「瞬間移動できないって…、どうしてですか?」
「わ、分かんねぇ…、こんなこと初めてだ。いったいなんで…」
額に指を当てながら瞬間移動を試み続ける悟空。しかし何度やっても気を捉えることはできるが地上に移動することができない。
「キビト、貴方はどうですか?」
「へっ? は、はい…カイカイ!」
次にキビトが瞬間移動を試みる。悟空と同じように地上への移動を試みたキビト、しかしどういうわけか術が発動することはなかった。
「キビトさんも使えないということは原因はお父さんではなさそうですね…」
「どうなってやがんだ…?」
「分かりません、ただ…、我々の知らないところで何かが起こってるのは確かです」
未知なる異変に一同の表情が険しくなる。今地球ではバビディが魔人ブウとヒルデガーンを蘇らせ、今にも大暴れしようとしているのだ。
一刻も早く地上に戻りたい悟空の脳内に突如声が響き渡る。
『悟空! 聞こえるか悟空!』
「その声は…界王様か?」
『おお! この声が通じるということはお前、あの世にいるようだな。どうしてかは知らんがとにかく助かったぞ、今すぐ界王星に瞬間移動できてくれんか!』
「瞬間移動ったって…、界王様、悪ぃがそりゃ無理だ。なんでかは分かんねぇけど今は瞬間移動が使えねぇんだよ」
『その心配は不要だ、今お前のいる場所からなら瞬間移動が使えるはずだ。とにかく試してみろ!』
界王に促されるままに瞬間移動を試みる悟空。すると界王の言った通りに瞬間移動は成功し、悟空は界王星にやってくることができた。
「あり? 瞬間移動できた…? なぁ界王様、いったい何が起きてんだ?」
「時間がないから簡単に説明するぞ。今さっき、あの世でとんでもない邪悪な存在が生まれてしまったのだ。その影響であの世とこの世の境界が滅茶苦茶になってしまった、おそらく地上への瞬間移動ができないのはそのせいだ」
「そ、そんな…、そりゃ困るよ! 地球じゃ今大変なことが起きてんだ!」
「大変なことだと? それはお前があの世にいたことと関係あるのか?」
悟空は界王に今起きていることを説明した。
界王神と協力して魔人の復活を阻止しようとしていたこと。それに失敗してブウ、さらにヒルデガーンが地上で暴れていること。その魔人達を倒すためにも一刻も早く地上に戻らないといけないこと。
「な、なんと…、まさか界王神界におったとは…、それに魔人ブウ、地球がそんなことになっていたとは知らんかった…」
「ああ、悪ぃがあの世の問題に構ってる暇は…」
「しかし悟空よ、このまま奴を放置していたら何が起こるか分からん! 最悪の場合、生と死のバランスが崩れてしまう事態にもなりかねん。もしそうなれば地球はおろか、あの世も含めた全世界が滅茶苦茶になってしまう!」
界王の言う通り、今あの世で起きてる問題を放置するわけにはいかない。そもそもこのままでは悟空は地上に戻ることもできないのだ。
「…分かった。とりあえず一度界王神界に戻ってこの事を界王神様達に伝えてくる。その暴れてる奴もオラがなんとかしてみるさ」
「頼んだぞ、悟空!」
再び界王神界に戻ってきた悟空は状況を界王神達と共有する。思いがけぬ事態に顔を青ざめさせる界王神。
「そ、そんな、まさかこんな最悪なタイミングでそのようなことが起こってしまうなんて…、最悪だ…、我々が戻れない以上あの2体の魔人を倒すことは誰にも…」
「…いや、多分なんとかなると思う」
「へ?」
「オラ達が戻れなくても地球にはコルドとベジータがいる。あいつらならきっとなんとかすっさ」
その言葉は決して強がりや虚勢ではない。
悟空は長年の付き合いでコルドの強さをよく知っている。ベジータと修行する機会はあまりなかったが彼の気から感じられる力は自分に匹敵するものだと悟空は確信していた。
「し、しかしいくら彼らが強くてもあの2体の魔人に勝つことができるとはとても思いません」
「それは界王神様があいつらのことをよく知らねぇからさ。2人が戦ってるのを見たことねぇだろ?」
「そ、それはそうですが…」
ブウとヒルデガーンとは少し戦っただけだが恐ろしい力を秘めていることは悟空も感じている。その上でコルドとベジータなら勝つことができると信じているのだ。
「今はオラ達にできることをやろう。まずは界王様の言っていた邪悪な存在ってのをなんとかしねぇとな。ゼットソードってのも気になるし、とにかく動こうぜ」
