「ぉ、ぉぉ…、ゴホッ…、な、なめるなぁ!」
俺の攻撃に嘔吐しながらもクウラは反撃の拳を俺に向けた。クウラの放った一撃は俺の腹部を捉えた。
殴る側と殴られる側、立場を入れ替えて今のやり取りが再現される。ただ、決定的な違いがあるとすればダメージの有無だ。
クウラの放った拳に俺は微動だにしなかった。
「あ、あ、ありえん…、こんなことが…」
「現実を受け入れるのだ、クウラよ」
奴と相対してから薄々と感じていた予感が、今のやり取りで確信に変わった。
俺とクウラの実力には隔絶した差が存在する。互いに姿形こそ同じ形態だが、その戦闘力は俺の方が圧倒的に上だ。
俺は狼狽えるクウラの顔を鷲掴みにした。
「ぐぁっ! な、なんで…、何故こうも力の差がある! 俺とあんたは同じ形態のはず! なのに…何故!?」
クウラは俺の手から逃れようと両手で俺の腕を掴み、必死に抵抗を試みるが俺の拘束は一切緩まない。
「なぜだと? まだ分からんか。いくら力を引き出されようとも、今までこそこそとワシから逃げ回っていただけの貴様ではこれが限界なのだ」
徐々にクウラの顔を掴む手に力を込めていく。ミシリと鷲掴みにされたクウラの顔から嫌な音がして、クウラのマスクがひび割れる。顔を握りつぶされる感覚に絶叫をあげるクウラ。
「ぎゃあああああああああ!!」
「もし貴様が地道にトレーニングを積んだうえでバビディに強化されていればこうはならなかっただろう。だがクウラよ、貴様はそうしなかった」
本来のクウラの戦闘力を考えるとバビディの魔術だけでここまで強くなれたこいつの潜在能力はまさに破格だ。しかし今俺が言ったことが全て、元々の戦闘力にあまりにも差があり過ぎた。
なんとか拘束を逃れようと奴は何度も俺の腕を叩く、だが無意味だ。
「貴様が10年前に逃げることを選んだその時からこの敗北は…決まっていたのだ!」
そして俺はクウラを掴んだまま急降下して奴を後頭部から地面に叩きつけた。その衝撃に白目をむくクウラ。
戦力の格付け、その結果は圧倒的に俺の優位という結果になった。だがクウラの場合何をしでかすか分からない。あまり刺激して更に力が引き出されるなんてことになっても厄介だ。容赦なくこの戦いを終わらせた方がいいだろう。
そう判断してそのまま止めを刺すために剣を手に取ろうと背中に手を伸ばしたその時だった。
「…っ!? な、なんだこの巨大な気は!? ま、まさか…復活したのか、魔人ブウが!?」
突如現れた大きな気に俺の手が止まる。その瞬間だった。
クウラが俺の顔に向けてエネルギー波を放つ。視界を塞がれたことで僅かに拘束が緩み、クウラは俺の手から脱出する。
そして奴は上空に飛び上がった。
「ちっ、無駄な抵抗を…!」
「はぁっ…はぁっ…、油断したな親父! フリーザの甘さはやはりあんた譲りのようだな、だがこの俺は違う!」
そしてクウラは手を上に向け気を高める。この位置取り、奴のポーズ、何をするつもりなのか俺には手に取るように分かる。
破壊するつもりなのだ、この星ごとこの俺を。別にどうとでも対処は可能だが念のために奴の行動に釘を刺す。
「愚か者め、この星にバビディがいることを忘れたか。貴様とワシはともかく奴は宇宙空間に放り出されれば間違いなく死ぬ。そんなことも分からんのか!」
「ぐっ、な、ならば…!」
俺の言葉でバビディの事を思い出したのか、奴は気を高め続けながらも体勢を変えた。星を破壊するのは思いとどまったようだがこの攻撃で勝負を決めるつもりなのだろう。
俺にとっても好都合だ。魔人ブウが復活してしまったからにはこれ以上戦いを長引かせる必要はない。あえてダメージを食らわないように立ち回る必要も無駄話に興じるのも終わりだ。俺は気を高めながら剣を抜き、構える。
やがてクウラも攻撃の準備を終えたのか。両手を前に突き出しながら俺に突っ込んできた。
「終わりだ、コルド!」
「終わるのは貴様だ、クウラ!」
渾身の力を込めたクウラの突撃、俺はそれに向かって剣を振り下ろし、
クウラを真っ二つに切り裂いた。
「そ、そんな…ば…か……な…」
体を縦に両断されながら地面に突っ込んだクウラ、驚くべきことにまだ生きている。俺も他人のことは言えないだろうが恐ろしい生命力だ。
二つに両断されながらもぴくぴくと動くクウラに俺は掌を向ける。
「さらばだ、息子よ。地獄でフリーザと精々仲良くな」
そしてクウラの体をエネルギー波で完全に消滅させる。
もし変に奴の肉体を残せば禍根が残る。ビッグゲテスターに流れ着いてメタルになって帰ってきても面倒だ。だが奴の体は完全に消し去った。これなら復活の心配はないだろう。
それよりも今は急がなければならない。ついさっき大きな気を感じた方向に意識を向ける。
「どういうことだ…? ブウだけじゃない、他にも大きな気を感じる。いったい何が起こってるというのだ!?」
感じる気は一つだけではない。おそらく魔人ブウとそれに匹敵するなにか、そしてそれと戦っているのはベジータか? 悟空と悟飯の気が感じられない、まさか殺された…、いや、ありえない。
厄介なことにクウラとの戦いで随分と遠い場所まで移動してしまった。大きな気を感じる現場からはかなり距離がある。
