あの世、閻魔界。
カラフルな水晶のような結界に覆われた閻魔の裁判所を前に、金色の光が激しく輝いていた。
「だだだだだだだだだだ!!」
光の正体は孫悟空、超サイヤ人に変身した彼が結界を破壊するために攻撃を続けているのだ。
何度も繰り返しエネルギー弾を放つ悟空。無数の強力なエネルギー弾が結界に着弾して爆発する。そして爆発によって生じた煙が晴れるのを見た悟空は忌々し気に表情を歪ませた。
「ちくしょう、全然壊れねぇ…!」
悟空の攻撃は結界を着実に掘り進めていた。
しかしその進捗は芳しくなく、結界の完全破壊にはまだまだ時間がかかりそうだ。攻撃によってひび割れた結界を前に悟空が頭を抱える。
「まいったな、このままじゃ悟飯のパワーアップの方が先に終わっちまうんじゃねぇか?」
悟空が閻魔界に辿り着き、閻魔大王の救助を始めてからもう半日近くになる。一向に終わらない結界の破壊に悟空はうんざりしていた。
「おい! 悟空、まだ結界は破壊できんのか!?」
「見りゃ分かんだろー。やってるけど終わらねぇんだ」
結界を掘り進んだことにより、なんとか閻魔との言葉のやり取りはできるようになった。悟空は結界越しに閻魔へと質問する。
「なぁ、やっぱ結界を破壊するよりも元凶を倒した方が早いんじゃねぇか?」
「そんなこと分かってる! だが奴は今地獄に隠れているのだ。その地獄に向かうには結界を破壊する必要がある。結局のところ、こいつを破壊せん限りはどうにもならんのだ」
結界を張った元凶、ジャネンバは今この場にはいない。閻魔曰く地獄に潜み、その地獄への行き来も封じられているというのが現在の状況だ。
地獄に向かうにはまず閻魔の裁判所を結界から解放する必要がある。
「くっそー、やっぱこのままじゃ無理だ。超サイヤ人3になるしかねぇ。でもなぁ…」
悟空は考える。
今自分に出せる全力、超サイヤ人3で一気に結界を破壊してしまうことを。超サイヤ人3の力を使えば結界を破壊しきることは可能だろう。しかしそれには一つ問題があった。
「なぁ閻魔様、ここで力を使い切って地獄にいる奴に勝てると思うか?」
「厳しいだろうな。地獄から感じる禍々しい力、とんでもない大きさだ。もしかしたら今地球で暴れているという魔人達よりも上かもしれん」
結界を破壊して終わり、ではない。悟空は続けてジャネンバと戦う必要がある。しかしもしここで悟空が力を使い果たせば地獄にいるジャネンバに勝つことは難しいだろう。故に悟空は結界の破壊を全力で行うことに躊躇いがあった。
「おそらく奴はお前さんが力を使い切るのを待っているのだ。そのために地獄に潜み、様子を窺っているのだろう」
「なんだよ、随分と狡い奴だな」
「奴は地獄行きの悪人から吸い出された邪悪なエネルギーによって生まれたのだ。まさしく悪意の集合体、邪念の塊だ。名づけるなら…ジャネンバと言ったところかの」
「ジャネンバ…か」
敵の名を呟きながら悟空は考える。
このまま余力を残して攻撃を続けても時間を浪費するだけ、かといって全力をだせば敵の思うつぼだ。悟飯のパワーアップを待つのも考えたが地上の状況を考えるとこれ以上時間をかけたくはない。
実を言うと結界を破壊する方法としてただ力で押し切るのではなく、悪口という弱点が存在する。しかし不幸なことに悟空がその方法に行きつくことはなかった。
悟空は何か策を考えようと閻魔に質問を投げかける。
「なぁ、閻魔のおっちゃん。あんたの力でなんとかできねぇのか?」
「無茶を言うな。ここに閉じ込められたせいで儂の閻魔としての全ての権能は奴の思うがままだ。奴は生死を司る閻魔の能力を利用して、地獄の悪人共に肉体を与えて次から次へと地上に送り込んでおる。まったく、とんでもない不届き者だ…!」
「…ん? ってことは死人に肉体を与えるのは元々閻魔様の能力ってことか?」
「ああ、まぁ死後に肉体を与えられるものなどそう多くはいないがな。悟空、お前も昔に界王様のもとで修行するときに肉体を与えてやっただろう、忘れたのか」
「そういやそうだったな…」
死人に肉体を与える能力、それを聞いた悟空が考え込む。
「この結界を破壊したら閻魔様は力を取り戻すってことだよな?」
