「(ば、馬鹿な!? どうしてこいつがここに!?)」
突如現れたクウラの存在に驚愕を隠せない。
もしかしたら宇宙の何処かに存在しているのではと考えたこともあるが、俺がこの世界に来て今の今まで現れなかったためてっきり存在していないのかと思い込んでいた。
しかし何故今になってこの男が現れたのだろうか。
「ク、クウラだと!? まさかこの男まで支配下に置いていたとは…、バビディめ、なんて用意周到な奴なんだ…!」
「あいつのことも知ってるんか、界王神様?」
「私もこの男についてはあまり知りません。大規模な軍を持つフリーザと違い、少数の部下を引き連れて行動する奴の動向を掴むことは容易ではありませんでした。だが、まさかバビディの部下になっているとは…!」
俺と違って界王神様は存在は知っていたようだ。だが今の説明が全てだろう。あまりクウラに対する情報は持っていないようだ。
「っち、おい、クウラ! お前は宇宙船の中で待機しておく手筈だっただろう。なぜわざわざ外に出てきた!」
「悪いな、見知った顔がいたもんでつい飛び出てきてしまった」
クウラはダーブラを一瞥すると俺の前へと降り立った。
「久しぶりだな、親父」
「…どういうことだ、クウラ。何故お前がここにいる?」
「決まっているだろう。バビディ様にお力添えをし、魔人ブウを復活させることが俺の目的だ」
少しでも情報を聞き出そうとクウラに質問を投げかけるが俺の望む返答は帰ってこなかった。だが一つだけ分かったことがある。クウラは完全にバビディの支配下にいる。つまり魔人ブウの復活を阻止するためにはこいつを倒す必要があるということ。今はそれだけ分かれば十分だ。
「こいつはワシが相手をする! お前達はバビディの後を追うがいい!」
「あんたが俺の相手を…? ハッ、笑わせる! だがいいだろう、受けて立つぞ!」
クウラとは俺が戦う、向こうもその気のようだ。
予想外の敵が出現したことに驚かされたが、なるべく冷静に努めながら頭を回す。単純な戦力を比べればまだまだ俺達の方が有利だ。ダーブラとバビディ、最悪そこに魔人ブウが加わったとしても今の悟空達ならなんとかしてくれるだろう。
唯一の懸念はクウラの戦闘力だ。きっとバビディによって潜在能力を引き出されて強化されているに違いない。今最も警戒すべきはその強化がどれほどのものかだ。
「バビディ様の後を追う? そんなことこの私が許すとでも…」
「おっと、なら俺がこいつを引き受けようか。いい加減暴れたくてウズウズしていたところだ!」
バビディのもとに向かおうとする悟空達を妨害しようとするダーブラ、その相手を名乗り上げたのはベジータだ。
悪くない流れ、今の悟飯だと厳しい相手だがベジータなら簡単に勝てる相手だろう。俺が指示したわけではないがこれ以上ない役割分担だ。
俺とベジータでクウラとダーブラを抑え、悟空と悟飯が主力となりバビディのもとに向かう。流石にこの2人を超える手下を用意しているとは思えない、バビディを守る残りの部下たちは悟空達の敵ではないはずだ。
「よし、あいつらはコルドとベジータに任せてオラ達は宇宙船に乗り込むぞ!」
「分かりました、お父さん!」
「だ、大丈夫なのですか? 魔界の王ダーブラは勿論としてあのクウラもかなりの強敵です。皆で戦った方が確実では…!?」
「あの2人なら心配ねぇさ。さぁ、行くぞ!」
宇宙船に乗り込む悟空達、ダーブラが急いで後を追おうとする。しかし立ち塞がるベジータによってダーブラは身動きができない。
「さぁ、魔界の王とやらの力を見せてもらおうか!」
「このダーブラ様をなめるなよ…! 一瞬で始末してくれるわ!」
ベジータとダーブラの戦闘が始まり、彼らは戦いながらこの場を離れていく。
俺も目の前の敵に集中しなければならない。
「さて、こちらも始めようではないか。クウラよ、何処からでもかかってくるがいい」
「この俺を前に随分と余裕だな、何か策でもあるのか、親父よ?」
余裕があるわけではない、ただ負けない自信があることは確かだ。
俺はこれから始まる戦闘に備えて変身する。第二形態を飛ばし第三形態、今のクウラと同じ段階まで変身を引き上げた。
その変化を見たクウラが驚きの声を上げた。
