を守るためにライセンス生産を早期に許可しているが、それでも彼の国の侵食は食い止められない。
「あ、その件だが……実は今、最近コンタクトを取った日本って国も同じくライセンス生産権をあげるってさ。しかもこれ、グラ・バルカスのよりも補助金が高いらしい」
「なにっ、本当か?」
と、今後の行く末を決めなければならない経営者達に対し、ある経営者が提案をした。それは同じようにムーとコンタクトをとった日本国についてだ。
「やるなら日本の方がいいかもしれない。ただ、少々激務になるという噂だが……」
「関係ない。俺たちは金が欲しいんだ、多少激務でも給与は良くなる。労働者たちには我慢してもらおう」
経営者達はその意見を参考に、今後は日本も選択肢に入るかもしれないとして行動を始めた。
現在ムーでは、グラ・バルカス企業と日本企業が、工場や企業を取り合い、経済的なせめぎ合いを続けていた。
グラ・バルカス帝国資本企業、カルスライン重工業株式会社。
同国の工業部門を牛耳るカルスライン財閥の傘下にあるこの会社は、今最もムー国内の事業に力を入れていると言える。
転移により植民地の工場が消滅し、新しく工場を建てなければ工業力が激減することを危惧した政府により、多額の補助金を得ながら行動をしていたのだ。
「"世界の工場"とはよく言ったものだ。あそこではなんでも手に入る」
帝都ラグナにあるカルスライン重工業の本社にて。
同財閥の重鎮から出向している社長──エチゴ・カルスラインは、片手にワイングラスを持ちながら、海の向こうのムー国を指してそう言った。
「何よりも労働力が安いですからね。人件費を限りなく抑えられます」
「その通り。金のかからない労働者というのは、資本家の夢だからな!」
そう言ってふくよかな身体を膨らませ、大声で笑うエチゴ社長。彼の目には確かな野望が見て取れた。
「しかし、もしあそこで警戒すべき案件があるとしたら……やはり日本企業だな」
「ええ。まさに目の上のたんこぶです」
「聞けば我々よりいい待遇で工場を買収しているらしいじゃないか。これは我々も負けていられないな」
ムー国での日本企業の躍進は、グラ・バルカス資本企業とほぼ同じ規模にまで達している。同地が日本企業の旗で染まらぬよう、自分たちも警戒を緩めることはできない。
そんな会話を続けていると、執務室の扉がノックされた。
「おっと、来られましたな」
「いいぞ、通してくれ」
秘書が扉を開けると、そこから一人の小男が入ってきた。典型的なインテリ染みた眼鏡の男は、銀行員のバッチを付けている。
「これはこれは……カルスライン社社長、ご無沙汰しております」
「ダインツ金庫の会長殿ですね。どうぞこちらへ!」
エチゴ社長が招いたのは、グラ・バルカス有数の金融財閥のダインツ金庫の代表取締役だった。
エチゴ社長は彼を上質なソファに座らせ、ある計画の進捗を伺う。
「して、例の件はいかがでしたかな?」
「はい。マイカル北部にあるガエタン工業の化学工場は、我が社を通じて工作を行い、無事貴社のライセンスを取らせることが確実となりました」
「ほほぅ!それは良かった!先に日本企業に買収されるところだったからな!」
エチゴ社長はそう言って一安心した。
マイカル北部の工業地帯にあるある化学工場を、日本企業とカルスライン社が競にかけていたのだが、この度ダインツの工作によりかの工場はカルスラインの手に落ちたのである。
これは立派な取引違反に当たるが、ムー国ではその辺りの法整備が進んでおらず、やったもん勝ちだった。
「ありがとうございます。して、今回のお茶代の方は……」
「ああ、忘れてないぞ。これでいかがかな?」
エチゴ社長は、一枚の鍵が閉じられたファイルを見せた。秘書が鍵を開けると、その中にはダインツ金庫に振込予定の投資額だけでなく、"個人的な賄賂"が記載されていた。
「へへっ、ありがとうございます。社長殿も相当な
「はははっ、君達には及ばんよ!」
そう言ってエチゴ社長は笑い、代表も笑う。彼らの笑い声は、かつてカルスライン社を躍進させていたエルチルゴ前社長の肖像画を震わせた。
戦前からこの国の経済と資本を支えていたのは、確かな悪者達と賄賂だった。
一方その頃、日本が着実に勢力を伸ばす第三文明圏にて。
新世界におけるグラ・バルカス帝国の出現と、同国の核兵器使用を受け、日本の防衛戦略が大幅に見直されたのは言うまでもない。
自衛隊の防衛予算の増額、そして多種多様な新兵器の配備計画。今後数年で、自衛隊はより強力な組織になる。
ただ、そんな自衛隊にも今すぐには解決できな問題があった。それは隊員不足だ。
自衛隊員の増数を受け、リクルートは上手くいっているのだが、有事の際にグラ・バルカス帝国と事を構えるのにはまるで足りていない。
憲法を改正して徴兵を行っても良かったが、人口にも限りはある上、国内経済も無視できないためそれは見送られた。
その代わりに、ある一つの法律を改正した。それが武器禁輸の大規模緩和である。
「ヒィィィィィヤッホォォォォイ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ロウリア王国の元竜騎士──ターナケインは、今まで空で感じたことのない凄まじい加速性能に、身体が追いついていなかった。
彼の前席では、航空自衛隊から出向して来た教官パイロットが、容赦なく機体を加速させていた。
彼らが操縦席に跨って飛ぶのは、航空自衛隊でも採用されていた戦闘爆撃機、F-4ファントムだ。
「す、スピードを緩めてください!目が回りそうです!」
「なーに言ってるんだ、これくらいこの機体じゃ普通だぞ?」
「ええっ!?」
ターナケイン訓練生はこの尋常じゃない加速が普通だと言われ、素っ頓狂な声を上げた。
『そうだぞ訓練生!ファントムに乗るならこれくらいは耐えられないとな!』
「そ、そうなのですか……クリハマ教官……!」
凄まじい加速とGに耐えながら、ターナケインは絞るような声を通信機の向こう側にいる空自の教官に向けた。
今、ロデニウス大陸ではグラ・バルカス帝国への備えのため、各国で軍の近代化が行われている。
内戦が起こっていたロウリア王国も、日本国の介入により早期に統一され、今後はクワ・トイネやクイラと合わせた同盟軍を立ち上げることを模索している。
ロウリアとクワ・トイネの関係の歴史を見れば、一筋縄では行かないだろう。だか遥か西にいるグラ・バルカス帝国は、有事になれば彼らにも牙を向くだろう。
そうならないために、日本は旧式と化していた戦闘機や練習機達を、第三文明圏各国に供与することを開始した。
その一環として、F-4ファントムは輸出品として再生産されることが決まっている。戦力化するのはまだ当分先だが、彼らも自衛隊の防衛計画の足しになってくれるはずだ。
「さぁ、ここからアフターバーナーだ!」
「嘘でしょ!?まだ本気じゃなかっ──」
悶絶するターナケインの訓練は、そんはロデニウス大陸空軍の設立のための第一歩に過ぎない。
ファントムは製造から40年が経つであろう老機だが、新世界で力強く羽ばたこうとしていた。
ファントムをロデニウスに供与する件には問題があるかと思いますが
・国内で生産して輸出するため技術流出は防がれている
・機体はブラックボックス化されている
・例え敵対しても第三世代機などAAM-4の敵じゃない
という理由があるのでご安心ください