冷たい帝国 作:暖かい作者
あちこちで爆発の音が聞こえる。
ぱちぱちと、何かが燃える音がする。
空には轟音を立てて飛び去る謎の飛行機械が、パガンダ王国の王都に次々と爆弾を落としていっている。
「ぐっ……」
そして王都にある外交局の建物は、もはや煤塵と化していた。
威勢を放つ美しい建物は、天頂から真っ逆様に崩れ去り、外交長ドグラスは瓦礫に埋もれて身動きが取れない。
瓦礫に足を挟まれ、もはやその先の感覚がなかった。ドグラスは瓦礫を手で避け、空を見ようとした。
「はぁ……はぁ……くそっ、何が起こった……」
ドグラスは状況を理解できなかった。
王都が俄かに騒がしくなり、どこからともなく爆発音と轟音が聞こえたかと思えば、いつのまにか目の前が爆発した。
爆発の際、たしか窓口職員のマーサが前にいたはずだったが、その姿は見当たらない。この状況では死んでいるかもしれない。
だがそんなことを考えている暇はなかった。最後の瓦礫を押し出し、出て来た空へ顔を出すと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「ば、ばかな……!」
目の前は瓦礫の山だった。
外交部の建物の前にある広場には、瓦礫が散乱して死体が倒れていた。優雅な噴水は破壊され、水が漏れ出してる。
さらにその先に広がる王都の光景も、目を覆いたくなる惨状だった。あちこちから火の手が上がり、火災が起きている。人々の悲鳴が自分のいる場所にも聞こえた。
「な、なぜ……誰がこんなことを──っ!」
誰がこんなことをしたのか、彼は思い出した。
自分が不敬だとして拘束を命令したグラ・バルカス帝国という国。確か彼らはこの騒ぎの前、脱出する前に垂直に飛ぶ飛行機械を使っていた。
もしや、怒ったグラ・バルカスが軍用の飛行機械をけしかけて来たのではないか。わずかな心当たりからそう思った。
「ばかな、そんなバカな!」
必死になって否定する。
あの国はパガンダより西の新興国、いわば蛮族のはずだ。飛行機械など持ち合わせているはずもない。
だが心当たりがある国といえばそれしかない。恐怖と不安で押し潰される。
「俺のせいじゃない俺のせいじゃない俺のせいじゃない俺のせいじゃない!!」
ドグラスは狂ったようにそう叫ぶ。
自分の横暴な態度のせいで、自分が死にそうになっている。ついでに国も死にそうになっている。そんな現実など認められるはずもない。
「っ!!」
だが彼が冷静さを取り戻す前に、新たな飛行機械の声が聞こえた。
ワイバーンすら届かない高い空に、多数の飛行機械が飛んでいた。まるで空気を切り裂くように、その機体はものすごい速さで飛び去っていく。
「はっ、ははは……」
彼らが落とした黒い物体が、爆弾であると理解したドグラスは、笑うしかなかった。
「はーはっはっはっ!は、はははっ!!」
空に陣取るプロミネンス型超音速爆撃機から、空を覆い尽くすほど大量の爆弾が王都に降り注いだ。
ドグラスは痛みを感じる前に爆発に巻き込まれ、そして死んだ。
その日、パガンダ王国はほぼ全土が煤塵と化した。
これにより王都を含めた数多くの都市が海軍の爆撃を受け、さらには空軍のプロミネンス型超音速爆撃機が止めを指すかの如く、徹底的な絨毯爆撃を繰り返した。
その後、揚陸艦を伴って上陸した帝国即応軍が現地の制圧に向かったが、ほとんど抵抗はなく都市達は降伏したという。
こうして、パガンダ王国はわずか3日でグラ・バルカス帝国によって制圧され、ここに消滅することになった。
だがこの事件に怒りを抱いた国があった。
──数日後。
