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セルを取り逃してから数日。
テレビでは今もセルの犠牲となった人々のニュースが報道されている。
その報道を俺たちは黙ってみていることしかできなかった。
「ぐ、くそ…、こうしている間も次々と人々がセルに吸収されてしまっている…。本当に奴を放置していいのか!?」
「神出鬼没のセルを探し出すことは不可能。ならばここで孫悟空を狙う17号たちを待ち伏せするのが得策というものだ」
俺たちはセルの捜索は諦め、17号達の破壊作戦を主導に動いている。
孫悟空のいるカメハウスで待っていれば必ず彼らが現れるからだ。そのタイミングを逃さないためにも無意味に探索に出かけるのは避けたかった。
「し、しかしこのままではセルはかなりのパワーアップしてしまいます。もしかしたら17号か18号が奴に吸収されてしまうかもしれない…」
「気を持たない17号達を見つけ出すのはセルとて容易ではない、それにあの3人組はセルと違い街を襲うようなこともしていないようだ。そんな奴らを手掛かりなしで見つけることができるとも思えん」
17号、あるいは18号の破壊。
正直な話、俺はこの作戦にかなり抵抗がある。彼らは別に悪人というわけでもないし、後に仲間となるキャラクターだ。
しかし、今はそんなことを言っている状況ではない。セルの完全体を阻止するにはなりふり構っていられないのだ。
それに上手く戦いを終えることができればドラゴンボールを再び使う機会が訪れるはず。その際に、
【人造人間が現れた日から死んだ人間を悪人を除いて生き返らしてくれ】
とでも願えばセルに殺された人々も、そして17号達が本当に悪人でないというのならば生き返ることができるはず。
(悩んでいる場合じゃない、2人の内どちらかだけでもいい、確実に仕留めるんだ)
なんとかこの戦いを無事に終わらせなければいけない、俺にはその責任がある。
しかし17号達は現れることなく、ただ、セルの犠牲ばかりが増加していく。
「ーーっ! もう我慢できん! どちらにせよセルを始末する必要があるんだ、ならば先に倒してしまえばいいだろう!」
「待て、ピッコロ! 今は確実に17号と18号を破壊するのが先だ、セルは孫悟空が回復してから全員で総攻撃を仕掛ければいい!」
「オラがどうかしたか?」
聞きなれた、それでいて久しく聞いていなかった声に視線が集まる。
そこには悟空の姿が、皆が待ち望んでいた孫悟空の復活の時がやってきたのだ。
「「悟空!」」
「「お父さん!」」
「みんな、心配かけて悪かったな。すっかり体はよくなった、オラはもう大丈夫だ」
澱んだ空気が一気に明るくなるのを感じる。
これが孫悟空の力なのか、まだ問題は山積みだというのに希望が見えてきたような錯覚を覚える。
「孫悟空よ、説明は必要か?」
「いや、夢の中でいろいろ見てた。今起こってることはだいたい把握してる」
「な、なんだそりゃ!? も、もう何でもありだな、お前…」
皆が驚いているがこちらとしては話が早くて助かる。
いまはとにかく時間が惜しい。
「今のままじゃ人造人間にもセルにも勝てねぇ、だからオラ修行しようと思う、超サイヤ人を超えるために」
「超サイヤ人を超える、だと…!」
「ああ、悟飯と、そっちの未来の悟飯、そしてベジータとトランクスも連れていくつもりだ。たった1日で1年間修業できるところへ」
「そうか、精神と時の部屋を使うつもりか!」
「精神と時の部屋?」
悟空とピッコロは皆に精神と時の部屋の説明を始めた。
1年分の修行、2人ずつという制限はあるものの1日でそれが行える部屋の使用に皆が賛成する。
しかし悟空は頭を捻り何かに悩んでいる様子だ。
「う~ん、ただこれだと一人余っちまうんだよなぁ…、そうだ! コルド、おめぇもこいよ!」
「なに、このワシも?」
「ああ、おめぇは超サイヤ人を超えるって訳じゃねぇけど、あの部屋で修行すれば絶対強くなれると思う、どうだ?」
…悪くない話だ、正直なところ、俺がこの部屋を使うという選択肢は完全に頭から抜けていた。
確かに精神と時の部屋の使用人数は2人、このままでは1人余りが出てしまう。数を合わせるという意味でも、俺のパワーアップという意味でも乗らない手はないだろう。
「よし、いいだろう。だが2人で1日ずつ使うとして全員が修行を終えるには3日かかる。ワシはその最終日で構わん。それまではワシの好きに動くがよいな?」
「ああ、分かった。それじゃあ、オラたちは先に神殿に向かっとく。何かあればまた瞬間移動でとんでくさ」
そうして悟空は2人の悟飯を連れて瞬間移動した。ベジータとトランクスを迎えに行ったのだろう。
その間、俺は俺にできることをやらなければいけない。
(…もう悟空に頼りっぱなしでいるわけにはいかない。セルが完全体になるのを阻止できるのが一番だ)
そして悟空が復活し、1日が経とうとした時、ついにその時がやってきた。
「よう、孫悟空はいるかな?」
「!! 人造人間…!」
(とうとうきたか…!)
