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「よし、悟飯! 今度はオラたちが部屋に入る番だぞ」
「はい! それじゃあコルドさん、それと未来の僕も、お先に失礼します」
悟空とこの時代の悟飯が精神と時の部屋に入っていった。
俺は2人の修行が終わった後に未来の悟飯と共に修行することになった。
「…待っているだけというのももどかしいですね」
「我慢するしかない、今のワシたちにできることは何もないのだ」
少なくとも精神と時の部屋での修行が終えるまで、もはや俺たちは完全に戦力外と言っていいだろう。
第二形態のセル、ベジータ、そしてトランクス。この3人の戦いに割って入るのはとてもじゃないが現実的じゃない。それに18号と16号の居場所も分からない。
(くそ、ついこの前までは見てるだけのポジションに収まりたいなんて思ってたのに、いまは無力な自分に腹が立つくらいだ…)
未来の悟飯の言う通り、俺も心の中でもどかしさを嫌というほど感じている。
「む、ベジータがセルのもとに辿り着いた! いよいよ始まるぞ!」
「本当か!?」
神殿の縁に立ち、地上を見下ろすピッコロの近くに俺たちは集まる。
ピッコロは真剣な表情で地上を見つめている。
(…そういえばピッコロは実際に地上の様子が見えているのか?)
周りを見れば天津飯と未来の悟飯も集中して一点を見つめている。
気を察知して状況を推測しているのか、ピッコロの様に実際にその光景が見えているのかは分からないが、ダメ元で俺も試してみることにする。
(…お! 見えてきた! 仕組みはよく分からんがまぁいいか)
俺の気を探る技術が向上したのか、あるいはこの神殿の機能の一部なのか、細かいことは分からないがベジータとセルが向かい合っている風景が俺の頭に浮かび上がってきた。
そして衝突する二つの大きなパワー。
(始まった…! 頼むぞ、ベジータ、トランクス! なんとしてでもセルを倒してくれ…!)
△
「ぶるああああああ!」
「はあぁぁぁぁぁぁ!」
精神と時の部屋での修行を終え、大きく成長したベジータ。全身の筋肉が膨れ上がり、一回り体が大きくなっている。
原作で本人が超ベジータと名乗った形態だ。
対するはセル。17号を吸収することで第二形態となり、セルもまた大きくパワーアップしている。
本来の歴史ではこの戦いは超ベジータがセルを圧倒することとなるのだが、この世界のセルはコルド大王の細胞量の増加により、更にパワーアップを遂げている。
「ちぃっ、セルめ、まさかこれほどの力をつけてやがるとはな、なかなか楽しませてくれる…!」
「やるではないかベジータ! 17号を吸収し、完全体へと近づいたこの私とここまで張り合えるとはな!」
互角。
本来存在していた第二形態のセルと超ベジータの力の差は限りなく縮まり、両者まったく譲らない戦いを繰り広げている。
拮抗する戦いを前に、2人は思考を巡らせる。奇しくもその感情は互いに同じものであった。
(これでまだ完全体ではないだと…。くそったれ、腹が立つがカカロットやコルドの野郎が言っていたことを認めざるを得ん…! こいつは危険だ、想像以上に!)
(ベジータめ、いったいどんな手を使いやがった…。短期間でこれほどのパワーアップ、もしあそこにいるトランクスまでもが同じほど腕を上げているとするならばかなり厳しい状況だ、なんとしてでも18号を見つけ出し、一刻も早く完全体にならなければ…!)
