オルゴールの中から現れたのは気絶した1人の男だった。
悟空達は知りようがないが男の名はタピオン、かつて南の銀河で勇者と称えられた男だ。
「大きな気を感じる…敵、ですかね?」
「い、いえ、邪悪な力は感じられない。むしろその逆、清らかな力を感じます…」
それを見た一同が困惑する。戦士達はバビディの用意した新たな戦士なのではと警戒するがバビディの様子を見る限りそうでもなさそうだ。なぜなら最も困惑しているのは封印を解いたバビディ本人なのだから。
「…は? な、なんだよ、これ、げ、幻魔人は、ヒルデガーンはどうした!?」
「ヒルデガーン…? どこかで聞いたことがあるような…、いえ、それよりも…」
開いたオルゴールに駆け寄って狼狽するバビディ。膝をついてオルゴールを持ち上げようとして、オルゴールが砕け散る。その光景を見た界王神が勝利を確信した。
「残念だったな、バビディ! 何がしたかったかは分からないが、とにかく思い通りにいかなかったようだな。まさかその人間を人質に取るのがお前の切り札というわけでもないだろう!」
「ち、ちくしょう…、こんなはずじゃあ…」
ガクリ、と項垂れるバビディ。あまりにも呆気ない幕切れに一同は釈然としないものを感じつつも魔人復活を阻止できたことに胸を撫で下ろした。
悟飯はこれからどうするのか界王神に問いかける。
「えっと…これからどうするんです?」
「…この男はここで始末します。ブウが封印された玉ですが…、このままここに置いておいては危険でしょう。危険は伴いますが我々の住む世界に移動させ、厳重に管理します。それとオルゴールから出てきたあの方もどうにかしなければ、キビト、お願いできますね?」
「分かりました、界王神様」
「…だ、そうです、お父さん。…お父さん?」
これからの行動を話し合う界王神達をよそに険しい顔をする悟空。そんな自らの父を不思議に思う悟飯。この場にいる者の中で、唯一悟空だけが何か違和感を感じ取っていたのだ。
そして悟空が口を開いた。
「…何か来る!」
「ああああああああああああああ!」
突如、倒れていたタピオンが絶叫する。
何事かとタピオンに視線を向ける一同は、タピオンの体から煙のような何かが吹き上がるのを確かに見た。
「なっ、いったい何が!?」
「気をつけろ! あの煙から物凄い気を感じるぞ!」
吹き出た煙が巨大な化け物の上半身を形どり、やがて実体となった。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!!」
封印されし幻魔人がその姿を現す。大きな雄叫びをあげるヒルデガーン。
上半身だけの巨人は現れるやいなや、その巨大な拳を振り回して大暴れを始めた。突然の出来事に悟飯がその拳をまともに受けてしまう。
「しまっ…ぐわぁっ!」
「悟飯! くっ、こいつ…!」
暴れまわるヒルデガーンの姿にバビディは歓喜の声をあげる。これこそが千年前に封印された幻魔人なのかと、その戦闘力はバビディが今まさに求めていたものであった。
「は、ははは、こいつがヒルデガーンか…! いいぞ、これなら僕の魔術で制御できそうだ…、
パッパラパー!」
バビディがヒルデガーンに魔術をかけると闇雲に暴れまわっていたヒルデガーンが大人しくなる。
「やれ、ヒルデガーン! あいつらを攻撃しろ!」
「ぐるるるるる……、がああああああああ!」
そして明確な意思を持って悟空達に攻撃を仕掛け始めた。バビディがヒルデガーンを操り、邪魔者を排除するように命令を下したのだ。
「くっ、なんてパワーだ…。界王神様、あれが魔人ブウなんか!?」
「いえ、あれはブウではありません。私がかつて見た魔人ブウとはまったくの別物、ブウとは関係のないまったく別のなにかです!」
「界王神様、危険です! お下がりください!」
悟空達に向けてヒルデガーンがその口から火炎放射を放つ。咄嗟に回避する一同だが悪化した状況に焦りが生じる。
突然現れた謎の巨人に魔人ブウもまだ控えているのだ。切迫した状況、悟空は超サイヤ人2となりヒルデガーンに立ち向かう。
「今はとにかくこいつを倒すしかねぇか…! 界王神様達は悟飯のことを頼む!」
「わ、分かりました。キビト、行きましょう!」
ヒルデガーンの巨大な腕を避けながら攻撃を仕掛ける悟空。
ヒルデガーンが上半身のみの不完全の状態ということもあり、悟空はヒルデガーンを相手に優勢に戦えていた。
その光景に今度はバビディが焦りを募らせる。切り札であるヒルデガーンが悟空一人に抑えられている。このままでは回復した悟飯と界王神が自分のもとにやってくるだろうと。そうなれば自らを守る戦士は今度こそ誰もいない。
