冷たい帝国   作:暖かい作者

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これで三話目です。
そしてそろそろこの作品におけるグラ・バルカス帝国の兵器のモデルについて語らないといけないので、後書きにて話しておきます。


第三話

 

 帝国空軍。

 戦後すぐに設立された、帝国で最も新しい軍事組織である同空軍は、それ故に歴史が浅い。一応、陸軍航空隊だった頃も含めればそれなりに歴史はあるはずなのだが、それでも海軍や陸軍ほどではない。

 それは逆に言えば、多種軍のように歴史や伝統に基づいた硬直思考に陥りにくいという利点もある。そのため帝国空軍では従来の常識に囚われない様々な航空機が運用されていた。

 その一つと言えるのが、このスターグラウドⅡ超音速偵察機である。ある音速爆撃機を元に設計を変更、エンジンを特注品に換装して製造されている。

 その特徴といえば、槍先の如き鋭さを持つ機首の形状である。ミサイルの到達を回避するべく、高度19000mで時速2129kmを叩き出すには、これだけ鋭い機首が必要ということである。

 さてこの日、帝国本土から東側へ向けて飛行を続けていたスター・グラウドⅡ偵察機4号機、コールサイン『ファントム』は、何もない海上をひたすら飛行していた。

 

「機長、間も無くケインの沿岸部ですが……」

「ああ、何も見えないな」

 

 この機体はかれこれ数時間は飛んでいるが、陸地らしきものが見える気配がない。そろそろケイン共和国の沿岸部が見えてもおかしくないはずなのだが、そんなものは見えなかった。

 本土から常に航法信号を受け取っているため、航路を間違っているわけではない。それが尚更彼らの恐怖を煽る。

 

「全く、核戦争の危機を脱したかと思えば次はこれかよ……一体俺たちはどこの海域にいるんだ?」

 

 機長が孤独に押しつぶされそうになり、愚痴のように不安を吐き散らす。

 

「前方、陸地が見えます」

「なにっ」

 

 と、後席のコパイが何かに気づいたのか真正面を指差した。その方角には、ケイン共和国があるべき場所から遥かにズレた場所に、確かに巨大な海岸線が見えた。

 

 

 

 

 

 ──数時間後。

 

 帝都ラグナの地下シェルターにて、再び会議が招集された。そこには前回同様、皇帝カバル以下国家首脳陣が勢揃いし、空軍の偵察機からの情報を待っていた。

 

「こちらが先ほど現像いたしました、不明大陸の偵察写真になります」

 

 空軍長官アーリーがボードに貼り付けたその写真を、首脳陣はその身を乗り出してまじまじと観察する。

 雲の上から撮影された白黒写真には、見慣れない建築様式の建物が幾つも並んでいる。まるで別世界、それも中世から近世にかけての古い建築様式に見えた。

 

「この写真はケイン共和国が本来位置するべき場所から、100kmも東に位置していました」

 

 アーリーは説明を続ける。

 

「しかし海岸線の形が違う上、本来あるべき戦闘機のスクランブルも無かったため、これはケインではないとここで断言します」

 

 会議室にどよめきが走る。

 ある者は目を見開き、またある者はその言葉が現実のものかと疑い、またある者はまだ言葉を飲み込めないでいた。

 

「そして西方──本来ならミッドガル連邦があるべき方角に向かわせた偵察機に関しては……わずかな島々を発見したのみであり、ミッドガル連邦とは接触できませんでした。つまり、ケインとミッドガルは完全に消滅しております」

 

 ケインが消滅した。

 ついでにミッドガル連邦も消滅し、地形が書き変わっている。

 流石の首脳陣たちでも、直ぐにその現実を飲み込むことは出来なかった。あまりに荒唐無稽で狂ってるとしか思えない事象だからだ。

 

「……つまり、我々は別の惑星に転移したと?」

「そう説明するのが一番です。もちろん、まだ衛星を打ち上げられないので確証はありませんが……天文台や帝国航空宇宙開発局からは、()()()()()()()()()()()との報告があり、可能性としては十分にあり得ます」

 

 冷静で冷酷なアーリーが、若干冷や汗を拭いながらそういうのを見て、首脳陣たちはこの分析が真実であることを予想して、戦慄した。

 まずこのような海外とのコンタクトが完全に断たれた場合、真っ先に問題になるのは輸出入が途絶える事だ。

 グラ・バルカス帝国の本土は、実は山ばかりで農地に適した土地が少ない。帝国はそれを植民地からの輸入により補っていたが、今回の事件で植民地との連絡が途絶え、そもそも植民地がなくなっている可能性があるとなれば、最悪の事態すらあり得た。

 

 ──帝国国民が飢え死にする。

 

 帝国国民、約1億4000万の人口を維持するには、相当な量の食料が必要である。輸入が行えないとなれば危機的状況だ。

 

「陛下、とにかく直ぐにでも食料を輸入する必要があります」

「分かっている。しかしどこから……」

 

 皇帝カバルは唸る。

 それもそのはず、今までコンタクトがあった国々は消滅し、こちらが新しい惑星に転移してしまった。新たな輸入先は皆目見当もつかない。

 

「陛下、ここは新たに出現したこの謎の大陸にコンタクトをとるしかありません。見たところ充分に文明は発達しているので、食料を輸出してくれるやもしれません」

 

 外務省長官のシエリアが、皇帝カバルに対してそう提案した。

 確かに偵察写真で見られたこの大陸の文明は、相当発展しているように見える。食料についても安定していそうだ。コンタクトを取る価値がある。

 

