「むっ、か、感じるぞ! 何かがこちらに向かって飛んでくる!」
「お父さんだ、お父さんの気だ!」
周囲の戦士達が騒ぎ出し、空を見上げだした。
どうやら悟空の乗った宇宙船がここに向かってきているらしい。
「ようやく来たようだな…」
とりあえず周りに合わせて俺も視線を上に向ける。…まぁ俺は気を感じ取ることができないので恰好だけだが別にいいだろう。一人だけ違うところ見てるのも恥ずかしいし。
(さて、どうなることやら)
おそらく悟空がいきなり襲い掛かってくることはないだろうが、可能性は0というわけではない。気を引き締めねば。
(トランクスの時と同じように上手くいくといいが…)
まぁトランクスが何故俺を殺さなかったのかはよく分からないが。
上を見上げながら胸の中で手を合わせていると遥か上空から火の玉のようなものが降ってくるのが見えてきた。あれが悟空の乗る宇宙船なのだろう。
それは甲高い音とともに大気を切り裂き、やがてここから少し離れた地点に轟音とともに着陸した。
「あっちだ!」
慌てて宇宙船に駆け寄っていく戦士たち、俺も急いでその後を追う。
そこには大きなクレーター、そしてその中心に丸いポッド。その扉がゆっくりと開いた。
「あれ?」
「お父さん!」
「悟空!」
「どうやってオラのことが分かったんだ?」
「この子が教えてくれたのよ」
「…誰だ?」
「そ、孫君も知らないの?」
状況が呑み込めていないのか目を丸くして困惑している様子の悟空。しかし、俺の存在に気がつくとその目つきはすぐに鋭いものと変わった。
「っフリーザ!…じゃねぇな。おめぇがフリーザによく似た気の正体か。いったい何者だ!」
「落ち着け超サイヤ人、いや孫悟空よ。ワシはフリーザの父、コルド大王だ。ワシに事を荒立てるつもりはない、復讐を企てていたフリーザは既に殺されたのだ。そこの男、もう一人の超サイヤ人の手によってな」
「へ、超サイヤ人!? それにフリーザの父ちゃんだって!? 驚いた~、いったい何がどうなってやがんだ」
よし、とりあえず一触即発の空気は回避できた。後問題なのは…
「悟空さん、あなたにお話があるのです」
「オラにか?」
「はい、よろしければついてきてください。…コルドさんも一緒に」
ついにこの時が来たか。原作にない展開に尻込みしているところもあるが、今は少しでも情報が欲しい。悟空と共にトランクスの後をついていく。
やがて少し離れた地点に立ち止まった。ここなら他の人たちには聞こえない、いや、ピッコロはこの話を聞いているわけだがその方が都合がいい。
「そういや礼を言わなきゃな。フリーザを倒してくれて助かった」
「いえ、本当はあなたがフリーザを倒すはずだったのですが何故か時間の食い違いがあって、そこでやむなく俺が…」
「そうでもねぇさ。オラ、実は瞬間移動って技を教えてもらってさ、そいつを使えばフリーザに追いつくことはできたんだ」
「な、そ、そうだったのですか。そうすると俺は無意味に歴史を変えてしまったのか…」
「歴史を変えた? どういう事だ?」
そしてトランクスは語りだす。自分が20年後の未来からきたベジータの息子であること。3年後に現れる二人の恐ろしい悪魔、人造人間のこと。
その話を俺は黙ってきいていた。悟空はその内容に驚いていたが俺にとってはそれは既知の、知っている内容だ。
しかし、話が進むとついに自分の知る本来の歴史から違う点がでてきた。
「3年後の戦いで、父もクリリンさんも、殆どの仲間が殺されてしまいます。かろうじて生き残ったのは孫悟飯さんとコルドさんの二人だけでした」
「な、なに? ワシだと?」
「ええ、それから二人は十数年に及ぶ時間を人造人間たちと戦い続けました。俺に修行をつけてくれたのも悟飯さんとコルドさんの二人です。しかし4年前にコルドさんも殺されてしまい…、いまや戦える戦士は悟飯さんと俺の二人だけに…」
「そ、そんな馬鹿な…」
自分の知る歴史と異なる話に頭の混乱が止まらない
俺が人造人間と戦って殺された?それに孫悟飯が生きている?どうしてそうなった。
(落ち着け、整理しよう)
トランクスの世界線では悟空がフリーザ親子を倒してしまうはず、しかしあっちでもコルド大王の中身は俺だった。命乞いか話し合ったかは分からないがその結果、フリーザは倒されたが俺だけが悟空に見逃され生き残った。やがてZ戦士の仲間の一人となり人造人間との戦いで殺された、ということだろうか。
なんとなくだが向こうの世界の流れが分かった気がする。これならばトランクスが俺を殺さなかった理由も分かる。しかしまさかコルド大王がトランクスの師匠になるなんて。
「ま、待てよ、オラは? オラもやられちまったんか?」
「いえ、あなたは戦っていない」
ここで違和感が頭をよぎった。
向こうのコルド大王の中身が俺ならば原作知識も当然持っているはず。それなのにどうして未来は悲惨な歴史を辿ったのだろうか。絶望の未来を回避するためになんらかの方法があったはず。
それこそ、ドラゴンボールで悟空の心臓病を治してしまうとか、仮に間に合わなくてもナメック星のドラゴンボールなら2回目以降の死者蘇生も可能だ。
場所が分からなくても地球の神龍で新ナメック星に送ってもらうなんて方法もあったはず。
「人造人間が現れてすぐの事でした、戦いに向かおうとしたあなたはウィルス性の心臓病で倒れ、そのまま…」
「い!? まいったな…、まさか病気で死んじまうなんて」
(ん?)