「ああ、だがジャネンバが存在している以上あの世とこの世の境界がもとに戻ることはないだろう。結界を破壊してもお前さんが地上に戻ることは奴を倒さん限り無理だ」
「…よし、どうせこのままじゃ埒が明かねぇんだ、いっちょやってみっか!」
何かを思いついた様子の悟空が遠くに視線をやる。そこには閻魔界が機能を失い、行き場を失った死人の魂がいくつも漂っていた。地球の惨状も後押しして彷徨う魂の数は途方もないことになっている。
「お、おい、何をするつもりだ悟空?」
「オラ、今から全力で結界を破壊する。オラはそれで力を使い切っちまうから結界が壊れたら閻魔様はすぐに―――」
「―――なるほど、少々危険な賭けになるが…、分かった。やってみよう」
悟空の思いついた作戦を聞いた閻魔が冷や汗をかきながら覚悟を決める。このままじゃ何も解決しないのならば多少危険でも勝負にでるしかない。
そう決めた2人による一か八かの作戦が今始まろうとしていた。
「いいか、悟空よ。結界を破壊して、お前さんが力を使い果たせばすぐに奴はお前に襲い掛かってくるだろう。準備はいいな?」
「ああ、じゃあ始めるぞ…!」
悟空が全身に力を込めて気を高め続ける。変化は外見に現れ、悟空の金色の髪が徐々に伸びていく。高まる気にあの世全体が震える。
やがて悟空は超サイヤ人3となり、己の得意とする技の構えをとる。
「か~め~は~め~…」
次元をも揺るがすほどに高められた超パワー。
「波ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それが解き放たれ、エネルギーの奔流となって結界に向かっていく。
悟空の放ったかめはめ波により、結界はみるみるうちに崩れていく。そして…、
閻魔界を覆いつくしていた結界が粉々に砕け散った。
「よし! よくやった、悟空!」
「閻魔様、早く……」
「じゃねんば!!」
「おわっ!?」
カラフルな結界の破片が舞い散る中、突如姿を現した巨体に悟空が殴り飛ばされる。
閻魔の予想通り、結界の破壊で消耗した悟空にジャネンバが強襲を仕掛けたのだ。力を使い果たし、変身が解けた悟空にはジャネンバに対抗することは不可能。成す術もなく吹き飛ばされた悟空にジャネンバは追撃を仕掛ける。ジャネンバの巨体に空いた穴からいくつもの強力なエネルギー弾が放たれ、悟空に殺到する。
「閻魔様…! は、はやく…!」
「ま、待ってくれ! 如何せん死人の数が多すぎる! この中からあいつを探し出すのは時間がかかる!」
必死に何かを探す閻魔。そんな閻魔を気にも留めずにジャネンバは悟空に止めを刺そうと、気を口に収束させる。
「え~っと、何処だ何処だ…、見つけた!」
目当てのモノを見つけた閻魔が取り戻した権能を行使する。その瞬間、遠くを漂う膨大な死者の魂の群れから人影がジャネンバに向けて飛び出した。
そして人影は今まさに攻撃を放とうとしたジャネンバの顎を蹴り上げた。
「――ぶぇ!?」
顎を蹴り上げられ、照準が狂い、口から放たれたエネルギー波は見当違いの方向に飛んでいき、大爆発を引き起こした。
その反動でくるくると回転しながら地獄へと落下していくジャネンバを尻目に、悟空はその人影に近づいた。
「た、助かったぜベジータ。あんなの食らったらオラも死んじまうところだった…」
「ふん、貴様の感謝なんぞ必要ない」
人影の正体はベジータだ。
悟空の作戦、それは閻魔の権能で魂だけのベジータに肉体を与え、力を使い切った自分の代わりに戦ってもらうことだ。
悟空の狙い通り、ベジータは肉体を取り戻し、ジャネンバへと痛烈な一撃を与えてみせた。
「それよりも…、こんなことができるなら何故もっと早くやらなかった!」
「し、しょうがねぇだろ! さっきまで思いつかなかったんだ、閻魔のおっちゃんがこんなことできるって知らなかったんだよ」
本来の悟空はセルとの戦いで命を落とし7年間をあの世で暮らすこととなる。しかしこの世界ではその7年間を現世で暮らしていた。そのため悟空のあの世に対する知識が本来よりも少なくなってしまっている。良いことに思えた歴史改変がここにきて裏目に出ることとなったのだ。
「ちっ、まぁいい。貴様には今何が起きているかいろいろ聞く必要があるが…、とにかくそれは奴を倒してからだ」
