「なっ、あいつ、今の攻撃に耐えたというのか!?」
悟飯の攻撃を耐え抜いたセル。ダメージこそ大きいものの、奴はあの一撃を五体満足で耐え抜いてみせた。
セルは息こそ切らしているものの、その瞳からは未だ闘志が消えていないことが感じ取れた。
「フ、ハハハハ…、素晴らしいぞ孫悟飯…、私はこんな戦いを待ち望んでいた…、そのためにこの大会を開いたのだ!」
だがセルが超サイヤ人2に覚醒した未来悟飯の圧倒的な力に追い詰められていることには変わらない。だというのにセルにはこの状況を楽しんでいるかのような笑い声をあげている。
その不気味な光景に一抹の不安がよぎると同時に俺はあることに気づいた。
(さっき俺がセルと戦った時は俺の攻撃でも奴の半身を吹き飛ばすことができた。なのに何故それを遥かに上回る悟飯の攻撃を受けても奴は無事なんだ…?)
無論、セルが俺との戦いで手を抜いていた、とすれば説明できる話である。しかしあの時、俺と戦っていたセルが手を抜いていたようには感じられない。
奴は互角の戦いを好む、俺との戦いも心の底から楽しんでいるように見えた。それと比べ、今現在行われている未来悟飯との戦いも同様に楽しんでいる。
「今度こそ止めを刺してやる!」
「この私をそう簡単に倒せると思うなよ、孫悟飯!」
再び、未来悟飯がセルに攻勢を仕掛ける。だが、心なしか、先程までされるがままだったセルがほんの少しずつ悟飯の攻撃に対応しているように見える。
セルには戦いを好むサイヤ人の細胞が含まれている。そしてサイヤ人は戦いを経る度に強さを増す。その戦いが激しければ激しいほどに。
嫌な予感が俺の中で膨れ上がる。
(…もしかしたら俺はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない)
俺はこのセルゲームは完全体となったセルがその強さを確認する為の余興の為に開催したものだと思い込んでいた。だが、それは俺の勘違いで奴は更にその先を見通していたのかもしれない。
自分と互角に戦える戦士を探し出し、その戦士との戦いを経て更なる成長をすること。もしそれが事実だとしたら。
(セ、セルは強くなっているんだ…、俺と戦った時よりも。そして今この時も強くなり続けている…!)
その時、未来悟飯とセルが弾かれたように距離を開けた。
険しい悟飯の表情は怒りが原因、というだけではないだろう。おそらく悟飯も感じているのだ、セルが徐々にその力を増していっていることに。
再び、攻撃を仕掛けようとした悟飯をセルが手で制した。突然のことに警戒し、悟飯は動きを止める。
「…貴様には感謝しなければいかんな、未来の孫悟飯よ」
「なに…?」
「いや、貴様だけではない。そこで見ているコルド大王、そしてこの場にいる全員に礼を言おう…。ありがとう」
「何を言っているんだ!?」
突然のセルの感謝の言葉に意味が分からず、未来悟飯は怒りの声をあげる。
しかし、俺には奴の言葉の意味が分かってしまった。
「私はこのセルゲームを通して、より高みにへと到達することができた。この領域まで辿り着けたのは紛れもなく君たちのおかげだ」
「あ、あいつは何を言っているんだ…?」
未来の悟飯と同じく、戦いを観戦していた戦士達もセルの言葉を訝しむ。
そんな一同を気にすることもなくセルは語り続ける。
「宇宙最強の一族の王、コルド大王! 未来の戦士、孫悟飯! お前たちとの戦いが、そしてこの場にいる諸君の細胞が導いたのだ。更なる成長を、更なる進化を、私をこの完全体のその先に!」
そしてセルが力を込めると同時に、大気が震えるのを感じた。