魔人ブウの復活を示すメーターの針は4分の3を示している。先程のヒルデガーンの攻撃で大きく針を進めたが後一歩足りない。残り約25%ほどのエネルギーを求めてバビディは必死に辺りを見回した。
「あ、あと少しで魔人ブウが復活するんだ。何か…何か手は…ん?」
バビディは気づく。自身の近くに横たわるタピオンに、ブウの復活に使えるエネルギーがすぐ側に転がっていることに。タピオンから感じられるエネルギーは清らかであり、大きさもそこそこ。まさにバビディが今求めていた魔人復活に最適なエネルギーだった。
「この男…、使える、使えるぞ! 魔人ブウに注ぎ込むのにちょうどいいエネルギーだ!」
すぐさま装置から線のようなものを引っ張り出すとバビディはタピオンに直接それを突き刺した。気絶しているタピオンでは抵抗することはできず、ただなすがままにされるしかなかった。
タピオンから力を吸い取り、メーターの針が動き始めた。そして…
「フルパワーだ…! やった、やったぞー! 魔人ブウが復活するぞーー!」
「な、しまったぁ!」
界王神がバビディの動きに気がついた時には何もかもが手遅れだった。けたたましい音を立ててブウの封印された球体が震え、煙を吐き出す。
吐き出された煙が集まり、形を成す。まるで先程の光景の焼き直しのように。
そして魔人ブウがその姿を現した。
「ブウーーー!!」
見事に復活を果たした魔人ブウはバビディに従うことに最初は難色を示したが、バビディが封印の呪文をちらつかせるとすぐに従順になった。
バビディに大人しく従うブウと、魔術によりコントロールされたヒルデガーン、2体の魔人にバビディが命令を下す。
「さぁ、魔人ブウ、そして幻魔人ヒルデガーン! 奴らを殺してしまえ!」
「おっけーい!」
「ぐおおおおおおおお!!」
状況は最悪だった。魔人ブウに加えて幻魔人ヒルデガーンがバビディの手元にいるのだ。本来の歴史よりも更に悪化した事態。
地球、いや全宇宙の危機に、迫りくる2体の魔人に、界王神はただ狼狽えることしかできなかった。
「お、終わりだ…、魔人ブウが復活してしまった…。も、もうどうすることも…」
「…そうでもねぇさ、界王神様」
「へ? な、なにを…」
「魔人ブウとはオラが戦う。悟飯、あのヒルデガーンって巨人を何とか抑えられっか?」
「…分かりました、なんとかやってみます」
キビトによる回復が済み、前線へと復帰した悟飯に悟空が指示を出す。
恐ろしいほどの気を持つ魔人ブウを前にして未だ闘志を失わない悟空に界王神は更に動揺した。
「まさか戦うつもりなのですか!? む、無理だ、ここは一度引くべきです!」
界王神の呼び止めも聞かずに悟空は歩みを進める。
「はぁぁぁぁぁぁぁ……、だぁ――――!!」
そして一気に気を高め始めた。大地が、空が、星そのものが震えるほどのパワー。
一同は悟空から魔人ブウに匹敵するほどの力を感じ取った。そして黄金の光が悟空を包み込む。現れたのは…
「お、お父さん…、そ、その姿は、いったい…!?」
「時間がかかってすまなかった、こいつは超サイヤ人3ってとこかな。あまり時間はかけらんねぇ、一気に行くぞ、ブウ!」
瞬時に接近した悟空がブウを殴りぬく。その威力に吹き飛んでいくブウを悟空が追いかける。悟空とブウの戦闘が始まる、その戦いに今度はバビディが狼狽えることとなる。
バビディにとって目の前の光景は信じがたい光景であっただろう。ようやく復活した伝説の魔人が悟空によって一方的に叩きのめされているのだから。
「お、おい、ブウ! 何やってんだよ…、くそっ、こうなったらヒルデガーン、お前も…」
「そうはさせない! お前の相手はこの僕だ!」
「くぅー! どいつもこいつも邪魔ばっかりしやがって…!」
ブウに加勢させようとヒルデガーンに命令するがその前に悟飯が立ち塞がる。今の悟飯では厳しい相手ではあるが悟空がブウを倒すまで持ちこたえることはできたかもしれない。
だがそれはヒルデガーンが不完全なこの姿のままであったのならばだ。
「なっ、なんだ!? 巨大な足…? いったい何処から!?」
「があああああああ!!」
「しまった…! うわあああああああ!」
ヒルデガーンの注意を引くように攻撃をしつつ飛び回っていた悟飯の行く手を巨大な足が塞いだ。
突然の出来事に足を止めた悟飯をヒルデガーンの口から放たれた火炎放射が吞み込んだ。
「っ! 悟飯!」
「逃がさないぞー!」
「ちっ、どけ!」
悟空は魔人ブウを殴り飛ばして悟飯のもとに駆け寄る。
「悟飯、しっかりしろ!」
「ぅ、ぅぅ…」
「私が治そう!」
ヒルデガーンの攻撃をまともに受けた悟飯のダメージは大きい、このままでは助からないだろう。だが幸いにもこの場には体力を回復させ、傷を治せるキビトがいる。しかしそこに待ったをかけたのは界王神だ。