グラ・バルカス帝国の首都、帝都ラグナのニヴルス城にて。ここには戦後になってから、記者会見を開くための部屋が設置されていた。
城西の東館に設置されたそれは、初代帝国報道官にちなみ"ヤーメス記者会見室"と呼ばれている。
今日ここには、現帝国報道官のハイネ・フランクが壇上に立ち、その周りを記者団が囲っていた。彼は咳払いをすると、記者会見を開始する。
「みなさんご存知の通り、我が帝国は未曾有の危機にあります。突然の転移現象に始まり、海外との取引停止、そして先日のパガンダ王国における事件……
我々は外交努力を繰り返しましたが、残念ながらパガンダ王国は我々に牙を剥きました。よって、我々は報復を決意し作戦を介したわけです」
ハイネ報道官はあくまで事実として挙げられる事を、なるべく感情を抜きにして淡々と述べた。
「しかし、この作戦がこの世界の列強国レイフォルの怒りに触れました。我々は交渉を求めましたが、レイフォルは全てそれを拒否しました。よって、我々は軍部に作戦の継続を命令しました。
みなさま、我々の戦争は終わっておりません。どうか帝国の明るい明日のため、もう少し力を貸していただきたい。どうか、お願いします」
ハイネが頭を下げてそう懇願すると、記者達がシャッターを眩く切った。その日の一面の記事は、帝国が列強国レイフォルとの戦争に突入した事を取り上げる記事で埋まっていた。
こうして帝国は、まだ終わらぬ戦争に身を費やしていくことになった。
──数日後。
列強レイフォルの艦隊が、威風堂々と西へと進んでいた。
彼らはグラ・バルカス帝国の本土の位置を突き止め、そこへ砲弾を叩き込み煤塵にせしめるため、この荒れ狂う海を進んでいた。
レイフォル艦隊の将軍バルは、薄暗い空模様の下の海を眺めつつ、報告を待っていた。
「将軍!偵察中の竜騎士から敵艦隊発見の報告が来ました!」
「よし、来たか。敵の陣容は?」
ワイバーンによる偵察の報告を受け、バルは敵の陣容を聞く。だが魔導通信士は言い淀んだ。
「それが……敵は5隻のみ、そのうち全長250m越えの巨大艦が最前に布陣しているとの事です!」
その報告に、バルは眉を顰めて少し考えたが、すぐにニヤリと笑った。
「ふん、見てくれのハリボテでも用意したのか。生意気な……艦隊進路を敵艦隊へ、ワイバーンは護衛の3騎を残し、残りは全て敵艦攻撃へむかわせろ!」
「はっ!」
その命令を受け、レイフォル艦隊の竜母からワイバーンと呼ばれる飛行生物が飛び立った。
彼らは動力火炎弾と呼ばれる火の玉を吐き出すことが可能で、敵艦に対して攻撃が可能だった。
ワイバーン達は迫り来るグラ・バルカス帝国の艦隊を迎え撃つべく、雄大に飛び立った。
一方、西の海域。
白波の立つ海が、引き裂かれるように悲鳴を上げた。海原に5隻の船が現れたかと思えば、船は逆風を意にも返さず、力強く東へ進んでいく。
艦隊は輪陣形を組み、中央の巨大な船を護るようにして進んでいた。それらはレイフォルの戦列艦よりも大きく、巨大で、それでいて繊細な艦隊だった。
「巡洋艦〈アリエス〉よりボギーコンタクト!レイフォル艦隊の方面から多数の飛行物体がこちらに接近中!距離190.000、速度350、数は40機以上!」
「艦長」
艦隊が味方ミサイル巡洋艦からのデータリンクにより敵の姿を捉えた。
薄暗いCICで副長がその事を艦長に通達すると、〈グレード・アトラスター〉のアンネマリー艦長は即座に命令を下す。
「確認した。各艦、対空戦闘用意。対空誘導弾の射程に入り次第迎撃開始。武器の使用を許可する」
「了解です。総員、対空戦闘用意!」