困惑と焦り、互いにぶっちぎりで強くなったと確信したところに互角の力量を持つ敵が現れたことで両者から余裕が消え去る。
それはコルドにとって幸運だったといえる。
今のベジータならば故意にセルを完全体にしてしまうことはないだろう。
「父さん、俺も一緒に戦います!」
「貴様は引っ込んでいろ、トランクス!」
しかし、徒党を組んで戦う、それだけはベジータの、サイヤ人のプライドが許さない。
もしベジータとトランクスが2人でセルと戦えば、今のセルとて勝ち目はない。
だがそれはベジータの中で許されざる一線を越える行為、己の戦いに横やりを入れることは誰であろうと許しはしない。
「いいか、これは俺の戦いだ。もし余計な手出しをしやがったらセルの前にお前をぶっ殺してやる!」
「そ、そんな…」
「…ふっふっふっ、そういう事だトランクス。一対一の戦士の戦いに手を出すというのは無粋というものだ」
もちろんセルの中に騎士道精神なんてものはない。ただ、その方が都合がいいからベジータに同調しているだけ。
トランクスもそのことは分かってはいるものの、この戦いに手を出せばベジータが黙ってはいないのは事実。トランクスの中に迷いが生じる。
(くっ、どうすればいい、コルドさんに言われた通り今ここで奴の背を撃つべきか。しかしそれでは父さんが…)
トランクスの中には余計な手出しをすればベジータは本気で自分を攻撃する確信があった。
精神と時の部屋での一年間を親子で過ごしたことによりトランクスはベジータの性格をよく理解していた、それが裏目に出る。
(もし父さんが負けたとしてもセルもただでは済まないだろう。俺が戦うのはその後でもいいんじゃないか…?)
結果、トランクスがとった行動は様子を見守ること。ベジータの、自らの父のプライドを尊重することを優先する選択肢をトランクスは選んだ。
ただ、トランクスの考えは間違いではない。
事実、セルはベジータとの戦いに勝っても負けても窮地に陥る、流石のセルといえど超ベジータを倒し、続けてトランクスを相手に勝利を掴むのは難しいからだ。
そしてセルも同じ結論に至る。
(ぐぬぬ、このままではまずい! 18号だ、18号さえ見つけ完全体となればこんな奴ら簡単に始末できるというのに…!)
セルはベジータとの激しい戦闘を繰り広げながらも頭を回し続ける。
戦闘の外側に意識を割いたことが原因か、ベジータの蹴りがセルに炸裂する。
「ぐおぉっ…! く、舐めるなよ、サイヤ人のサル野郎がぁ!」
「ぐっ、しぶとい奴め!」
怒りをエネルギーにベジータに反撃するセル。一進一退の攻防。
己の敵を倒すべく、目の前のセルに意識を集中するベジータ。その様子を固唾を飲んで見守るトランクス。
そして現状を打破すべく周囲に意識を向けるセル。
その意識の差がセルにある気付きを与える。
(ん? この気は…クリリンか。あんな雑魚が今更この場に何をしに来たと…、な!?)
目だけを動かし、クリリンの気を感じた方向へ視線を落とすセル。
(18号! あんなところにいやがったのか…!)
己の探し求めていた18号の姿がそこにあった。
18号、そして16号とクリリンは何やら会話をしているがそんなこともはやセルにはどうでもよかった。
(ベジータもトランクスも気づいていない、好都合だ! これでようやく完全体になれる!)
