冷たい帝国   作:暖かい作者

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ここからが本編になります。


第一章
第四話


 

 パガンダ王国。

 ムー大陸の西側、列強国レイフォルより海峡を挟んだその位置に、パガンダ王国という島国があった。

 この国は領地が丸ごと列強レイフォルの保護国であり、この島より西側にある国がレイフォル外交を行う場合は、全てこの国を通すよう窓口扱いされていた。

 そのような名誉ある立場である為、この国は訪問に来た他の国を見下す傾向にあった。外交部門もかなり腐敗が横行しており、まさに「レイフォルの威を借る狐」のような腐った国であった。

 

「なに、レイフォル国と国交を開設したくて来た国があるだと?」

 

 パガンダ外交局に務めるドグラス外交長が、口汚くそう言った。彼は王族に深いパイプを持つ外交長であるが、その実は汚職に塗れた腐敗代官である。

 

「はい。国交開設を求めてきているのは、グラ・バルカス帝国という名の文明圏外国家です。本人たちは西から来たと言っているので、新興国家の可能性も考えられます。彼らはレイフォルに直接交渉に赴いたようで、門前払いを受けて我が国に来ています。どうも、第二文明圏の事情をまるで知らないようですね」

「その国、我が国を舐めておるのか?国家運営が我が国を通さないとは、どれだけ常識知らずなんだ」

 

 ドグラスは眉を顰めながら、そう言って口汚い言葉でグラ・バルガスを罵った。ふんぞり返りながら、その国がどれだけ恥知らずな国であるかを少し想像した。

 

「しかも我が国に乗り付ける際、大砲が付いた貧相な船で港に入港したそうで、大きな船であるが故に港湾は苦労したとか」

「ふんっ、どうせそんな船はハリボテだ。魔写を見たが、大砲が数門付いただけの貧相な船ではないか」

「そうですね。それと一応確認しましたが、広く国交を持ちたいため、我が国とも国交は開設したいと申し出がありました」

「ふざけおって……どこまで我が国を舐めれば気が済むのだ。もういい、わしが直々に対応してやろう」

 

 舐められて怒りが収まらなかったドグラスは、自ら国交開設の交渉に出向くことにした。太い足をズカズカと鳴らしながら、その国と待ち合わせをしている部屋へと入る。

 

 一方で、グラ・バルカス帝国外交団は、控え室にて待機するように言われていた。

 この外交団はシグナス級ミサイル駆逐艦〈アルビレオ〉に乗り込み、レイフォルの海軍と接触したが、その際に門前払いを受けてパガンダにやって来た。

 その際に駆逐艦の燃料をギリギリまで使って航行した為、長い航海で使節団は疲れていた。

 だが今回の派遣には、自ら立候補した皇后のアリシアが同行している。夫のグラ・カバルの反対を押し除けてやって来たやんごとなきお方なので、外交官達はなるべく疲れを見せないようにしていた。

 

「お待たせいたしました、こちらにどうぞ……外交長が対応いたします。なお、外交長は我が国の王族ですので、お言葉には十分ご注意ください」

 

 係員の案内で、使節団はわずかな護衛と共に控え室から廊下に出た。使節団の面々は疲れ切っており、恐らくもうそろそろで

 およそセンスがいいとは言えない、宝石でギラギラに飾った部屋に通された。

 使節団が部屋に通されるが、相手からは全く挨拶はなく、パガンダの外交長とやらは足を組んだまま出迎えられた。

 

「なっ……」

「おいおい、挨拶もなしかよ……」

 

 その無礼な態度に、使節団の外交官達は思わず舌打ちした。新世界に来てからトラブル続きで、迷走に瞑想を重ねた上でこの態度。理性ある彼らでも不快に思うのは致し方ない。

 しかし帝国はユクドにおいて二大巨頭に数えられる強国だ。同行していた皇后アリシアは、長年の経験を持ち合わせて前に踏み出し、無言で席に座った。

 それに呼応して外交官達も席に座る。そしてほぼ無言で交渉が始まった。

 

「初めまして、我が国はここより西側に位置する国家、グラ・バルカス帝国です。今回第二文明圏全体と国交を結びたいと考え、まずは大陸西側の代表格であるレイフォル国を訪問しました。レイフォルでは、西側国家群に関して、保護国である貴国を通じて話を通すように教示いただきましたので、今回こうして足を運んだ次第です」

 