「すまねぇ、オラも手伝いたいけどさっきので力を全部使い切っちまった」
「貴様の助けなんて不要だ。あいつは俺が倒す!」
ベジータは超サイヤ人へと変身し、ジャネンバを追って地獄へと向かう。
その背中を見送った悟空は閻魔の宮殿に降り立ち、腰を下ろした。座り込んだ悟空に自由の身になった閻魔が話しかける。
「お、おい、悟空よ、大丈夫か?」
「悪ぃな、閻魔のおっちゃん。体力が回復するまでちょっと休ましてもらうぜ」
「あ、ああ。しかしベジータ一人であの怪物を倒せるかどうか…」
「とにかく今はベジータに任せるしかねぇ。大丈夫、あいつならなんとかするさ」
この時、悟空に知る由はなかった。ジャネンバの隠し持つ真のパワーを。
「ジャネンバジャネンバ~」
「ちっ、不気味な奴だ。ふざけた野郎だがとんでもない力を持ってやがる…」
超サイヤ人3さえも凌駕するジャネンバの力が、ベジータに牙をむく。
彼らが地上に戻るのは一筋縄ではいかないことは確かだ。
△
地球、精神と時の部屋。
「わわっ、フュージョンが…」
「解けちゃった…」
慌てふためく悟天とトランクス。
ついさっきまでフュージョンによってゴテンクスへと合体していたのだが時間制限により合体が解除されたのだ。
2人がゴテンクスとなり戦っていたその相手は…
「ぜぇ…ぜぇ…、よ、よし、なんとか耐えきったぞ…!」
コルド大王、つまり俺である。ヒルデガーンとの戦いに備えてゴテンクスを相手に修行していたのだ。
まだ子供とはいえ合体した戦士の力は凄まじいものだ。俺も手加減は一切してない、最終形態となり、全力で相手をしてこの有様だ。だがこの結果は申し分ないものだろう。
「凄いな~。おじさん、僕達のゴテンクスでも勝てないなんて」
「ちぇっ、さっきのは結構自信あったんだけどな…、ちくしょー、やっぱ5分で合体が解けちゃうのがなー」
俺が今戦っていたゴテンクスは超サイヤ人3の姿だった。そのゴテンクス相手にここまで戦えたのだ、勝ったではなく合体が解けるまで耐えた、というのがなんとも言えない結果だがまぁ十分だろう。
「そう落ち込むな、2人とも。要はフュージョンの30分間を十分に活用することが大事なのだ」
「どういうこと?」
2人に戦いのアドバイスをする。
「いいか、まず最初の25分は普通の超サイヤ人で戦う。最後の5分間で超サイヤ人3に変身して一気に逆転するのだ。この戦法こそがゴテンクスの強みを一番活かせる戦い方だろう」
実際に今の戦いもゴテンクスが最初から超サイヤ人3に変身していたことで5分間で終わったが、もし俺が言った戦い方を実践していたら俺は負けていただろう。
いくら強いと言ってもまだ子供、まだ戦い方に甘さや遊び心が感じられるのが難点か。
「わぁ、そっかぁ! そうすれば30分ずっとゴテンクスでいられるね!」
「そういうことだ。よし、一時間後にもう一度だ、それまで体を休めておくがいい」
「へ? 俺達はいいけど…、おじさん大丈夫?」
精神と時の部屋に入って数ヵ月が経つ、外界で換算すると数時間は経っているはずだ。もうあまり時間はない。
できればこの部屋を出るまでにゴテンクス相手に真っ当に勝利できるレベルには鍛え上げておきたい。それには精神と時の部屋をもってしても時間が足りないのだ。休んでいる暇はない。
「心配は不要だ。このコルド、お前達に心配されるほど老いてはいないぞ。お前達もワシを倒しきれないようではまだまだ修行が足りんのではないか?」
「む、よ~し、それじゃあ一時間後にもう一回だからね!」
「今度はさっきみたいにいかないぞ!」
休憩に向かった悟天とトランクスを見送りながら俺は考える。
地上にはヒルデガーンとブウ、それに加えてジャネンバの影響でかつて倒した強敵も蘇っている。フリーザとクウラがその最たるものだ。
しかしまだ奴が姿を見せていない。7年前に戦ったあの強敵が。奴の存在を無視しておくわけにはいかない。
これから起こり得るであろう戦いに頭を悩ませる。あの時と違い、敵は1人ではない。ただ闇雲に戦ってどうにかなる状況ではないことは確かだ。
どう動くか、慎重に考える必要がある。その采配ができるのは皆よりも奴らの知識を多く持っている俺だけなのだから。