やはり孫悟空を探しにここまでやってきたのだろう。
俺の知る展開通りだ、あとはこいつらをなんとか破壊するだけだ。…一筋縄ではいかないだろうがやるしかない。
「すまんな、生憎だが孫悟空はここにはいないぞ」
「…らしいな。ならば何処にいるのか教えてもらおうか」
「ふん、お前たちがそれを知る必要はない。向こうに誰もいない島がある、そこでやろう」
「やれやれ、懲りない奴だ」
ピッコロと共にカメハウスを離れる。
ちらりと後ろを見れば人造人間達も大人しくついてきているようだ。
やがて、人気のない孤島へと辿り着いた。
「さて、それじゃあ始めるとするか…!」
「ふ、いいだろう。お前のリベンジマッチに付き合ってやるとするか」
ピッコロと17号が向かい合う。
「じゃあ私はこのおっさんの相手でもしようかな、ただ見てるだけってのも退屈だしね」
そして俺の前には18号が立ち塞がった。
(よし! いいぞ、思った通り16号は戦う気が無いようだ。これならチャンスはある!)
16号の目的はあくまでも孫悟空。
奴が戦闘を行うのは孫悟空との戦いか、あるいは17号と18号の身に危機が迫った時だけだろう。つまり下手に追い詰めるのではなく、一気に勝負を決めないといけない。
そしてその作戦は既に考えてある。
俺は18号を挑発するように尊大な振る舞いを心がける。
「ほう、小娘。お前にこのコルド大王の相手が務まるかな」
「ふん、偉そうに。そういえばあんたもあの時研究所にいたね。13号達を追いかけていったみたいだけど、あいつらはどうしたんだい?」
「くっくっく、奴らはとうに破壊したわ。なかなかに苦戦はしたがこのワシの敵ではない」
「ぷ、あはははははは!」
「な、何がおかしい!?」
「あんな骨董品相手に苦戦だなんて…、どうやらあんたも大した奴じゃなさそうだね」
…やはり油断している、好都合だ。そのほうがこちらとしてもやりやすいというもの。
敢えて変身はしない、逆上した振りをして18号に殴りかかる。
「く、舐めるなよ小娘ぇ!」
当然のようにその拳は受け止められる。
やはり変身をしなければこうなるだろう、とてもじゃないがこのまま戦える相手ではない。
「あーあ、これじゃあちっとも楽しめそうにないね」
「ぐっ、このコルド大王を見くびるでない!」
そしてそのまま殴り合いに移行する。
いや、殴り合いと呼べるものではないだろう、俺が必死に振るう拳を涼しい顔をした18号が避けて、防ぐ。
力の差は誰の目に見ても明らか、16号はとうに興味を無くし、実際に戦闘を行っている18号でさえも退屈そうにしている。
「…ま、こんなもんか。これならまだベジータの方が楽しめた、よ!」
「ぐはっ…!」
そして唐突な反撃、18号の放った拳が俺の腹部に突き刺さり、俺は苦悶の表情を浮かべながら18号の足元に崩れ落ちた。
「はい、お終い。それにしても…17号の奴、なかなか楽しんでるじゃないか。」
18号の視線が上空に向く。
上空では17号とピッコロが互角の戦いを繰り広げている。
「おいおい、お前の仲間はもうやられてしまったみたいだぞ」
「ちっ、コルドの奴、何を考えて…くっ!」
「ほらどうした! 隙だらけだぞ!」
一進一退の攻防、16号も18号もその白熱した戦いに視線が吸い寄せられる。
もはや無様に倒れ伏した俺への興味なんてとっくに無くなっている。
願ってもいない状況、この時を俺は待っていた。
(…そうだ、それでいい。俺の事なんて忘れてしまえ)
「ピッコロ、とかいったね。あいつ本当に強いね。17号と互角だ」
「俺のデータと比べて大きくパワーアップしている。この短期間でいったい何が…?」
(今だ!)