「なっ!? …驚いたぞ、あんたが変身するのを見たのは初めてだ。てっきりできないものかと…だがいくら変身したとはいえこの俺に勝てるとでも?」
第三形態となった俺と今のクウラは瓜二つ、まさしく親子だ。
そんな俺を前にクウラは余裕を崩さない、よっぽど自身の戦闘力に自信があるのだろうか。だがそれはこちらも同じ、俺は奴を挑発することにした。
「なに、戦えばすぐに分かることだ」
「ちっ、我が父親ながら相変わらず腹立たしい男だ…。あんたの時代はとっくに終わったんだよ!」
苛立ちを隠そうともせずに飛びかかってくるクウラを迎え撃つ。怒涛の勢いで繰り出される奴の連撃を俺は冷静に捌く。避け、防ぎ、受け流す。大したパワーだ、だが今の姿の俺には及ばない、何の問題もなく対処できる範囲だ。
そして俺はクウラの拳を受け止め、逆の手で奴の顔面を素早く打つ。
「ぐっ、…ふん、なかなかやるじゃないか。王座にふんぞり返っていただけの貴様にまさかこれほどの力があったとはな…!」
俺の拳に怯み、後ずさるクウラを見定める。
劇場版はパラレル世界ということもあり絶対とは言えないが、この男は本来であればもっと早くに現れる敵だ。それこそ人造人間との戦いが始まる前あたりに。
「一つ聞きたい。クウラよ、貴様は今までどこで何をしていたのだ?」
「何をしていただと…? 貴様…いったいどの口でそれを言っているのだ! 白々しい!」
俺の質問に激昂するクウラ。何が彼の逆鱗に触れたというのだろうか。怒りの形相で殴り掛かってくるクウラにより戦闘が再開される。
互いに拳を交わしながら俺とクウラは話を続ける。
「10年前、あんたはフリーザと共に超サイヤ人を倒すべくこの星にやってきたはずだ! 違うか!?」
「…違わないさ」
実際にはその途中で俺の意識が目覚めたので違うわけだが今は話をややこしくしないために肯定ておく。しかしそれがどうしたというのか。フリーザが倒されたなら尚更あの時すぐに地球にやってくるものだと思うのだが。
俺と奴の拳がぶつかり合い、弾かれたかのように2人の距離が開く。
「しかし弟であるフリーザは死に、あんただけが生き残った。その報告を部下から受けたとき、俺は恐怖したよ」
「恐怖だと? …何故だ?」
「親父、あんたがフリーザをやったんだろう! あの超サイヤ人を利用してな!」
「(…は?)」
どういうわけだか分からないが、クウラはよく分からない勘違いをしているみたいだ。俺が質問を重ねようとすると、聞くまでもなくクウラは語りだす。
「かつてあんたは近い将来に起こるであろう家督争いを恐れ、早々に表舞台から姿を消した! あんたが若くして強大な力を持っていた俺とフリーザのことを疎ましく思っていることに気がついていないとでも思ったか!?」
つまりコルドが引退したのは2人の息子を恐れてのことらしい。今になってこの体の本来の持ち主の過去を聞くことになるとは思っていなかった。それにしても随分と情けない話である。
「それから時が流れ、超サイヤ人の話を聞いたあんたはある計画を思いついた。超サイヤ人を利用し、俺達兄弟を消すことで再び自身が宇宙の支配者に返り咲くという計画をな!」
俺の答えも待たずにクウラは続ける。
「流石の俺もフリーザを倒したという超サイヤ人と親父を同時に相手取ることはできん。俺にできることは貴様らに見つからないようにただ息を潜めることだった…、その間俺がどんな思いで生きてきたか…あの屈辱は今でも忘れん!」
完全に誤解だ。
俺の知る歴史でもコルドはフリーザと協力して悟空を倒そうとしていた。そこにどんな感情があったかは知らないが、そこまで険悪な雰囲気は感じられなかった。
勿論クウラの言っていたように自身の息子の才能に思うところはあったかもしれない、しかし殺害を企てることはなかったはずだ。
「つまり貴様は何年もこのワシに見つからないように隠れていた、というわけか」
そう考えると少しかわいそうに思えてきた。
存在しない殺意に怯え何年も隠れていた。だからこそ今になるまで姿を見せなかった。だがこいつの場合、普通に生きていれば大勢の罪のない人々が犠牲になっていたはず。同情する必要はないか。
