タピオンを連れた俺は2体の魔人から逃げ果せて、なんとか神殿に辿り着いた。
気絶しているタピオンはデンデに回復してもらったがすぐに目を覚ますことはなかった。デンデ曰く、肉体だけでなく精神のダメージが大きいらしい。バビディの魔術によって無理やり封印が解かれた影響だろうか。幸いなことに命に別状があるわけではないらしいが目が覚めるには少し時間がかかるらしい。
ポポに看病を任せて俺は神殿から地上の様子を観察しているピッコロに話しかける。
「ピッコロ、悟天とトランクスは?」
「神殿の中で今は眠っている。今はそっとしておいた方がいいだろう」
「…そうだな」
何せ目の前で父親が殺されたのだ。そうでなくてもあの若さで目の前で人が死ぬのを見るのは辛いだろう。彼らの心の傷が癒えるには少々時間が必要だ。今はゆっくり休んでもらおう。
「ブウとヒルデガーンはどうなっている?」
「さっきまで奴らで戦っていたが今は別の場所にいる。…そして別々に地上で暴れているところだ」
「…やはりそうなったか」
できることなら共倒れして欲しかったがそう上手くはいかないか。
無限の再生能力を持つブウにまともに攻撃が当たらないヒルデガーン、おそらく戦い続ける中で互いに興味を無くしたのだろう。
バビディがいないため制御する者もおらず、好き勝手に暴れまわっているようだ。
「すまん、バビディを殺したのは失敗だったかもしれん。奴らを制御できる存在がいなくなってしまった」
「どうせ奴が生きていてもこの星を破壊し尽していたはずだ。気にすることはなかろう」
「…そうか」
重苦しい雰囲気、それも仕方ない。とても明るく振る舞える現状ではないのは確かだ。その時デンデが声をあげた。
「あれは…見てください! 皆さんが到着しましたよ!」
大型の飛行機が神殿へと着陸した。瞬間移動を使える悟空がいないため、あの大人数をこの神殿に連れてくるのは大変かもしれないと考えていたがどうやら杞憂だったようだ。
飛行機からぞろぞろと皆が降りてくる。誰もが不安そうな表情をしている。まず俺に話しかけてきたのはヤムチャだ。
「コルド! よかった、お前は無事みたいだな。聞いたぜ、とんでもない事になったみたいだな」
「ヤムチャ…、済まん、すぐ終わらせるなどと大口を叩いておきながらこんなことになるとは…」
「なんでお前が謝るんだよ、お前はよくやってくれたさ。それより悟空達は…」
「ねぇコルド…」
俺とヤムチャの会話にブルマが割って入る。
「ベジータとトランクス知らない? ここにもいないみたいだし…、クリリン君も答えてくれないのよ」
「それは…」
クリリンに視線を向けると気まずそうな表情をしている彼が目に入った。この様子だとまだ話せていないようだ。
「お前達、集まってくれ。今この地上で何が起こっているか全て話そう」
だがいつまでも黙っているわけにはいかない。ここで何もかも説明してしまうべきだ。集まってきた皆に現状を話す。
「皆の安否についてだが悟天とトランクスは無事だ、宮殿の中で眠っている。だが……、ベジータは殺された。そして孫悟空と悟飯も行方が分からん。もしかするともう奴らに殺されている可能性もありえる」
突き付けられた残酷な真実に皆が動揺する。
「べ、ベジータが…、そんな……」
「悟空さ…、悟飯ちゃん…、ああ…」
「チ、チチ! しっかりしろ!」
取り乱すブルマ、気を失うチチにそれを支える牛魔王、反応は様々だがこの場にいる全員が悲しんでいるのは確かだ。
そんな彼らを宥めようとしたところで突如、脳内に声が響き渡った。
『――い、おーい! 聞こえてるか、皆!』
「こ、この声は孫悟空か!? いったいどこから…、いや、それよりも生きているのか!?」