それはおかしい、悟空が心臓病で死ぬのはもっと早いタイミングだ、少なくとも人造人間の出現まで少しの猶予はあったはず、それが何で?
俺の知る本来の歴史とこの世界の歴史、いったい何が違う、何か原因があるはず。思いつく相違点は俺、つまりコルド大王が生き残ってるということ…
(まさか俺が悟空と戦ってないから発症のタイミングがずれた?)
そういえば発症タイミングのずれは原作でも起きていた。明言はされていないがその原因はフリーザ親子をトランクスが倒してしまったからといわれている。故にフリーザ親子を悟空が倒した未来の世界では発症が早まったと。
しかしこの世界では?
この世界の未来では悟空はフリーザのみと戦いコルド大王とは戦わなかった。そのせいで人造人間の出現と同時に、という中途半端なタイミングで発症してしまったということだろうか。
「3年後の戦いでピッコロさんも死に、ドラゴンボールも消えてしまいました。それで、もう誰も生き返ることができなくなってしまって…」
おそらくだが、未来の俺も原作改変を考えたに違いない。しかし悟空の死亡時期がずれたことや、他にも何らかの理由があったのか、とにかく改変は叶わなかった。
しかし最後は孫悟飯の代わりに人造人間と戦うことで悟飯の命だけは助けたのだろう。…己の命をその代償として。
未来の俺が何を経験し、そして何を思い戦ったのか俺には想像もつかない。なにせ今の俺は生き残ること、それだけで頭がいっぱいだったのだ。いきなりこんな話を聞かされ、頭の整理が追いつかない。
しかしそんな俺を置き去りにして話は進んでゆく。
「悟空さん、これを、心臓病の特効薬です。これがあればあなたは死なずに済む」
「ホントか!? サンキュー!」
心臓病の特効薬、自らの母がブルマだという事、それらを話し終えたトランクスはやがて未来へと帰ろうとする。
「悟空さん、あなたに会うことができて本当によかった」
「ああ、オラもおめぇにはいろいろと助けられっちまったな」
「そしてコルドさん、もう一度あなたに会えたことを嬉しく思います」
「う、うむ」
「未来の世界でまだ物心つかない頃に父を亡くした俺をあなたはよく気にかけてくれていました。それこそ本当の父親のような、そんな存在でした」
(ち、父親ときたか…)
「悟飯さんにとっても同じようなものでしょう。彼も幼くして悟空さんを、父を失ったのだから」
トランクスどころか未来の悟飯も同じ気持ちらしい。
確かに悟飯が確か10歳かそこらの時に悟空が死んでしまうのだ。加えてピッコロやクリリン達といった身近な大人の戦士たちも立て続けに死んでしまう。
まともな大人は、まぁまともかはともかく、未来の世界で戦える大人の戦士はコルド大王しかいないわけだ。気持ちは分からんでもない、精神的にも、戦闘力的にも、まだ幼いころの彼らには心強い存在だったのだろう。
(にしてもまさかコルド大王になぁ…)
「悟飯さんもあなたに会いたがっていましたが、流石に正体を皆さんに感づかれてしまうのではということで今回は母さんと一緒に未来で待ってくれています。…僕もそろそろ未来に戻らないといけません」
「また、会えるか?」
「もし、それまで生きていられれば必ず応援にきます。その時は悟飯さんと一緒に」
「生きろよ、いい目標ができた。オラたちもたっぷり修行するさ」
「息災を祈っておるぞ、トランクスよ」
トランクスは親指をこちらに立てるとそのまま凄い速度で飛んで行ってしまった。
うーん、まさか未来の世界がそんなことになっているとは、正直まだ頭の整理が追い付いていないがこうなったらなるようになれだ。
とりあえず俺は…、いや、俺はどうしたらいいんだ?
「さて、どうしたもんかな。えーっと、コルド、でいいんだよなおめぇ。皆にどう説明する?」
いや、俺に振らんといてくださいよ悟空さん。
俺の立場も扱いもまだ不明瞭なままなのだ。未来ではともかくこれからこの世界で俺がどういう扱いを受けるのかまだまだ分からないことだらけだ。
「さてな、とにかくワシらも戻るぞ。あまり待たせるわけにもいかんだろう」
「うーん、オラこういうの説明するの苦手なんだよなぁ。コルド、おめぇが皆に説明してくれよ」
「ワシの口から話しても誰も信用せん、孫悟空、お前が話すべきだ」
「え~、ってもなぁ、何から言えばいいか…」
まぁでもこうなった以上俺が殺されることはないだろう、気楽にいくか。そんなことを考えながら頭を悩ます悟空と共に皆の元に歩いていく。
大丈夫、ピッコロさんがうまいこと全部説明してくれるさ。
朗報、未来のコルド大王、トランクスを息子にすることに成功する。