「海軍としても賛成です。直ぐに使節団を乗せた船を出しましょう」

「原子力艦艇なら、燃料を消費せずに現地に向かえますゆえ、適任かと」

「問題は誰を行かせるか、だな」

 

 その問いには、会議室が沈黙した。

 この場合、外交部の中で優秀な者を行かせるのが常であるが、経験豊富な外交官は海外にいたはずだ。

 国内に残ったメンバーで、誰がいくべきかは悩ましかった。場合によっては国家の命運すらわける交渉である。

 

「陛下」

 

 と、その時に手を挙げる者がいた。

 

「私に行かせていただけませんか?」

 

 

 

 

 

 

 ──数日後。

 

 荒れ狂う海。

 波が高く湿気る、深く冷たい海。転移する前までは透明度が高い浅い海だったはずだが、転移現象により、今では全く違う海となっていた。

 その海に、豪鉄の塊が波を引いた。

 6万トンを超える鉄の塊が、突如として現れる。その後に大小様々な鉄の船が、彼女の後をついていく。

 その船たちのマストには、グラ・バルカス帝国の旗と海軍旗が掲げられている。同国の使節団の艦隊だった。

 東部方面艦隊、第1打撃任務部隊の旗艦〈グレード・アトラスター〉は、今や使節団艦隊と化した同部隊を率い、一路東へと進んでいく。

 

「進路、異常無し!」

「前方に障害物無し!」

 

 〈グレード・アトラスター〉の艦橋では、アンネマリー艦長が艦隊を取り仕切っていた。

 艦橋から見える海は、前まで見ていた帝国本土の周辺海域とは全く違う。荒れ狂う海に曇天の空は、これからの帝国の見通しの悪さを表しているようだった。

 未だ現実味が得られない。帝国が別の惑星に転移したというのは、にわかには信じ難い話だった。

 だが前方に見据える地平線は、心なしか少し長くなっている気がした。転移現象によって惑星の環境が変わってしまったのかもしれない。

 

「艦長!レーダーが船舶らしき物体を検知しました。方位092、距離100km、数は一隻です」

「了解。では直ぐにそちらに向かう。なお戦艦では威圧を与えてしまうため、ここは駆逐艦を使うわ」

「了解です。では使節団を駆逐艦へ移送します」

 

 アンネマリー艦長は、ファーストコンタクトを取る上で相手に威圧感を与えるのは避けるよう、上層部から命令されていた。

 そのため彼女は艦隊で一番小さな駆逐艦にその任務を任せることとした。なお今回は長距離航海が予想されたため、さらに小型のフリゲート艦は連れてきていなかった。

 

 一方で、グレード・アトラスターの後部甲板では、グラ・バルカス帝国の使節団が迎えのヘリコプターを待っていた。

 凛々しいスーツ姿に身を包んだ彼らは、帝国の外交を担うべくこの先の道の国へと行こうとする。

 

「不安ですね……果たして上手くいくでしょうか?」

「そもそも言葉が通じるのか?」

「お前たち、そこまでにしろ。その言葉は全て皇后殿下に聞こえていると思え」

 

 不安を口にする外交官たちを、王款庁の職員が宥める。

 それもそのはず、今回の交渉には一人の美しい女性が同行していた。彼女は皇帝カバルの妻であり現皇后であるアリシアである。

 

「アリシア様、そろそろ出発でございます」

「わかったわ。私のわがままに付き添ってくれてありがとうね」

「いえいえ」

 

 彼女は今回の交渉が難航することを予想し、皇后という立場を利用して交渉を円滑に進めるべく、自ら立候補したのである。もちろん、危険でありながらそれを承知で。

 カバルから見ると2歳年上の姉御女房であったが、それ故かあの若気旺盛な皇帝カバルを若い頃からブレーキをかけ続けれるだけの発言力を有していた。

 カバルもそんな聡明な彼女に惹かれたのかもしれない。それはともかく、彼女は外交経験も豊富である為こうして使節団に乗り合わせているのだった。

 

 そのうちに、グレード・アトラスターの格納庫エレベーターが動き出し、上に巨大なローターが取り付けられた艦載機が姿を現した。

 運び出されたのはレグルス型艦載ヘリコプターという、艦載輸送用ヘリコプターだった。この時代、これほど大きな艦載ヘリコプターを運用できる艦艇は少なかった。

 そうしてレグルスは使節団を載せると、ローターを作動させ、配下の駆逐艦の方へと飛び立っていった。

 




後書きです。
まず今作のグラ・バルカス帝国の兵器は『IF世界の日本軍兵器』というコンセプトで決められております。
なので、基本的に「もし日本軍が冷戦期まで存続していたらこんな兵器が出てくるんだろうな」という予想に基づく為、自衛隊兵器とはかなり違う規模も設計思想も異なるものとなっています。

これに関しては他にも「高い城の男」や「TNO」「征途」などを参考にしております。なので時として、イメージをそちらから引っ張ってから可能性があります。ご了承ください。

それでは今回登場した兵器について。

航空機
『スター・グラウドⅡ超音速偵察機』
カルスライン社が開発した超音速偵察機。
空気抵抗を極限まで減らす鋭い機首に、埋め込むような形のコックピットが備え付けられ、高高度をマッハ2にて飛行可能。この高速性能を生かして敵のミサイルを回避することを目的とした。
モデルはTNOに登場するスパイプレーン、KI-377。

『レグルス型艦載ヘリコプター』
帝国海軍が運用する艦載ヘリコプター。
二重反転ローターを持つヘリであり、主に人員や弾薬、補給物資の輸送などで運用することを想定に作られている。
モデルは高い城の男に登場する日本軍ヘリコプター。
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