『オラ達は無事だ、今は界王様のところから話しかけてる。時間がねぇから手短に説明する、しっかり聞いといてくれ』
いきなりのことで状況が飲み込めないが今は黙って悟空の話に集中することにした。
『今あの世とこの世の境界が滅茶苦茶になってんだ。その元凶をなんとかしねぇとオラ達は地上に戻れないらしい。だからオラはこれからそいつを倒してくる、すまねぇがしばらくそっちには戻れそうにねぇ』
「な、なんだと…!?」
悟空の話を聞いて俺の脳裏にある存在が思い浮かんだ。
その名はジャネンバ、ヒルデガーン同様に劇場版の敵でありその強さはブウやヒルデガーンに匹敵するほど、下手したらそれ以上かもしれない存在だ。作中でも似たような事態が起きていたのでほぼ間違いないだろう。
よりにもよってこの最悪なタイミングで生まれてしまうなんて…。
『それよりそっちはどうだ? ブウとあの大きな怪物はどうなった?』
「…こちらの状況はかなりまずい。ブウとあの怪物、ヒルデガーンは地上で暴れまわっている。今は仲間達と神殿に避難しているが…、ベジータは殺された」
『な、なんだって!? べ、ベジータが…!?』
簡潔に悟空にこちらの状況を伝える。こちらの状況に悟空が静かに、何かを考え込むのを感じた。その沈黙を破るようにチチが悟空に問いかけた。
「悟空さ! 悟飯ちゃんは…、悟飯ちゃんも無事なんだな!?」
『ああ、無事だ。今は界王神様とゼットソードってのを使って修行してる。なんでも最強の剣らしいけど…』
『ま、まずい悟空…!』
悟空とチチの会話に割り込むように界王様の声が響き渡る。
『あの世とこの世の境界が更に乱れ始めた…、もう念話を維持できん…!』
『なっ、界王様、もうちょっとだけ頑張ってくれ!』
どうやら界王様はかなり無理をしてこちらに声を届けてくれているようだ。しかしそれももう限界寸前、このままでは悟空達との連絡手段すらも失われてしまう。
「(何か、何か伝えておくことは…聞いておくことはあるか!? どうすれば…、俺は何をすればいい…!?)」
危機的な状況、時間はないのに考えが纏まらない。
思考がおぼつかず、言葉が浮かばない俺に悟空が語りかけてきた。
『コルド! 今地球を守れるのはオメェだけだ! オラ達が戻るまでなんとか皆のことを頼む!』
「(ご、悟空…!)」
悟空の言葉に我に返る。そうだ、混乱している暇はない。
先程もピッコロに言われたが今まともに戦える戦力は俺一人、俺が主導してこの危機的状況を乗り切るしかない。それも悟空の助力無しでだ。
無理やり頭を動かし、今伝えるべきことをなんとかひねり出す。
「分かった! 地球のことはワシに任せるがいい! それと孫悟空、今すぐ界王神様のもとに戻りゼットソードとやらを叩き割るのだ!」
今ここで伝えられることはこれくらいだろう。
倒すべき敵が多い今、こちらも戦力を増強したい。最も手早く強化できるのは老界王神による悟飯の潜在脳力解放だ。そのためにも、とにかくあの老人を解放しないことには始まらない。
「ゼッーソーーを? な、――で…?」
悟空の声が途切れてよく聞こえない、もう時間が無いようだ。
「頼む! ワシを信じろ!」
「―――――」
返答は聞こえてこなかった。後は悟空が俺の言葉を信じて動いてくれることを祈るだけだ。
そして俺もまた動かねばならない。俺を信用してくれた悟空のためにも俺にはこの星と皆を守る責任がある。
「任せろ孫悟空…、この地球は、お前達の帰る場所は必ずワシが守り抜くぞ…!」
静かになった神殿で空を見上げながら、俺は必死に自分に言い聞かせた。
△
『頼む! ワシを信じろ!』
「分かった!」