「お待ちなさい、キビト、悟飯さんを回復させる前に界王神界に移動しましょう」
「な、正気ですか!? 下界の人間を連れていくなどと…」
「お、おい、早くしてくれよ! じゃなきゃ悟飯が…!」
「落ち着いてください悟空さん、このまま彼を回復させたとしても我々の全滅は時間の問題です。あれを見なさい!」
界王神に促され悟空は視線をバビディのもとに向ける。
そこにいたのは上半身と下半身が合体し、更に大きくパワーアップしたヒルデガーン。そして悟空が戦っていた魔人ブウも全く気を減らしておらず、ダメージを受けた様子はない。
界王神の言う通り、このまま戦い続けても勝ち目がないのは明白だった。
「悟空さん、やはりここは一度引くべきです! 私に考えがあります、お願いです、今は私に従ってください!」
「くっ…!」
悟空は考える。
界王神の言う考えとやらは分からないが今は悟飯の回復を優先したい。それに自身の体力も減ってきている。ここは一度引いて、キビトに自身と悟飯を回復してもらうべきだろうと。
もし界王神の考えが不発に終わったとしても、全回復した自分がこちらに向かっているコルドとベジータの2人と協力して戦えばこの2体の魔人を倒せる自信があった。
「…分かった、界王神様」
思考の末、悟空は一時撤退を選択する。事実としてここは一度逃げ、立て直すのが最善の策だろう。
悟空の答えに界王神はコクリと頷く。
「キビト、お願いします!」
「はっ、カイカイ!」
キビトの能力によって全員の姿が瞬時に消える。
「なっ消えた…! さては逃げやがったな…、まぁいい! あいつらが姿を見せるまでこの星を滅茶苦茶にしてやる! アハハハハハハ!」
消えた戦士達にバビディが苛立ちを見せるがすぐさま気を取り直して笑い声をあげる。なにせ自分の手元には伝説の魔人が2体もいるのだ。魔人ブウ、そして幻魔人ヒルデガーン、この2体を従える自分こそがこの宇宙の王に相応しい、歯向かうものは皆殺しにしてしまえばいいのだ。
バビディがそう自分に言い聞かせているとこの場に新たな戦士が現れた。
「なっ、魔人とやらは1匹じゃなかったのか…!? それにカカロット共の気が感じられん、いったい何がどうなってやがる…!」
現れたのはベジータだ。ダーブラを倒し、追いついてきた彼は絶妙なタイミングで悟空達と入れ違うこととなる。
「あいつは…確かあいつも界王神の仲間だったな…。 ちょうどいい、お前も殺してやるよ! ブウ、ヒルデガーン、やってしまえ!」
「ちっ、まぁいい。2体纏めてこの俺が始末してやる!」
もしもうほんの少し早く辿り着き、悟空と合流できていれば。或いはもう少し遅れ、コルドと合流した後にこの場にやってきていれば運命は変わっていただろう。
しかしあろうことかベジータはこの場に1人で辿り着いてしまった。それが最悪の結果を招くことになると知らずに。
△
「ここは…?」
「界王神界、我々の住む神の世界です」
「へ~こんなところが…、いや、それよりも早く悟飯を…!」
「そう急かすな、これほどのエネルギーの持ち主を回復させるのは時間がかかるのだ…!」
界王神の策で一度戦場から退いた悟空達は界王神界に着くとすぐにキビトによる治療を受ける。キビトの能力で傷が癒え、目を覚ます悟飯。
「ん、あれ…、僕は確か…、そうだ! ブウは、あの巨人はどうなったんです!?」
「落ち着いてください悟飯さん、ひとまずここは安全です」
「界王神様は悟飯に説明してやってくれ、さ、次はオラも頼む」
「分かった分かった、人使いの荒い奴め…」
界王神から何が起きたのか説明される悟飯。そしてキビトにより悟空の体力が元に戻る。なんとか全滅を免れた悟空達がこれからについて話し合う。
「界王神様、さっき言ってた考えってのはいったい何なんだ?」
「そうですね、説明しましょう。我々界王神に伝わる伝説の剣、ゼットソードについて」
「ゼットソード?」
そして悟空と悟飯は界王神から作戦を伝えられる。伝説のゼットソードを使い、ブウとヒルデガーンを倒す作戦を。
その説明を聞いた悟空と悟飯は半信半疑ながらもとりあえずは界王神の話を信用することにした。
「よし、じゃあ悟飯は界王神様達とそのゼットソードってのを引き抜きに行ってくれ」
「え、お父さんはどうするんですか?」
「オラは瞬間移動で地球に戻る。コルドやベジータと一緒に戦えば多分なんとかなると思うからな」
額に指を当て、地球への瞬間移動を試みる悟空。
皮肉なことに今の地球からは大きな気がいくつも感じられたため、気を捉えることは簡単だった。
そして悟空は地球に移動しようとして、ようやく気がつくこととなる。
「あ、あれ、なんで…、どうなってんだ? 瞬間移動が…使えねぇ…!?」
異変が起こっているのは地球だけではないということに。