いや、大気だけじゃない、この地球そのものが震えるほどの力の躍動、凄まじい気の高まりが俺たちを襲う。
「な、なんだ!? セルの気が膨れ上がっている…!」
「気だけじゃない、奴の姿を見てみろ!」
気を高め続けるセルの姿が徐々に変化していく。
緑色の外骨格に纏われた肉体が一回り大きくなる。頭部がまるで兜の様に変形する。
俺はこの変身を知っている、俺には辿り着けなかった領域。この世界に存在しているのかさえ定かでなかったその変身。
その姿に、よりにもよって奴が、セルが到達してしまうことになるなんて。
やがて大気の震えが鎮まる。
「さぁ、セルゲームの続きを始めようか」
そしてセルの口元がマスク状の外骨格に覆われた。
「あ…ああ……」
絶句、言葉が出てこなかった。
この世界、所謂ドラゴンボールの作品、その劇場版にクウラという敵が存在する。そいつはフリーザの兄でフリーザよりも更に1段階多く変身できるのだ。
おそらくセルが変身した姿はその変身に相当するものだろう。つまり、今の俺の形態よりも1段階上の変身だ。
ただでさえ俺では敵わなかったセルが更に進化してしまった、そのあまりの光景に俺以外の戦士達も唖然としていた。
「くっ、でりゃあっ!」
唯一、未来悟飯だけはまだ闘志を失っていない、変身したセルに殴りかかる悟飯。確かにまだ諦めるには早いのかもしれない。超サイヤ人2の力ならばまだ奴に通じる可能性がある。
対してセルは悟飯の拳を己の胸板で受け止めた。
「ぬうぅぅっ…、フフフ、いい攻撃だが…、少々重さが足りんな」
「なっ!?」
その拳の威力に大きく後退したもののセルはノーガードで殴りつけられたというのに平然としていた。このやり取りが今の2人の力の差を明確に物語っていた。
「今度は私の番だ…、ふん!」
次はセルが拳を振りぬく、その拳をまともに顔で受け止めた未来悟飯がそのまま地面に殴り倒された。声を上げることもできず体を地面にめり込ませる悟飯。
「―――っ!」
「まだまだこれからだぞ、孫悟飯!」
そしてセルは地面から出ていた未来悟飯の足を掴むと力任せに振り回す。悟飯はなすすべもなく振り回されながら地面や岩肌に叩きつけられている。
その光景をみた俺はあまりの事態に膝から崩れ落ちてしまった。
(お、終わりだ…、もう、何もかもが…。全部、全部俺のせいだ…!)
恐れていた事態、超サイヤ人2でさえもセルに敵わないという危惧が現実のものとなってしまった。
もうこれではどうしようもない、変身し、完全体を上回るパワーを手にしたセルを倒す方法なんて何一つ思いつかない。
「――ぐ、だぁ!」
「ぐっ、…フフ、そう来なくてはな!」
「はぁっ…はぁっ…、くっ」
俺が絶望に打ちのめされていると、未来悟飯は掴まれてない方の足でセルの顔を蹴りつけ、なんとか脱出した。
傷つき、ダメージを負いながらも悟飯は構えを解かない、まだセルと戦うつもりなのだ。
そして再び未来悟飯とセルが激しく打ち合う、その攻防はやはりセルの優勢だった。しかし悟飯もただ一方的にやられているわけではない。いくらセルが強くなったとしても、流石に超サイヤ人2を相手に圧勝とはいかないのだ。劣勢ながらもセルの肉体に僅かなダメージは与えているのだろう。
だが今のセルを打ち倒せるほどの力ではないのも事実、セルの肘打ちを受けた悟飯が地面に沈む。
「かはっ…、く、くそ…、まだだ…!」
(ご、悟飯…!)
それでも尚立ち上がる未来悟飯。
何度打ちのめされても力を振り絞り立ち上がる悟飯の姿を見て、俺は自問する。このままでいいのかと。
(…そうだ、こんなことをしている場合じゃない。未来の悟飯があんなにボロボロになっても戦っているんだ、俺が勝手に絶望してどうする!)