セルは己の気づきを悟られないようにベジータに視線を戻す。
そしてその掌をベジータに向けた。
「む…?」
「ビックバン……」
「ち、何かと思えば俺の技か。だがいくら技を真似ることはできても威力は別だ、そんな紛い物がこの俺に通じると思うなよ!」
ベジータを両腕を交差し、セルの攻撃に備える。防御して耐えるつもりだ。
しかしセルはその手を下ろし、まったく別の方向へ技を向けた。
「アタック!」
「な、あいつ何処を狙って…、はっ!?」
そして放たれるエネルギーの塊。
それが向かう先を見たトランクスが大声を上げる。
「クリリンさん! 逃げて!」
セルの放ったビッグバンアタック、それはベジータに対してではなく、地上の18号達に向けて放たれたのだ。
光弾はまっすぐに18号達のもとにむかっていく。
時は少し遡る。
クリリンはセルの完全体を阻止するため、ブルマの作った緊急停止コントローラーを手に18号の破壊を試みていた。
しかし、そのリモコンはクリリン自らの手によって壊される、16号と18号はクリリンの行動に驚きを隠せないでいた。
「な、何故だ、どうしてそれを壊した! あんたは私を破壊しに来たんだろう!?」
「…ああ、でも俺には無理だ。俺はお前を破壊したくない」
確かに緊急停止コントローラーの対象は17号と18号のみ、たとえコントローラーを使用しても16号が無傷でいる今、クリリンに18号の破壊は不可能だろう。
しかし、クリリンがリモコンを踏み潰したのはそれが理由ではないのは明白だった。
「ベジータがセルと戦っている今ならここから逃げられるはずだ、急いでここを離れよう!」
「…あのコルドという男も、俺たちを必死で逃がそうとした。なぜお前たちがそこまでする」
「え? そ、そうか、コルドもお前たちを逃がそうとしたんだな。」
すぐそこでベジータとセルの激闘が繰り広げられている。
その戦いで大気が揺れるのを感じながらもクリリンは16号の問いかけに答える。
「そんなの決まってる。お前たち、悪人じゃないんだろ? 誰も殺してないみたいだし…」
「ただ、それだけの理由で俺たちを逃がそうというのか。セルの完全体を防ぐには18号達を破壊することが最善だということはお前も理解しているだろう」
「そりゃそうだけど…。やっぱり殺さないで済むなら殺したくねぇよ。多分コルドの奴も同じ考えだったんじゃないか?」
「…俺には理解できない」
「そうでもないさ、お前だって1人で逃げることも出来るのに18号を守ろうとしてるじゃないか。お前も悪いやつとは思えない、人造人間っていってもやっぱりお前たちは人間なんだよ」
「それは…」
セルの目的はあくまで17号と18号、極端な話16号が己の命を危険に晒す必要はない。しかし今の16号は18号を死なせたくないという理由だけで己の任務とは関係ないリスクを背負っている。
損得勘定や効率を度外視した行動、その理由は人間でいう心というものが存在している証明に他ならない。
無から生み出された人造人間である己にあるはずのない感情が揺れ動くのを16号は確かに感じた。
「さぁ、もう行こう。急がないとセルに見つかるかも…」
「クリリンさん! 逃げて!」
「へ?」
自分の名前が呼ばれたことに反応し、空を見上げるクリリン。
そこにはセルの放ったビッグバンアタックがすぐそこまで迫っていた。
「っ伏せろー!」
16号が咄嗟に叫ぶがもう何もかもが遅かった。
巻き起こる爆風がクリリンと18号、16号を吹き飛ばす。
18号を破壊しないように手加減された攻撃、とはいえその威力はクリリン達の意識を奪うには十分すぎるものだった。
「ハハハハ! 今こそ完全体になるときだぁ!」
気絶した18号に怒涛の勢いで迫るセル。
「く、させてたまるか!」
「ちぃっ、くそったれ! 纏めて吹き飛ばしてやる!」
ベジータとトランクスもその背中を追う。
ベジータは18号もろともセルを破壊せんと、エネルギー波を放とうとするが、攻撃の気配を察知したセルが不意に振り返った。
「太陽拳!」
「な!?」
「く、くそ、目が…!」
強烈な閃光が2人の視界を奪う。
もはやセルの行く手を防ぐ者は誰もいない、と思われたとき、土煙のなかから16号が飛び出した。18号の吸収を阻止するための決死の特攻をセルに仕掛ける16号。
「邪魔だ、ガラクタ!」
しかし、セルがその腕を軽く振るうだけで16号はなすすべもなく吹き飛ばされる。
歴然たる力の差、セルの野望を阻止できる者はもうだれもいない。
「ようやくだ…、ようやくこの時が来た…!」
そしてセルは気絶した18号を尻尾で呑み込んでいく。
セルの体が光り輝き、その姿を変えてゆく。
戦士たちの抵抗もむなしく、完全体となったセルが誕生した。