「だが、そんな俺をバビディ様が拾ってくださったのだ! そして俺は生まれ変わった、もはや超サイヤ人も、親父、あんたも敵ではない! これからは我が一族ではなくバビディ様が宇宙を支配する時代なのだ!」
そしてクウラの姿が変化していく。丸みを帯びたフォルムから、刺々しさを感じさせる姿へと。
最終形態へと変身したクウラが俺の前に立ち塞がる。
「さぁ、続きを始めようか!」
変身したことにより、先程とは比べ物にならない速度とパワーで俺に向かって膝蹴りを繰り出すクウラ。俺はそれをまともに受け止める。しかし勢いを殺すことができず、かなりの距離を移動した後、俺の体はそのまま岩盤に叩きつけられた。
クウラはそんな俺に容赦なく追撃を加える。
「あんたも知っていただろう、俺がフリーザよりも多く変身できることを! そらそらどうした! 抵抗することもできないのか!」
岩肌にめり込んだ俺を殴り続けるクウラ。強い、本来のクウラのレベルを考えれば飛躍的なパワーアップを遂げている。驚異的なパワー、あの時の悟飯以上かもしれない。そしてその姿も相まって俺にとって苦い思い出であるセルを想起させる。
まさしく恐ろしい強敵と言ってもいいだろう。
…しかしそれは7年前ならばだ。
俺を執拗に殴り続けるクウラの両手を掴み、持ち上げる。
「…哀れだな、クウラ」
「なっ!? ぐぅっ…おのれ!」
そのままクウラの腹に前蹴りをぶち込む。腹を蹴り飛ばされ、大きく吹き飛ぶクウラ。
「哀れだと!? 俺の何が哀れだと言うのだ、親父!」
「何から言うべきか…、まず一つ。それはあのバビディという薄汚い魔導士の傀儡となり、偽りの忠誠を誓わされていることに何の抵抗もできずにいることだ」
俺の言葉にたじろぐクウラ。きっとクウラも心の何処かで己に違和感を感じているのだろう。なぜ自分があんな小物に忠誠を誓っているのかと。
もし本来のクウラであれば少しは抵抗できたかもしれない。だが何年も俺に怯え、弱った心ではバビディの洗脳を打ち払うことはとてもできはしないだろう。
「ふん、何故抵抗する必要がある。バビディ様は俺に素晴らしい力をお与えくださった! 現にあんたもさっきからなんの抵抗もできずに…」
「二つ。与えられた力に酔いしれ、目の前の現実がまるで見えていないこと。本当にワシが何もしていないとでも思ったか? ワシの体をよく見るがいい」
「な、なんだと!? どういうことだ、無傷だと!?」
さっきから俺は無抵抗に殴られているわけではない。奴の攻撃をこの身で受けているものの防御態勢をとり、防ぐべき攻撃はしっかりと防ぐことでダメージは最小限に抑えている。流石に無傷とはいかないが俺の体に目立った外傷はない。
それにバビディがブウ復活の為に今もダメージエネルギーをかき集めているのかもしれないのだ。そんな状態で俺が無意味にダメージなど食らうものか。
「それに貴様の与えられた力など所詮は一時的な物。言うならば砂上の楼閣、本当の力の前では何の役にも立たん」
「本当の力だと…?」
俺は全身に力を込め、気を高める。先程のクウラと同じように。
「ま、まさか…、ありえん!? あんたにできるわけがない!」
「かぁぁぁぁぁぁぁ!」
この7年間、俺はただ漫然と修行していたわけでない。明確な目標地点を、目指すべき姿を思い描きながら修行を続けていた。そしてその地点は気に食わないことにあのセルゲームで垣間見ることができた。
辿り着くのは容易ではなかった。だが、幸いなことに強くなるためのお手本はいくらでも側にいた。特に悟空やベジータとの修行は俺を大きくパワーアップさせた。
かつて相対した敵が、今も共に歩む仲間達が、俺をこの領域まで引っ張り上げてくれたのだ。
「そ、その姿は…、俺と同じ…、ば、馬鹿な……、ごはぁっ!」
俺の変身に驚き戸惑うクウラに一瞬で距離を詰め、拳を繰り出す。拳は奴の腹に深くめり込み、クウラは苦悶の声を漏らした。
第四形態、この姿こそが俺の7年間の集大成。
「三つ、これが最後だ。実の父に引導を渡されるお前が本当に哀れでならん。我が息子に対するせめてもの情けだ、一瞬で終わらせよう。クウラよ、覚悟するがいい!」
痛みに喘ぐクウラ、それを見下ろす俺の口元をマスク状の外骨格が覆い隠した。