少なくとも、セルと未来悟飯を除いたメンバーで最も強いのは俺だ。そんな俺が見ているだけで、今も戦い続けている悟飯の援護にもいかないなんて勝手が過ぎる。
絶望に崩れた体を無理やり立ち上がらせ、気を、そして闘志を奮い立たせてセルに飛びかかる。
「はぁっ…はぁっ…」
「ククク…、いよいよ貴様も限界のようだな、そろそろ終わりに…」
「セル!」
「ん?」
酷く消耗し、膝をついた未来悟飯。そんな悟飯に止めを刺そうとしたセルの背後から殴りかかろうとして、
「――がっ、か、体が…!?」
「ふ、なかなか便利な技だ…、サイコキネシスというやつかな?」
「こ、これは…、ワ、ワシの…!」
俺の拳はセルに届くこともなく停止した。それどころか体そのものが指一本とて動かすことができない。
この技は間違いなく俺がさっき使ったサイコキネシスだ。セルは一度食らっただけの技をさも当然のように自分のものにしてしまったのだ。
「(くそっ、もう俺では触れることもできないのか!?)ぐっ!?」
「コルド大王、分からんか? もう貴様にできることなどなにもないということが」
「お、おのれ…!」
俺は地面に叩きつけられ、そのままサイコキネシスによって拘束される。俺のサイコキネシスと比べて桁違いの出力、力を込めるも脱出することもできやしない。
どうにか動こうと足掻く俺の顎めがけてセルは足を振りぬいた。顎を蹴りぬかれ気を失いそうになるがなんとか意識を保つ。
「コルドさん! 貴様ぁ!」
「ぐぅ!? …しつこいぞ孫悟飯!」
「がはっ!」
俺に意識が向いたセルに未来悟飯が最後の力を振り絞りセルの顔を殴りぬいた。クリティカルヒットしたその拳は、セルのマスクを僅かながら砕いた。
しかしその悟飯もセルの反撃をまともにくらい、ついにその体が地面に倒れる。
手傷を負わされたセルは不快そうに未来悟飯を睨んでいるが、悟飯がとうとう立ち上がることができなくなったことに気づくとすぐに機嫌を回復させた。
「今の私に傷をつけるとはなかなかに大したものだが、これで力尽きたか」
俺と未来悟飯は並んだように倒れている。俺はともかく、悟飯はもう意識も失ってしまっている。
倒れた俺達を上機嫌に見下ろしたセル、勝敗は決まった。奴の笑い声が辺りに響き渡る。
「フッフッフッ…、ハァーッハッハッハッ、私の勝ちだ、諸君! …それともまだ私と戦うつもりのある戦士はいるかね?」
「ぐ、く、くそったれめ…!」
「む、無理だ…、あの2人がやられた以上セルに勝てる奴なんて…、もう誰も…」
「ハハハハハハ、今の私は機嫌がいい。いまならテストもなしだ、誰の挑戦でも受け付けようではないか。どうした? この2人の敵討ちをしようとは思わんのか?」
残された戦士達を挑発するセル。その表情はマスク越しであろうと愉快に笑っていることが想像できる。
セル自身確信しているに違いない、今の自分に通用する戦士なんてもうどこにもいないと。そのうえで自分に挑む者はいないのかと問いかけ、愉悦に浸っているのだ。
「ふむ…、挑戦者は誰もいない、か。まぁ当然だ、この私に敵う戦士などもはやこの地上の何処にもいないのだからな」
自らと戦う戦士がいなくなったことを確認したセル。
その現実に少し落胆したような様子を見せるがすぐに気を取り直す。そして奴は言い放った。
「私と戦うものは誰一人いなくなった…、ならばここに宣告しよう。事前に通達した通り、これより世界中の人間を皆殺しにすると!」
残忍で、残酷な、セルの最終目標。いや、目標なんてものではない、セルにとっては世界を滅ぼすことなんて暇つぶしに過ぎないのだろう、…とびっきり悪趣味で冷酷な。
「誰一人として逃しはせんぞ、徹底的にこの星の人間を殺し尽くすのだ。…まずはやはりそこにいる分不相応にもこの私に挑もうとした戦士達からかな?」
「や、やめろ…セル…!」
セルの凶行を止めるべく必死に手を伸ばす。
このままでは奴は本当に全ての人間を殺しつくすだろう。この場にいる俺の仲間たちも、そしてこの地球に生きる人間達全員を。
「フフフフ、コルド大王、我が父よ。貴様には感謝しているぞ。私がここまで強くなれたのは他でもない貴様のおかげだ。そのお礼と言ってはなんだが、貴様を殺すのは最後にしてやろう。…ふむ、そう考えるともう一人、感謝しなければいけない者がいるな」
「な、なんだと?」
「私の生みの親であるドクターゲロだよ。彼もまた私の親とも呼べる存在だ。厳密にいえば彼の使っていたコンピューターが私を生み出した訳だが…、まぁ細かいことはいいだろう」
ドクターゲロ、確かにセルの言う通り、この化け物を生み出した張本人はこいつだ。
細胞を使われている俺や他の戦士達よりも、最も親と呼ぶに相応しいだろう。そのことに気が付いたセルは残忍な笑い声をあげた。
「と言ってもドクターゲロは既にこの世にはいない…。ならば彼の宿願を叶えてやることがなによりの感謝の印、あの世のゲロへの手向けとなるだろう」
「ドクターゲロの宿願だと…、ま、まさか!?」
「そう、ドクターゲロが長年追い求めた最終目標、その達成を人類全滅の第一歩とするのが相応しい、つまり…」
セルがある人物に指を向ける、その指から目にも止まらない速度で光線が放たれる。
「…孫悟空の抹殺、だ」
そして、光線が孫悟空の胸を貫いた。