コルド大王である俺はどういう訳かトランクスに案内され、宇宙船から少し離れた荒れ地に辿り着いた。正直、何故殺されなかったのか、何故ここに連れてこられたのか、疑問はいくらでもあるがあの状況なら黙ってついていくしかないだろう。
「着きました。ここに孫悟空さんが到着する筈です」
「う、うむ…」
ちなみにだが、舞空術、つまり空を飛ぶことは意外なことにぶっつけ本番で成功した。おそらくエネルギー弾とかもやろうと思えば撃てる、そんな気がする。
肉体に刻まれた記憶というやつだろうか、コルド大王の能力は十全とはいかないだろうが、概ねは問題なく使えるようだ。
(それにしてもなんで俺は殺されなかったんだ…?)
特にこれといって原作を変えるような動きをした覚えはない。なんなら原作を忠実に再現する勢いで史実のコルド大王ムーブを決めこんだくらいだ。いったい何故?
頭を悩ませていると、上空からZ戦士の皆が降りてきた。俺という異分子がいるものの全員ついてくる選択肢を選んだらしい。
「孫悟空さんが到着するまで3時間近くあります。たくさん飲み物もありますのでよかったらどうぞ」
「あら、いただくわ」
「僕も」
「…俺も貰おうかな」
トランクスの取り出した小型の冷蔵庫にブルマを始めとして悟飯やクリリンも集まる。
戦士たちはまだしもいの一番に受け入れるブルマの度胸のあることよ。自慢じゃないが俺なんてびびって微動だにしてないからな。
そんなことを考えているとトランクスがこちらに向かって歩いてきた。なんだ?やっぱり殺されるのか!?
「コルド…さんも是非飲んでください」
そう言って缶ジュースを差し出してきた。
なんか扱いが優しくない?上手く生き残れてももっとこう、捕虜みたいな扱いだと思っていたが。どういう訳かトランクスの俺に対する扱いが妙に優しい気がする。
「…いただこう」
まぁいいか。この分ならいきなり殺されるなんてこともなさそうだし。
とりあえず缶ジュースでも飲みながら事の成り行きを見守ることにした。
(…開けにくっ! 手が大きすぎてプルタブに指が入らん。…爪でなんとかいけるか?)
そんなこんなでジュースの缶と格闘しているとトランクスとブルマたちが話し始めた。
「どうしてお父さんの事を知っているんです?」
「俺も会ったことはなくて、話を聞いたことがあるだけなんです」
「へ、じゃあどうしてここに悟空が来るって知っているんだ?」
「すみません、それは言えないんです」
「えっと…、じゃあどうして貴方は超サイヤ人になれるんですか?」
「それも…、すみません、答えられません」
(…まぁ、ここは原作通りか)
未来からやってきたことが分かれば歴史が変わってしまう。故にトランクスはほとんどの質問を答えることはできない。そんな空気を察したのかブルマが声を上げた。
「よし! 困ってるみたいだし質問はもうやめましょ。この子は地球を救ってくれたわけ…、救ってくれたのよね…?」
その言葉に全員の視線が俺へと向けられる。
やべ、呑気にジュース啜ってる場合じゃねぇ。
恐る恐るといった様子でブルマが俺に話しかけてきた。
「え~っと、あんたにも聞きたいことはあるんだけど…、まさかあんたも答えられないなんて言わないわよね?」
「心配するな、ブル…娘よ。ワシに答えられることならなんでも話そう」
敢えて隠す情報も別にないし質問には素直に答えた方がいいだろう。下手に黙秘して警戒心を抱かれる意味もない。強いていうなら原作知識を知ってるが故に余計なことも言わないように注意しなければ。名前なども俺が知っていたらおかしい知識なのだ。
「じゃあ一応確認するけど、あんたはフリーザの父親のコルド大王…で間違いはないの?」
「いかにも。ワシこそがコルド大王だ」
「地球には何をしに来たの? やっぱり息子がやられたから孫君に復讐に来たわけ?」
さて、ここらへんからは慎重に答えを選ばないといけない。馬鹿正直に復讐が目的なんて話す必要はないだろう。実際俺にはそんな意思、一欠けらもないのだから。