各艦が対空戦闘体制に入ると、味方艦が〈グレード・アトラスター〉の前に出た。
戦艦の防空火器類は単装速射砲と高性能機関砲しかないため、防空戦闘は味方艦に任せるしかなかった。
だがそれでも、ワイバーンらが相手にしているのは、1隻のミサイル巡洋艦、3隻のミサイル駆逐艦を編成に加えた打撃部隊だ。
彼らだけでも能力はユクドでも高い水準に値する。ワイバーンらの命運は尽きていた。
「ミサイル発射始め!サルヴォー!!」
"コメット 八連装対空ミサイル発射システム"を搭載した各艦が、それぞれの発射機から一斉に対空ミサイルを発射した。
ミサイルはあらかじめロックされた目標へ向け、レーダーの情報を頼りに飛んでいく。その光はまるで魔法の光のように、薄暗い海を照らしていた。
レイフォル艦隊の竜母から発進したワイバーン達は、まだ敵艦隊が見えない位置にいた。
わずか5隻の敵艦隊を前にして、ワイバーンの竜騎士達は舌なめずりをしていきり立っていた。どのように調理しようかとか、手柄を奪われないようにしてやるとかだ。
だがそんな彼らの皮算用は、すぐさま破れ去る事になる。
「………?」
誰かが異変に気づく。
空にオレンジ色の光が上り、こちらに向かって来ていた。
「な、なんだ?」
その時、爆発と轟音が響いた。
まるで槍のように迫って来たそれは、隣にいたワイバーンを爆発の花で粉々にした。
「な、なにっ!?」
「散会しろ!!」
すぐさま隊長騎が指示を下す。
遠距離からまるで狙っているかのような槍が、自分たちを寸分違わず迫っては、爆発で撃墜していく。
降下して散会していく竜騎士が見たのは、光る槍のようなものが意思を持っているかのように迫ってくる光景だった。
「ゆ、誘導魔光弾──!!」
その一言を最後に、竜騎士達は消し飛んだ。恐怖でパニックになり、バラバラに飛行するワイバーン達を、対空ミサイルは全て消し飛ばした。
その報告を、将軍バルは遠く離れた後方の旗艦にて受け取った。
「わ、ワイバーン隊、通信途絶しました!全滅した模様!」
「な、なんだとぉ!?」
そのありえない報告に、将軍バルは狼狽し吠えた。
「おのれ!どのような幻術を使ったかは知らんが、たった5隻にいいようにやられてたまるか!このまま突撃せよ!」
「は、はっ!!」
そうしてプライドの高き将軍バルの命により、艦隊はグラ・バルカス帝国海軍の水上艦隊と対峙した。
その一方、帝国海軍の水上艦隊は各艦の機関を最大にして東へ進んでいた。
艦隊陣形は旗艦〈グレード・アトラスター〉を前衛とした単縦陣形に変えられていた。艦隊の中で唯一装甲があるのが戦艦であるため、もしもに備えて艦隊の盾となるのである。
そうして艦隊は一列になり、レイフォル艦隊へ右側面を見せつけながら突入していく。
「間も無く主砲の射程内です」
「よし……撃ち方はじめ!」
「
アンネマリー艦長の命により、〈グレード・アトラスター〉は右舷へ向け射撃を開始した。
まだ30km以上は離れているが、この時代、艦砲の射程距離はより遠くまで伸び、デジタル制御によって艦砲の命中率は格段に向上していた。
そのため彼らは、まだ敵が見えていないにも関わらず射撃を開始。そしてデジタル技術によって神業の如き制御を受けた〈グレード・アトラスター〉が、一発目の斉射から命中弾を叩き出した。
「敵艦に命中を確認。続けて第二斉射急げ」
「速射砲、撃ち方始め!」
〈グレード・アトラスター〉の右舷側に取り付けられた3門の単装速射砲も、敵艦隊が射程圏内に入り射撃を開始した。
きっちり統制された3門の砲は、敵艦の頭上へ次々と砲弾を降らせていく。