誰も俺を見ていない、それでいてすぐ側には18号が無防備に突っ立っている。
今こそ好機、瞬時に変身と同時に抜刀、立ち上がると同時に剣を大きく振り上げる!
「っ! 危ない! 18号、後ろだ!」
「へ? なっ……!」
「もう遅い!」
パワーレーダーが搭載された16号は俺の変身にすぐ気が付いたが、18号は完全に隙を晒している。
16号の警告も空しく、18号が振り返った時には俺の剣はもう目前、完全に18号を捉えている。後は力任せに剣を振り下ろすだけだ。
勝利の確信、確実に18号を殺すことができる、その瞬間。
「あ……」
(――くっ!?)
ほんの一瞬、俺は剣を振り下ろすことを躊躇ってしまった。
その一瞬が命運を分けた。
「ヘルズインパクト!」
「がっ……!」
横合いから16号の右腕に、文字通り飛んできた右腕に殴りつけられる。
不意を突かれ、その衝撃で吹き飛ばされる。急ぎ体勢を整えたころにはもう遅かった。
飛ばした腕を回収しながら、16号が18号を守るように佇んでいた。
(―――っ、失敗した…!)
不意打ちによる18号の殺害、失敗の原因は間違いなく俺自身にあった。
(なんで、なんで迷った!? もう少しで全部上手くいったのになんで…!)
19号と13号達との戦いではそんな躊躇は一切なかった。なんの迷いもなく戦いに集中することができた。
その違いは他でもない俺自身がよく理解している。
18号が悪人ではなく、善人だからだ。
現時点でも多少の軽犯罪は犯しているかもしれないが、人殺しといった一線を越えるような真似はしていない。
そして俺は知っている、知ってしまっている。
17号と18号は不本意に改造されただけの人間であること、後に仲間となり共に戦う戦士となること、そして結婚をして子を持ち幸せな家庭を築くこと。
俺の知るその情報が、太刀筋を鈍らせた、18号を殺すことを戸惑わせた。
その結果がこの失敗だ。
「悪いねぇ16号、助かったよ」
「気にするな、それよりも油断しては危険だ。ピッコロも、この男も、俺のパワーレーダーによるとかなりの強さだ」
「みたいだねぇ。ったく、騙し討ちとはやってくれるじゃないか!」
そして同じ手は二度も通じないだろう。
完全に警戒されるどころか16号までもが出張ってきてしまった。
こうなった以上、もはや18号を破壊するのはかなり厳しいものがある。
(どうする!? もうあまり猶予はないはず、どうすればいい!?)
戦闘が始まってそれなりの時間が過ぎた。
セルはとっくにこの戦いを嗅ぎつけてこちらに急行を始めているに違いない。あまりもたもたしていると奴がここに辿り着いてしまう。
ピッコロと17号は依然として互角の戦いを繰り広げている。しかしスタミナ切れによりピッコロも次第に追い詰められていくだろう。ピッコロの援護は望めない。
(俺一人で16号を戦闘不能に追い込み、18号を破壊する。とても現実的とは思えないがこれしか方法が…!)
だが、本当に俺に18号を破壊することができるのか?
そんな自分自身に対する疑問を無視するように俺は気を高める。
16号と18号を同時に相手をするという行為、そんな無謀な戦いに身を投じようとした時、静かに佇んでいた16号が口を開いた。
「…なぜ、躊躇した?」
「なに…?」
「お前が躊躇せずにその剣を振り下ろしていれば俺は間に合わず、18号は殺されていただろう。それなのに何故?」
「……」
どうやら16号は俺の迷いに気づいたらしい。
しかしそれを説明することはできない。実は俺は未来を知っていて君達が悪人じゃないことを知っているんだ、なんて馬鹿げた話になんの意味があるだろうか。
16号の問いかけに対して俺は剣を構えることで返答する。
「…それを語る必要はあるまい。だが今度は躊躇せん、確実にその娘を殺す…!」
「そうか、ならば俺はお前を排除しなければいけない」
16号が戦闘態勢をとる、俺が剣に気を纏わせる。
今まさに戦いが始まろうとするその時だった。
「とうとう見つけたぞ、17号、18号! ついにこの私が完全体になる日がやってきたのだ!」
セルが、タイムリミットがこの場に訪れた。
やはりコルド大王は非情になり切れませんでした。