 皇后アリシアは、あくまで下手に出た。前世界の国々、それも戦前の帝国を知る者がこの皇族の姿を見たならば、相当驚くだろう。

 しかし、前世界においてミッドガル連邦との冷い戦争を経験した後の彼らは、核という大量破壊兵器を開発してチラつかせあう内に、いつの間にか理性的になっていたのである。

 しかし──

 

「我が国、パガンダ王国は、第二文明圏列強国レイフォルの保護国である!」

 

 帝国の使節団に対し、ドグラスは突き放すように言い放つ。

 

「貴国は世界の常識すら知らない田舎国家のようだな。いきなりレイフォル国に国交を求めに行くとは……無礼極まりない!」

 

 ドグラスは踏ん反り返って舐め腐った態度をとった。そうして鼻息を鳴らし、帝国のことを田舎国家と言う。

 前世界の国々がこの光景を見たら肝を冷やすだろう。かのグラ・バルカス帝国、それも核保有国に対して取るべき態度ではない。

 だが実際、パガンダから西方といえば大小様々な島国が存在するだけの辺鄙なところである。ドグラス自身も辺鄙な田舎国家を相手にしているのだと思っていた。

 そう、グラ・バルカス帝国が君臨するまでは、確かに田舎だったかもしれない。

 

「それはそれは……この地方の常識を認知しておらず、気分を害されたならば、大変失礼した」

「まったく……これだから田舎国家は。まあよい、俺は寛大だからな。ところで挨拶の品は持ってきておるのか?」

「……挨拶の品、と申されますと?」

「そんなことも理解できんのか……礼を知らない文明圏外の蛮族どもめ。おい、こやつらに挨拶の仕方を教えてやれ!」

 

 ドグラスの指示で、パガンダ外交局職員たちが横から書類を広げた。

 

〇第二文明圏との交易に際してはパガンダ王国を通し、関税をかける。関税率は項目により――

〇パガンダ王国に対し、第二文明圏国家への口利き料金を金に建て替えて支払う。各国への額は――

〇パガンダ王国を動かすために当外交局が稼働するため、外交長ドグラス個人に金及び関税の一部を納入する。額は――

 

「……これは真面目に言っておられるのですか?」

 

 皇后アリシアは眉を顰めてそう言った。

 この額の支払い、帝国経済からしてもとんでもない賄賂である。関税の額もあまりに理不尽だ。

 そして、ドグラス個人に対する関税とやらだけでもミサイル巡洋艦一隻が買えるほどの金の量である。どう考えても真面目ではなかった。

 だが、ごくごく当たり前のその言葉が、ドグラス個人のの怒りに油を注いだ。

 

「な――なんだとぉ!?たかが文明圏外の蛮族が、このパガンダ王族に品格を説くとは……おい、此奴を不敬罪で逮捕しろ!即日処刑だ!!」

「はっ!」

 

 すると衛兵が立ち上がり、アリシアを連れ去ろうとする。

 

「や、やめなさい!」

「その手を離せ!」

 

 これにはすかさず、アリシア付きの近衛兵が拳銃を発砲した。その場に二発の銃声が轟き、彼女を捕らえていた衛兵が銃弾に倒れた。

 

「──ガハッ!」

「なっ──!」

 

 これにはドグラスも度肝を抜かれ、銃声に驚きその場に倒れてしまう。

 

「アリシア様、ここは危険です!すぐさま脱出します!よろしいですね?」

「え、ええ……」

 

 発砲音を聞きつけたのか、外交部が俄かに騒がしくなる。このままここにいては危険だと判断し、外交団は近衛兵の護衛で脱出を図った。

 彼らが慌てて扉から出ていくのを見て、ドグラスは思わず声を荒げる。

 

「ま、待てっ!おのれ……奴らを逃がしてなるものか!処刑するまでもない!捕らえて殺してしまえ!!」

「は、はっ!!」

 

 ドグラスの命令により、騒ぎは外交部の建物全体に広がり、衛兵達が次々と武器を手に取り使節団を捉えようと行動を開始した。

 一方で、使節団達は近衛兵が守りを固めながら脱出を図っていた。廊下から合流した近衛兵達の手には、最新のポリマー製自動小銃が握られている。

 

「ただいま母艦にヘリを呼びました!すぐにでも脱出できるはずです!」

「わ、わかったわ……」

 