そして後方の駆逐艦や巡洋艦も、同じく速射砲の射撃を開始。ミサイル巡洋艦に至っては、搭載された2門の連装速射砲が、単装砲より高いレートで砲撃を行っている。
「敵艦撃沈!撃沈!」
「敵艦隊、散り散りになります」
濃密な速射砲の弾幕により、敵艦隊は思わず散り散りになって散会した。だが時すでに遅く、艦隊の反応は次々と消えていってる。
そしてCICに映る最後の敵艦が消滅した時には、戦闘開始からわずか15分しか経っていなかった。
「終わったわね」
「呆気なかったですね」
アンネマリー艦長と副長は、あまりに呆気なく終わった列強国との戦闘に、率直な感想を漏らす。
敵艦の全滅を確認し、アンネマリー艦長は双眼鏡を下げると、副長に命令を下す。
「敵の救助は後続の空母艦隊に任せ、我々はこのまま敵国の首都に突入する。……Mk.7核砲弾を準備せよ」
「はっ、了解しました。主砲、核砲弾装填!進路015、
旗艦〈グレード・アトラスター〉が、さらに速度を上げて艦隊から離れる。
そしてその間、同艦の艦砲に核兵器の危険マークが付けられた黒光する砲弾が詰め込まれた。
Mk.7核砲弾、帝国が多数有する核兵器、ネメシスシリーズの戦艦用砲弾だ。その名の通り戦艦クラスの主砲から打ち出す事が可能な核兵器で、戦術用途としては最強を誇る。
本来ならば、この砲弾を使用するのは皇帝の許可が必要だ。即時に発射しなければならない弾道ミサイルとは違い、こちらは作戦で使う核であるからだ。
だが皇帝カバルはこれの使用を許可した。その理由は無論、レイフォルとの早期講話のためである。
「副長、マイクを」
「はっ」
マリー艦長は、外が見えない乗員達へ説明を行うため、マイクを手に取った。
「諸君、艦長のアンネマリーだ。これより我々は、敵国レイフォルとの早期講和のため、核兵器を使用する」
「…………」
「この一発で、敵国の何千何万人という人々が死ぬであろう」
「…………」
「だが我々は手加減をしてはならない。平和な明日の帝国のため、この引き金を一緒に引いてほしい。以上だ」
アンネマリー艦長の演説を聞き、乗員達は自分たちのやろうとしている事の重大性を理解し、そのまま職務に戻った。
そのうちに、敵国の首都が主砲の射程圏内に入る。
「砲弾射程圏内です!」
「各部、発射準備完了!」
アンネマリー艦長は目を瞑り、覚悟を決め、そしてゆっくりと目を開いた。
「……核砲弾、撃てっ」
「
眩い光と轟音の後に、〈グレード・アトラスター〉の艦砲から、三発の核砲弾が撃ち出された。
その砲弾は弧を描いて、最大射程距離の先にあるレイフォル国首都レイフォリアに、寸分違わず降り注いだ。
直後、レイフォリアが光に包まれる。
核砲弾の反応が始まった合図だ。
レイフォル皇帝の居城を目標に放たれたそれは、街のあらゆるものを巻き込み、消しとばしていく。光は全てを飲み込み、そして轟々とした熱となってレイフォリアを焼いく。
第二文明圏有数の優雅で美しい都市に、3個のキノコ雲が立ち上った。
さようなら、レイフォリア。
登場兵器
航空機
『プロミネンス型音速爆撃機』
ゲールズ社が開発した音速爆撃機。
空気抵抗を極限まで減らす鋭い機首に、埋め込むような形のコックピットが備え付けられ、 40t近くの爆弾を搭載したままマッハ2で飛行し敵地を爆撃する。もちろん核兵器も運用可能。
モデルはTNOに登場する音速爆撃機、中島KI-267。
『ネメシス・シリーズ』
帝国空軍の戦略・戦術核兵器のシリーズ。
核爆弾、核弾道ミサイルから核砲弾まで、多種多様なシリーズが冷戦中に製造された。