ここはとにかく敵対する意思はないということをアピールしなければ。
「孫君…、超サイヤ人の事だな。確かに我が息子フリーザの目的は超サイヤ人への復讐だったが、ワシにその意思はない。ワシの目的は息子を倒した存在がどれほどのものか一目見たかっただけに過ぎん」
「へ? じゃああんたは暴れる気はないってこと? 自分の息子が殺されてるのに」
「もちろんだとも。フリーザの死については分不相応の相手に手を出した奴の自業自得ともいえよう。仇を取ろうとも思わんよ」
「へ~、意外ね。もっと息子の敵討ちだ、ってのを想像してたけど…そういう感じじゃないのね」
やっぱり宇宙人だから親子の情とかあんまりないのかな、などとブルマは首をかしげていた。
よし、悪くない感触だ。この調子ならなんとか悪人ではないと納得してもらえるかもしれん。などと油断していると、
「ふざけるなよ!」
「ちょ、ちょっと、ベジータ?」
「ちっ、何が復讐する気はない、だ。くそったれめ! そんなくだらん与太話が通用すると思っているのか!」
ベジータが大声を上げ会話に入ってきた。
「落ち着け、貴様は…、ベジータ王の息子だな。与太話などと…、どうしてそう思う?」
「ふん、どうせフリーザと復讐に来たはいいが自分の息子が殺され、旗色が悪くなったから調子のいいこと言っているだけだろう。いやらしい貴様ら一族の考えそうなことだぜ!」
(ぐ、余計なことを言いやがって…)
せっかく場が丸く収まりかけていたというのに。
ブルマや悟飯といった面子はともかく、やはりベジータを始めとする警戒心の強い戦士は流石に素直に信じてくれない。みればピッコロと天津飯の二人も油断なくこちらを睨みつけている。
「ま、待ってください! この人は悪人ではありません。僕が保証します!」
意外なことに助け舟をだしてくれたのはトランクスだった。こちらを睨むベジータと俺の間に割って入ってくれた。
「悪人ではない、だと? 笑わせるな! 何故貴様にそんなことが分かる!? まさか貴様らは知り合いだというわけではあるまいな」
「そ、それは…」
「また答えられない、か。ふざけやがって。何一つ説明できない貴様の保証がいったい何になるというんだ!」
「…もし、この人が暴れだしたら、僕が責任を持って止めてみせます。…超サイヤ人になって」
「ぐっ…、ちっ、むかつく野郎だぜ」
ベジータは渋々引き下がる、そうするしかないのだ。あくまでこの場で最も強いのはトランクス、場の支配権は彼にある。
それを理解しているのだろう、納得こそしていないがベジータにはほかに選択肢は無い。
ベジータは依然として俺を視線で射殺す勢いで睨みつけてくるがとりあえず場は収まったといえるだろう。
(ふぅ、助かった。…にしてもやっぱりトランクスからやけに信頼されている気がするな。なんでだ?)
そんな疑問もあったがまぁ今は置いておこう。
それよりここまで来てしまえばもう生存は確定ではなかろうか。一番の懸念点であったトランクス、その彼がこちらの味方寄りなのだ。
地球の戦士達に関してはまだ俺の事を疑っているがこっちはそう問題ではないと考えている。単純な話、この時点では戦士たちの戦闘力はコルド大王の足元にも及ばない、それほどの圧倒的な差が存在している。
例えこの場で戦闘になったとしても戦闘力差のごり押しでなんとかなるだろう。
(…とすると、今は悟空が帰ってくるのを待つしかないか)
この空気でまだ3時間近くも待たなければいけないのは正直苦痛だがまぁ仕方ない。
周囲を見渡すと戦士たちも雑談したりと思い思いの時間を過ごし始めている。一部いまだに俺を睨みつける視線も感じるがこの際無視だ。
(あ、ジュースなくなった)
…早く帰って来ないかな、悟空。
主人公がコルドの振りをする理由は特にありません。
強いていうなら何も考えてないだけです。主人公も作者もです。