「…わ、分かりました」
一同はひとまず地上のことはコルドとベジータに任せ、今あの世で起こっている異変を解決するために動き始めた。
今はできることをする。悟空はどこか嫌な予感を感じつつもそう決断するしかできなかったのだ。
△
「いいぞー、ブウ、ヒルデガーン! その調子だー!」
「鬱陶しい奴らだ…!」
悟空達が離脱し、入れ違いで現れたベジータはブウとヒルデガーンを相手にたった一人で戦うことになってしまっていた。
ベジータはしつこく追いかけてくるブウを、ヒルデガーンの巨体をすり抜けるように飛び回りながら相手にする。そしてヒルデガーンの大きな腕が振るわれたことにより、視界が遮られたブウがベジータを見失う。
「あれ、あいつ、どこいった? …ぐえっ!」
「ふんっ、隙だらけだ!」
きょろきょろと辺りを見渡すブウを背後から蹴り飛ばすベジータ。
ベジータが2体の魔人を相手に戦えている理由は2つ。
一つ、ブウとヒルデガーン、2体の魔人は連携がとれておらず互いに好きに暴れまわるばかりだ。バビディの命令通りに動いているため、辛うじて共闘はしているものの協力して戦っているとは言い難い。故にベジータは一人でもなんとか2体の魔人を相手取ることができていた。
そして二つ目は今のベジータの姿だ。
「ちくしょう! まさかこいつもあの姿に変身するなんて…、なんで魔人ブウと互角に戦える奴がこんな星に何人もいるんだよ!?」
「このベジータ様を侮るなよ! カカロットにできてこの俺にできんことなど何もない!」
今のベジータの姿は超サイヤ人3と呼ばれる形態だ。
悟空だけでなくベジータもまた7年間の修行でこの境地に辿り着くことができていた。7年前に見たセルの力を超えるため、そしてなにより己の最大の好敵手、孫悟空に追いつくため、この2つの思いがベジータをこの領域に引き上げたのだ。
しかし、超サイヤ人3の力を持ってしても現状は厳しいものであった。
「ギャリック砲!」
「ぐおおお―――」
「くそっ、また消えやがった…! っ、後ろか!」
「―――おおおお!」
ベジータの放ったギャリック砲がヒルデガーンの巨体に命中する――直前でヒルデガーンの体が煙の様に消え去る。そしてその巨体が一瞬でベジータの背後に現れた。振り下ろされる巨大な拳を間一髪で避けるベジータ。
そこに先程蹴り飛ばしたブウが戻ってくる。
「よくもやったなー!」
「ちっ、やはりダメージを受けていない…、このピンク玉といいあのデカブツといい厄介な奴らだぜ…!」
攻撃を仕掛ければ煙の様に消え去り、自由自在に実体の有無を操るヒルデガーン。そしていくらダメージを与えようが瞬時に再生、回復してしまうブウ。反則級の能力に加えて単純なパワーも恐ろしく高い。この2体の魔人の組み合わせはまさに悪夢だった。
2体の魔人を前にベジータは考える。
「(この巨人は攻撃の瞬間に実体化する、その一瞬を狙うしかない。そしてあのデブに生半可な攻撃は無意味だ。一撃で全身を消してしまう必要があるな)」
ベジータは持ち前の天性の戦闘センスにより、僅かな戦闘でブウとヒルデガーンの弱点を見抜いていた。そして現状、一人ではその弱点を突くことができないことも自覚していた。
「(厄介な能力だ、2体同時に相手取るのは厳しい…、だが1対1で戦えば倒せない相手ではない。カカロット共が何処に消えたかは知らんがコルドの奴がここに向かってきているな、あいつにどちらか片方の相手を任せて1対1の状況を作り出す。気に食わんがこれしか方法はないな)」
ベジータの中で作戦が組みあがっていく。この場に向かっているコルドにブウ、或いはヒルデガーンの相手をさせて残った片方を撃破する。超サイヤ人3に目覚めたベジータであれば今の姿のブウと封印が解けたばかりのヒルデガーン、どちらかと1対1で戦えば勝利できる可能性は十分にある。
作戦を実行するべくベジータは超サイヤ人3から超サイヤ人へと変身の段階を落とした。
「なんだ、なぜ変身を解く? うひひひひ、さては諦めたか!」
「ふん、勝手に言ってろ」
ベジータが超サイヤ人3を解いたのはエネルギー消費を抑えるためだ。爆発的に戦闘力を上げることのできる超サイヤ人3、しかしその代償に、燃費が悪く長時間の戦闘に向いていない。
ベジータはコルドがこの場に到着するまで体力を温存するつもりだった。
「よーし、お前達、奴を殺してしまえー!」