何が起こっているのか、それを確かめるべく俺は大急ぎで次なる戦場に向かうのであった。
△
時は少し遡り、バビディの宇宙船。
バビディは水晶に映る光景を前に焦燥していた。
水晶に映るコルドとクウラ、戦いは既に始まっているがどういうわけか手に入るダメージエネルギーは微々たるものだ。
画面を切り替えてもう一方の戦闘を映す。
『はぁっ…はぁっ…、こ、このダーブラがこんなゴミに…、あ、ありえん…!』
『ふんっ、魔界の王がどんなものかと思えばこの程度か、がっかりだぜ』
ベジータとダーブラの戦いはベジータの圧勝だ。ダーブラも魔術を用いてなんとか食らいついてはいるものの大きなダメージを与えることはできずにいる。
「なにやってんだよ…! 全然魔人復活のエネルギーが集まらないじゃないか、使えない奴らめ!」
ちらりと、ブウが封じられた球体とそれが鎮座する装置を見るバビディ。先程バビディは天下一武道会の会場で悟飯から奪い取ったエネルギーを注入したがメーターの針の進みはいまいちよくない。クウラとダーブラの戦闘と悟飯のエネルギーを合わせてなんとか半分、およそ50%といったところだ。
バビディはまた水晶の画面を切り替える。そこには自分の部下達を蹴散らしながら船内を進む悟空達の姿が映っていた。
「だ、駄目だぁ…、このままじゃ間に合わない、こ、こうなったら…」
バビディは懐からある物を取り出した。この地球に向かう最中に偶然手に入れた物を。
「あのヘボ魔導士から奪ったのはいいけど…、本当にこの中にあの幻魔人が封印されてるのか…?」
冷や汗をかきながら、古ぼけたオルゴールを握りしめるバビディ。
迫りくる悟空達をどうにかするにはこの中に封じられた存在を解放するしかない。それがバビディの下した決断だった。
宇宙船内に乗り込んだ悟空達はバビディの部下を次々に蹴散らしながら船内を進んでいた。
「どうやらあの二人以外は大したことない奴しかいねぇみたいだな」
「そうですね。早くバビディのもとまで向かいましょう」
「す、すごい…、バビディの集めた精鋭達をこうも簡単に…」
悟空達に襲い来る戦士達は決して弱いわけではない。バビディが宇宙中から集めた強者、それらが術によって強化されているのだ。数も戦闘能力も並大抵の戦士では対抗することは厳しいだろう。そう、並大抵であればだ。
悟空はこの宇宙レベルで見ても桁外れの実力者だ。悟飯も昔と比べ腕を落としたとはいえ並外れていることには変わりない。
2人の実力を目の当たりにした界王神がポツリと呟いた。
「まさかこれほどとは…もしかしたらこの人達ならあの方法も使えたかもしれませんね」
「まさかあの剣のことですか…! 馬鹿な、下界の人間が抜けるはずが…」
「もしかしたらの話ですよ、キビト。それにこの調子ならその必要もなさそうだ」
悟空達の実力に界王神とキビトが驚きながらとある可能性について会話する。その間も悟空達は迫りくる戦士達を無力化し、どんどんと船内を進んでいく。
「それにしても宇宙船にしては随分と広いですね。どういう構造なんでしょうか」
「おそらくバビディが魔術で拡張しているのでしょう。心配はありません、あの扉の先から邪悪な力を感じます。きっとあの部屋の中にバビディがいるはずです!」
扉を蹴破り、悟空達が部屋の中に踏み入る。そこには冷や汗を流しながら不敵に笑うバビディが立っていた。その手には古いオルゴールが握られている。
「追い詰めたぞ、バビディ! もはやお前を守る戦士はいない、観念するがいい!」
「ふ、ふんっ、僕を追い詰めただと? バカめ、こっちにはまだ切り札があるんだよ!」
「切り札だと…?」
「そうさ! その前に…、パッパラパー!」
突如景色が切り替わる。バビディの術に魔人ブウの封印された玉諸共に全員が外に移動させられたのだ。
一同が外に移動させられた理由は単純だ。バビディはこれから現れるであろう存在が宇宙船を破壊してしまうことを避けたかったのだ。
そしてバビディが手に持っていたオルゴールを放り投げた。
「え、そ、外にでた? いったい何を…」
「さぁ千年の時を経て蘇れ! 幻魔人ヒルデガーンよ!」
バビディの魔術によりオルゴールのネジが独りでに回りだし、辺りにメロディーが奏でられる。
物静かで、どこか悲し気な雰囲気を醸し出すオルゴールの音色に一同の視線が集まる。
「なんだ、この音色は…?」
「よ、よーし、いいぞ、封印が解けるぞ…!」
そして千年間守られてきたオルゴールの封印が解かれた。
△
同時刻、あの世にて。
「へいへいへーい! いえーい!」
とある装置の前で一人の角の生えた男がハイテンションで踊っていた。そこに別の男、その男の上司らしき男が現れて踊る男に注意を促す。
「おい、タンク係! そろそろスピリッツ・ロンダリング装置のタンクを入れ替えとけオニ!」
「了解オニ~! いぇいいぇーい!!」
ヘッドホンのせいで聞き取りづらかったためか、適当に返事を返す男。男は注意を受けるも聞く耳も持たずに踊り続ける。
だから彼は気がつかなかった。背後の装置、スピリッツ・ロンダリング装置が鳴らすアラーム音に、ひび割れるタンクに、それらに気がつくことなく男はただひたすらに踊り続けていた。
それが原因で取り返しのつかない事態が起こることも知らずに。