 アリシアは多少混乱しながらも、近衛兵達の指示に従っていた。彼らは時折接近戦を仕掛けてくる衛兵達を射殺していき、出口へと向かう。

 

「急いで、こっちです!」

「コンタクト!!」

 

 広場にレグルス型艦載ヘリコプターが降りて来た時、四方八方から衛兵達が迫っていた。

 

「急げっ、ヘリに乗れ!」

「皇后殿下が先だ!早く!」

 

 勇敢な近衛兵達は、皇后アリシアと外交団達を優先的にヘリコプターに乗せ、自分たちも撤退しようとした。

 

「やぁぁぁぁっ!!」

「っ、ぐわっ!?」

 

 だがヘリから近い位置にいた近衛兵の一人が、横から槍を抱えて突っ込んできた衛兵に気が付かずそのまま刺される。

 

「くそっ、パイロット、俺たちはいい!早く飛べ!」

「り、了解!」

 

 皇后の身の危険を感じた近衛兵は、その場に残ってヘリだけ先に行かせるよう指示。

 

「そ、そんな!あなた達も早く!」

「皇后殿下、ご無事で!!」

 

 皇后アリシアは、自分のために見知った顔の近衛兵達が残るのを、ただ見送るしかなかった。

 そしてヘリコプターが飛び立った後、彼らの姿は砂塵に塗れて見えなくなった。皇后アリシアの目に涙が流れる。

 

 

 

 

 

 ──数分後。

 昼になり、人々が活動し始めた帝都ラグナ。まだ転移現象からの混乱が収まっておらず、人々には強い不安がのしかかっていた。

 そんな中、この事件の報告はすぐさま地下シェルターにいる皇帝カバルの耳に入った。

 

「アリシアがけがを負っただと!?」

 

 皇帝カバルが大声で反応する。

 それもそのはず、彼女が未確認の異文明に足を運ぶのを最後まで反対していたのはカバル本人だからだ。夫として、愛する女性の身を案じるのは当然と言えた。だからこそ気が気でなかったのだ。

 

「幸いにも皇后陛下は無事です。沖合に脱出した駆逐艦〈アルビレオ〉によってヘリは回収されましたが、何人かの近衛兵が犠牲に……」

「な、なんということだ……現場で何があったのだ?」

「それが……パガンダ王国の外交官の態度が非常に横暴で、恥ずかしげもなく賄賂を求められたとの事。それを拒否したところ、拘束されかけたとの事です」

 

 そのあまりに無礼で突拍子もない行動に、首脳部たちは呆れるしかなかった。

 

「な、なんと無礼で非常識な国だ……」

「陛下!このような無礼と犠牲を出され、黙って見過ごすわけにはいきません!報復しましょう!」

「ああ……余もそのつもりだ」

 

 外交部のシエリアや国防軍のルムノウは、あまりに無礼な態度である為報復を進言した。

 これにはいままで理性を保っていた皇帝カバルも、同意せざる得ない。なにより妻を傷つけたパガンダという国が許せなかった。

 

「海軍に聞きたい。今回派遣した原子力空母は、攻撃可能体制であるか?」

「はい。原子力空母〈ギャラクシー〉はフル装備状態であるため、いつでも攻撃可能です」

「よろしい。すぐさま攻撃を開始せよ。攻撃目標はパガンダ王国のすべてだ!」

「はっ!」

 

 カバルの命令を受け取り、海軍はすぐさま行動を開始した。

 海軍長官の命令は第1打撃任務群へと伝わり、即日で報復攻撃が開始される。

 

 

 

 

 

 ──数分後。

 グラ・バルカス帝国海軍が派遣したギャラクシー級原子力空母〈ギャラクシー〉では、今回の報復攻撃の命令を受けて、即座に準備にかかった。

 

「急げっ、全機発艦準備!」

「回せー!!」

 

 既に〈ギャラクシー〉の甲板では、報復攻撃に向け小柄なアルフェラッツⅠ型艦載戦闘機が発艦準備に掛けられていた。

 パイロンに最新鋭の中距離対空ミサイルなどを取り付け、エンジンを点火。蒸気カタパルトに機体を接続すると、即座に打ち出される。

 

「カイン大尉!」

「来たぞ。機体は万全か?」

「万全です。爆装もすぐに終わらせますので、どうぞ」

 