バビディの号令でブウとヒルデガーンがベジータに再び攻撃を仕掛ける。前述の通り、ブウとヒルデガーンは連携を取れているわけではない。むしろ互いに邪魔をしあうような場面も多々見受けられる。
すぐそこまで近づいてきているコルドが到着するまでの僅かな時間を超サイヤ人の姿で耐えることができるとベジータは考えたのだ。
「(逃げ回るだけならこの姿で十分だ…、後はコルドがこの場に現れるまで時間を稼ぐ!)」
ベジータの考えに間違いはなかった。
ベジータであればこの2体の魔人を相手に逃げ続けることは可能だった。遅れて到着したコルドと共に戦い、勝利することもできた。地球をバビディの魔の手から守り抜くことは確かにできたのだ。
ただし、それはこの場に現れたのがコルドであったのならばだ。
突如、飛来したエネルギー弾がヒルデガーンの顔に命中し、爆発する。ようやくコルドが到着したかと攻撃が飛んできた方向に目を向け、ベジータは目を見開いた。
「お前ら、卑怯だぞ! 寄ってたかってパパをいじめやがって!」
ヒルデガーンに攻撃を仕掛けたのはコルドではない、トランクスだ。本来の歴史同様にビーデルから魔人の話を聞いたトランクスと悟天はビーデルの制止も聞かずにこの場にやってきた。
そして2体の魔人を相手に逃げ回る自らの父の姿を見たトランクスは居ても立ってもいられずにヒルデガーンに攻撃を仕掛けたのだ。
「トランクス!? なぜここに…!?」
自分の息子がこの戦場に現れたことに驚愕するベジータ。想定外の出来事、ベジータにとってトランクスの登場は予想だにしていなかったことだ。
「なんだ…あいつら…?」
「おい、でっかいの! お前は俺が倒してやる! かかってこい!」
「あ、危ないよ、トランクス君…!」
悟天の制止も聞かずにトランクスがヒルデガーンに対して大声で叫ぶ。不意打ちを受けたこともあり、その行動はヒルデガーンの注意を向けるのに十分なものだった。
ヒルデガーンの巨体が、髑髏のような顔が、その双眸がトランクスを捉える。トランクスを敵と判断したヒルデガーンは自身の尻尾を振るった。
「ま、まずい…!」
ヒルデガーンの巨大で鋭利な尻尾がトランクスへと迫る、そして…
割って入ったベジータが巨大な尻尾を全身で押し止める。その先端に胸を刺し貫かれながら。
「ぱ…、ぱ……?」
「に…、げろ…トラン、ク…ス…」
尻尾の先端に心臓部を貫かれ、胸から血を流すベジータ。それが彼の最期の言葉であった。
「ね、ねぇパパ、へ、返事してよ…! パパ? パパ!?」
倒れたベジータにトランクスが駆け寄る。胸に大穴を空けたベジータ、辛うじてヒルデガーンの尻尾を受け止めることはできたが自身の致命傷を避けることはできなかった。
「お、起きてよ! ねぇ、ねぇってば!」
「ト、トランクス君…」
必死にベジータに呼びかけ続けるトランクス、どうしていいか分からない悟天。
もしベジータが超サイヤ人3のままであったなら致命傷は避けることができただろう。悟天とトランクスがフュージョンをしてから攻撃を仕掛けていればこうはならなかっただろう。しかし全ては仮定の話、何もかもが手遅れだった。
「ぅ、ぅぅ、パパ…!」
「ぐるるるるるるるるるるる…!」
「あ…、ああ……」
そんな悲劇も知ったことかと言わんばかりにヒルデガーンは唸り声をあげて2人の子供に歩みを進める。迫りくる巨人に悟天とトランクスは動くことができない。教えられていたフュージョンのことなんてもう頭の何処にもなかった。
既に事切れたベジータを、涙を流すトランクスを、ただオロオロすることしかできない悟天を、己の野望の邪魔をした3人をバビディは嘲笑う。
「うひゃひゃひゃ! いいぞ、ヒルデガーン! 邪魔者は皆殺しだ、そのガキ共も殺し…て……」
バビディは見た。3人の側に立つ一人の男の姿を、言葉こそ発さないものの異様な雰囲気で佇む男の姿を。
「あ…、お、おじ、さん……?」
「な、なんだ? お前も邪魔するつも…ひぃっ…!」
そして恐怖した。バビディは確かに見たのだ。
男を包む憤怒の炎を、煮えたぎるマグマのような怒気を、自身に向けられた灼熱の殺意を。
マスクに覆われ、見ることのできないはずのその表情をバビディは幻視したのだ。
「…許さん、貴様だけは絶対に許さんぞ! バビディ!!」
そこには鬼の形相でバビディを睨むコルドが立っていた。