界王の肩に手を置いた悟空が力強く返答した。コルドの意図は分からなかったがこの状況で伝えられた仲間の言葉を悟空は信用することにしたのだ。
「す、すまん悟空よ、儂にはこれが限界だ…」
「気にすんな界王様、なんとか地上の状況を知ることができた。助かったぜ」
「ううむ、しかし地球までもがそんな状況になっていたとは…、こんな非常事態が重なるなんて大変なことになったもんだ…」
悟空と界王の表情は暗い。危機に陥った地球に戻ることもできず、連絡を取る事もできなくなったのだ。しかし状況は刻一刻と悪い方向に進んでいる、悟空もまた動き出すことを決めた。
「とにかく一旦オラは界王神様のところに戻る、悟飯にもこの事を話してやんねぇとな」
「うむ、悟空よ、くれぐれも気をつけろよ。何かあればまた連絡するぞ」
「ああ!」
瞬間移動により界王神界に戻った悟空を出迎えたのは汗を流しながらゼットソードを振り回す悟飯とそれを見守る界王神とキビトの二人だ。
「お父さん! どうでした? 地上の様子は分かりましたか?」
「ああ、っとその前に…悟飯、ちょっとその剣持ってそこに立っててくれ」
「へ? こうですか?」
ゼットソードを立てて持つ悟飯の側に悟空が近寄る。そして悟空は腰を落として拳を剣の腹、平らな横の部分に拳を添えた。
「いったい何を…」
「しっかり持っててくれよ…―――だぁっ!」
悟空が気合を込めると同時にゼットソードの刀身がボキリと音を立ててへし折れた。突然の悟空の凶行にその場にいた全員が口をあんぐりとして言葉を失った。
「お、おおお父さん!? なんてことするんですか!?」
「ぜ、ぜ、ぜ、ゼットソードが…、折れ、折れ…た……?」
己の行動に対する反応に流石の悟空も冷や汗を流す。
「…本当にこれでよかったんか?」
「い、いいわけがないでしょう!? 何を考えているんですか! 伝説の剣を…」
「いーや、正解じゃ」
聞き覚えの無い声に悟空達が振り向く。そこには見覚えのない一人の老人が立っていた。
「あ、貴方はいったい…!?」
「儂はよ、15代前のよ、界王神なんだな~これが」
「か、界王神様ですと!?」
「うむ、と~っても昔にあの剣に封じ込められたんじゃが…、まぁ今話すことでもないか」
15代前の界王神、老界王神の出現に驚く一同。そんな中でも老界王神は自分のペースを崩さずにのんびりとした口調で話し続ける。
「それよりも儂があの剣に封じられているとよく分かったな。どうやって気がついたんだお主?」
「えっ、オラか?」
「お前しかおらんじゃろう。たった今剣を叩き折ったのを忘れたのか?」
老界王神の問いかけに悟空はコルドの顔を思い浮かべた。
10年近く前にフリーザと共に地球にやってきた謎の男、何故か悪人には思えず共に行動しているうちにいつの間にか仲間になっていた奇妙な存在だ。元々敵同士だったというのは今更珍しくない、ピッコロやベジータの例もある。悟空の思うコルドの奇妙な点は別にある。
それは時折やけに察しが良く、理解が早い所だ。まるで最初から知っていたかのように。本人は長く宇宙で生きているからだと誤魔化しているがそれだけでないことを薄々悟空は感じ取っている。しかし悪巧みをしているとも思えない。それどころか自身を含めた仲間達に妙に献身的でさえある。7年前の戦いでも率先して事態の解決に乗り出していた。
故に悟空はコルドのことを信じている。その強さも、仲間への想いも信用に値すると考えているのだ。
「別に気がついたわけじゃねぇよ。ただ伝説の剣なんだから物凄く硬いんじゃねぇかと思って…、そんで確かめようとして叩いたら折れちまっただけさ。はははっ!」