 アルフェラッツⅡ型戦闘攻撃機で構成される攻撃隊、フラウ隊の隊長であるカイン・ヒアロウは、戦闘機隊の発艦中を縫って機体に駆けつけた。

 他のフラウ隊の面々も、それぞれの機体に乗り込み機体を点検し始めている。カインは機体の状態を素早くチェックし、コックピットに備え付けられた梯子を登る。

 

「アストン、遅いぞ!」

「すみません!」

 

 カインが機体に乗り込んだ少し後に、コパイのアストンが乗り込んできた。スクランブルで起きるのが遅れたのか、少し息が上がっている。

 

「機体チェック完了。いけます」

「回せーっ!!」

 

 カインが整備兵にそう指示を下すと、機体付きの整備兵達がクランクを回し、ジェットエンジンを始動させた。

 アルフェラッツⅡ型のエンジンは、元となったアルフェラッツⅠ型よりも大型で出力が高い。そのため回すクランクにも相当な力が必要だった。

 しばらく待つと、機体のエンジンが始動し始め、巨大な轟音が甲板に轟く。

 

『戦闘機隊、まもなく発艦完了します。続いて攻撃隊、発艦準備お願いします』

「了解。フラウ隊、これより発艦を開始する」

 

 最後の艦載戦闘機が空に飛び立ったのを確認し、今度は攻撃たいのフラウ隊が発艦準備に取り掛かる。

 甲板を移動し、蒸気カタパルトに前輪を引っ掛ける。すると機体後ろの甲板が壁のように競り上がり、カタパルトに湯気が立った。

 

『発艦準備完了!どうぞ!』

「フラウ1、出るぞ!」

「発艦!」

 

 カインの声と共に、アルフェラッツⅡはエンジンのアフターバーナーを炊き始め、発艦が開始される。

 凄まじいカタパルトの勢いと共に、機体が艦から打ち出された。その衝撃が治ると、機体が揚力を掴み、フワリと浮く。

 エンジン出力を最大にして飛び上がると、カインは隊長機として上空で仲間の発艦に備えて待機した。その後も次々と機体が打ち出されていく。

 

「全機発艦完了!」

「帽振れ!」

 

 全機の発艦が完了すると、海軍空母の伝統として甲板作業員達が帽子を振るって見送った。

 戦闘機32機、攻撃機22機、管制機2機に及ぶ大編隊は、パガンダ王国へ向けて報復の爆弾を抱えたまま飛び去っていった。

 




今回出て来た兵器について。

艦艇
『ギャラクシー級原子力航空母艦』
グラ・バルカス帝国が建造した本格的な原子力空母。
ペガサス級航空母艦〈ペガサス〉を、世界初の原子力空母として改装した帝国海軍は、その圧倒的なパフォーマンスに目をつけ本格的な量産を開始。その量産型原子力空母こそが、このギャラクシー級である。
小国の空軍全戦力に相当する70機以上の搭載機を誇り、原子力により航続距離はほぼ無制限となっている。帝国海軍ではこの原子力空母1隻と、〈グレード・アトラスター〉などの原子力戦艦を有した空母機動部隊を編成し、打撃任務部隊としている。
モデルはTNOに登場する原子力空母SEIRYU CLASS(青龍型)から。

基準排水量:6万6800トン
機関:大型原子力タービン×2基
武装:
54口径127mm連装速射砲×2基
コメット 八連装対空ミサイル発射機×2基
スピリット 高性能20mm機関砲×4基
装備:
航空機管制システム
蒸気カタパルト×3基
艦載機:
艦載戦闘機×32機
艦載攻撃機×22機
艦載管制機×4機
艦載対潜哨戒機×8機
艦載ヘリコプター×8機
予備機多数
同型艦:5隻
艦名:ギャラクシー、コンステレーションなど



航空機
『アルフェラッツ型艦載戦闘機』
カルスライン社が練習機を元に開発した艦載戦闘機。
小柄ながらも強力なエンジンと最新鋭のコックピットを備え、高い戦闘能力を誇る。
モデルはF-1支援戦闘機の他、TNOに登場する艦載機UNZAN(雲山)。

『アルフェラッツⅡ型戦闘攻撃機』
カルスライン社の戦闘攻撃機。
アルフェラッツを元にさらに大型化とエンジンの高出力化を推し進めた機体であり、主翼は可変翼。
対地爆撃や滑走路破壊を主任務として設計されており、爆弾搭載量は元の機体を遥かに凌ぐ他、核兵器も搭載可能。
モデルは特に無し、F-1を大型化し可変翼にしたようなイメージ。
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