だから悟空はコルドの名は出さないことにした。コルドが剣を折れと言った理由はこの老人にあると悟空は確信している。しかし何故この場にいないコルドがこの事を知っていたかは分からない。
それでもコルドは状況を好転させようと自分に指示したことだけは悟空には分かっていたのだ。
「あ、呆れた奴じゃ…。確かめるにしてもせめて切れ味を確かめんか! …まぁいい、とにかく剣の中で話は聞いておったぞ、とんでもない状況のようだな」
「は、はい、このままでは全宇宙、いえ、あの世も含めた全世界が滅茶苦茶になってしまいます。ご先祖様、何か良い方法はないでしょうか?」
「安心せい、この非常事態だ。儂も協力してやる」
そして老界王神は自らの持つ能力、潜在能力を限界以上に引き出す儀式のことを一同に説明した。願ってもいない能力に浮足立つ一同、しかし悟空の一言でその空気は壊れることとなる。
「なぁ、その儀式ってのはすぐに終わるんか?」
「聞いて驚け、儀式に5時間! パワーアップに20時間じゃ!」
「いいっ!? そ、そんなに…」
「あほたれ! たった25時間でその者の力を限界以上に引き出せるんじゃぞ! 普通に修行することを考えれば破格の時間じゃろう!」
「そ、それはそうですけど…」
老界王神の言うことは尤もである。彼の儀式によるパワーアップは通常の方法で手に入れようとすれば例え一年間修行しても得難いものだ。しかし今は一刻を争う事態、丸一日近く動けないのはまずい。
「…よし、じゃあ悟飯はこの爺ちゃんの儀式を受けといてくれ。オラは一人であの世の異変を解決してくる」
「いいんですか?」
「ああ、どうせ一人ずつしか儀式は受けれねぇみたいだしな。それに潜在能力を引き出すってんならオラよりも悟飯の方がいいと思う」
「…分かりました、悔しいですけど今の僕じゃあ皆さんの役に立てそうにもありません。お父さん、どうかご無事で!」
「ああ! っても何処に行けば…」
「待て待て、忙しない奴め。ほれ」
老界王神はどこからか水晶玉を取り出すとそこに閻魔大王の裁判所が映し出された。
「う~む…、閻魔界から邪悪な力を感じる…、ひとまず閻魔のところに向かえ。そこで閻魔大王から詳細を聞くがいい」
「分かった、…あれ? 閻魔様の気が感じらんねぇ…どうなってやがんだ?」
「み、皆さん、これをご覧ください!」
水晶に映し出された裁判所がカラフルな膜のようなものに覆われていく。その光景をみた老界王神は目を細めてその表情を険しいものへと変える。
「これは…、なんということじゃ…、閻魔の裁判所が結界に包まれおった。これはまずいぞ…、生と死の秩序が乱れるのも時間の問題じゃ!」
「その…、秩序が乱れるといったい何が起きるんですか?」
「こんなこと初めてだから儂の予想に過ぎんが…地獄の悪人共が現世に蘇るなんてこともありえる」
「そ、そんな…!?」
ただでさえ今の地上は2体の魔人によって大混乱の真っ只中、そこに地獄から蘇った悪人が加われば地球はもう滅茶苦茶だ。悟空達が地球に帰れるようになるまで地球が存在しているかも怪しい。
刻一刻と悪化していく事態に一同は大急ぎで動き始める。
「オラはもう一度界王様のところに瞬間移動する。あそこからなら蛇の道を伝って閻魔様のところに行けるはずだ。じゃあ皆、後のことは任せた!」
「分かりました! えっと…老界王神様、でいいですかね? すぐに儀式を始めましょう!」
悟空の姿が消え、残された悟飯も儀式を受けようと老界王神を急かす。
「分かった分かった、それにしても…、魔人ブウにヒルデガーン、そしてあの世を荒らす禍々しい邪念の塊か…、まったくとんでもない事になったもんじゃわい。儂も長い事生きてきたがこんなこと初めてじゃ」
悟飯に急かされながらも老界王神は今後を憂いながらポツリと呟いた。